プロローグ
拙い所だらけですが、どうか暖かく見守って下さいm(_ _;)m
西暦20XX年、科学によって発展を遂げたこの世界にも『魔術師』と呼ばれる存在は”居る”と言えば驚くだろうか。
尤も…火や水を生み出したり、風や土を操ったり、そんな『ファンタジー』な話では無く、傍から見ると”まるで魔法の様”に見える技術を持った人達を讃える言葉ではあるのだが。
その中の一人に、鍵魔術師と称された少年がいる。
名は”平 鍵”といい、歳は16。
中学を卒業すると同時に、父親が営んでいる鍵店に就職。幼い頃より慣れ親しんでいたからか、または父親の英才教育の賜物か、彼にとっては天職であったのか。
かなり複雑な構造の鍵でも、僅か数秒で解錠出来る程の技術を持ち『針金1本有れば大抵の鍵を解錠出来る』とは彼の談。
現実的にそれは不可能であるし、そうとう盛ってはいるが、彼の技術は頭1つ以上飛び抜けていて、その大言に見合う物である。
それゆえ勤めだして1年もしないうちに、顧客や同業者から『魔術師』と称される様になっていた。
ーーそんな彼が異世界へと転移してしまう物語。
『父…お前にとっては祖父が所有していた古家と土地を相続したのだが、僻地に在って不便なので売却しようと思う。しかし骨董品等を保管してある蔵の鍵を祖父が紛失したらしく、幾年も開かずになっている。だからケン、お前が行って中を検めて来い』
朝に父親からそんな事を言われ、蔵の鍵を開ける為バイクでその古家へと向かった。
家を出発して3時間程…山奥に一軒だけポツンと建つその家を見つけ、ケンは大きなため息をつく。
「うわぁ…」
ここまで辿り着く際、最後に建物を見たのは1時間前、食料品等を扱ってる店舗に至っては更に前だ。不便極まりない立地である。
当然、そんな家にずっと住んでいるなどはあり得ない。祖父も若い頃に数年住んでいた事はあるらしいが、曽祖父母が亡くなると同時に家を出てそれ以来訪れていないらしい。
曽祖父から相続したのはいいが、不便な為住居を変えた、それでも生家である為に手放す事を躊躇ってしまい、そのまま晩年を迎えてしまったのだ。
つまり…ここ数十年間管理がされておらず、家はボロボロになっていた。
屋根は剥がれ、壁は朽ち、窓ガラスは割られて、雑草は伸び放題。外からでも分かる程に家の中も荒れている。
「予想はしてたけど、これは酷いな。蔵の方は無事だと良いけど…」
望み薄だけどね、と独り言を呟き敷地の中へバイクを停め裏手へと歩いていく。
父もそう思ってるから自分では来なかったのだろう、いつも面倒くさい事はケンに回している。
ケンとしても経験を積むのは望む所なので、解錠などの仕事ならば喜んで引き受けているのだが…今回に至ってはあまり気乗りしていなかった。
先に述べた通り、蔵自体が無事に在るとも思えないし、無事だとしても100年近く前に建てられている、と考えると今よりは遥かに単純な構造の物の筈だ。
最悪は道具を必要とせずに開けられる可能性もあるし、付け替えていたとしても数十年前の古い型、それこそケンならば針金1本で開けられるレベルだ。
そういった理由が有って、先程の大きなため息だった。
しかし、ケンの予想に反して、蔵は無事であった。
家の惨状と比べて、かなりキレイに見える。いい意味で予想を裏切られた訳で有るが、それでもケンの気持ちを上げるまではいかない。
意外だな、ただそう思っただけだ。蔵の入り口扉へと向かい、早速解錠の為に鍵穴を覗き、錠の種類を確認した後ボディバッグからツールを取り出した。
錆び落としの為に潤滑油を注ぎ、ツールを差し込んで回す。
慣れた者でも数十秒は掛かる所を、僅か2秒程で解錠するケン。
魔術師と称されるのも納得出来る程の早技であった。
「うわっ!埃臭っ!」
ツールをしまい、蔵の扉を開けた所で洗礼を受ける。長年出入りの無かった蔵の内部には、大量の埃が積もっていた。
ケンは慌てて服の袖で鼻を覆い、パタパタと顔の前を扇ぐ。
一歩踏み出す毎に舞うホコリに対して、その程度の防備で足りるわけも無くケンの眉根は顰めっぱなしになってしまう。
窓も無い為、入り口付近以外は薄暗くなってよく見えない。
意を決して中へと足を踏み入れたケンは、スマホのライトを着けて、極力ゆっくりと進みながら、蔵の内部を検めていく。
中にはそれ程多くの物は無く、素人目には価値のよくわからない壺や掛け軸などが数点ある他、どう見ても価値が無いだろうと思われる大きな石などが有った。
しばらく見回して、そろそろ中に居るのも限界に感じ一度外ヘ出ようとした時それに気付く。
入り口と反対に扉がある、外から見たのはすぐに目に着いた正面扉だけだったが、恐らく裏にも同じ様な入り口があったのだろう。
引き返す時に舞う埃の事を考えると、この裏口を解錠して出た方が換気にもなって良いな、などと考え先程の様にツールを取り出した。
そして同じ様に潤滑油を注ぎツールを差し込んで回す。
ガチャリ、と言う音がして解錠に成功した事を確認し扉を開けた。
ゆっくりと開く扉の隙間から、強い光が漏れてくる。外は昼だ、ケンは暗がりから急に明るい所へ出て目がやられてしまわないように、自然と目を細めていく。
トンネルから出る時に起きる、明順応の様な現象がケンを襲うが、それよりも早く外の空気を吸いたいが為に、視界が定まらないうちに外へと飛び出した。
誰も居なくなった蔵に差し込む光が徐々に細くなっていく、先程ケンが入った扉が徐々に閉まっているせいだ。
パタン、と言う音がして完全な闇に包まれた蔵。その中で、スーっと消えていく扉を確認する者は誰もいなかった。
※筆者は鍵屋では有りません。あくまで鍵を題材にしたファンタジー作品で、鍵開けなどの知識もネットで手に入る以上の物は持ち合わせていません。
※そういった職に就かれている方の中には不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、それは筆者の本意ではありませんので、注意・ご指摘などがありましたら一報下さればすぐに対応いたします。
※不定期での更新になりますが、少しでも楽しく読んで頂けるよう日々精進に努めますのでよろしくお願いします。
※誤字・誤用などございましたら一報頂けると幸いです。
※評価・感想は厳しい物であっても励みになりますので、気が向いたらお願いします。