戦争の序曲
息抜きで気まぐれに投稿していきます。
「おはよう。気分はどうだい?」
その部屋は真っ白な部屋だった。いや、白しか視界には写らない。自分に話かけている声は近くから聞こえるが、その姿はどこにもない。
突如視界が切り替わる。白い世界から今度は赤と青、そして緑色でかたちどられた世界が広がった。所々が赤い人型のシルエットが左隣に写っており、自分の真上には丸型の赤い点が円をかいて浮かんでる。
これなら知っている。サーモグラフィだ。光源を主にした視界から熱源を主に捉える視界に変わったらしい。
「視界はいいようだね。K-Plūtō(プルート)。体は動かせる?」
その声質は心地よく聞こえるソプラノであり、女性である事は明白だった。
けだるいからだを徐々に起こして行く。この場所に覚えはない。この女性の声は、……思い出せない。
しかし、自分の意思とは関係なく、声紋検索という文字が視界の左下に表示された後、数秒もたたずに適合者アリと表示が変わる。
不思議な感覚だった。思い出せなかった声の主に関する記憶、いや記録が一瞬で脳裏に浮かぶ。
桜井 薫。29歳 科学者
自らの製作者であり、兵器開発の第一人者 春日部 和也の助手。
>>検索 春日部 和也-----該当情報なし
>>自己情報の表示-----K型戦術兵器Plūtō エネルギー残量80% 損傷部位なし ネットワーク良好
「……。おはようございます。薫さん?」
起き上がった事で視界がサーモグラフィから光源を捉える視界に変化した。あたりの風景がはっきりと処理されてゆく。此処は……手術室。白い壁に囲われており、先ほど視界を遮っていたのは太陽のように明るい照明器のようだった。
何故ここにいるのか---該当なし。ここはどこか---兵器開発部門 機械化戦闘兵科手術室。
突如先ほどと同じように突如脳裏に場所の情報が事細かく浮かび上がる。
「……どうやらまだ錯乱状態のようだね、情報が読み込まれきってはいないようだ。さて徐々に適合させてゆこうか。」
たしかに、そのようではある。自分の型番等は既に表示されているが、詳細情報はまったくもって不明だった。
「では、質問をしていくよ。君は自分の名前はわかるかい?」
「K型戦術兵器Plūtō。」
「いやいや違うよ。それは型番さ。君自身の名前だよ。」
>>検索 名前----エラー 00010000x100(消失状態)
この検索結果からわかったことは、もともとあったはずのものが消えているために起こるエラーコードが表示されているということだ。
「消失状態のようです。私には名前があったのですか?」
「ある。……。いやあったというべきか。ふむ。よろしい。では君の存在理由はわかるかい?」
存在理由。検索するまでもなかった。この衝動、脳裏に焼き付いている言葉を明確に示すだけのことだった。
「敵を排除すること。」
「よろしい。では、そうだな。敵とは何か、説明してくれ。」
「……我々、auroraを脅かす全ての存在。」
「結構。徐々に適合してきたようだね。早速で悪いのだけれど、君にしかできない初仕事があるんだ。
まぁ、準備運動さ。情報は移動しながらネットワークを通して送ろう。なにせ、時間がないからね。」
「時間がない?」
「祭りが始まるのさ。人間の終末を祝う盛大なクリスマスがね。」
戦闘ヘリに揺られてかれこれ一時間は経過したが、最適化作業はまだ終わっていなかった。今現在も情報が現れては理解し、新しい情報が現れては脳裏に刷り込まれていく。
独立国家―Aurora、平和を謳歌する国であり、島国であるこの国は、全ての戦争から中立の立場の国、戦争を行わない、それが信条であり、数百年戦争を現に起こさなかった国であった。
しかし、その平和が世界一の大国である軍事国家Sanguinemの庇護下にあったからこそ享受できた物であるということを長い平和の中で忘れている者も多かった。
だからこそ、絶望的な状況に追い込まれるまでこの国は気がつかなかった。
この世界には二つの大陸がある。
雑多な数十の国がひしめく大陸、Utopia。そして、たった一つの超国家が治める大陸、Sanguinem大陸。
この大陸の丁度中間にAuroraという島国がある。
Utopia大陸には様々な国々があるが、その中で2国だけ軍事国家Sanguinemに匹敵する国があった。
それは、帝国Aggressioと、Dimicatis共和国である。
三国は互いに牽制しあっていた。ただ、Sanguinemには独立国家Auroraとの同盟があり、一方的にUtopia大陸方面に攻撃を行える分、相当に有利だと考えられていた。
だが、実際は違っていたのだ。
帝国AggresioとDimicatis共和国は同盟を組み連合軍を名乗り、軍事国家Sanguinemに宣戦布告。SanguinemはAuroraに参戦を求めるもこれを、Auroraは拒否。それどころか、戦争をする国の軍隊を自国には置けないとSanguinemの常駐軍隊をAuroraは追い出してしまった。
すると、どうだろう。
軍事国家SanguinemはAuroraとの同盟を破棄、Auroraに対し宣戦布告を宣言する。それと同日、帝国AggresioとDimcatis共和国からもAuroraは宣戦布告を受けた。
3大国家による前線基地の取り合いである。
Auroraは島国故に資源がない。つまり、戦争をまともにするための戦力など保持していなかった。
しかし、唯一もっていた世界一の技術力それを武器にK型戦術兵器Plūtō(プルート)を開発する。
それが自分だ。
現在、位置を衛星から割り出すと丁度、西に存在するUtopia大陸に向けて進路をとっていた。
『適合はほぼ完了しているようね。これから貴方の最終調整と、Aurora存続に向けた防衛戦争を始めます。さて、今から作戦概要をおくるわね。』
----受信完了。軍事施設、ユーミール港および、クレッシオ港強襲作戦。
目の前に衛星からみたこの星の地図が表示され、Utopia大陸の東に2点赤い点が表示される。
『さて、現在帝国と共和国はこの二つの港に戦力を集中させているわ。南方のマーカーがユーミール。北方のマーカーがクレッシオよ。まず、貴方にはユーミール港を上空から襲撃してもらうわ。きわめて迅速に管制塔を破壊、できる限り、港の施設と共に船に打撃を与えて。
そして3分でユーミール港を離脱。回収は海辺ぎりぎりにヘリを回すからそれまでに対空戦力も無力化して頂戴。そこから10分でクレッシオ港に強襲をしかける。ここも管制塔から破壊して。攻撃対象もほぼ一緒。けど、このクレッシオ港には最新鋭の兵器が導入されてるっていう情報があるからそれの破壊を最優先にして頂戴。戦闘開始から十分で岸から100mの地点に一瞬だけ潜水艦が浮上するわ。それに乗り込んで帰ってきて。できるわね?』
「可能です。」
『頼もしい返事ね。』
時刻を確認すると、現在位置での時刻は23時20分。闇が支配するこの時間は人間はさぞかし大変な時間だろう。
地図情報によると、あと1分ほどで作戦区域上空に着く。それまでに各種の機関のチェックを簡易的に始めた。
----背面バーニア 補助バーニア良好 手腕良好 カメラ暗視良好 間接部問題なし エネルギー残量75%―作戦に支障なし。
『作戦空域に達したわ。降下して頂戴。』
ヘリのドアをスライドさせ開けると、けたたましい風の音と反して、静かなヘリのプロペラの音は静かだ。見下ろすとそこには規則的に配置された明かりがよく見えて取れる。
倉庫やクレーン、コンテナや対空兵器など視界には様々な情報が処理され、脳内の作戦区域の地図にマーカーされてゆく。その中に一つだけ高い施設があった。電波の情報をリークすると、これが管制塔らしい。港に接岸している船は24隻その内空母が5隻他巡洋艦。こちらに気が付いている様子は一切ない。
「降下します。」
『武運を。』
その言葉は自分のような機械にかける言葉じゃないな、とふと雑念が混じるがそれも一瞬の事。鋼鉄に触れる風の感触が意識を戦闘へと切り替え直した。
「なぁ、俺にも一本くれよ。」
「今度なにか奢れよ。」
そこは管制室の中。レーダーに映りこむ物もなく、非常に暇な時間がそこには満ちていた。今この部屋には男二人しか居ない。
そしてその男二人がスティック型のチョコをほお張って小腹を満たしていた。
「暇だよなぁ。第一こんな戦力ここの艦隊だけでもAuroraには多いくらいだよな。」
「この戦力の大半はAuroraに向けての戦力じゃねぇよ。Sanguinemと戦闘になったとしてもAuroraという前衛拠点を押さえた方が今後の戦況は良くなるんだ。上も出し惜しみなんてしないだろ。」
「けど暇なもんは暇さ。こんだけいると警戒する意味もねえしなぁ。あータバコすいてえ。」
「ここは禁煙だ。」
「わかってるっつうの。……ん?」
横目で先ほどから男が見ていたレーダーに突如反応が映りこんだ。この管制塔から直上500mの距離から何かが降下してきている。
その情報から誤情報かと男は一瞬思ったが、レーダーの反応を見るととても誤情報などではない。
「おい!緊急事態発令、アラームを鳴らせ!!」
男達も無能ではない、極めて迅速に事態を把握し、最適な行動を行った。だがそれでも遅かった。
アラートが基地に発令するよりも早く、上空に映りこんだ存在は管制塔に向けて攻撃を開始する。
人型のそれは背中から数十の小型ミサイルが打ち込みはじめ、息をつく暇もなく、管制塔は爆破される。
そのミサイルは10cmほどの小さいものだったが、その威力は大きさとは関係がなかった。まるで爆撃機で爆破したかのような爆風を回りに撒き散らし、管制塔はその姿を残骸へと変える。
瞬時けたたましいサイレンが基地中に響く。周りの警備兵に理解できているのは管制塔が爆破された事だけだ。つまり、血眼でステルス爆撃機を上空に捜しはじめた。
すでに、死神は大地に降り立っているというのに。
Plūtōは地面ぎりぎりでバーニアを地面に噴射し、低空飛行を始める。目指す先は海岸線沿いの倉庫だった。そこには弾薬や燃料がある確立が極めて高い。背中のミサイル群はあと撃てて二回であることを考えると、被害を一瞬で出すためにはそこが一番手っ取り早かった。
しかし、敵も倉庫が狙われることは想定済みである。厳重な警護の上、できるかぎりの物資を手分けして船に運び込みはじめていた。
ただ、想定外であるとすれば敵が警戒していたのは上空であり、地上からの脅威など警戒していなかった。
戦闘機と同じ速度で地上を駆け抜けるそんな機械など彼らは知らないのだから。
視認できた警備兵が警告を各員に発する前に彼の首は地面に落ちる。Plūtōが通り過ぎた道にいた歩兵は全て首がはねられていた。
首を跳ねた武器は腕部ブレードだ。肘から手の先にかけて腕の側面に装備されたそのブレードの威力は一目瞭然である。人間など豆腐よりも柔らかい。この武器は使い捨てを想定されているが、もともと使用対象として考えられているのは戦車や空母、巡洋艦なのだから人間をきったところで何も問題などなかった。
なぜ発見が遅れるのか、それは装甲が黒く闇夜に溶ける事はもちろんあるが、ほぼ無音のバーニアに、その異常な速度と殲滅力が一番の理由だった。視界に入れたときには既に命はないのだから。
数百の死体を刻みながら、気づかれることなく突如としてPlūtōは海岸線に現れた。
「……は?」
誰かが一人、呆けてしまった声がやけによくそのあたりには響いた。
だがPlūtōは常に最適な行動を計算して下す。倉庫には爆破に十分なだけの燃料が残っている。ならば行動は決まっている。
再び数十の小型ミサイル背中から発射するとそのひとつひとつが別の倉庫に向かっていく。
そして着弾する前にPlūtōは最大出力で上空へと飛び上がった。
凄まじい爆風が辺りを蹂躙するのに一瞬遅れて隕石が降ったかのような轟音が辺りに響き渡る。
海岸線沿いには生存者などいるはずもない。
しかし、Plūtōは無傷だった。Plūtō自身激しい爆風に見舞われたものの、それすら計算内であり爆風を追い風に遥か上空に上昇していた。
理由は爆風を逃れるためもあるが、基地の被害状況を把握するためだった。
---滞空戦力―無力化 兵力-壊滅 基地損耗率89% 結果壊滅 備考 海上に残存兵力多数
巡洋艦十数隻は爆風に巻き込まれ沈んだ。しかし、損傷があるものの、その他の巡洋艦、空母は全て健在だった。
経過時間2分20秒
猶予が30秒ほどある。いや30秒もあれば十分だった。
逆噴射し、高速で降下した後Plūtōは海面スレスレで飛行しはじめる。Plūtōはそのまま残存艦に突撃してゆく、が、それはその船の付近を飛行したようにしか見えない。
だが、どうだろう、通り過ぎた次の瞬間には、船は真っ二つに分かれ沈んで行く。
『……化け物に襲われ、壊滅。警戒されたし。』
いくら殲滅速度が圧倒的でも完全に通信遮断するには船の数が多すぎた。どこかの一隻が通信を飛ばした内容をPlūtōはリークする。
結局、通信が外部に行われたのはその一回だけだった。
2分51秒時にはPlūtōは回収地点に待機する。己以外の全てを破壊して。
『流石。素晴らしい結果だね。だが作戦はまだ終わっていない。さっさとヘリに乗り込んでくれ。』
Plūtōが戦闘ヘリに乗り込むと中にいた整備員が扉を閉める。ヘリの中は人が乗るための座席などなく、簡易的な整備所のように整備道具が乱雑に壁に取り付けられている。
「ブレード損傷率90%、使い物になりません。装甲は問題なし。エネルギー残量はまだ猶予があります。」
Plūtōが自身でそう告げると整備員が迅速にブレードを付け替えていく。二つのブレードを付け替えるのにかかった時間は四分程だった。
「一応こっちでも他の部位確認させてもらうな。Plūtōさん。」
「お願いします。」
この人もまた機械の自分に話かける言葉じゃないな、と無駄な思考を一瞬Plūtōがしていると、その思考を遮るように薫から通信が入る。
『どうやらアレックス港が警戒態勢にはいったみたい。さっきみたいにはいかない注意して。』
「では、自身を作戦区域10km手前で投下してください。」
『危険だよ?』
「警戒態勢の基地にヘリでは無駄な損害を出すだけです。私なら上手くやれます。」
『……そうね、信じる。それだと、投下まで残り3分程だよ。』
「了解しました。」
ふと、懐かしい気持ちにPlūtōは捕らわれる。どこかでこんな会話をよくしていたような、そんな記憶があった。だが、その感情を彼自身理解できずにいた、彼が生まれたのは今さっきなのだから。
「よし、整備完了。全力の運用も問題ねえよ。」
『投下地点。』
「了解しました。」
こんな感情戦闘には不要、そう切り捨て彼は宙へ落ちる。今度は落下して少しした地点でバーニアを全力で噴射し、ヘリを追い抜いて作戦区域に向かっていった。
思いの他、砲弾が飛んでくるのがはやかった。だがPlūtōはその全てを認識し、避けて進んでいく。
『当たりません!! なんなんですかあれは!』
少し進んでいくと敵の通信がPlūtōの耳にはいる。どうやらPlūtōの存在に脅威を感じているようであった。それもそうだ、敵は既に3分足らずで港を一つ制圧したという情報が入っているのだから。
『かすりもしてません! 距離900、800……。なんだ、あの部隊。』
思わず口に出てしまった、そんな通信兵の言葉が傍受した無線から聞こえてきた。突如、先ほどまでの砲弾とは違う、鋭い弾道の攻撃が混ざり始める。
いままで余裕をもって避けていたPlūtōも全力をもって狙撃を回避しなければ、致命傷を負う可能性が高かった。
---エネルギー残量50%をきりました。
このまま空中で進むと、いつか避けられなくなって落とされるか、最低でもエネルギー残量が18%になる。そうPlūtōは計算すると、高高度で飛んでいた自身の体を地面スレスレの地点まで下げる。すると、砲弾の数が明らかに少なくなり、幾分か避ける余裕が出てきた。
---距離400。
この距離でようやく、自身をさきほどから鋭い射線で狙撃する存在が視認できるようになり、その存在にカメラを合わせる。
それは、鉄の巨人だった。全長約2.5m、人と変わらない関節をしているが、その姿は西洋甲冑のフリューデッドアーマーを彷彿とさせる姿だった。その体の色は紺色であるが、顔にあたる甲冑部分には六つの緑色に輝く瞳がこちらを鋭く観察している。
『……。K型戦術兵器よ。あれの破壊を最優先事項、それ以外はどうだっていい、必ずあれを破壊して。』
「了解しました。」
敵のK型戦術兵器が持っているのは狙撃銃だった。しかし、それを直立体制で撃っているばかりか、その銃の口径は戦車のそれと変わらない大きさだ。
対するPlūtōの武器は残り1組のミサイル群と、ブレードのみ。Plūtōが導きだす勝率は50%を切っている、ただ、それはもし仮に、敵機と自身が同能力であるのならばだが。
薫さんが倒せというなら、自身はそれを全力をもって倒すだけ、それが自分の存在理由なのだから。
エネルギー残量などPlūtōは気にしている余裕は無かった。全てが不利な状況なのだ、全力運用で短期戦に持ち込むしかない。
カメラで敵の動きを視認できるならばPlūtōは避ける行動になんの問題もなかった、その筒の延長線に入らないだけなのだから。 敵K型機も自身の武器が中距離戦闘に適していない事を悟ったのかそれを破棄し、その場から後退する。しかし、体の向きはPlūtōに向けたままだ。その行動にPlūtōは警戒を強めると、敵K型の両肩と腰の左右に背中と両足に収納されていた機関銃らしきものが現れ、その銃口をこちらにむける。そして弾幕という言葉がまさにふさわしい連射性能でPlūtōを撃ち始めた。
連射性能は200発/mほど、その威力はおそらくアンチマテリアルライフル並だとPlūtōは推測する。現に掠った装甲部分は弾く事無くその銃弾に削られている。素直にその機関銃に捕らえられれば数秒で鉄屑になる恐れがあった。
唯一敵に勝る物。それはPlūtōの速度だった。敵の現在の速度は300km/hだがPlūtōの速度はその約二倍、620km/hの速度を誇る。
敵の機関銃の脅威で大回りしなければ近づくことすらできないが、徐々に、だが確実にPlūtōは近づいていく。しかし、状況は1:1ではない。基地真上で戦闘をしているとPlūtōの横合いから、そして背後から対空砲がPlūtōを砲撃をしてきた。
Plūtōは全ての対空砲の位置を確認するために一瞬だけ敵K型から地上にカメラを向ける。そして、一瞬でその位置を全て把握すると背中のミサイル群を対空砲に向け打ち出す。
だが、その一瞬の代償は大きかった。敵K型の機関銃にPlūtōは捕捉され、その鉛弾の雨を浴びてしまう。このまま受け続ければ自身はものの見事に全壊する、そう判断したPlūtōは左腕で体と頭を庇いながら回避行動を取った。
---左腕全壊 右腕損傷 右足軽傷。
左側に全速力で回避した時には左腕はすでに使い物にならず、だらんと、重力に抗わずにぶら下がる重りとなっていた。右腕は動かすことには問題はなかったが、いささか動きが鈍い。
右腕のブレードでPlūtōは左腕を切り捨て、敵K型に向かっていく。
地上から激しい爆風が辺りを破壊する、Plūtōのミサイルが全ての対空砲を同時に破壊したのだ。その爆風はPlūtōと敵K型にも襲い掛かる。Plūtōは難なく空中での姿勢制御をこなし、戦闘を続けるが、爆風を目の辺りにした敵K型は突如おかしな行動をとり始めた。
『熱い……。痛い痛い痛い!!!ああ燃えて、全部が燃えて燃えて!サーシャ!サーシャ!』
意味不明な発言を何故かPlūtōに向けて発信しつつ、敵K型はその爆風に突撃していく。が、Plūtōがそれを許さない。
なかなか近づけないかったのは敵の弾幕があったからなのだ。その弾幕が止んだ今、Plūtōの速度が相手を一瞬で捕らえた。
Plūtō躊躇なくその体を袈裟切りに両断する、敵が正常のまま戦闘を続けていたなら、負けていたのは自身の確立が高かった。
『ああ、ああ。何故、私、わたしは、何故……。サーシャ……。』
最後の通信の意味もわからなかったが、その言葉は機械が発した言葉には聞こえなかった。Plūtōは敵機が沈黙したことを確認すると満身創痍のその機体で海の合流地点へとバーニアを噴射する。
---エネルギー残量10%
Plūtōが陸地からすこしはなれたとき、敵K型を沈黙させた地点で激しい爆発が起こった。その爆発は基地をすべて吹き飛ばし、さらに遠く離れていたPlūtōにも被害を及ぼす。あまりの爆風に姿勢制御がうまくいかない。本日数度目のその爆風にとうとう補助推進装置が沈黙し、姿勢が崩れかける。だが、咄嗟に他の補助推進装置を切り、機体のバランスを取ると、その場から上昇するようにメインバーニアを噴射する。
爆風が止み、水没も免れたが、既にPlūtōはその場から進めなかった。だが、問題ない。そこは回収地点だ。
水面から大型潜水艦が顔を覗かせると、潜水艦は前方部についていたハッチを開いていく。Plūtōはゆっくりとハッチから潜水艦内に入ると、そこは整備所のようだった。その大きさはPlūtōを収納してまだ余りある。Plūtōを収納した潜水艦はハッチを閉める、と再びその巨体を海底へと沈めて行く。
Plūtōは自身に向かって走ってくる無数の整備員を認識しながら、薫からの通信を耳にした。
『お疲れ様。貴方なら出来ると信じていたよ。ゆっくり休んで。』
ああ、何故、自身を人間のように扱うのか。そんな疑問がふとPlūtōに沸くが、そこでシステムがエネルギー残量が3%をきった事を告げる。
---非稼動状態を確認。スリープモードに入ります。
そのシステム警告をきいたPlūtōの意識は徐々に深い闇へと落ちていった。
ロボット物大好きな趣味小説ですね。