表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女ゲームの攻略法(物理)

あけましておめでとう御座います。

新年一発目から飛ばしておりますので注意下さい。

 唐突ではあるが、乙女ゲーというジャンルのゲームをご存知だろうか。


 主人公の女の子が攻略対象のイケメン達を落として行くノベルゲームの事だ。

 そしてその乙女ゲーに関連して、更に乙女ゲー転生とはご存知だろうか。

 まあ、なろうを読んでいる人達なら知っているだろうが、最近では珍しくもなんともないか。ざっくり言えばゲームの主人公とか悪役とかモブに転生してどうのこうのというアレである。


 で、なんでそんな話をしているかと言われれば至極単純な事。

 ……自分が正しくそれだったというのを今知ったからだ。


 目の前には極上の美少女。

 とある乙女ゲーの主人公、ヒロインである。

 さすがゲームという世界の中心にしてイケメンキラー、外見スペックが半端ない。街を歩けば何人もの男が振り向き、恋に落ちるだろう。同性である私でさえ見惚れるものがある。


 ――ただし目の前のような土下座スタイルでなければの話だが。


「なんでもするから割とガチで助けて!」


 土下座、DOGEZA、土下座衛門。

 呼び方は色々あれど、この美少女のは見事なスライディング土下座だった。少し顔を上げて涙目+上目遣いという中々にドS心をくすぐられる風景だが、本人もそれだけ切羽詰まっているという事か。


 で、そんな状況でヒロインちゃんから語られているのは、この世界の元となったゲームの説明だ。

 何故か?

 私がゲーム内容を覚えていないからに決まっている。

 お互い転生して十数年だが、彼女はよくそこまで記憶していると感心する。私なんぞ今土下座されながら説明されるまで、ここがゲームが元になった世界だと気がつかなかった。


 いや考えても見て欲しい。いくら設定、舞台が同じと言っても、二次元と三次元の壁は大きい。むしろ気が付いたヒロインちゃんが、洞察力が良かったのか単に痛い子だったのか、どちらだろうかと悩むレベルである。

 まー私があんまり細部までやりこんでいなかったし、目当てのルート以外はスキップしていたからという事もあるのだがね。

 何故か?


 それは私の前世が男だからだっ!


「TS転生……! やはり始めは”ない”ことを確認するのですか⁉︎」


 やかましい。ヒロインちゃんもなろう読者だったな?


 ……それは兎も角。

 私はヒロインちゃんから聞く話と、自身の古びた記憶を引っ張り出し、ゲームの内容を思い出していた。






 タイトルは――忘れた。

 しかし、中に”(あやかし)”の字が入っていたのは確かだった。理由としては当然、この世界に妖という人外がいるから……も、あるが、メインは攻略対象がその妖だからだろう。


 謎の手紙に導かれて入学した古風な学園で、正体を隠した様々な妖達と交流を深めて攻略対象の悩みや障害を共に解決して恋仲になる。と、いうのが”表向き”のストーリーだ。

 そんなありきたりな設定の乙女ゲームで特殊なのが、同性との友情ルート……ではなく百合ルートがあることと、男を誑かしまくる”逆ハー”が無いということか。

 ヒロイン含む女性キャラが何故かギャルゲー風の男向けのテイストであり、百合ルートも気合入ってたので男からも人気のあったのだ。かくいう私もその理由で買った一人なのさ。


 そんな世界で、公式ページ曰く主人公たるヒロインは平凡な女の子。

 ……平凡? 明らか悪意あるだろスタッフ。このゲームのヒロイン、当然平凡な容姿をしていないとか、頭もいいし運動もできるとか、そんなちゃちな話ではない。


 それが裏ルート――通称”主人公ルート”に関わるヒロインの超設定である。

 表ルートをいくらか進めれば気付くのだが、このヒロイン、面白いほどに正体不明(・・・・)なのである。そしてその真相が明らかになるのが主人公ルートという訳だ。ルート解禁条件はヒロインの過去や家族に関わる話題があるイベントを起こすこと。その必要なイベントには死亡エンドも含まれているので、その時点で嫌な予感がしたプレイヤーは多かったはずだ。

 そして解禁されれば、ゲームを最初から始めた時に選択肢が出現する。そして選択しようとすると表示される注意文。


 "このルートは通常のルートとは内容が大きく異なり、世界観及びキャラクタのイメージを壊す恐れがあります。通常ルートを気に入って頂けているプレイヤー様は非推奨となっておりますのでご注意ください"


 これを嫌がらせと言わずになんと言うのか。


 そして語られるのは衝撃の過去と真実だ。

 ヒロインは特殊な一族の末裔であるのだが、それが原因で一家惨殺、人体実験、発狂、と散々な目に合うことになる。


 これ本当に乙女ゲーか、とはプレイヤーの大半が思ったことだろう。私も思った。


 で、心が壊れてしまったヒロインは、偽の記憶を植え付けられて自我を再構築された。そして希少な血を持ったヒロインをどうするかとなった結果、あるゲームが行われることになる。


 それは――恋愛ゲーム。

 ヒロインからとある学園に入学させ、そこで普通に生活をさせる。そして参加者はそのヒロインにアプローチを行い、運よく射止めたものがヒロインの”所有権”を得る、というものだ。


 ……言うまでもなく表ルートの話である。

 要は攻略対象たちはヒロインの人生を無茶苦茶にした関係者であり、完全にお遊びでヒロインと戯れていた、という事であった。

 ま さ に 外 道。

 この時点で覚悟ができていなかった腐女子連中はディスクを投げたとかなんとか。これじゃあ逆ハーは望めないどころか表ルートの救いがなさすぎる。


 さて、ようやく、ようやくこれで主人公ルートの本編開始である。

 そういやまだプロローグだった……! と戦慄したのは覚えているなあ。かなりはしょったが、鬱しかない幼少期~入学だけで表ルート並の長さがあるという恐怖。


 本編の内容を一言で表すなら、無駄に熱い厨二バトルだ。

 ふとした切っ掛けで過去と本来の自分を取り戻したヒロインは、関係者全員に復讐をすることを決める。そしてヒロインに特殊能力が目覚め、始まるのは肉体言語での語り合い。恋愛要素は宇宙の彼方に消え去った。

 敵となった元攻略対象達を相手に孤軍奮闘。なんとか味方を探し、制御しきれない能力と再び壊れ始める自我。それでも復讐のために闘い続け、イケメンは全員物理で落とされた。その辺の少年漫画より熱い上に、絵柄と内容のギャップが凄かった……。


 ラストは選択肢によって変わるが、ラスボスと相打ちで全滅『ノーマル』、世界の神になる『トゥルー』、逆に滅ぼす悪魔になる『バッド』。

 ちなみに人気だったのは相打ちになるノーマルエンドだったりする。専用の挿入歌が泣かせてくれたからな……。





 とまあ、そんなのがこの世界の元になったゲーム、ということだ。


 で、話は戻るのだが。

 私は本来はそのゲームの中ではヒロインの友人のポジションのキャラクターだ。図書館に住み着いている大人しい性格だったらしいが、中身が私の時点でその姿は欠片も見られない。

 故に目の前の土下座しているヒロインちゃんが私も転生者だと気が付いた訳だが、その結果がスライディング土下座とはなかなか気合が入っている。


 当然だが、ゲーム通りならこのヒロインちゃんはまともな人生を歩んでいない。そしてゲームをしているというのなら攻略対象と恋愛しようとも思えないだろう。


「ついでに相打ちも神にも悪魔にもなる気もありません! ビバ普通……!」


 ヒロインちゃんが言うと説得力が違うね。


 つーか既に攻略対象の大半がドロップアウトしているので、というか私が叩き潰したのであんまり焦ることもないんだけどな。


「……はぃ?」


 うん? どったのヒロインちゃん、そのUMAでも見たような顔。

 あ、大半ドロップアウトの件?


 うーん、それは話すと長くなるよ? "私"がここにいる経緯も話ことになるから。

 あ、そう。それなら私が転生してからの話でもしようか。更に長くなるけど、そっちの方が分かりやすいだろうし。



 さて、どっから話したものかな?








 既に何度も言っているが、私は転生者だ。

 生まれた時から記憶と知識を保持していた為、精神の成熟は早かった。

 意外だったのは人格そのものは継承されなかったこと。ま、今生が女なのに、くだらない男”そのもの”を引き継いだところで弊害しかなかっただろう。前は前、今は今だ。


 しかしなんだ。人格が真っ新なら精神も幼いままのはずなのだが、やはり記憶と知識の内容が不味かったらしい。

 え、前世がどんな人物だったかって? うん、それは黙秘させて頂く。しいて言うなら、もし前世の自分と会ったなら瞬間で拳が飛ぶね。間違いなく。


 それは置いておこう。

 兎に角、頭でっかちと言われてしまえばそれまでだが、おかげで同年代に馴染めないのなんの。

 両親からすれば、非常に厄介な子供だっただろうさ。私の翌年に生まれた妹は普通に手のかかる子だったので、比較してしまえば異常さが浮き彫りになる。


「単に可愛げが無いだけでは?」


 そうとも言う。

 幼稚園では一人、図書館から借りてきた歴史書を眺めて他の子供の輪に加わらなかったしな。すみませんね保母さん方、前の世界との差異の確認に忙しかったもので。細かな違いはもはや比較のしようがないが、やはり何かが違うと感じさせるところがあり面白かった。


 そして小学校に入ってからもそれは変わらず。

 学校に入ってからやっていたのは主に"体"作りだ。人の体格・体質はその頃に決定すると知識にあったので、今のうちにと色々やった。せっかく女になったのだから、という気持ちもあったけど。

 走り込みに柔軟、肌や髪質を意識した手入れなど。母親が羨ましそうに見ていたのが印象的だったなあ。


「しまった、私はそれどころじゃなかった!」


 そりゃそうだ。

 とにかく、そんなことしてれば当然タメの友人なぞ出来るわけもなく。

 が、それでも友人が多かったのは確かなのさ。


 うん、夜のコンビニ前で会った暴走族の連中とか。裏通りの喫茶店で相席した詐欺師とか。ちょっとアレな最中だったヤの付く家業の人とか。


「どう考えても女子小学生の人付き合いをしてない!」


 いやあ、なんでか年上かつガラの悪い連中に気に入られて連む事が多くてなー。ははは、両親の頭を悩ませたね。厳格と聞いていた爺さんは大爆笑していたが。

 そんなドラ娘を矯正させたかったのかピアノやら料理やらを習わされたが、性格変えるならそれは無理なチョイスだったと言わざるを得なかったな。技術は無駄に早く習得したので、概ね知り合いの喫茶店(夜はバーに変わる)で使われたけど。


「……新手の親不孝を見た」


 でもさっきチラッと言ったけど爺さんは笑ってたね。『自分のことを自分で責任が取れるなら良い』って。

 まあ資産家の爺さんと仲良くなったおかげで株とか、まあお金儲けは色々幅が広がりましたとも。

 ――預金通帳を見た両親が真っ白になったけど。


「もはや貴女の前世が気になるのですが」


 気にしたら負けだ。



 そんな身勝手な第二の人生に転機が訪れたのは小学生も半ばを過ぎた頃。割と仲の良かった知り合いが、仕事中に正体不明のヤバい連中に目を付けられたという話があったのだ。

 好奇心から実際にそのヤバい連中とやらを見てみたが、本気で驚いたのなんの。


 いやだって、忍者だよ? 忍者!


 あのフィクションに出てくる黒尽くめそのまんま。思わず武闘派というかノリのいいメンツで、真正面から喧嘩を買ってしまった。

 迫り来る刺客をシバき、黒幕を探すこと暫く。辿り着いた港の倉庫で対峙したのは――明らかに人間からぶっ飛んだ”鬼”だった。


「え、忍者を従えてる鬼ってまさか……」


 ……うん、その時はまったく気が付かずについさっき思い出したのだが、実は主人公ルート中盤のボスキャラとして出てくる相手だ。

 乙女ゲーが元なので、やたらイケメン。


 が、顔の造形なんぞ私達にとっては些細な事。

 人間の分際でーなどと小物臭いセリフを宣う鬼は、正に人外の力を見せた。震脚ひとつでコンクリートの地面にクレーターを作り、トンはありそうなコンテナを片手で持ち上げてぶん投げてくる。

 更には手下の忍者も湧いてくるわであっという間に退路は断たれた。


 ――まあ元より逃げる気は更々無かったから構いはしなかったのだが。


「え」


 明らかに絶体絶命なこの状況でこちらのテンションは天元突破。いやだって燃える展開だろコレ。

 こんな時にご都合主義なヒーローだの超展開な能力覚醒だのは期待しない。たかが人外ごとき(・・・・・・・・)と吼え、イケメン死すべしと啖呵を切った。


「いやいやいやいや」


 当たれば即死、もはや嵐を連想させる暴れ鬼は厄介だが盾ならそこらにあるのでカウンター狙いの活路を見出す。


「そこらにある盾って、港だからコンテナとか?」


 いや? Gの如く這いずってる忍者。


「忍者ー⁉︎」


 命狙ってくる相手に慈悲なぞない。

 ま、ドジって右腕やら節々の骨を粉砕したけど、打ち勝っからよし。


「普通の人間で勝てるんだ……本編ですらご都合主義のオンパレードで倒してたのに」


 いや、まあ、うんあれだ。

 本職がアレな友人がやらかしたゼロ距離RPGに触発され、その場のノリと勢いで作った即席パイルバンカーで、こうガツンと。


「すみません、ちょっと何言ってるか分からないですね」


 私達も後で頭抱えたからなあ。


 で、結局。

 かなり派手にやらかしてどうしたものかと思ったが、何故かマスメディアにはヤクザと海外マフィアとの抗争で公表されていた。「存在しない」マフィアとやらかしたことになっているらしく、自分はそれに巻き込まれた哀れな一般人にされていたのが不思議と言うか。

 まー鬼がいたとか言っても信じるやつの方が少ないだろうから、特に何もしなかったけど。


 ただ、一番の問題だったのは両親。

 普段の付き合いとか知ってるから「お前が哀れな被害者な訳がない!」って断言されたね。相変わらず祖父は爆笑していたが。祖父笑いすぎ。

 これ以上妹に悪影響のあることはやめてくれと土下座されたのが何とも。


 で、更生も含めて県外で全寮制の学園――要はここに転校を進められた。今改めて考えると補正って無駄にすげー。

 まあ簡単に言ってもここはかなりのお坊ちゃま、お嬢様学園。学費がべらぼうに高い。資金のやり繰りには借金まで考慮されていたようだが、さすがにそこまで迷惑かけられないので、そこは自分で解決することにした。

 ま、無駄に溜め込んでたし高校卒業まででも余裕余裕。両親は膝から崩れ落ちたけど。


「小学生の娘の方が貯金あるという恐怖……!」


 私立とは言え小学校の転入試験なんぞサラッとパスし、いざ学園へ。

 別れを惜しむ裏道な人達と、まったく惜しまないクラスメイトと、何かを悟った両親と、年相応に事態を理解してない妹。普段の関係に差がありすぎるね。


 あと最近なんか若返ってきてる感ある祖父は、次は曾孫でも連れて来いとか言い出すし。あっれ、そっち方面にはっちゃける予定はないなー。他はあるんかいとの応酬もありましたが気にしない。



 で、編入のために行った学園で既視感は感じたのだけど。ゲームの舞台は高校で、入ったのは小学校だから気づかなかったらしいね。

 まあ中に入ってからさっそく面倒ごとに会ったから、気にする暇もなかったからだけど。


「面倒ごと? ゲーム関係……ではなくて?」


 もっと現実的。

 いや、確かゲームでもそんな描写はあったなあ。覚えてない? 学校の設定として、金持ち多いから派閥がどうの庶民は見下される云々。

 なまじ同年代より頭は良いから、ありきたりな庶民の分際でっていうイジメとか、金持ち同士の派閥争いとかにも巻き込まれはしたのだが。


 私が今更んなもん気にすると思うてか!


「ですよねー」


 イジメ?

 →靴を隠す等の細かい嫌がらせを受ける。

 →「はっ低俗だな!」と逆に煽る。

 →校舎裏に呼び出される。

 →ヒャッハー狩りの時間だぜー!


 派閥争い?

 →上から目線で命令してくるので無視。

 →各派から刺客みたいなのが来る。

 →全裸に剥いてトラウマをごりっと。

 →何時の間にか私がトップの派閥が完成。


 こんな感じ?

 あ、勝手にできた派閥に関しては、威を借る狐さん以外は放置してるけどね。狐はトラウマ製造オンの方向で。


「諸々突っ込みどころ多過ぎません?」


 私もそう思う。これ、小学校での出来事だよ?

 それは兎も角、これで平和になったと思ってたのだけど。しかし事件(笑)すぐそこまで迫っていた!


 ある日、机の中に入っていたのは昔懐かし果たし状。

 無駄に達筆で内容も完璧だったので、むしろ感動したね。


 で、果たし状通りに夜に学校の屋上へとやってくると、そこにいたのは小学生ながらイケメンの片鱗が見える男の子。


「果たし状、夜の校舎と言えば……」


 うん、これが私の攻略対象とのファーストコンタクトだ。

 まんま主人公ルートと同じで、少年は兄の敵を討つとか言ってへーんしーん。

 先日の鬼、またはゲーム時の本人と比べればなんて可愛らしいが、正体は先日の鬼の弟。その人間ごときがーって実は決め台詞なのか。

 よっしゃかかってきなさい、お姉さん(兼お兄さん)が現実を教えてあげましょう。


 と、言うわけで。

 凄まじい膂力で飛びかかってきたところをホールドし、勢いそのままフロントジャーマン。


 瞬殺!


「えええぇぇぇぇええええ」


 いや兄と比べればカスみたいなもんだし。つい。

 アッサリ型がついたので、頭半分めり込ませて気絶した少年を放って帰ろうとすると、ちょっと待てと突っ込みが。

 何奴! とノリつつ見れば上の給水塔に黒い羽の生えた2、3年上のイケメンが一人。いやー正味ここに来た時点で上から視線は感じていたんだが。まさかとは思うが、気付かれていないとでも思ってたのかね。


「こ、今度は烏天狗……」


 無論攻略対象だ。ゲーム時では生徒会長だったか。

 しかし待てと言うか。


 だ が 断 る!


 屋上から校舎に入って鍵をしっかりと施錠。ふはは、鬼と違ってモヤシそうだからとの判断だったが正解だ。ドアを破れない向こうでなんか言ってるけど気にせずダッシュ。


 と、やはり校舎内にも待ち伏せが。

 今度はワイルド系の、先程の烏と同じぐらいのイケメン。

 つーかここイケメン多いってか、さっきからどっかで見たような連中だなと思いはしたが、そこまで気にする余裕はなく。

 そこでまたへーんしーん、と2メートル越えの狼男に。ちょっと驚いたが、やはり兄鬼とは比べるもなく。


 駄犬に対し、ポケットから取り出したそれをぽいっと。武器かなにかと勘違いして受け止めたそれは知人からの餞別、ザ・閃光手榴弾。


 バ〇ス!


 目が~目が~とネタを被せる相手をすり抜けて走る。あ、ちょっと訂正。すり抜け間際に『おすわり』と脛を蹴って転倒させ、その上を駆け抜けた。


「精神ダメージでかそー……」


 打ち止めかなと思ったら、今度は何故かバラを咥えたイケメン。鋭い犬歯が覗くこいつは吸血鬼なんだが、この時は単なる馬鹿かと把握。

 体勢を低くして窓際を――と見せかけて、異様な速さで掴みかかってきた相手に対し、此方からもホールド。後は勢いそのまま窓から飛び出すだけの簡単なお仕事です。


 ちなみにここ4階。

 下を見れば予想通り中庭で、かつ池。まあ高さがあるから普通なら死ぬが、こいつなら大丈夫だろと硬直した相手の上に体を回して俯せに固定する。

 ちょっと待て、と言う馬鹿に一言。


 ――それは地球に言ってくれ。



 少し濡れたが、ああいうアクロバットのにはコツさえ掴めばなんとかなる。

 どうやら一部始終を見ていたらしい天狗も顔を真っ青にして固まっているので、悠々と自室へ。うん、食後の運動にはなったね。


「……どれも攻略対象で、主人公ルートなら一騎当千の化物なのに」


 知らん。

 次の日、何らかのアクションがあるかなって思ってたら、寮のポストに変な手紙が入るようになったんだよね。週に一回ぐらいのペースで。

 手紙の中には住所が記載されていて、そこは学園外で街中。大体そこにいくと人外が暴れていた。

 ついでに指定されていた場所にあった武器を使用して制 圧。その度に少なくない額の金が、これまた寮のポストに届くようになったんだよなー。不思議っつか今謎解けたけど。


「学園長の”依頼”…….」


 そ、主人公ルートで攻略対象達がやってた仕事のこと。本来は理性のなくなった人外の処理を生徒会がやっていたのだが、先日のアレで人材不足。

 そも慈善活動なんかではなく、処理対象は主人公ルートのヒロインと同じく人外連中に玩具にされた”元”人間なんだがな。


「でも確か学園長って味方じゃなかったっけ?」


 うん、人外が人を人として見ない現状を憂いていた、ゲーム数少ない常識人の学園長。

 どうやらこの依頼も、人外の上からウチの息子が人間に怪我をさせられたぞと騒いでいたのを、じゃあ丁度人手不足なので危険なお前らの後始末に使いましょう、となったらしい。確か主人公ルートでもヒロインは処理対象にされて命を狙われるが、学園長が影ながら助けるという話のはずだ。


 こちらとしてはそんな事情知らないが、面白いしいいかと続けていくことにした。

 そうそう、あれからイケメン達はちょっかいをかけてこないし、どころか顔をみれば逃げていく。よし、トラウマはきっちり埋め込めたか。


 中学になると更に依頼って言うかもはや特殊部隊の任務? は苛烈さを極めてきた。使える武器も報酬もグレードが上がってきたので楽しくなってきたのは確かなんだが。

 が、さすがに一人じゃ厳しいよなーとか言ってたら、ある日協力者を付けていいと依頼の手紙にあったので昔馴染みを引き込みました。うん、兄鬼を一緒にシバいた連中。


「うわあ」


 もはや敵なし大暴れ。

 ……ついでに裏でこそっと情報収集。かなり時間が掛かったが、粗方の事情が判明してきたところで高校生に。

 で、今日がその入学式。

 半泣きのヒロインちゃんを見て、ここが乙女ゲームの世界だと思い出した訳ですな。


 いやここまで人生ご苦労様です。

 幼少期とか大丈夫だったの?


「気合いでフラグを折りまくってきました!」


 うん、やっぱりスペック高いね。

 でもこの学園にくることは回避出来てないけど。


「補正怖い……」


 目が虚ろになってるよー。

 ま、大丈夫大丈夫。ヒロインちゃんにはこれから色々協力してもらうし。


「⁉︎」


 ふふふ、お姉さん兼お兄さんにまかせなさい。

 丁度攻略対象の馬鹿共が、私にリベンジを予定しているらしくてね。ヒロインちゃんのデビュー戦DA☆


「ひ、人でなしー!」


 なーに、戦うのは正真正銘”人でなし”だが怖くはないよー、大丈夫だよー。このままシナリオ通りに行けばラスボスは神様クラスだが、正直負ける気はしない。

 それに、あんまり聞き分けが悪いと食べちゃうぞー? エロい意味で。


「ひぃ⁉︎ ま、まさか両刀ですか⁉︎」


 やだなー、最初に元男って言ったじゃないか。後、ゲームをやった理由も。


「ええと、ヒロインとか女性キャラの絵柄が男性向けで、百合ルートもあって…………えっ」


 じゅるり。


「(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル」


 はっはっはっ、お楽しみは後に取っておこう。

 ゲームの主人公ルートは攻略対象は全員敵にまわり、人間の友人も戦力外のため、一人きりでの戦いだった。だが今回は私がいるし、頼もしい仲間もいる。


 神様だかなんだか知らんが、全力で張り倒してくれようじゃないか。


 そして私もヒロインちゃんも、神やら悪魔になる気はないし相討ちとか以ての外だ。生き残ってなんぼのもんじゃーい。


 さあ。

 このふざけたシナリオ、私流でハッピーエンドにさせてもらうぜ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです(^^)
[一言] 「猛武」と書いて「モブ」と読む、てノリですね ヒロインちゃんに合掌
[良い点] ヒロインちゃんはある意味攻略対象より性質の悪い子に捕まっただけなんじゃ……w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ