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07:魔法学校と異国の魔法

「水龍可愛かったなぁ」


 別れてまだ10分も経っていないのは自分でも分かっているが、街に着くと面白そうなモノがあったのか、フラフラと何処かへ行ってしまった後ろ姿までもが可愛らしく、心底名残惜しかった。何度も呟いてしまうのも仕方ない。……筈。


「まだ言ってんのかよ」


 呆れたように、他のドラゴンにもその内会えるさ、と陽気に慰めてくれるギースの言葉も、この10分で何度言われたか分からない。ランスイはと言えば、このやり取りに付き合いきれない、とでも言う様に二人よりも数歩先をサクサクと歩いている。


 まだ暗い夜の街。夜だと言うのにこの街はまだまだ活気があり、酒瓶片手に歌っているおじさん達が街の酒場に居るのをしばしば見かける。

 酒場はRPGなんかに出てきそうな趣のある物や、ちょっと小ジャレた雰囲気の物など、多種多様で、どの店も明るく活気づいている様だ。


「楽しそう」


 楽しげな酒場の雰囲気を横目に、羨ましそうにつぶやくが、涼香の前方をカツカツと進んでいってしまうランスイを追いかけなければならない。ちょっと一休み、などと酒場に入る事は出来そうにない。


「今度、観光案内位してやるから」


「本当!?有難う、楽しみにしてる!」


 見兼ねたギースのフォローは有難いが、現在の状況を変えようとせず、ランスイに従っていると言う事は、今はそう言う余裕が無いのだろう。


 黙々と歩く事30分、酒場等が多かった通りから一変して、この辺りはどうやら商店街になっているらしく、現在開いている店は無い。視線を少し先へ向ければ大きな城の様な建物が見え、ファンタジーの世界へ来たのだと、しみじみ思えた。


「涼香、あれが学校だ」


 先を歩いていたランスイが突然ふりかえり、ある建物を指差し教えてくれた。指の先にあったのは先ほど城の様だと思った大きな建物だ。


「あれ、お城じゃないんですか!?」


「?……王都はもっと内陸にある」


 城も、勿論もっと大きく立派な物なのだと説明してくれた。


「へぇ。もっと大きくて立派なんだ」


 どんな城だろう。学校と同様に洋風の城だろうか?王都はやはりこの街よりもずっと栄えているのだろうか?疑問は尽きない。


「興味があるのなら、一度行ってみると良い。都合が合えば、私が案内しても良い」


 勿論、ギースに案内を頼むのも良いだろうと、話してくれる。王都の話に食付いてくれたのだし、呆れたりはしていても嫌われては居ない様だ、と内心ほっとしながら是非、と返す。


「ランスイは王都出身だから詳しいんだよな」


「あ、じゃぁ王都は水龍系の人が多かったりするんですか?」


 少し、安直すぎるかもしれないが、同じ地域に水龍系と炎竜系等、他のドラゴン信仰同士が混在していると言うよりも、それぞれ多い地域があるんじゃないかと思う。日本の様に多神教だと言うなら混在も十分有り得る。


「多いかは分からんが、水龍系の大聖堂が確か、国内最大だった筈だ」


「大聖堂……行ってみたいです!」


 きっと綺麗な建物なのだろうと、想像するだけで期待に胸が膨らむ。涼香が熱を込めて言えば苦笑しながらも、その内な、と応えてくれた。楽しみがどんどん増えていく……!


「良かったな!」


「うん!」


 嬉しそうにしている涼香の頭をグリグリと撫でながら笑うギースに、髪がぐちゃぐちゃになるのも気にせずに力一杯頷く。


 それから少し歩いた所で、漸く目的地、魔法学校へ到着した。遠くで見ていた時から大きいのは分かって居たが、近くで見るとやはり、大きい。


「大きい……!」


「この辺りでは一番の名門だからな」


 学生寮も近くにある程の大規模な学校なのだと、ランスイが誇らしげに説明する。


「名門かぁ……凄いなぁ。二人は卒業生なんだよね?」


「「あぁ」」


 母校とは言え、名門校で先生になれるって実は凄く優秀なんじゃないだろうか?名門校の卒業生という事実が既に凄い事だとは思うけれど。

 ギースが見かけに似合わず、随分と色々出来る事はここ2日程でよく分かったが、ランスイは真面目そうな見かけ通り、有能な人物なのだろう。そう考えると、やっと夢を実現した筈なのに、心折れそうになって居た自分との落差に何とも言えない気持ちになるので、涼香は考えるのを止めた。――今は取り敢えず、楽しもう。そう、決意して、二人に促されるまま校舎の中へと進む。


 まず、通されたのは来客用玄関と受付。某魔法学校を思わせるファンタジー感満載の学校であっても、それは変わらないらしく、なんとなく安心する。


「記帳とかしなくていいんですか?」


 受付の事務員らしき男性は軽く挨拶をしただけで、用紙やペンを出す様子もない。


「あぁ、このゲート潜るのが記帳変わりって所だな」


 言われるまま先を見れば、2M程の高さの装飾の美しいアーチが用意されている。よく見るとアーチには幾つかの円と六芒星、数字を組み合わせた模様が刻印の様に刻まれている。


「このゲートは潜った人物の情報やこのゲートを次に潜った時間等、細かい情報を自動で記録する」


 ランスイの説明を聞く限り、やはりただのアーチではなさそうだが、この世界の魔法の性質がまだイマイチ理解しきれない。


「そう言う魔法がかかってるの?」


「あぁ。この魔法は特に珍しい物で、遠い異国で使われている物だ。この文様、これで魔法を発動させているのだそうだ」


 この学校の創設者である現校長先生が設立当初に、より安全性を高める為にこの国に馴染みのない魔法でのセキュリティを、と取り寄せた物なのだと、加えた。涼香はひとつの世界の中に一通りの魔法しか無い物かと思っていたが、その考えは間違っていた様だ。


「色んな魔法があるんだね」


「まぁ、国や宗教が違えば色々変わってくるさ」


 文化の違いで魔法も違ってくるのは面白いな。などと考えながらゲートを潜り、校長室へと歩みを進めた。


 螺旋階段を暫く登り、入り組んだ廊下を何度か曲がり、新たな階段を登り、今度は廊下をまっすぐ突き進む。そうして進んだ先に漸く見えたゴシック調の厳つい大きな黒い扉。――これが、校長室。

 明らかにどす黒いオーラを放っているその扉には、渋い金色の『いかにも』と言った雰囲気の細かい装飾が施された竜が、輪っかを加えているドアノッカーが付けられている。


(ノックしたら、この竜に食べられちゃいそう……)


 ギースとランスイは互いに見合い、ややあってランスイがふん、と鼻を鳴らしてドアノッカーに手を伸ばした。どちらがノックするか、と言う事を目配せで相談していたのだろう。


――コン、コン


「ランスイです。ギースを連れ帰りました」


「ギースです。ちょっと相談があるんすけど」


 二人が順に声をかけると、扉の奥の方から「どうぞ」と、穏やかな女性の声が聞こえてくる。涼香は、秘書だろうか?20代だろうか?随分若いな、と思った。校長がこの学校の創設者だとも聞いてた為、聞こえた声の主が校長だとは考え難い。


――ギィィ……


 扉は重く、軋む音が低く辺りに響いた。

 扉を開いたランスイがギースと涼香に入るように促し、二人はそれに従い部屋へと踏み入った。


 床には深紅の絨毯が敷かれ、調度品も扉の厳つさを思うと、ゴシック調にまとめられては居るが幾分かシンプルな作りの様だった。部屋の奥の大きなデスクに、座り心地の良さそうな椅子。その椅子に優雅に座っている人物を見て、涼香は驚いた。


(若い……!)


 校長の椅子に座っていたのはメガネをかけた若い女性だった。くすんだ金色の長い髪は女性の落ち着いた雰囲気によく合っていた。


「ランスイ先生、お疲れ様です」


 女性は礼を述べつつ、ランスイに笑いかけ、ギースの方へと向き直った。


「ギース先生、相談というのはそちらの女性の事ですね?」


 そちらの、と言いながら涼香をチラリと見て微笑みかける。涼香はどう反応して良いやら分からず、小さくペコリとお辞儀した。


「大丈夫だ」


 涼香の様子を察したランスイが小さく呟いた。ランスイの方を見るが、視線は既に逸らされていた。


 ギースは校長に事の経緯を説明した。

 自分の不注意で異世界から連れて来てしまった事、涼香は異世界で教師をして居て、こちらの学校に興味がある事等、あらかたの事情を説明すると、校長は頷いた。


「分かりました。……私はこの学校の校長を勤めています、イーリィと申します。涼香さん、安全な帰り方は準備に少々時間を要します。準備が整うまでこの学校で異世界について生徒たちに教えてあげて貰えませんか?」


 涼香がただお世話になるのでは気が引けてしまうだろう、と言う配慮だ。『異世界』を教える授業を受け持つ事の報酬として衣食住を保証してくれる、と言う申し出に涼香は大きく頷き、引き受けた。


「ありがとうございます!宜しくお願いします」

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