to5 沈んだ双眸
第一話 揺れた時刻 to5 沈んだ双眸
∮―――――――――――――――――――――――――――――――∮
「寝たか――…」
陸に本を読んでやり、すぐ寝つき始めると、僕は陸の傍から離れて勉強を始める。
陸はとくべつできたヤツで、ぐずることも少なく、いいのか悪いのか手がかからない弟だった。
それに比べて両親の方がそれまた育児放棄して 手がかかる。
「ただいまー」
ドアが開く音がして、僕はシャーペンを置いた。
(父さんか母さんか。それとも姉さんか。)
静かに席をたつと玄関のほうまで行ってみる。
「ああ、蓮。まだ起きてたんだ?。」
まだ、というか。もうすぐ九時なので、まだ少しくらい起きていても大丈夫だと思うのだけど。
「うん。お帰りなさい」
僕はそう言うと、言うだけ言って部屋に戻る。
何となく今顔を合わせたくなかった。
∮∮∮∮∮
「なんだコレ・・・・・・」
僕は今、難問にかかっていた。
テスト前でもないので、学校の宿題はないが、一応、成績維持のために、自主勉強を、市販のドリルを使ってやっていた。
塾をやることは、この生活では不可能だし、やりたくもないので、市販のドリルで済ませているのだ。
(これ絶対、テストとかで出るヤツなんじゃないの――?)
僕は、悩みに悩んで十分。だいたいは、飛ばすんだけどこれはいくら飛ばしても明日の頭でも無理そうだった。
(こういう時は―…)
せっかく居るんだし、姉さんでも頼ってみるか。
階段を下りてみると、リビングに明かりがついているのが見えた。
僕はドリルとノート、筆箱を持って向かった。
「姉さん居る―?」
すると、すぐそばの食卓で姉さんが振り向く。
「ん?蓮かー!どうしたの?」
姉さんも勉強をしている風だった。
姉さんは、いまどきの高校生と違ってあまりスマホなどのラインやゲームを触らない。
それでも、友人関係だとかそういうものが崩れていない人気者なのだから凄いと思う。
「えーっと…。勉強、わかんないところあったんだけど、教えてくれる?。」
向こうの都合もあるだろうし、遠慮がちに言うと、姉さんは軽々と了承してくれた。
「いいよ。蓮、頭いいから、わたしのが分かんないかもしれないけど」
そんなわけない。
有名な公立の共学校に通う姉さんの成績は、弟の目から見ても良いと思う。
ある意味、今まで両親が全てを姉さんに託していたのだから、今は羽のばししてもらいたい。
「これなんだけど…」
僕が見せると、ああ、これね。と姉さんは頷いた
「これ、わたしも苦手だったよー」
と、分かりやすく教えてくれる。
普段、親から愛情を貰っていないから、僕は少しだけ 嬉しくなった。