to4 冥影の中で
第一話 揺れた時刻 to4 冥影の中で
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「また来るよ。」
僕はそうっと告げると、置いた おにぎりや花などの供え物を片づけ、足早に立ち去った。
西の空だけに黄昏の町が光っていた。
「―――…」
琴が。甦ればいのに。
琴と居た思い出が胸の中にありすぎて、消えることも許されない。
バイブの振動が感じられて、ポケットからケータイを取り出した。
「もう六時過ぎか」
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「いつもえらいわねえ…!陸くーん!お兄ちゃん来たよー!」
「あ、いいえ。」
僕は、笑顔で言う保育園の先生に、軽く会釈をした。
ここは星苑保育園で、一番末っ子の弟の陸が通っている。
大体の人はお母さんが迎えに来るのだが、陸は違って、僕が迎えに来る場合が多い。
「あー!おにーちゃん!遅いよ~」
遊んでいたオモチャを片づけると、残っていた数人の友達に、ばいばーいと元気に友達に手を振って、鞄を持って駆けつけて来た。
「うん、ごめんな。陸」
いいよ。と笑顔で陸は言った。
何となく、あまり両親の恵みに包まれていない陸が可哀想に思えてくる。
「さよならー!」
陸が、先生に言った。
「さようならー」
先生も返し、僕も言う。
「あと四人で、ぼく独りになっちゃうところだったよ」
と陸が言った。
僕が迎えに来るのが遅いんで、教室に残っている人が少ないと言いたいのだろう。
「ごめんごめん。今日は陸の好きなコロッケ作るから、許して。」
「ほんとー!!たべたーい コロケ食べたい!」
と騒ぎ出す陸と手をつないで、
「コロッケ、だよ。」
と言った。
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「頂きまーす・・・」
「いたあきまーす!! おにーちゃん、おいしー!」
「まだ食べてないだろ…!あと、いただきます。だよ」
僕は優しくコロッケを小さく一口サイズに選り分ける。
「…お、あんがい 美味しくできたかも」
僕は、夕食を作り終え、陸と二人で食べ始める。
蠅帳とサランラップにかかったご飯が三つある。
姉と両親の分だ。
両親は共働きで、僕は琴が居れば四人きょうだい。
一番上の姉は僕より二つ上の高校一年生の沙和。
優しいし色々やってくれるけど、勉強と部活で忙しい。
その次が僕で、その次は、生きていれば小学五年生の妹、琴。
末っ子は僕より八歳年下の陸。
一番上の姉から考えたらものすごい年の差。
「ん」
ふとケータイを覗くと、優希や隆志、幼馴染の志乃と、最近仲良くなったあい子等や色々な人からラインが着ていた。
(食べてからでいいや)
僕はケータイを躊躇してそばに置くと、さきほど琴に供えたおにぎりを口に運んだ。