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06:水龍系の魔法使い

 もう夜中だと言うのに港近くの海辺に佇む青年が一人。

 絹の様にさらりとした美しい銀色の髪は長く、それを後頭部の高い位置で一つ括り、その髪の束は月の光に照らされ、髪自体が光っている様にも見える。青年の顔立ちは、目付きの鋭さを差し引いても、女性と見紛う程美しく、彼の背丈が180cmを超える程で無ければ女性と間違われていたかもしれない。

 そんな彼が人気の少ない、夜の海辺に居るのには訳があった。


「やはり、追うしか無いか」


 ため息混じりにつぶやくき、水面に手を添えると、添えた辺りからじわりじわりと凍って行き、海に細く長い氷の道が作られる。――水龍系の魔法使いの得意とする氷結魔法だ。


 彼が追うのは神。

 偶然出会った水龍に懐かれ、無碍にも出来ず撫でてやると嬉しそうに目を細めた。彼の人生の中で何度もあったようなありふれた日常だった。

 撫でられて満足していた水龍が、突然について来いとでも言う様に、彼の服を咥えてグイグイと引っ張ったり、背をグリグリと押したりと、どうしても其方へ進ませようとするものだから、用事もあったが放っても置けずここまで来たのだ。だが、先刻その水龍が海へ入りスイスイと進んでいってしまい、追うべきか待つべきか考えあぐねていたのだ。


 彼は作り上げた氷の道の上を迷いなく歩き始めた。


 思いの外、距離が長いな。と思いながら進んでいると漸く水龍を見つけた。水龍は何故か貿易船の船員に擦り寄っている様子で、進路を塞いでしまっているのがすぐにわかった。


「水龍」


 呼ぶと水龍は嬉しそうに彼の方へと振り向きキュィと小さく鳴いて見せた。

 水龍が擦り寄っていた船員の方を見ると、どうやら船員、と言うわけではないらい、スーツを着た若い女性が見えた。見る限り水龍系の強い魔力を持っている様には見えず、困惑する。


「キミのお友達?」


 涼香は水龍を撫でてやりながら、水龍を呼んだ男の事を水龍に尋ねる。すると水龍はそうだ、と言う様に嬉しそうにコクりと頷いて見せた。


「何者だ」


「?」


 ドラゴンは人懐っこい事が多いが、水龍にこれ程懐かれている人物に彼はほとんど出逢った事がなかった。ただのどこにでも居る様な小娘に見えるが、魔力が高ければ老化の進行もかなり遅れる。そう考えると、見た目よりも大分高齢で、高位の水龍系魔法使いなのかもしれない。彼は此処まで思考を巡らせ、自分が姿を知らない高位の水龍系魔法に心当たりが無いと言う事実に辿り着く。

 勿論、その存在自体が明るみに出ていない様な珍しい人物も居るのだろうから、可能性は0ではないのだろうが。

 彼の突然の問いに困惑している様子で首を傾げている。その仕草は、外見通りか、少し幼い位の年齢の様に見えた。


「水龍系の魔法使いでは無い様に見受けるが」


 男は、困惑している涼香に返答しやすい様に言葉を紡ぎなおす。すると、今度は思い当たる節が有り、涼香もなるほど、と表情を少し明るくした。


「確かに、私は水龍系の魔法使いではありません。異世界から来たので、魔法自体使えません」


 異世界。まれに行った事があると言う人物も居るが、本当にその世界が存在するのかは未だ不明瞭なその場所から来たと言う。男は異世界の存在をあまり信じておらず、涼香の言葉もまた、信じられずに睨みつけた。

 睨みつけられた涼香は怯んだ様子で彼を見た。――怯えながらも、真っ直ぐに。


「異世界などと言われて、信じられるか」


 真っ直ぐな涼香の視線に、ほんの少し気圧されながら彼は吐き捨てるように言った。彼の言葉に反応を返したのは意外な人物だった。


「そりゃないだろ、ランスイ?」


 ランスイと呼ばれた男は、声の主を見つけ、睨みつけた。水龍も先ほどまでの上機嫌ぶりが嘘の様に、警戒態勢で喉を唸らせている。


「ギース、貴様ここで何をしている」


「何って、船に乗ってるけど?」


 怒気を含んだランスイの態度を何も気にしていない様子で答えた。


「ギースくんが言ってた学生時代からの友達って、あの人?」


 水面に氷の道を作って居る事、水龍に懐かれているらしい事から、ランスイが水龍系の魔法使いなのだろうと思い、ギースとの話を思いだし、ヒソヒソと尋ねる。


「そうそう、ランスイって言って魔力も結構強いんだぜ」


 ギースは楽しげにランスイについてこっそりと教えてくれた。


「そんな事は見ればわかる!休み明けテストの準備はどうした!?」


 二人の会話は聞こえず、二人のコソコソ話に対する苛立ちもあってか、先ほどのギースの返答に声を荒げ、返す。


「そう怒鳴るなって。ちゃんと出来てるからさ」


 怒鳴るランスイに、それをあまり気に止めないギース。完全にギースのペースだ。


「そんな事より、ランスイこそ何してんだ?」


 ランスイの苛々した態度をすっぱり無視して話題を変えるが、ランスイの苛々は増して行くばかり。


「貴様がまた行方を眩ませた所為で、校長に探すよう頼まれたんだ!」


 忌々しそうに吐き捨てられた言葉にギースはやはり呑気な返答を返す。


「なんだ、迎えに来てくれたのか!サンキュー!」


「ギースくん、そんな呑気な事でいいの?」


 涼香もどちらかと言うと呑気な方ではあるが、此処まで怒りのぶつけ甲斐が無いのでは、なんだかランスイが不憫に見えてくる。


「さっさと行くぞ」


 怒鳴るだけ怒鳴って、漸く落ち着いたのかランスイは短くそれだけ言うと、船のすぐ傍まで伸びた氷の道を辿り、二人の傍から氷の道を少し広く作り直して見せた。――つまり、この上を歩け、と言う事なのだろう。


「その女と、私が行けば水龍も一先ずここから離れ、船も無事に移動できるだろう」


 名前を名乗っていなかったとは言え『その女』呼ばわりはどうなのだろうか、と思いつつも怖くて反論が出来ない。


「涼香です」


 これだけ名乗るのが精一杯だ。これでさえ、聞いていないと睨まれるかもしれない、と不安で居たが、予想とは大分違った反応が返ってきた。


「そうか。私はランスイ=ファエンだ」


 経緯はわからんが、よろしく。と、先程までの警戒を解いてくれたらしく、友好的とまでは言えないまでも、悪くはない態度だ。

 握手を交わし、手を引かれるままに氷上へと降り立ち、船員達にお礼を言う。氷の道に立つのは少し怖いが、ランスイが支えてくれているから安心、と言うか、逃げられない。ギースも船員達にお礼を言うと、おっかなびっくり、と言う様子で氷上へ降りようとしていた。


「ギースくん、もしかして怖いの?」


 涼香は自分の事を棚に上げて、ギースの情けない様子にニヤリと笑い、声をかけた。


「氷の上はまぁ、怖く無ぇけど」


 周りが海なのが少し怖いのだと言う。ギースとはまだ2日程しか一緒に居ないが、一介の教師にしては色々な事をこなし、色々な知識を披露するギースの弱点が密かに嬉しいと思った。


「怖いのなら、さっさと歩け」


 陸に付けば怖くないだろう、とランスイが言い放てば、それが出来たら苦労しないと言い返すギース。ランスイの先ほどまでの怒り様からは『良い関係』にはあまり見えなかったが、こうして居る二人を見ると、良い関係なのかもしれない、と思えた。

 涼香とランスイがギースに敵意を向けていないからか、水龍もギースに対して警戒を緩めたらしく、唸るのをやめてランスイに撫でてくれとせがんで甘えている。警戒と緩めた、と言うよりは存在を無視する事に決めたのかもしれない。


「あの、陸まではどの位あるんですか?」


「30分も歩けば着く」


 もっとも、このペースでは何時まで経っても着かないかもしれないが。と、付け加えながらギースを一瞥した。


「分かったよ。さっさと歩くって」


 ランスイの態度に漸く真面目に歩く決意をしたギースは、まだ少し腰が引けていたが歩く速度を上げて笑ってみせた。


「分かればいい。涼香、歩けそうか?」


「あんまり早くは、ちょっと……」


 ゆっくりであればなんとか歩けるが、これ以上の速度は涼香には正直、難しい。ありのまま伝えて、呆れられるだろうか?怒られるだろうか?そう心配しながら伝えたが、ランスイは別に意に返さない様子で「そうか」と、短く答えた程度だった。


「水龍、彼女を乗せて飛んでくれるか?」


 ランスイがそう言うと、直ぐ傍で行ったり来たり自由に泳いでいた水龍がキュッと短く鳴いて近づいて来た。――OKって事なのだろうか?


「乗って、良いの?」


 水龍に問えば、キュキュと笑う様に鳴き、氷の上へ登り、背に早く乗れと言わんばかりに涼香を見た。

 今の今まで海の中を泳いでいただけに、濡れているのだろうな、と自分の服が濡れる事を覚悟してその背に手を伸ばした。


「あれ?濡れて無い」


「水分は体内へ吸収され、水龍の皮膚の乾きは一定に保たれている」


 撫でていた時に気付かなかったのか?と、言われ、思い返せば確かに、カッサカサに乾燥している訳ではないけれど、ハンドクリームを塗って保湿ばっちりの女子中学生の手の甲程の乾き具合とうるおいを感じたのを思い返す。


「どう言う理屈なんだろう?凄いね」


 水龍を撫でてやり、背によじ登る。体勢を低くしてくれていても登り慣れていない涼香の登り方は危なっかしく、水龍も一生懸命躰を捩りフォローしてくれた。お陰で、無事に乗る事に成功した。


「ありがとう」


 言って、掴まった辺りをよしよし、と撫でてやると嬉しそうに伸びをした。


「これで行けるな」


「そんじゃ、さっさと行くか!」


 二人が再び歩き始めるのに合わせて、水龍は泳ぐようにスルリ、スルリと天へ昇っていく。飛ぶ、と言うよりも空を泳いでいる様だ。


「凄い」


 それ以外の言葉が見つからない。月や星が近く、手を伸ばせば届きそうな、そんな場所を水龍は泳いでいる。その背に乗っているのだ。興奮しない訳がない。


「はしゃいで落ちるなよ?」


 下から、ギースが笑って声をかけてくれる。その少し先をランスイが黙々と足早に歩いている姿と、更に前方にキラキラと見えるのは多分、街だ。


「気をつけるよ」


 気を引き締め、水龍にしがみつく。


 もうすぐ、街に着く。

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