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09:属性占いと買い物。(前)

「あと数日で生徒さん達が来る……!」


 涼香は、休暇中で人がほぼいない談話室で、先日ランスイに貰ったばかりの(カレンダー)を両手で掲げ、今にも唄いだしそうな勢いでくるくると回っていた。この長期休暇も、あと数日で終わる。そう思うと、涼香は楽しみで仕方がなかった。


「随分と……楽しそうだな」


 丁度、通りかかったランスイは『頭大丈夫か、コイツ?』とでも言いたげな、呆れた表情で涼香に声をかけた。実際にそう言ってしまわない辺り、ギース以外の人間には基本、優しいのだろう。相手がギースであれば恐らく放置するか、或いは思ったままに言うのだろう事を想像するのは容易かった。


「そりゃぁ、もう!だって、休みが終わるんだよ!?」


 涼香はランスイの態度を気にもせず、生徒達に会うのも楽しみだが、授業を見学できるのも楽しみだと熱弁した。呼び捨てや『くん』付けするのはどうにも落ち着かず、『ランスイさん』と、さん付けにしてしまう所だけは直らなかったが、先日の一件以来、大分打ち解けて、すっかり砕けた調子で話せる様になっていた。


「あ、でも上の学年の子の授業もだけど、学年の途中からじゃやっぱり私には理解するの難しいよね?」


 先日、ランスイによる突然の魔法薬学の個人授業――もとい、日常に必要そうな情報講座が横道に逸れた時にも、やはり理解しきれず残念な気持ちになった事を思い、しょんぼりと訊ねた。


「そうだな」


 バッサリとそう言いつつ、一年の炎竜系と天龍系の授業が遅れているから、見学するのならばその授業が丁度良いだろう、と教えてくれた。――それから、何とか早く遅れを取り戻さなければ、と頭を抱えた……。所謂エリートであろうランスイであっても、そう言った仕事上の悩み等があるのだと思うと、自分となんら変わらないのだと安心すると同時に、涼香には他人事とは思えなかった。


「えっと、大変そうだね……」


 涼香は、自身の学校の生徒達やモンスターペアレント達を思い浮かべ、アレと同じ様な、現状を親に説明しても教師側に問題があるのだと言われてしまう様な状況なのかもしれない、と心底同情した。同情、と言うよりは『既視感を覚えた』と言った方が近いだろうか、それだけ今のランスイの沈み方は他人事とは思えない様子だった。


「あぁ」


 大変なんだ。と、そう言った様な気がした。ランスイは心の底から困っているのだろう、頭を抱えたまま、ガクリと肩を落とし項垂れた。


「よっ!随分打ち解けた見たいじゃねぇか!」


 現状に似つかわしくない朗らかな声にハッと振り返れば、丁度ギースが駆け寄ってきていた。


「何だ、何かあったのか?」


 ギースが沈みきったランスイの様子を見て心配そうに、手を差し伸べながら尋ねると、ランスイはその手をピシャリと撥ね退け、ギースを睨めつけた。


「貴様には関係ない」


 炎竜系の生徒が関係して居るのだから、実際の所は十分関係して居るのだろうが、ランスイにとってはそれ程までに、ギースに弱味を見せたり、頼る、と言う事が苦痛の様だ。


「まぁ、そう言うなって」


 ギースはそんな態度に慣れているらしく、気にした様子も無く笑って返す。ギースの大らかなその態度が返ってランスイの気に障る様で、ランスイは苛立たしげに再度、ギールを睨みつけた。


「これだから炎竜系は嫌いなんだ。大雑把で無神経な楽天家!まさに貴様そのものだな」


「それを言うなら水龍系なんて、根暗で神経質な堅物だろ?」


 どうやら、血液型や星座による性格診断と同様の、属性占いとでも言った物の類の様だ。ギースを見る限り、大雑把と楽天家には納得だが、無神経かどうかは涼香には疑問だった。どちらかと言うと細かい気遣いの出来る人物の様に思えたし、そう考えると『大雑把』と言う部分にも幾分か疑問が生じる。ランスイを見ても根暗と言うのはどうにも納得し難く、神経質な堅物に関しては多少思い当たる節があった。確かに、真面目で教え方などでも細かい所まで説明してくれる細かさは感じたが、『神経質』と言うのともまた違った様にも思えた。

 やはり、どの世界であってもこの手の性格診断と言うのは鵜呑みに出来るほど信憑性のあるものではないのだろう。しかし、大の男が揃って性格診断に詳しい事の方が涼香にとっては衝撃的なのだが……涼香にはこの世界の一般常識が分からず、きっとこの世界ではこれが普通なのだろう、と思うことにして二人の言い争いに意識を戻した。


 このまま二人の言い争いが続いても困る、そう判断した涼香は話を脱線させようと急いで思いついたままに二人に問いかけた。


「ねぇ、天龍系や地竜系、総竜系にもそう言うのってあるの?」


 勿論、涼香自身この性格診断について詳しく知りたいと思ったと言うのも大いにあったが、とにかく二人の意識を互いから逸らそうと、口早に訊ねた。


「あぁ、あるぜ!天龍系は所謂『不思議ちゃん』。ズレた思考で自分の世界観を持っていたり、会話が成立しない奴も多い。これは俺が知る限り、大体あってるな」


 ギースはそう言って、頷いてみせた。ランスイもその内容に異論は無いらしく、頷いてみせた。この二人の意見が別れない辺り、天龍系は相当の電波ちゃんの様だ。


「地竜系はオタク気質でマイペース。一つの事に没頭すると他を疎かにしがちな者も多い。これも概ね間違っていないだろう」


 天龍系も地竜系もこれだけ聞くと社会不適合者しか居ないのではないかと心配になるが、本当に概ね間違っていないらしく、これも二人揃って頷いている。この世界は水龍系と炎竜系で成り立っているのではないか?と、涼香は心配になった。


「総竜系は?絶対的なカリスマ性の持ち主、とか?」


 総竜は全てのドラゴンを総べる竜だと言うのだから、その属性の持ち主は其れくらいの診断をされているのではないだろうかと、ドキドキと訊ねた。


「総竜系は諸説あっけど、大体が二面性があり、腹の底で何を考えてるか分からねぇとか敵にまわすなってのが多いな」


 これに関しては、あまり多くを知らない為、断定までは出来ない様だったが、ギースはあながち間違いではないと考えている様子だ。一方ランスイは、これに関しては否定も肯定もし辛そうに、「この件に関してはコメントを控えさせて貰う」と言わんばかりに視線を逸らして見せた。――どうやら、肯定派の様だ。


 「校長先生も……?」と思いはしたが二人にも、立場と言うのがある。これ以上の詮索をして、その内容が校長に知られたら色々と問題だろう。

 これ以上、この話題を続けるのは得策ではないが、はっきりと断定されなくともこの態度では肯定しているのと変わらない様に思えた。


「そうそう、涼香に用事があったんだ」


 しばしの沈黙の後、ギースは話を逸らす様に本来の目的を思い出した様に、涼香の方へと向き直った。

 どうやら、先日の校長の用事の一つとして、涼香の当面の着替えや日用品等を揃える必要があると言う事で、ギースの実家に涼香が着られそうな服を何着か送るように頼んでいたのだと言う。それから数日、実家からの服が届いたのだが、量が多い為、好きな物を選んで持って行ってくれ、と言う事だ。


「え、と……ありがとう」


 好意は有難かったが、一体どれだけ送られて来たのか一抹の不安がよぎり、しどろもどろに礼を述べた。


(そっか、これから暫くここで生活するなら色々必要になるよね……)


 暫く生活するのだから当然、着替えや最低限の日用品の類を用意する必要性があるのだが、なんとなく、ギースとの旅の間はその辺りで調達出来る物を食べたりしていた事もあってか、何かを敢えて買い揃える必要がある、と言う事を失念していた。


「ならば、他に必要な物は今の内に揃えに行った方が良いな」


 お風呂用品や台所用品等、細々と必要な物がまだまだある。授業が始まってしまう前の今の内に用意しておかなければ、何かと困るだろう。

 涼香はこの世界の金銭を持っていない為、校長の好意で『異世界についての授業』の報酬を先払いと言う形式にしてくれたのだと、ギースが校長から預かったと言うカードを渡された。――どうやら、本人以外には利用が出来ない様に作られているカードに給料が振り込まれる様になっているらしい。要するに、キャッシュカードと同じような物の様だ。


「あー……、あと、流石に借り様が無ぇ衣類も買わねぇとな」


 ギースは言い難そうに、そして流石に『下着』とは言えないながら、精一杯に必要なそれを伝えた。この世界に来てから暫くは野宿が多く、衛生面を気にする余裕もなく失念していたが、言われてみるとやはり、下着は急いで手に入れたい所だった。

 そんな訳で、ギースのアパートに服を受け取りに行き、その後で街まで3人で昼食と買い物へ行く為、ランスイと学校で合流する事になった。先日は急いでいた為、素通りせざるを得なかった街に行けるのはとても嬉しい。

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