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04:炎の竜と水の龍

「ギースくんも、水苦手なの?」


 炎竜系の魔法使いは水が苦手な事が多い。と言う話を聞いて、もしやと思って問いかけると、図星なのか、ギースは一度視線を外してから頭をポリポリと掻き、答えた。


「あんま得意じゃあ無ぇ、な」


 少し、意外だと思った。出会ってまだ二日目とかなり短い付き合いだが、ここまでの彼を見ていると苦手な事なんて無いのではないかと思える程、大体の事をソツなくこなしている様に思えた。


「つっても、ガキの頃に比べりゃ大分マシだな」


「じゃぁ、何か頑張って克服したの?」


 苦手がマシになったと言うからには、きっと何かしら行動を起こしたのだろうと思い、興味の向くままに尋ねる。


「頑張ったっつーか、学生時代に水龍系の奴と知り合いになってよ」


 炎竜と水龍、相対するドラゴン故に、ドラゴン達も、魔法使い達も相性があまり良くなく、国によってはそれで戦争が起きる事もある程らしいが、ギースの話を聞く限り、その水龍系の知り合いとの関係は、互を高め合えるライバル、とでも言うのだろうか?良い関係の様だ。


「その人に感謝しないとね」


「だな」


 そう言って、笑ったギースの顔は少年の様にも見えた。


 それから、お昼を食べながらドラゴンの話も色々聞かせてもらった。



 水龍の水は全てを潤し、

 時に氷となって全てを凍てつかせ


 炎竜の炎は全てを燃やし、

 氷を溶かし全てを温める


 相反する二匹のドラゴンは

 互いに互を邪魔だと考えていました


 水龍はこう考えます。


 「炎竜がいなければ、私の氷を溶かす者は居ないだろう」


 炎竜はこう考えます。


 「水龍がいなければ、私の炎を消す者は居ないだろう」


 自身の力を無力化されてはかないません。

 二匹は次第に関わらない様に住み分けました。


 水龍は水の綺麗な湖へ


 炎竜は灼熱の火口へ


 彼らはもう、互いの存在から目を背ける事に決めたのです。



「なんと言うか、冷戦状態?」


 盛り上がりも何も無い話に肩の力が抜ける。この世界は色々なものが基本ゆるいのかもしれない。


「どうだろうな。そのまま戦わなかったのは、互いに自分が災害の火種になった時に相手が助けてくれるって思ってなのかもしれねぇし、それなら結構互いに認め合ってるんじゃねぇか?」


「そっか」


 言われてみれば、そう言う考え方が出来なくも無いのかもしれないが、随分前向きな解釈だな、と思う。


 ふわり、と心地よい風が吹く。


「気持ち良い風……」


 お昼も食べ終わり、天気もよく風も心地よいし、景色は抜群。このまま寝転んで昼寝でもしてしまいたい衝動に駆られながら軽く伸びをした。


「学校って、あとどの位で着くの?」


「んー……すぐソコの海渡っから、船なら深夜か、明日の朝には着くな。炎竜でもここらで協力してくれりゃぁ、今日の夕方までには着くんだけどな」


 事も無げに言うが、炎竜とは神様なのだから、これは神頼みと言う事なのだろうか?


「炎竜に協力してもらうって、どうやって?乗るの?何か特別な力で送ってもらえるの?」


 ムクムクと湧き上がる好奇心。抑える術も無ければ、必要もなく、涼香はワクワクとでも効果音が聞こえてきそうな生き生きとした表情で問いかけた。


「どうやるか、ってのは答えるのは難しいな。運っつーか、縁?ドラゴンは大抵自分の属性を色濃く持った魔法使いに懐き易いし、協力的なんだ。だから俺の場合は炎竜な。普通に背に載せてもらう」


「あぁ、それから……今の所、ドラゴンに属性以外の特別な能力とかってのは発見されて無いらしいぜ」


 まくし立てるような質問に笑いながらも、全てきちんと返答をくれる。


「へぇ……って事は、学校にも色々なドラゴンがよく来たりするの?」


「そうだな、街とかぶらつくよりは遭遇率高いんじゃねぇか?」


 ドラゴンに魔法、ファンタジー好きにはたまらないモノをぎゅっと集めたような場所なのかと思うと、建物の造りにも期待せずにいられず、思いを馳せる。


「こっちに来た時に一緒にいた子、私に随分懐いてくれてたけど、私も実は魔法使いだったりとか……!」


「流石に無ぇだろ」


 やっぱり無いか。と残念に思いながら、それでもドラゴンや大勢の魔法使い、魔法学校の存在、それら全てが楽しみで仕方なかった。


「取り敢えず、来てくれるか試しに呼んでみるか」


 ギースはそう言うと、空に向かって手を掲げ、人差し指に炎を灯した。灯した炎で何かを空に描く様に、スルリ、スルリと腕を動かしてゆく。


「それが炎竜を呼ぶ方法?」


「方法は結構なんでもいいんだけどな」


 別段、決まりはないのだろうか?イマイチわからないな。と考えている内にキュィィイと言う鳴き声が聞こえ、バサバサと大きな羽の音が聞こえてきた。音は間違いなく近づいてきている。ふと、影がかかり上を見上げると大きな、象程ありそうな竜が二人の頭上に居た。


「お、結構早く来てくれたな」


 ラッキー。と笑ってギースが竜へ向かって手を振ると、甘える様に鳴きながら、擦り寄るように降り立った。降り立った竜の羽の付け根の辺りをよしよしとギースが撫でると、竜は気持ち良さそうに目を細めた。


「私も、撫でて良いかな?」


 涼香を爆風から守ってくれた竜よりもまた一回りは大きそうなこの竜。少し怖くもあったが、大人しく撫でられている姿を見ていたら可愛らしくも見えてきて、撫でてみたい衝動にかられる。

 竜は涼香の方を見て首を傾げると機嫌良さそうにキュイと小さく鳴いた。


「良いってよ」


 ギースに促されて、竜が傍にちょこんと寄ってくる。「ちょこん」と表現するには些か大きすぎるが、借りてきた猫の様な大人しい態度からは、そう表現するしかなかった。


「よしよーし」


 少し震える手で、竜の首の辺りを撫でてやると嬉しそうにまたキュィと鳴いてみせた。あの竜に比べてゴツゴツは少なく、触った感触はどこかイグアナを彷彿とするザラリとした質感だ。撫でられて喜ぶそんな姿はやはり可愛らしく、もう少し撫でようとすると上空でキュィイッと威嚇する様な鳴き声が響く。見上げれば一匹の龍がこの竜を見下ろして威嚇している。


「!?」


 触れていた竜の躰がピクリと動き、竜は頭上の龍を()めつけた。龍は竜を睨み返して未だ威嚇の姿勢を崩さず、竜もグルルと喉を唸らせて威嚇の意を示す。今にも暴れだしそうな二匹に涼香は狼狽えながら交互に二匹を見るしかできなかった。


「ここで呼ぶのは流石にまずかったかっ」


 心なしか、ギースの声も少し、焦りの色を帯びている。どうなってしまうのか、不安で堪らない。涼香が怯えていると地響きの様に、地の底から音が響く。地面が揺れる。ぐらり、と地面が揺れた拍子に倒れそうになる。衝撃に備え、涼香はぎゅっと目を瞑るが衝撃は来ない。代わりに腕を掴まれた感触がある。ギースが瞬時に涼香の腕を掴んで助けたのだ。


「大丈夫か?」


「うん。ありがとう」


 音はすぐに収まり、何故か二匹は互いに警戒を解き、何処かへ飛び去って行ってしまった。


「今の、なんだったの?」


「総竜の怒り、って呼ばれてる。要するに地震だな」


 あっさりとした回答に肩透かしを食わされた気分だったが、あの二匹の行動も気になり、本当にただの地震だったのか、涼香はまだスッキリとしなかった。


「あの龍、空に居たのに地震が怖かったの?」


 もっと、別の理由が有る様な気がして、モヤモヤとする。


「確かに、空なら地震の影響なんて無ぇ筈だな」


 言われてみれば、と少し疑問を持ったギースを見て、やはり何か不思議な現象なのかもしれない。と、涼香は二匹の動きを思い返すが、本来のドラゴンらしさを知らない涼香には違和感を探すのは難しかった。


「そういや、『総竜の怒り』って呼ばれてるのも、大地が揺れるからだけじゃなくてドラゴンが大人しくなるからとかって聞いた事があったな」


 マジだったのかもな。と、少しおどけて言う。大地が総竜説はかなり信憑性があるんじゃないだろうか?そう思いながら涼香は大地へ視線を落としたが、地震の収まった地面はいつも通り、ただ静かにそこに広がっているだけだった。


「もし、本当に大地が総竜だったら、喧嘩してる二匹を宥めてくれたのかな」


「かもな。『親』らしいしな」


 ただの地面じゃなくて『総竜』なのだと思うと、あまり乱暴に歩けないな、と言う思いもあるが、とにかくワクワクとした童心に戻ったような気持ちで一杯になっていく。


「仕方無ぇ、船使うか」


「そっか、さっきの子も行っちゃったから」


 竜の背に乗れなかったのは少し残念だったが、学校は割と頻繁にドラゴンが出没するらしいのだから、その内乗せてもらえるだろう、と気持ちを切り替える。


「船はどうするの?」


 金銭問題が不安で仕方ないが、この世界の船旅と言うのはどんなものか、興味もあった。


「あぁ、金が無ぇから適当な漁船とか貿易船に一緒に乗せて貰うつもりだぜ」


「ギースくんも、お金持ってないのね」


 という事は、昨日からずっとサバイバルな食生活を送ってたのは街に出られないからだけじゃなくて、街があっても何も買えないからだったのか。と妙に納得してしまう。


「ん?俺は大体ずっと金欠だしな」


 借金もあるしな。と、事も無げに大層な爆弾発言をされた気がする。この世界の先生と言うものが、涼香の知ってる先生業と何か根本的に違うのではないかと言う気がしてくる。


「それって、大丈夫なの?」


「まぁ、長期休業中とかに副業でなんとかしてるから大丈夫だろ」


 あっけらかんと言われた言葉に、先ほどの知り合いの店の手伝いもその一貫だったのかと納得しつつ、副業して大丈夫なのかと言う心配もなくはなかったが、きっと常識が違うのだろう。と、思う事にしてこの件について涼香は考えるのをやめた。


「お金なくて、ホイホイ乗せてくれる船なんてあるの?」


 お金が無い。と言う状況で乗れる船などあるのか?当然の疑問だろう。この世界についてよく知らない涼香だが、お金が存在するのならば、無ければ簡単に乗船できないのではないかと心配した。


「大丈夫、大丈夫。漁船も貿易船もタダ乗り経験有っから安心しろ」


「そんな得意げに言われても!」

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