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第2話

 ユーリーン王国の兵士たちによって救われたユニティは、彼女自身の意志で、王国の兵士に志願した。

 村を救った兵士たちの隊長に向かって、据わった目で「帝国の奴らを皆殺しにしてやる」と吠えたユニティは、その隊長の鶴の一声で、即断で王国の兵士への登用が決定した。

 ユニティは後で知ったことだが、女性の、しかも十歳の子どもが正規の兵士として入隊するのは、異例中の異例だったらしい。


 とは言っても、まだ肉体的に成長しきっていない子どもで、戦闘訓練も積んでいない少女が、直ちに実戦に赴くわけでもない。

 成長期の少女は、男ばかりの兵舎に入れられ、肉体を鍛え剣技を磨く鍛錬の日々に明け暮れることとなった。


 ユニティの、鍛錬への身の入れ方は、ほかの兵士たちの比ではなかった。

 元より運動神経に優れていたユニティは、歳を経るごとにメキメキと実力を増し、彼女が十四歳になった頃には、彼女の実力はおおよそ完成の域に達していた。




 カンッと乾いた音が鳴って、先に布を巻いた木剣の一本が宙を舞う。

 その木剣はくるくると回転しながら放物線を描いて飛び、やがて中庭の地面へと落下し、小さく跳ねた。


 数十人という兵士の人垣で囲まれた兵舎中庭の訓練場は、転がった木剣のカラカラという音が誰の耳にもよく聞こえるほど、しんと静まり返っていた。

 だがやがて、その静寂は、周りを囲む男たちの膨大な歓声へと取って代わられる。


「うおおおおっ! ユニティーっ! マジで優勝しやがった!」


 周りの男たちが、中庭の中央で木剣を持って立っている可憐な少女へと殺到する。

 十四歳の少女は、押し寄せた男たちにむぎゅっと押し潰され、苦しげに声を上げる。


「やっ、やめっ……潰れるってば……こ、こらっ、今お尻触ったの誰だ! 殺すよ!」


 兵舎で一年に一度開催される剣術大会。

 その大会でユニティは、この年ついに、兵隊長までも破って優勝してしまったのだ。


 一方、剣をねられて首元に木剣を当てられ敗北した兵隊長は、渋い顔でその様子を見ていた。

 それは四年前に、ユニティの村を助けたあの兵隊長だ。

 その隊長を、周りの兵士たちがはやし立てる。


「隊長、何やってんすか! 女の子に負けるとか、ありえないっしょ」


「るせぇ! てめぇらだって負けてんだろうが!」


「可愛い教え子だからってんで、手ぇ抜いたんじゃねぇんですか?」


「バーカ、そんなことするか。する必要もねぇ」


 その隊長の前に、男たちに揉みくしゃにされて、それでもどうにか脱出してきたユニティが立ち、声を掛ける。


「こんなの鎧も着てない、当てたら勝ちの模擬戦だもんね。実戦での殺し合いだったら、こうはいかない……そうでしょ、隊長?」


「分かってるなら結構だ。俺が今それ言ったら、負け惜しみにしか聞こえねぇからな」


 隊長は言って、その手でユニティの栗色の髪をわしゃわしゃと撫でつける。

 そんなことをしなくても、ユニティの髪はとっくにくしゃくしゃにされているのだが、ユニティは気持ちよさそうに、それを受け入れる。


 そのユニティを優しげな目で見つめて、隊長は言う。


「……帝国への憎しみ、まだ消えてねぇか?」


 隊長のその言葉を受けて、ユニティの纏う気配が、一瞬にして変化した。

 殺意を剥き出しにした、それでいて冷たい瞳が、少女に宿る。


「消えてたら、今こんなところにいないよ」


 少女のその目を見て、隊長は「結構だ」と返して、踵を返す。

 そして、祭りは終わりだと言って、兵たちを解散させる。

 ユニティはその隊長の後を追う。


「でも帝国軍は、最近攻めて来てないって」


 ユニティが話を振ると、隊長は「そうだな」と返しながら、その話に乗る。


「何でも、帝国軍は西側の蛮族の相手に兵を割いてて、こっちに攻めてくる余裕がないってのが、軍部の見立てだな」


「それじゃ私たち、ずっとこうして訓練してるだけなの? それじゃあ……」


 意味がない、とボソリと呟くユニティ。

 その様子を見た隊長は、ユニティに別の話を持ちかける。


「そうでもないぜ、ユニティ。……まだ内密の話だがな、こっちから帝国に仕掛けようって意見が出てる」


「王国の方から、帝国に仕掛けるの……?」


 その隊長の言葉に、ユニティが目を丸くする。

 それは今のユニティにとって、またとない朗報だった。


「ああ。王国は長年、帝国からやられる一方だったからな。逆襲のチャンスは今しかねぇって、軍部じゃかなり沸いてるぜ。あとは平和ボケの文官どもを、押し切れるかどうかだな」


 その隊長の言葉を受けて、ユニティが露骨に嫌悪感を示す。


「……そんなふざけた連中、放っとけばいいのに。実際に戦うのは、私たちなのにさ。もしくはその売国奴じみた文官クズ連中、帝国の国境先まで連れて行って、帝国民クズどもの前に置いてきてやればいいのよ。クズ同士、意外とよろしくやるんじゃない?」


 そのユニティの言い様に、隊長は肩をすくめて苦笑するが、それ以上は何も言わなかった。

 その隊長の様子を見て、ユニティが不満そうな顔をする。


「何よ、私何か間違ったこと言った?」


「いんや。ユニティは愛国心のある、良い兵士だなと思ってな」


「嘘! 絶対何か含みがある!」


 そう言って食ってかかるユニティを、隊長は笑ってあしらうのだった。


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