紅太郎vs六花
「はあ……はあ」
紅太郎は息を荒くしながら、六花の死角になる物陰に隠れていた。
「まったく、しぶといですわね。さっさと楽になればいいものの」
シールドでは六花の弾丸を防げない。
そう判断した紅太郎は、足を使ってその攻撃をかわしていた。
英雄機関の施設は通常の建物よりも頑丈に造られている。さっきのフォトンレーザーは別として、訓練弾であれば弾丸を遮る遮蔽物としての役割を充分にこなしていた。
六花の攻撃には、紅太郎に致命傷を与えられる様な威力はない。
しかし、人間になって弱体化した紅太郎を、昏倒させる程度の威力は充分に持っていた。
いつの間にか近くいた……もとい観戦していたはずの雪乃の姿も姿を消している。
英雄機関の敷地内で戦闘をしているのに、誰一人として駆けつけないのは不自然だった。
おそらく六花が根回しをしていて、訓練とでもいってるのだろう。
つまり六花は紅太郎と会う前から、この襲撃を予定していた事になる。
怪人状態の紅太郎ならばいざ知らず、人間状態の紅太郎には襲撃される覚えはない。
覚えは無いのだが……
「まあちょうどいいわな。ヒーローと馴れ合うつもりもねーし」
紅太郎の口から出たのはそんな言葉だった。
「何か言いましたか?おとなしく帰るのならば見逃してさしあげますけど」
銃を両手で構えながら六花は紅太郎から10メートル程の所で足をとめる。
この距離では六花が放つ弾丸をかいくぐり接近するのは、今の紅太郎にとっては難しかった。
しかしそれはこちらだけが接近した場合だ。
紅太郎は意を決して口を開く。
「黙れ、このロリ貧乳が!!せめて人並みになってから出直しなっ!!」
「っ!?」
「あ、悪い。ロリで貧乳だったら正しいじゃん。お前間違ってないわ。金髪、ツインテールで貧乳。ま、さ、にパーフェクト!!」
「人が気にしている事を〜!!いますぐに黙らせてあげますわ!!」
六花は顔を真っ赤にし、紅太郎を仕留めるため、銃を構え全力で駆け出す。
ーー今だ
ほぼ同時に紅太郎も物陰に隠れるのを止め、六花に向かって駆け出した。
「っ!?」
まさか飛び出てくると思わなかったのか、紅太郎の行動に六花の顔が驚愕に染まる。
その一瞬で2人の距離は5メートル程に縮まっていた。
「ちっ」
挑発されおびき出された事に気付いた六花は、銃口を紅太郎に向けて弾丸を撃つ。
チュインッ
「えっ」
その弾丸は甲高い音をあげて、紅太郎の目の前に展開された半透明のシールドに弾かれる。
紅太郎は物陰に隠れている間に、ありったけの魔力を込めた特製のシールドを用意していた。更に角度をつける事によって真正面から受け止めるのではなく、弾道を逸らすように構えている。
「貰った」
紅太郎は六花の懐に入り込み、拳に魔力を込める。
全力で拳を放った瞬間、
カクッ
「あれっ」
魔力切れを起こした紅太郎は、足に踏ん張りがきかず、渾身の拳は残念ながら宙をきる。
しかしその勢いは止まらず、六花を押し倒すような格好になる。勢いがついていたため2、3回転し、ようやく動きが止まった。
「ぐ、く、首が」
「うう、いったい何ですの、これだから野蛮人は……えっ!?」
「イヤァァッーー」
「ゲブッ」
六花の放った至近距離からの銃弾が、紅太郎の身体を吹き飛ばす。
「このケダモノッ」
「がっやめっ」
倒れた紅太郎に対して容赦なく銃弾が放たれる。
「あなた、どこを触ってるんですのっ!!!!」
「どこも触ってねーし。別にお前の貧相な身体にはなんの興味もないっていうか。ぶっちゃけ背中か胸かもよくわからねーし……」
ブツンッ
その時、紅太郎は何かが切れるような音を聞いた気がした。何の音かと思い、六花のいる方向に顔を向ける。
「ひっ」
そこには鬼がいた。
「い、 いやっ、あの別にお前の身体に文句があるわけじゃないんだよ。ただその、俺の守備範囲からはずれてるだけで……」
「死に晒せっ」
信じられない数の銃が六花の背後に出現していた。その銃口は紅太郎の方へ向いていた。
銃のヒーローである六花の全力攻撃。今の紅太郎に防ぐ術はなかった。