第8迷宮
本日2話目
【迷宮国家セラフィ】
ケンが異世界に迷い混み、初めて訪れた街を含む『9つの都市』がある島国。
首都セラードを除く、8つの街には共通して『迷宮』が近接されている。
いや、迷宮の近くに街を作ったと言うのが正しいか。
世界中に存在しているとは言え、この程度の大きさの島に多数の迷宮が有るというのは異常だろう。
首都以外の街には、特に名前など無く。
便宜上、年の古い順に『第1迷宮街』『第2迷宮街』…と言った風に言われている。
ケンが訪れたのは『第8迷宮街』、最も新しい街だった。
まぁ、新しい…と言っても100年以上も昔に出来た街では有るのだが。
古い迷宮になるほど魔物の強さが上がっていき、探索難度は上がるのだがその分見返りも大きくなる。
魔物の体内に存在する『魔石』は、高純度の魔力が込められており、魔道具の動力源として重宝されている。
あと原理は知られていないが、迷宮には『宝箱』が出現する。
採りつくしても、またしばらくすれば出現する”コレら”は、迷宮を保有する国にとって資源の1つとも言えた。
それらを採取し、売却して生計を立てているのが『探索者』達である。
ー・ー・ー
スキンヘッドからそんな小話を聞きながら、ケンは薄暗い洞窟の様な所を歩いていた。
洞窟の中の空気は、ひんやりとしていて特に息苦しいという訳でも無い。
日に当たれない事を抜きにすれば、そう悪くは無い環境だった。
だからと言って、住処に適していないのは間違い無い。
何故ならば、先程から狼の様な生き物に襲われ続けているからだ。
その度に、スキンヘッドが剣を一薙して屠っていくのだが…それを見て頼もしく思えば良いのか、グロテスクな切断面に気持ち悪く思えばいいのか。
ケンの足取りは少しだけ覚束無くなってきた。
「…少し早いが、今日はここで野営するか」
そんなケンの様子を見ていたのか、今日は早めに探索終了するそうだ。
スキンヘッドの言を受け、地味目の女性も何処か安堵の表情を浮かべている。
体力に自信がありそうなスキンヘッドに比べ、地味目の女性はケン側の人間の様だ。
…それでもケンよりは体力も気力も有りそうなのが、地味にショックを受ける要因になるのだが。
「マリン、結界を頼む」
野営に際して1番重要な事は、短い時間でしっかりと休息をとることだ。
その為に、如何にして魔物等を寄せ付けないか、という事が肝要になる。
設置型の魔道具に、害意のある者を寄せ付けない『結界』を生み出す物が有る。
大きな物になると街をすっぽりと覆うまでになるのも有るが、掌大の物でも半径5m位の結界を張れる為、探索者にとっては必需品の1つとなっている魔道具だ。
地味目の女性は何も無い空間からそれを取り出すと、地面に置き魔力を込め始めた。
「今のは?」
「あ、わ、私の魔術です」
魔術師なら誰でも使える魔術の1つに、【収納】と言うものが有る。
容量は未熟な者で鞄1つ分ほど、熟達した者なら大きな倉庫が丸々入る程になるそうだ。
そうだ…と言ったのは、ケンには使えなかったから。
どうやら『誰でも』の中に、ケンは含まれて居ないらしい。
それよりも…
「…魔術師だったんだ?」
「は、はい。」
だったら、オレ要らなかったんじゃ…なんて、疑問に思っていると、スキンヘッドが説明してくれた。
「マリンは魔術師の中でも”落ちこぼれ”でな、収納以外の魔術は碌に使えねぇんだ」
「…落ちこぼれ?」
「うぅ…」
スキンヘッドが話出すと、地味目の女性は落ち込んだ様に顔を伏せた。
「ファイアは種火程度、ウォーターは桶1杯分。ウィンドはそよ風だし、アースは掌分の土を動かすので精いっぱい。アン・ロックは10級開けるのに5分も掛かるときた」
言い過ぎじゃないだろうか、と横に目を向けると『ずーん』と擬音が聞こえて来そうな程に落ち込んでいる。
何も言い返さない所を見ると、事実なのだろう。
でも…と、スキンヘッドは続ける。
「収納に関してだけは、並み以上に使える。探索用の荷物を全部ぶち込んでもまだ余裕があるみたいだからな。正直これだけでも随分と助かっている」
「…要するに私は運搬人なんですよ、魔石や宝箱を回収したり、休息時の食料を取り出したり」
そう言って、魔道具に魔力を込め終えた地味目の女性は、次にテーブルとイスを取り出した。
その光景に呆気に取られていると、あっという間に皿やコップが並べられ、次々に食料が配られた。
「さぁ、食事にしましょうか」
先程まで気落ちしていたはずの地味目の女性は、自分の見せ場を発揮出来たからか…ほんの少しだけ得意げな表情を浮かべていた。