15
予約日時を間違えました。
遅くなりすみません
「人気者だな」
俺は嫌味のように言い放った。その邪険な対応を読み取ったのか冒険者の一人が突っかかって来た。
「君はマリリンさんの凄さを理解していないようだね。マリリンさんはね「黙れ」…へ?」
「マリリン、次は宿探しだぞ。早く行くぞ」
そういい俺は冒険者ギルドを出て行った。唖然としている取り巻き達を退けてマリリンはついてきた。
「待って。先程良い宿屋を聞いたのでそこを案内するわ」
「え?ちょ、待て待て」
俺は手を掴まれ引きずられるようにしてついて行く。しばらくするとこじんまりとした宿屋の前で止まった。
「ここは安い割には中が綺麗らしいわ。一泊するぐらいなら丁度いいわ」
「寝るだけの場所だから俺は何処でも構わん」
「ならここにするわ」
躊躇無くサクサク進めるマリリンが羨ましい。中はマリリンの言う通りで綺麗だった。俺たちが店の中に入った途端一人の従業員がやって来た。
「宿泊ですか?食事ですか?」
「宿泊だ」
「一泊お願いするわ」
「二名様でよろしいでしょうか?」
「あぁ」
「部屋は一緒にされますか?それとも別々の部屋にしましょうか?」
「一緒よ!!」
なんでこいついきなりテンション上がってるんだよ。気味が悪い。
「お二人様で一泊銀貨一枚になります」
俺が金を払おうとしたがマリリンが先に払った。耳元に口を寄せて急に言った。
「通貨量が増えてしまったら結果この国の財産が増えるだけだわ。だからまだバランスを壊さないように稼ぎのお金だけで払わないと」
「理解した。お前が何処で金を手に入れたかは聞かないでおいてやる」
この間盗賊を倒した時は必要そうな物全て俺が回収した。だから、マリリンは無一文のはずなんだ。スリでもしたのか?
「私は先に部屋の確認に行って来るわ。リーはご飯でも先に注文しといて。もちろん私のもね」
マリリンは片目でウィンクをして二階に上がって行った。俺は近くのカウンター席に座った。
「ご、ご注文は?」
声が震えている。さっきの従業員ではないな。客の誰かか?俺は振り返り回りをを見渡すが店にいるのは暑苦しいおっさん達だけだ。みんな甲冑に身を包んでいるから国の兵士かなんかだろう。今はどうでもいいが声の主はどこだ。声の主は知っているやつで予想外な奴だった。
俺はカウンターに肘をつき、手の上に頭を乗せてとても面倒そうなオーラを出して聞いた。
「お前、ここで何をしている」
「店員…」
「へー」
「…ごっこ」
俺はイスから落ちた。俺の今の会話相手は今日門外で出会ったユニと言う少女だ。俺はイスに座り直し同じ態勢をとり目を瞑る。
「飯を食う場所で遊ぶな」
「冗談だよ。私ね、ユニって言うの」
「知ってる」
「ご注文は?」
「おい、まだ続いてたのか」
「へ、まだ注文はお決まりじゃないのですか?」
俺は目を開ける。目の前には本物の従業員がいた。ユニは何処に行ったんだ。気配を探りながら注文をする。
「本日のオススメ二つでよろしいですね?」
「あぁ」
「料理長、本日のオススメ二つ」
「はいよ」
ユニの気配を捉えた。カウンターにいる。なんか自由な奴だな。親はどうしたんだ。確か門の外で会った時はいるって言っていた。もう帰ってしまったんだろうか。それとこんなとこで遊んでいるようだが入学試験を合格出来たのだろうか。
「はい、お水。たくさん飲んでね」
「……」
カウンターから出てきたユニはでっかい酒瓶を持って来て水と言い切った。それにこれから俺が飯を食べるのにカウンターに土足で偉そうに踏ん反り返っている。
「俺の質問にそろそろ答えろ。ここで何をしているんだ?」
「お家の手伝いだよ」
「ここが家なのか?」
「違うよ。お父さんのお店の一つなの!」
ようやく合点がいったぞ。要するに、ここはユニのお父さんの支店なわけだ。宿屋で支店を持つ程ってことは相当な金持ちだろう。この世界では金持ちと言ったら王族、貴族、商人の三種類しかいないと言っていたからな。もちろんマリリン情報だがな。
それにしてもユニと話するのは面倒だ。何と言っても一を聞いたら一しか返って来ないからな。さらに悪いことに、答えないって選択肢もあるみたいだからな。
俺がうんざりしてため息をついていると店の奥から一人の優男が出てきた。そして俺の方に向かって来るなりいきなり引っ叩いた。ユニのことをな。
「すみません。私の娘がご迷惑をおかけしたみたいで。代金は結構ですので席を変えて料理長のご飯を頂いていって下さい」
「構わん。さっさと連れて行ってくれ」
「嫌!もっとお話ししたいの!門の外で少ししか話せなかったから」
「どう言うことだい、ユニ?」
あ、この展開は面倒だ。他人のフリをすることにしよう。そしてタイミングが悪いことにマリリンが戻ってきた。
「あら、門の外で会ったユニちゃんじゃないの」
「あ、優しいおばちゃんだ」
おばちゃんって年じゃないだろ。若作りしているただのババァだよ。と、内心で毒づいてみるが、案の定現実では大変なことが起こっていた。
「今なんと言いました?」
マリリンは綺麗な髪を逆立て問う。状況を把握したのかユニのお父さんが言った。
「何を言っている。とても若くて綺麗じゃないか。ユニ、ちゃんと謝りなさい」
「ごめんなさい」
「大丈夫ですわ。所詮子供の戯言ですから」
額に青筋を立てて堪えているマリリン。可哀想に。マリリンは俺の横のカウンター席に座った。
「昼間はユニが迷惑かけたみたいで申し訳ございませんでした。お二方には感謝しています。お二方はこの国に何をしにいらしたんでしょうか?」
このお父さん優秀!マリリンの機嫌も治ったらしく、質問に対してきちんと答えていく。
「私は魔法学院の教職に、こっちのリーは入学しにやって来たんですわ」
「なるほど、お二方とも入ることが出来たんですか?」
「もちろんですわ」
「なら、うちの子と同じですね。娘をよろしくお願いします」
「失礼ながら聞かせてもらいますけど、ユニの歳は十歳になっていませんよね?」
「いえ、こう見えて十二歳です」
「え?」
「……」
「お二方ともどうかしましたか?」
「ユニは歳の割りには幼いんだな」
「そうですよね。直すように努力しているんですが全く直してもらえなくて困っていますよ、ハハハ」
前言撤回。このお父さんは娘に甘い。ユニが俺より二つも歳上とは驚いた。
その後もたわいもない話をしているうちに料理が運ばれてきて、食べ終わったらすぐに二階に行き休むことにした。
「今日は色々とあったな」
「そうね、大変だったわ」
「明日からも大変になりそうだから目的のために準備を進めていこう」
「わかったわ」
「それよりもお前ちょっとくっつき過ぎだろ」
「ちょっと私の胸が大きくてね。気にしないでね」
「仕方ないか、おやすみ」
「おやすみ、リー」
何故か一つのベットで二人で寝ている。二人分の金を払っているのにベットは一つでいいとか言ったマリリンを少しだけ恨む。
マリリンはやはりボンキュッボンって感じで本当に美人だ。アースの時の学校にこんな美人がいたら絶対に惹かれていたと思う。昔を振り返ると心が荒れる。
玲、竜也…。お前達の仇は必ずとる。もう少しだけ待っていてくれ。