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高性能なら金はいらない。わけがない!  作者: 雨蟲 乙
シュテルン編
4/6

第四話 猪は血に餓える

大分期間が開きました(^_^;)

 「私とパーティを組まない?」


 いや、突然すぎません?うん、突然だわ。


 俺には知り得ない事だったが、ルウナは前から「初対面でも何でもいいから、冒険者出来そうなら誘おう」と決めていたのだ。


「おねがい!私、今までずっと修行しかしてこなかったからお願いできる友達もいないし、周りの人達はみんなパーティを直ぐ組んじゃったから…」

「スキルについて聞いてきたりしたのはそれが理由か…わかった、いいぞ」


 勢いよく頭を下げたルウナに苦笑いしながら了承する。


「ありがとう!よかったぁ!これでようやく冒険者になれる!」

「ん?冒険者になるだけなら今までだって出来たんじゃないか?」

「えっ?あ、知らないの?」


 ルウナは俺に説明を始めた。

 まず、冒険者はランク分けがされている。

それが色で分けられた7つ。



金剛-ゴールドランク

銀嶺-シルバーランク

上位-ブラックランク

   ホワイトランク

中位-レッドランク

   ブルーランク

下位-グリーンランク



 このランクのブラックにならなければソロでの活動は許されていないそうだ。

 ソロの活動が義務付けられたのは5年前。

 10年程前はパーティが一般的だったのだが、報酬の分け前のトラブルが多く起こるようになり、ソロ活動者が爆発的に増えたのだそうだ。

 それに比例して、年間の冒険者の死亡者が増えた。

 その結果、魔物を狩る者が減り、魔物の被害はかなり増え、ギルドや国はこれに危機感を覚えた。

 ギルドからはホワイトランク以下のパーティの義務化、国からは冒険者に対する補助金が出る様になった。


 まぁ、何が言いたいかと言うとぼっちは冒険者をするな、と。

 この制度により、ルウナも冒険者に慣れなかったのである。


「なるほど、それである程度戦闘が出来るヤツを探してたのか」


 突然の事に驚きはしたものの、理由を知ればここでは常識だと言うことが分かる。

 前も似たような事やってたし冒険者をやるのも悪くないな。よし、やってやろうじゃないの。


 ちなみに、後にこの選択を後悔することになるとは思わない俺であった。


 そんなことを話していると外も暗くなっていた。


「もう遅いから試験は明日だね」

「そうだな。俺は寝床を探すか…」


 腹は減ったし寝るとこもない…だが収入の宛は見つかった。これだけで大きな進歩だと思う…思ったのだが。


「そんだったら私の家に泊まっていくといいよ!もうすぐお母さんも帰ってくるから!」


 とルウナが言ってくれたのだ。これで寝床も確保!

 いやぁ、ありがたい。お言葉に甘える事にした俺であった。


 ルンルン気分の俺は、ルウナの家を改めて見回してみる。

 造りはレンガで街の建物はどれもこんな感じだった。

 今居る部屋にはキッチンとテーブル、なぜか武器がズラリと並べられているのが気になるが…落ち着く雰囲気だ。椅子は4つ。4人家族なのだろうか?


 そんなことを考えているとルウナの母親が帰ってきたようだ。

 小さい男の子も一緒にいる。

ルウナによると弟らしい。ぱっと見、女の子かと思った。赤髪で紅に金が混じった目をしている。


「お客さんかい?ルウナ」

「そうそう。明日一緒に冒険者の試験を受けてくれる人だよ」


 そう言ったルウナを、ルウナ母は驚いた顔で見ていたがすぐに柔らかな笑顔になった。

 ルウナの弟は「お兄ちゃんだぁれ?」と言いながら、不思議そうにこっちを見てくる。ヤバイ、可愛い。


「ステラだ。よろしくな。君の名前は?」


 うん、無難な受け答えだ。

正直、小さい子と話すのはどうも苦手なんだよなぁ…


「僕はソル!お兄ちゃんよろしくね!」


 途端に満面の笑顔に早変わり!

 止めてくれ!お兄ちゃん、そっちの趣味はないんだ!

 この子がこれから何人をそっちに連れていくか心配になったりした。

 

 ルウナのお母さんはシエロさんと言うらしい。シエロさんはルウナや、ソルとは違い、黒髪だ。目は金色をしていて珍しい配色だと思う。

 ちなみにルウナは赤髪に紅瞳だ。

外見から読み取れることと言えばこれくらい。

 その後、ルウナの父親も帰宅。名前はロックさん。

 こちらはルウナと同じく赤髪に紅瞳。

シエロさんの特徴を引き継いでいるのはソルの金紅瞳だけだ。


「ん?ルウナに友達なんかいたのか?」

「私にだって友達くらい…いた…かな?」


 ロックさんはニヤニヤ笑いながら言っていたのだが、思いの外、ガチな娘の反応に若干顔が引きつっている。

 そんなロックさんに気づかずにルウナはうんうん唸っている。

 ルウナ…友達いないんだな…せめて俺が友達になってやろう…


 ここでロックさんは話題を転換する事にしたらしい。

 こちらに話し掛けて来た。


「それじゃ君は?」

「俺はステラです。ルウナの友達で、明日、一緒に冒険者試験を受けに行く予定です」


 と言うと、ルウナが満面の笑みで


「友達になってくれるの!?」


 と言っている。折角、友達になってやったのに…


「そうだったのか。それにしても英雄と同じ名前たぁ、お前の親御さんも思い切ったことをするなぁ」


 そういえば、と言う顔でルウナもシエロさんも頷いている。


「そうなんですか?俺は知りませんでしたけど」


 ちょっと昔の話が頭を過る。

 今まで話を聞いてきてある懸念が浮かんだのだが…まぁそれはいいだろう。


 その後も他愛ない話をしたりして交遊を深めた。


 ちなみに、腐肉狼(ゾンビウルフ)の話をしたらメチャクチャ心配された。「怪我は!?」「大丈夫なの!?」と何回も言われた。

 どうやら、シエロさんとソルは隣街、ロックさんは仕事で鉱山に行っていたため、この騒動を知らなかったらしい。

 ルウナが、ステラに助けられた話をすると、今度はメチャクチャ感謝された。賑やかな家族である。


 それと夕食を頂き、明日に備えて寝ることにした。物置になっていた部屋を借り、そこで寝させて頂ける事に。

 俺にはルウナ一家に後光が見えます!


 そんなアホな事を考えていると部屋のドアがノックされた。

 「はい」と返事してから開けると、そこにいたのはルウナ。

 ツインテールにしていた髪も今は全て下ろしている。


「今日はありがと!」

「どういたしまして、とは言っても服を借りたり、飯を食べさせて貰ったり、泊めて貰ったり…感謝するのは俺の方だけどな」


 そっか…と言ってからルウナは「それにしてもステラって可愛い顔してるよね~」とからかってきた。

 俺に自覚はない。だが生まれてからずっと「可愛い」と言われ続けてきた。

 成長したら言われなくなると楽観視していたのだが、そんな事は無かった。

 顔立ちが幼いんだろうか…と、何度悩んだことか…

 それでもソルみたいに女の子と間違われる様なことはないだけマシか。女の子と間違えそうになったのは俺だけれども。


「はぁ…やっぱそう見えるのか?」

「あれ?言われたくないことだった?ごめんね?」


少しも悪びれもせず笑っている。


「馴れてるからいいけど…あんまりその話題は出さないでくれよ?」


 一応、釘を刺しておいたがこの表情から当分はこのネタで弄られることを悟る俺だった。こういうのは過剰に反応するとダメなんだ。知ってる。

 

 その後、明日のことを話して今日は寝ることにした。





 翌朝、ステラ達はギルドの受付で試験について説明を受けていた。


「試験の内容は巨大猪(ジャイアントボア)の討伐です。対象のモンスターを倒す、または行動不能にすれば試験合格です。

試験監督が付いておりますので、例え、討伐しても、連携が取れていないと判断された場合、失格となります。それでは頑張ってくださいね!」


 巨大猪は冒険者ランクでグリーンランクの底辺モンスターだ。

 とは言っても、5m級のモンスターの突進が直撃すれば、上位冒険者でも受けきれない。

 ただその突進は真っ直ぐ走ってくるだけなので簡単に避けられる。

 よく、初心者冒険者の小遣い稼ぎに使われるモンスターだ。


 と、言うことで俺達は森に入った。

 まずは巨大猪を探さなくてはいけない。

手近な木に登って回りを見渡すと、木を薙ぎ倒しながらこちらに向かって来るでかいのが見える。


「おい、あれじゃないか?」

「あ、ホントだ。よし!それじゃやりますか!」


 隣で同じように木に登っていたルウナにも知らせる。


 しかし、あの猪…でかい。俺が知ってる巨大猪の1.5倍はありそうだ。

 しかもアイツ、こっちに気づいてるみたいで真っ直ぐこっちに向かって来る。なんともまぁ闘争心旺盛だな。


 すると、猪の姿を確認した試験官の顔が青ざめて行く。


「あれは…巨大猪じゃない!血餓猪(ブラッドハングボア)だ!」


 試験監督が半ば叫びながら警告する。

 どうやら、違うモンスターだったみたいだ。

とりあえず、向かってくるので倒すか。


「ルウナ。支援魔法くれ!」

「無理!私、自分用の強化魔法しか使えない!」


 そう言うことは先に言っといてくれよ、ルウナ。

 今、俺達は突進を避けつつ、様子見をしている。

 見た感じあんまり強くなさそうだ。攻撃は単調。ただ破壊力はかなり高く、殆どの障害物をものともしない。

 ここで様子見から攻撃に転じる。

 まずはルウナが、スキル《前衛魔法(フロントマジック)》により強化された防御魔法と身体能力で猪の突進を正面から受け減速。

 そこでステラが、スキル《無所持(ノーハンド)》で剣を作り猪の顔に切り付け、そのままの勢いで一回転。すぐに鎚に作り替え思いっきり殴った。

 すかさずルウナが強化系上位魔法《剛力》で筋力を上げた蹴りを加えると、巨大な猪の体が10m程後方に吹き飛ぶ。


「ブゥヒィィィィィィィィィイ!」


 しかし、血餓猪はのっそりと起き上がるとかなりの大音量で吼える。すると直ぐに地響きがしてくる。数は…2。

 そしてそれが姿を表した。現れたのは普通の巨大猪だ。

 正直、手加減して全てを相手にするのはめんどくさいのだが、試験監督はもう老齢でとても戦えるとは思えない。


「行けるか?ルウナ?」

「ま、大丈夫じゃない?」


 まずはルウナの火系中位魔法《火熱壁(ファイアーウォール)》で一体を完全に閉じ込める。一体は無視する事にした。

 俺は血餓猪を相手する。ルウナには巨大猪の片方を任せた。閉じ込めた奴は壁の中で大人しく…「ブブブ!ブヒ!ブヒ!」大人しくしているので大丈夫だろう。


 ルウナの蹴りが猪の牙を折る。だがさすがに皮膚は固い様で蹴りは弾かれてしまっているようだ。

 そこで手に持っていた杖を地面に突き立て、火系上位魔法《熔炎》を発動。

 触れた者を飲み込み焼き尽くす炎が足元から猪を襲い、巨大猪は呆気なく終わった。


 ステラは苦戦していた。血餓猪には異常な回復能力があり、手加減をして戦っている今の状態では決定打に欠ける。

 突進を右に飛ぶ事で避け、猪の勢いを利用して魔力長剣の刃を押し込んでいるのだが、直ぐに傷は塞がってしまう。


 行動を起こしたのは血餓猪が先だった。

 突然、炎の障壁の中に突っ込み、巨大猪を生きたまま食べ始めた。

 そして直ぐにそれは始まった。

 血餓猪の筋肉が大きく隆起する。牙はさらに大きく発達し、赤く染まる。そして先程までそこら辺の動物同然だった魔力が肥大化する。

 猪の王が誕生した瞬間だった。


 なのでステラも、もう少し力を使うことにした。

 無所持で新たな武器を作り出す。作り出すのは《魔喰鎌(デビルイーター)》。魔力を喰らう悪魔の鎌。


「これ振るの疲れるんだけどな」


 ルウナも巨大猪を倒したようなので支援にも期待できそうだ。これで強化魔法を他人に掛けられたら完璧なのに…


「とりあえずこいつを倒して合格するか!」

「倒せるの?」


 そう問うルウナに軽く頷き返す。

 またも先に動いたのは猪だ。真っ直ぐこちらに走ってくる。と、思いきや急な方向転換でルウナに向かい、反応が遅れたルウナは直に食らってしまう。

 それでもスキル《前衛魔法》と防御魔法のお陰でダメージは低いようだ。

 ステラが背後から近づき、悪魔の大鎌を振るう。自分に意識を向けさせる為だ。

 すると、俺の思惑通り、こちらに向かって突進を始めた。猪は先程より脚力が発達したため、方向転換が容易にできるみたいだ


 俺は一ヶ所を集中的に攻撃することで少しでも体力を削る事にした。

 狙うのは右前足。

 もし、バランスを崩して隙を見せたら一気に高火力技で焼く。

 強い技は溜めが必要だというポーズである。

 本来なら隙など無くてもごり押しでいくらでも当たるのだが、それだと連携を評価されない気がしたので。


 そして俺はルウナと連携して右前足を集中攻撃する。

 だが猪も素直にやられ続ける訳ではない。さらに異常性を見せる回復能力でダメージを無かった事にしようとする。

 だがステラの魂喰鎌で魔力を徐々に吸っているので回復能力を発動させる力が少なくなってきたようだ。


「ルウナ!」

「何!?」

「アイツがバランスを崩したら今使える最高火力を注いでくれ!」

「了解!」


 ここで作戦をルウナにも伝えておく。


 数十分の激闘後、ようやく猪が体制を崩した。


「行くぞ!ルウナ!」

「OK!」


 ルウナは火系魔法の上位、炎系中位魔法《赤の煌炎(レッドプロミネンス)

 ステラは魂喰鎌の能力を開放、《魔炎暴走(オーバーヒート)


 2つの異なる炎は猪の王に沈黙を与えるまで、王の命を燃やし、喰らう尽くした。


9/23改稿しました

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