to1 透明な世界
第一話 揺れた時刻 to1 透明な世界
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「よし、じゃあこの問題解けるヤツいるかー?…そうだな、じゃ、佐川」
先生が言った。
「はーいはーい――…って、隆志さっきも当たったよね…、この問題自信あったのに。」
僕は、向こうの席の隆志が当たったことに、挙手をやめ、ぼやいた。
「ん?なんか揺れてない?」
授業中の話だった。
隣のあい子が急に話しかけてきた。
社交性な性格で、いろいろあれば話しかけてくるような人で、冗談もよくあることなので、何も気に留めることはなく言った。
「そうかな。」
「いやあ、どう考えても「――地震?えっ!う、うそだろ…うそだろ!」
僕はあい子の言葉を遮ると、そう言いながら机の下に潜り込んだ。
僕が地震嫌いになったのは、あの日から。
近くの席の人がクスクス笑う。
「地震なんてないよ。」
後ろの席の志乃がニッコリ笑う
出来れば、前のこと、が思い出されなければ、地震なんて別に良いが。
「だよね」
でもなんとなく 机の下から出れずに居た。
「……!待って 本当に地震なんじゃ――。」
僕は、机の下から なんとなく目を窓の外に泳がせて、そう言った。
運動場で体育をしている人の姿が、左右に軽く揺れているような気がした。
「ほ、ほらー!やっぱりでしょ?。」
あい子が大声で自慢げに言う。
「う、ん…」
僕が返し黒板に目を向けようとしたとき、目の前に仁王立ちになった先生が居た。
「どうした?そんなにしゃべりたいか。それにおまえ、なんで机の下に居るんだ?さっきまで真面目に授業聞いていただろう。」
そう先生が言った瞬間に、みんなの目線が集まり、笑いの渦に包まれる。
「は、はい!すいません!」
気をつけろ。と軽く笑う先生。
「はー…」
あまりの恥ずかしさに顔を赤面させつつ、先生に目を向ける
「特に、清水。どうせまたおまえが話しかけたんだろう?」
先生が、あい子をあきれたような双眸で見下ろす。
「は、はい!。わたしです!!わたしが悪いです。」
と立ち上がってあい子が ぺこりとお辞儀する。
なんだか申し訳なくて、僕も立ち上がろうとしたとき、
「痛てっ!」
ゴンっと鈍い音を立てて、机に頭をぶつけてしまった。
「はははは…!」
さらに教室は笑いの渦に包まれる。
「すみません」
「おまえ、頭は大丈夫か?いいだろう、気を付けるように。」
先生が僕らを一瞥すると、教壇に戻るため 背中を向けた時、「でも」と横であい子が言った
「地震かも、って言ってたんです!。だから蓮も机の下に居たわけで!――……あ、あ、ほら!今」
教室の掲示物のひとつである習字の紙が 窓を開けている訳でもないのに、パタパタと揺れる。
「え……?。地震?」
「―あ、揺れてる!」
「ほんとだ!」
と、周りの生徒たちも気づき始めるとがやがやし始めた。
僕と一緒で机の下に隠れる人も居た。
(……今日もか――)
僕はケータイを取り出すと 机に隠して文をうちはじめた。
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放課後――
「おーい、蓮!これから隆志と一緒にそこの焼きそば食いに行こうと思ったんだけど おまえも行こうぜ!」
僕に向かって、優希と隆志が手を振ってきた。
「あ、悪い!今日は、無理~」
普段から部活にも入ってないし、さほど用事があるわけでもないので たいていは二人と遊びに行くか、勉強しているか、幼い弟と遊ぶかくらいなのだが、
今日は、*あれ*が起きてしまったから。
それは出来ない。
「そっかー!」
残念そうに隆志が言う。
幸い、僕の友達は深い詮索はしてこなかった。
「また誘ってよ~!」
僕はそう言うと、手を振った。