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高性能なら金はいらない。わけがない!  作者: 雨蟲 乙
シュテルン編
3/6

第三話 腐敗した狼

 警報がなる。

 この警報は緊急事態が発生した時に鳴らす事になっている。

 久しぶりに聞く警報に緊張感が少女を襲う。

 ちなみに、今居るこの場所は門に一番近い商店街だ。

 今回は街付近で獣型のアンデットモンスター、腐肉狼(ゾンビウルフ)の群れが現れたので冒険者達が警戒していたのだが、案の定、街に攻め込まれてしまった。

 




 冒険者達は戦う。己が信じる武器を操り、普段から共にしている仲間と連携しながら、生を得ようと牙を向ける狼に対峙する。

 だが、その圧倒的な数の敵に少しずつ押され始めていた。



 


 私は今、一人で、この大きな狼の相手をしている。ちなみに3mくらいだ。

 腐肉狼(ゾンビウルフ)は生前の性なのか、群れを作る魔物だが、思考する力は残っていないので連携してくる可能性はあまり考えなくていい。


 少女はこれまでに強力な魔法をいくつか叩き込んだが手応えは感じない。

 思わず弱音を吐きそうになったが首を振り狼を睨み付ける。

 降り下ろされる巨大な爪を避け、再び魔法を詠唱する。

 これまでに大量の魔力を消費したため使える魔法は下位魔法のみ。

 でも…諦める訳には行かない。ここは街だ。物がある。家がある。そして…人がいる。


 アンデットモンスターは聖系魔法に弱い。

 しかし私、ルウナは回復魔法、強化魔法、そして火魔法しか使えない。

 つまり、アンデットに対して有効な攻撃を持っていないのだ。

 それでもルウナが一人で戦えているのは強化魔法と元から持っている高い身体能力、《前衛魔法(フロントマジック)》という特殊スキルのお陰である。

 とは言っても今、使える魔法は下位魔法のみ。それも有効打を与えられる可能性の低い属性しか使えない。


 状況を打破するため、一度距離をとり、周囲を見渡す。なにか使えそうな物は…

 そして爆薬箱が視界に入った。

 あれは武器屋のおじちゃんが念の為に置いていってくれた物だ。


「あれを起爆できれば…」


 幸いまだ下位の火魔法なら使える。これで着火は出来そうだ。

 失敗すれば八つ裂きか、爆発に巻き込まれるか…一か八かの賭けだ。

 攻撃系統の魔法を全て中断し強化魔法に切り替える。

回りにあった木の板に、威力を弱めた火魔法で火を付け、狼を爆薬箱まで誘導する。

 十分に引き付けたら強化魔法を二重に掛けスピードをあげる。

 残り魔力量的には危ない掛けだったが…勝った。

 狼が爆薬箱に近づいた瞬間、持っていた木の板を投げて爆薬箱にぶつけた。黒煙と紅い炎が上がり、爆発は狼を飲み込み、腐った肉は灰と化し消えた。

 どうやら爆発力強化の魔法が掛けられた爆薬だったらしい。

 一瞬の爆発にも関わらず狼は骨さえも残っていなかった。


「もう…動けないかな」


 ルウナは力無く笑い仰向けになる。魔力をかなり消耗したので動きたくとも体のダルさで動けない。


「派手にやったな」


 知らない声が聞こえる。自分と同じくらいの男の子の声。


「これ、お前がやったのか?」


 そこでようやく、声の主の姿が見える。

黒髪の身長の低い少年だ。

 何故か少年はこっちを見ずにどこか違う方向を向いている。

 そしてルウナはハッとする。


「なぜここに!?ここは危ないよ!街に戻って!」


 ここは魔物との戦場。一般人がいて良い場所ではなかった。

 だが少年は不敵に笑う。


「って言ってもさ、ここに格好の餌が転がってるのに、あそこにいるやつが見逃すはずないだろ?」


 少年が指差したのは先程と同じ…いや、先程の狼より大きなモンスター。

 おそらく群れの長。腐肉大狼(ビッグゾンビウルフ)だった。


「っ!?」


 ルウナは息を飲む。あれに勝てるとは思えなかった。少なくともブラックランク以上の冒険者が相手にするような魔物だ。

 それでも少年は歩きだす。あの巨大なモンスターの所に。


「待って!」


 ん?と少年は振り返る。

 しかし、また歩き始める。それ以上、ルウナは声を掛けなかった。いや、掛けられなかった。

 少年から感じる怒りの感情。恐らくそこにいたなら誰もが動きを止めたであろう程に強かった。

 だが怒りの矛先は狼ではなく、どこか遠くに向けられていた。


 そして、とうとう少年は大狼の前に立つ。

 持っていた武器を捨て地を蹴る。

 一瞬で敵の懐に飛び込み、左手で前足を払う。

たったそれだけで足が切断された。

 しかし、アンデットモンスターは高い再生能力を持つ。切ったくらいではすぐに再生してしまうのだ。

 今度は狼が少年を噛み砕こうと顔を近づけてくる。

 少年は右手を降り下ろした。頭が2つに割れる。

 少年の腕に聖魔法の光が宿る。聖系下位魔法セイクリッド体に薄い聖の力を纏う魔法。それを腕に集中させる。そして手刀を横に薙ぐ。

 今度は足ではなく胴体を。

 狼は切れたところから消えて浄化されていく。

 その時には既に少年の怒りは身を潜めていた。


 「あなた、名前は?」


ルウナは戻ってきた少年に聞いた。


「ステラ、俺はステラだ」


 ステラはルウナに、そして自分に聞かせるようにそう言った。

 そして服が消え始めていることに気がついた。他の魔法を使った分、創造魔法の制限時間が短くなったようだ。


「あ、ちょっといいかな?え~と…」


ステラはルウナの名がわからない。


「私はルウナ。それで?何?」


ルウナが促す。


「服を貸してください、お願いしますっ!」


 そう言った瞬間、服が消える。

ルウナの正拳突きがステラの腹にクリティカルヒット!ステラに大ダメージ!

 その後、ルウナは顔を真っ赤にしながら。ステラはお腹を押さえながらルウナの家に向かう。そこでステラはルウナの兄のお下がりを借りることになった。





「ありがとう。ん?どこ行くんだ?」

「ちょっと他の皆のお見舞いにでも行こうかと」

「そうだな。怪我は俺が下位の回復魔法と防護魔法を掛けて置いたけど」


 その言葉に幾分かほっとした様子を見せるルウナ。


「あ、でも、ステラ。どうしてあの時あんなに怒ってたの?」


 その言葉に一瞬ばつの悪そうな顔をしてしまったが、俺は苦笑に直してから答える。


「あれは…そうだなちょっと昔の事を思い出してただけだ」

「そう…なんだ。わかった。それじゃ行こうか」


 まだ完全には納得していない様だったが、これ以上聞いてこないルウナにホッした。正直、あの時の事はあんまり話したくないんだよな。


 そして、今回の戦いで怪我をした人が収容されている施設に入る。


「よぉ!兄ちゃん!さっきは助かったぜ!兄ちゃんがいなかったらここにも来れなかったかも知れねぇな!ガハハハハ!」

「おう、お前もか!いや、兄ちゃん強いな!見ない顔だがどっから来たんだ?」


 あちこちでそんな事を言われる。もちろん、全員を助けられた訳では無いが、幸い死傷者は出なかった。うん、頑張った、俺。


 一通り皆の無事を確かめ、俺とルウナはもう一度ルウナの家に戻った。とは言っても、ほぼルウナに連行された形である。

 ルウナによると色々聞きたいことがあるのだそうだ。


「それで?なんで服を着てなかったの?」


 ルウナの質問はこれだ。

 

 俺は、気づいたらここの近くの森に居て服を着ていなかった事。

 自分のスキルの事を忘れ、モンスターに追われた事。

 誤って女湯に入った事。(ちなみに森の中に人間の風呂はないため、別の種族の風呂だったらしい)

 魔法で服を作りこの村に入ったら、急に鐘が鳴り始めたこと。全てを話した。


「はぁ…それでなんでモンスターとの戦場に割って入ってくるかなぁ…結果的に助かったから感謝してるけど…それじゃ次。あれは何てスキル?何も持ってなかったのに、狼の体をスパって」

「特殊スキル《無所持(ノーハンド)》だよ。武器を持たずして持っているかのように戦えるスキル。途中までこのスキルの事忘れてて拾った剣で戦ってたんだけど」


 俺は恥ずかしさで頬を掻いた。

 ルウナは驚いた顔をした。特殊スキルは秘密にする者が多い。

 しかし、珍しい特殊スキルと言うのはすぐに広まってしまうのだ。

 特殊スキル集なんていう本が出版される程である。

 俺に知る由は無かったのだが、この時、ルウナはステラのスキルを聞いた事が無いことに驚いていた。

 特殊スキルはそれを与えられた人間しか使えないので他人と同じ特殊スキルを得ることは不可能だ。

 そして特殊スキルの他にも通常スキルがある。こちらは特殊スキルとは違い、個々で取得難易度は違うものの誰でも取得することはできる。


「聞いたことない特殊スキルだね。私も特殊スキル持ってて《前衛魔法(フロントマジック)》って言うんだけど、身体能力、近距離での魔法発動に補正が掛かるスキルね」


 《前衛魔法》は剣士などの前衛職ではなく魔法職で前衛を担うことができる様になる特殊スキル。

 しかし、普通は魔法師がこのスキルを与えられても元々の身体能力が低い者では役立たせる事は難しいだろう。

 しかし、ルウナは魔法師でありながら身体能力が高く、強化魔法で更に上乗せもできる。

 充分このスキルを使いこなすことができるのだ。

 ただし前衛と言っても盾は持っていないので強力な防御魔法でも使わない限りタンク役にはなり得ないだろう。


 一方俺の《無所持》は過去に握った武器を自分の魔力で作り出す。

 ちなみに可視することが出来ず透明になっていて、魔法効果を乗せることもできる。

それを使い腐肉狼相手に《セイクリッド》を乗せた斬撃をお見舞いした訳だ。

 ステラは魔力が高く、本来は魔法職に着くのが自然なのだが下位魔法までしか使えない体質のため、剣士職だ。


 と、自分のスキル、特性についてお互いに教えあった。(本来、特殊スキル持ちは秘密にしたりするのだがルウナは表面に出るスキルなため、隠す必要性を感じなかった。ステラはそこら辺は気にしない性格だ)

 そして一通り会話を交わした後、ルウナから最後の質問?というかお願い?がされた。


「私と冒険者パーティを組まない?」


 また唐突だな。と思うステラであった。


9/16 改稿しました

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