第五話 金黒の大鴉
冒険者ランクとは冒険者個人へのギルドからの総合評価を可視化出来るようにしたシステムの事である。
評価内容は戦闘力、知識、ギルドへの貢献度など多岐にわたる。
とは言っても、かなりの割合で戦闘力が重視されているので強ささえあれば比較的楽にランクを上げてしまうことも出来るのだが。
今回、ステラとルウナは共に、試験を達成した事でグリーンランクとなっている。
試験官からは「レッド辺りからでいいのでは?」と進言が有ったそうのなのだが、残念ながら飛び級は認められていないのだ。
ちなみに、この二人だが戦闘力だけで言うとかなり高い物になっている。
ステラの《無所持》で作り出した魔喰鎌は元は上位悪魔というブラックランクの魔物が持っていた物だ。
実は鎌は使用者からも魔力を吸うので素人が使おうとすると、逆に戦闘不能になってしまうのだ。
そんな鎌を完全に制御しているのだからその戦闘力は計り知れない。
次にルウナだが、猪戦で見せた炎系魔法は火系の上位に位置し、炎系下位魔法は火系上位魔法の1.5倍の威力を発揮する。
そんな魔法を複数の魔法を使用した直後に使えるのだからルウナの魔法技術はかなり高いと言えるだろう。
ちなみに、腐肉狼は炎系魔法の威力を高い察知能力を使って避けていたので、あそこまで苦戦する嵌めになったのだ。当たれば一撃で決める事も可能だっただろう。
と、まぁこんな感じでグリーンランクにしてはチート級な戦闘力を持つ二人であった。
◆
血蛾猪を倒した俺達は、ギルドに着くと真っ直ぐ受付に向かう。
試験官のおっさんが先行して戻ったから話は通ってると思うんだけど。
「今回は血蛾猪の討伐ありがとうございます!ほんとうは試験で報酬金出ないのですが…血蛾猪はかなり高額な賞金が掛かっていたので報酬を支払わせて頂きます」
出た報酬は100000シル。ブルーランク依頼の報酬並みらしい。
「やったよ!ステラ!初報酬!100000…なにが買えるかな!?」
「落ち着けって…そうだな。ポーション系とかの必需品とかに回して後は貯金でいいんじゃないか?」
そう言うとなぜかルウナが項垂れていたが無視した。
ちなみにポーションは1つ200シル位だ。そう考えると試験を受けただけなのに大分儲かったな。
ちなみに寝泊まりはしばらく、ルウナの所でお世話になる事になっているのでお金は掛からない。
一度は断ったのだが「いいからいいから!皆で食う飯は旨いだろ?」とロックさんが言うのでお言葉に甘えた。
その内、旅にでも出ようと思っているのでそれまてで厄介になろう。
なにはともあれグリーンランクの冒険者!急ぐ必要はない。これからゆっくりランクを上げていこう!
と、言うことで俺達の冒険者としての門出を祝おうとしようじゃないか!
「打ち上げでもするか!結構疲れたし飲み食いして今日は寝ようぜ」
「そうね!明日から始まる冒険者生活!初っ端から躓きたくないしね」
と言うことでギルドに隣接しているギルド直営の酒場で乾杯することにした。
今日は良質な猪肉が入荷したそうで注文すると、人の頭ほどはありそうな肉塊が運ばれてきた。
ちなみに猪肉の出所が俺達なのは言うまでもない。
猪肉にかぶり付きながら、二人でこれからどうするか話していると、周りの先輩冒険者達がこちらを見ながらこそこそ話しているのに気が付いた。
ちなみに会話の内容はばっちり聞こえている。
五感を強化しようと思ったらその部位に魔力を込めるだけで出きるからな。
「おい、あの二人組、試験で血蛾猪を倒したらしいぜ」
「マジかよ…俺達でも倒したことないぞ?ズルでもしたんじゃないか?どう見てもガキだろ?」
「それがガズの話じゃさ、マジらしいんだよ」
「マジかよ!」
「ばっか!声でかいっつうの!」
どうやら血餓猪を俺達が倒した事が話題になってるようだ。
確かにそれなりに強かったが、ここにいる奴らでも勝てそうなのは何人かいる。
それに本気で戦っていればもっと楽に狩れたし。
仮にも試験なので自重したのだ。
ちなみにガズというのは試験監督をやってた人だ。現役の時はそれなりにこの街では有名なレッドランク冒険者だったらしい。
「ルウナ?俺たちそんな大層な事したか?」
「血餓猪って珍しいし、外見が強そうだからね。それで「物凄く強い魔物」のイメージがあるみたい」
「そういうことか。確かに強かったけどめちゃくちゃではなかったよな」
実際は破壊力や、体力、御力はあるが、攻撃が単調で避けやすく、俺なら一発デカイのを撃ち込めば簡単に倒せる。たぶんルウナもできると思う。
そんなことを考えていると、一人の男が近づいて来た。
全身を鎧に固めた痩せた男。…それも趣味の悪い金ぴかなやつだ。
いや、こっち来なくていいっすよ?
「やぁ、君達が血餓猪を倒したっていう新人冒険者?僕はギル。実はね、その話を聞いて君達を…」
「そういうの間に合ってるんで」
「我が傭兵団、《金黒の大鴉》に入ってもらおうと思ってね?僕達は一流の傭兵団なんだ。収入も満足出来る筈だ」
速攻で断ったってのになんだコイツ?
ギルと名乗った男は「どうだ?良い話だろ?」的な表情で横に座ってきた。図々しい奴だな。
「おい、鴉だぞ。いつもの新人狩りか」
「目付けられたら、強制的に冒険者を止めさせられるんだったよな」
「あの二人も終わりかもな。あそこは有望な新人集めるだけ集めて何させてるかわからねぇから」
調度反対側に座っている二人組には情報感謝だ。
その時、フードを深く被った男が一人で飲んでるのが気になったが、それより今は目の前の件を解決しなきゃな。
金黒の大鴉とやらはろくでもない集団のようだ。
これならちょっと強く出ても大丈夫かな?
ネチネチしてくるようだったら傭兵団ごと潰してやるのも良いかもしれない。
ルウナも迷惑そうな顔してるしな。
「聞こえないのか?間に合ってると言っている」
「き、聞こえているさ。でもね、君達程の実力なら僕の補佐くらいにしてあげるよ?僕は副団長なんだ。悪いようにはしないよ?」
ほんとに少し威圧しただけなんだけどな。
一流の傭兵団(笑)の副団長サマは、気が弱い様だ。
実力も装備に金をかけてるだけで、身体能力は低そうだ。
こんな副団長でいいのか傭兵団。
「あんたの補佐?面白いこと言うな?俺達は冒険者だ。それ以上鬱陶しくするんなら、それ相応の手段に出させてもらう」
本当に迷惑ですって表情を作りながら副団長サマを睨み付ける。
副団長サマは額に青筋を浮かべ、頬がピクピク動いている。今にも爆発寸前だ。
さてさて、追撃だ。
「なにを…」
「弱いんだからあんまり粋がらない方がいいぞ?」
そろそろどっちが悪者か分からなくなって来たな。
副団長サマはキレた。ゆっくりと立ち上がり、素早く腰の剣の柄を掴むと、並の冒険者では視認も難しい速度で斬りかかってきた。
店内に『ガキィン』という鈍い金属音が響く。
ステラは右手でフォークを使い猪肉にかぶりつきながら、左手でスキル《無所持》で作り出した小型のナイフを使い、ギルの剣を受け止めている。
ナイフは透明なのでギルには剣が空中で止まっているように見えるのだが。
「なっ、剣が空中で!?くそっ魔法使いか!」
叫びながら何度も剣を振る。
「いくらやっても無駄だ。土下座して謝るんなら許してやらないこともないぞ?」
「うるさいっ!」
ギルは続けざまに切りかかってくる。なるほど、防具に付与魔法掛かっていて威力とスピードを底上げしているみたいだ。
「ルウナ、やっていいぞ」
「OK!《火炎拘束》」
ルウナが火系中位魔法《火炎拘束》を発動する。
対象を半物質化した炎で絡めとる魔法。威力もそれなりに高いので弱い魔物だとこれだけで倒せる。
魔力を溜めていたので何かをするつもりだと思っていたが、ベストなタイミングでの拘束だ。
「な、なんだ!熱っ!くそっ、離せ!」
「ナイス、ルウナ。さて、こいつはギルド職員にでも渡しておくか」
ちなみに職員さんは呆然と突っ立っていた。
若いので新人さんなのかもしれない。
炎でぐるぐる巻きにしたギルを職員さんに渡した後、残っていた猪肉を平らげ、酒場を出た。
「それにしても…まためんどうなのに目をつけられたな」
「そうだねぇ。どうやって穏便にやり過ごそうか考えてたんだけど…だんだんイライラ来ちゃって」
「スカッとしたろ?」
「まぁね」
ルウナはそう言うと苦笑する。
しかし、問題は《金黒の大鴉》とか言う悪徳傭兵団に目を付けられたところである。
あの後、ギルドで少し情報を集めたのだが碌な噂が無かった。
誘拐、殺人、強盗。厄介なのは証拠が残っていないことであった。
団長はダクトという巨漢の男らしい。
「しかしまぁ、ここまでの悪党ってのもいるんだなぁ。こちらとしては遠慮なく潰せるから寧ろありがたいまである」
「なに?ステラってストレス溜まってるの?すごい悪い顔してるよ?」
おっと。顔に出ていたようだ。ちなみにストレスは別に溜まっていないと思う。
ちょっかいを掛けてきた奴等をぶっ潰せると知って少し舞い上がってただけだ。
というか、そう言うルウナも実に楽しそうな笑顔である。
とりあえず、今日は家に戻ることにした。途中、重い荷物を持ったお婆さんに手を貸したり、迷子になっていた子供をお母さんの元に連れていったりした。
家に着いた俺達は、とりあえずの計画を立てることにした。
「さて、今から悪徳傭兵団、鴉狩り作戦をたてようと思う!」
「作戦ねぇ…正面から殴り込むんじゃ駄目なの?」
「いや、少し考えたんだけどさ、証拠が無いってことは、まだあいつらが犯人だと立証されてないわけじゃん?そこを殴り込むと俺達が悪者になるんじゃないかと、冷静になってみたわけだ」
そう。鴉の連中はボロを出していないのだ。今はまだ、少し素行の悪い傭兵団で通ってしまう。
そこに殴り込めば、悪いのは俺達になる。
そうなるとギルドや街が黙っていないわけだ。事が大きくなれば国も出てくるかもしれない。
そんなところから二人で逃げるのは、まず不可能だ。
「どうやって俺達が殴り込んでも大丈夫にするかなんだが…やっぱ、ボロを出させてやるのが一番だろうな」
「そうだね、決定的な証拠を押さえてあげればOKだね」
「それができればギルドで討伐クエストが出るかもな。そしたら他の冒険者に先を越されるかもしれないな…ん?待てよ、別に俺達が倒すことに拘らなくてもいいんじゃないか?」
そこで、少し冷静になって考えてみると、副団長サマが少し煩かっただけで、別に被害を受けたわけでもない。
それなのに、何故かすぐに「よし、あいつら潰そう」となっていた。
俺はそこまで短気ではないし、正義感が強いわけでもないと思う。
それなのに、何故、そんなに直ぐに「潰す」という発想に至ったのか。それは簡単な理由だった。
目に魔力を込めてルウナを見てみると魔法が掛けられた痕があった。
「おい、ルウナ。俺達、魔法が掛けられたっぽいな」
「え?いつの間に?」
「さぁ?それはわからんが、たぶん《思考誘導》辺りが掛けられた痕跡がある」
無系下位魔法《思考誘導》はその名の通り、対象の思考を誘導する魔法なのだが、意識すれば簡単に抵抗できる。
今回は、かなり練度の高い魔法使いに掛けられたようで、全く気づかなかった。
それでなくとも俺達の高い魔法抵抗力を突破して見せたのだから、かなりの凄腕だ。
ちなみに、掛けられた魔法を後から発見するのは、以外と簡単だったりする。
魔法を使われる、又は使うと1日程、魔法痕と呼ばれる物が体に残るのだ。
とは言っても目には見えないのだが…魔法痕は、使った魔法により、微妙に違うので判別することができる。
ちなみに隠蔽するのも簡単なので、使用側の犯人は既に隠蔽済みであろう。
こんなことをしたのは鴉の連中か。
だとしたら、何故、自分達を潰すように思考誘導したのか。鴉でないなら、鴉に恨みを持つ、別の勢力だろうか?
なんにしても、これはギルド辺りに報告した方がいいかもしれない。
「はぁ、なんか、さっきまで昂ってたから一気に疲れた。ルウナ、明日また、ギルドに行ってみよう。もしかしたらなにかわかるかもな」
「そうだね。私も一気に疲れたよ…明日からは精神干渉系魔法にも気を配った方がいいかもね」
そうして俺とルウナは明日に備えて、体を休めるのだった。
楽しい冒険者生活を送るのはもう少し先になりそうなのが残念なのだが…
今回でタイトル回収を始めてく予定だったのですが…あら?
なんか全く違う方向に突っ走ってるような?
ま、まぁなんとかなる。
ちなみに、現段階では思考誘導を掛けた犯人も、この後の展開も考えておりません。行き当たりばったりで書いていくので着いてきてください(?)
9/23改稿しました。ついでにある程度先を決めました