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 興奮覚めやらない私が、念のこもった熱視線を稔に送っていると、お相手様である会長様がじぃとこっちを見ていた。

 ん?

「その子の怪我、君のせい、じゃない?」

「はぁ? つか誰だか知りませんけどさっきから何なんすか」

 んん? 何かがおかしい。何かが……。

 ……ええ、あれ二人はお知り合いじゃないのですかぁ!? 稔この人誰だか知らないの!? え、え、知らない生徒に手刀かましたの会長!?

 ていうか……いやそれより、この人とんだ勘違いしてる!

「あ、怪我じゃなくて、上から絵の具の入った風船がぱーんって割れて」

「ぱーん」

 ……やはり。うっすら引っかかりは感じてた。さっきから柚谷先輩の口調が幼いなっていうか、拙いなって気付いてた。

 無表情イケメンが子どもみたいにぱーんとか言ったら、そのギャップで私の頭がぱーんってなるだろうが!

 

 まさかのギャップ萌えで熱くなりかけた頭を冷やそうと、会長から他所に目をやると、後方でこちらを窺っていた時芽と基がいた。あっちも私が見ているのに気付いて、何やら手を振っている。

 違う、ただ振ってるんじゃなくて……あれは、手話!?

 

 わっかんねぇよ、時芽なんで手話そんな使いこなしてんの!? え、基のはあれ何か押さえる様な仕草で、もしやモールス信号!? 更に分かんない!! すごいよ、すごいけどあんた等馬鹿だろ。

「と、兎に角ですね、運悪くオレが掛かっちゃっただけで」

「おいオミ、後輩に何絡んでんの?」

 私の必死の説明を誰かが阻む。

「なかなか戻ってこないと思ったら……」

 全く、と呆れ調子で言ったのは二年生だった。腕を組んだままスタスタとこちらへやって来るあのお方は、麗しの副会長ではありませんか!

 陶器のような白い肌に、ジャージの上からでも分かるすらっとした細身。男臭さは微塵も無いけれど、左右非対称な黒髪が若干ワイルドさを演出している。なんか笑うと白い歯が覗いて爽やかーな風が吹きそうだ。

 名前は何だっけな。確か、鷲尾わしお 新太あらた

 なんというグッタイミン! 一気に会長だけでなく副会長まで拝めるとは! 眼福です。

「絵の具が、落ちてきて……この子がぱーんてなった」

――パーン!

 ……うん、ありがとうございます。鷲尾先輩。私を指差して、この現状に至るまでの説明をしようと試みた会長だったけど、色々と端折り過ぎて私に大変失礼な台詞に成り下がってた。

 パーンは慣れた手つきで副会長が会長の頭を平手で叩いた音です。

 

 会長はいつもこんな調子なんですか。そして副会長は厳しい躾をなさっているんですね。

「あーもうお前は本当! 多分だけどお前がいるせいで話拗れただろ、この子達に謝んなさい」

「……ごめんなさい」

 謝った! 自分の非はきっと微塵も理解してないだろうけど、副会長怖さに素直に従った! 会長の威厳ゼロですね。

「よし。んでさっきのオミの話を要約すると、誰かが落っことした絵の具のせいでこの子の足がこうなった、と。球技大会の日に絵描いてる奴なんていないだろうから、十中八九狙われたって事でいいのか?」

 それは推察です。だって柚谷先輩の方が要約にすらなってないくらい必要事項飛ばしまくってたのに、鷲尾先輩ズバッと言い当てちゃってるもの。リアル高校生探偵だよ!

 すごいなぁ、もうどっちが会長か分かったもんじゃない。私が妙に感動していると会長に睨まれた

 心読まれましたの事!?

 物凄く険しい顔してる会長にどぎまぎしてしまう。顔が整ってるだけに威力が大きい。

「あ、あの……?」

「怪我、ないの」

「え? あーはい、それは本当ない、です?」

 今度はニヤっと笑われた。え、ちょっと、なに? この人のキャラ全く掴めないんですが。結局なに、俺様なのそうじゃないのどっちなの。

 つーかニヤってするとこじゃないと思うんですけどもどうなんですかね鷲尾先輩?

 どう解釈すべきか判断がつかず、副会長に無言で解釈を求めた。

「ごめんなー、オミは極度の口下手だからなっかなか言葉出てこなくて葛藤してるだけなんだ。んでそのしかめっ面のせいで相手が怖がってるのが分かるから和ませようと無理して笑うから、あんな悪っちぃ笑みになるの」

 ええぇー、俺様要素どこにもねえぇーっ。ただの不器用さんじゃないの。さっきから色々と驚きすぎて何が何やら。

「じゃあ、さっきの幼ーい喋り方が素って事ですねぇー」

 えらく良いタイミングで時芽が参戦してきた。面倒な部分だけ私に押し付けやがってコンチキショウ。稔は未だムスっとしたままで、基は基で珍しく大人しい。

 しかし後輩に幼いとか言われてるのに柚谷先輩は無表情だ。それどころか、心なしか理解してもらって嬉しそう。

 何この人可愛い。なんか先輩を見てたら誰かを彷彿とさせるなぁと思ってたら、分かった依澄だ。

 どっちも犬属性なんだ。


 依澄がおっとり人懐っこいゴールデンレトリーバーだとしたら、似てるけど見た目凛々しそうなラブラドールレトリーバーって感じ。

 そうか……会長は俺様じゃなくて無口ワンコか。本来ならばそれは書記の設定なんだけどな。仕方ないだろう。好きだしね無口ワンコ! 受けに尻尾振って纏わりつくのとか萌え萌えだよね!

 

 そう言えば知り合いにもう一人、ハスキーのような子がいるのを思い出した。私の周り犬属性多いな、ワンワン牧場?

「みのる?」

 ずっと押し黙ってるけど、どうしたんだろう。もっと先輩達と絡みなさいよ、折角のチャンスなのに。このお馬鹿さんが。

「俺どっちかっていうと猫派でさぁ、気持ち良さそうにゴロゴロ喉鳴らすのとかたまんねぇって思うけど。犬もいいよなぁ、尻尾振って喜ばれたりしたらさぁ……」

「は、はじ、め?」

 ぶつぶつ。独り言を呟き出した基の目がいってしまっていた。

 うっとりしつつも焦点が合ってない。柚谷先輩を映しているけど、どこも見ていないような。ていうか犬って言った。基にも会長は犬に見えるんだ。

「あっは! オリリンってば動物大好きだもんねー」

 そうなんだ。さすが幼馴染。時芽がにっこにっこ笑ってるから私も流しかけた。時芽の笑顔はデフォルトなのに。

 はっと気付いた時には、基は手をわきわきさせながら柚谷先輩ににじり寄っていた。

「撫でていいかな、毛わっしゃわっしゃやっていいかな、かな」

「レナ、じゃなくて基ぇー! それワンコじゃなくて先輩、生徒会長だから! 落ち着いて、毛じゃなくて髪!」

「駄目だ、撫で回してぇ……!」

「らめえぇぇっ!!」

 身体を張って基を止めにかかる。時芽は笑い転げて使い物にならない。

「いひひひ、らめぇって! らめぇってカナくん……!」

「うるさい! 混乱したんだよ!」

 私だって自分がこんな所で言う羽目なるとは思ってなかったよ! 恥ずかしすぎて体中が熱い、変な汗かく。

 ずるずると基に引きづられていたけれど、ぴたりと動きが止まった。顔を上げると鷲尾先輩が基の頭を掴んで制止していた。

「ショックで落ち込んでるって事は無さそうだな」

 どうも私に対する言葉らしく、首を傾げてから、ああと気付いた。

 そうか風船のイタズラは私を狙ってやったのだろう。標的にされてショックを受けてもおかしくはない。

 でもどうしてか、気にはならなかった。鷲尾先輩は懐の深そうな男らしい表情で「よし」と笑う。

 

「もしもまた何かあったら直ぐおれらか風紀に言ってね」

「ん」

 柚谷先輩、んってなんだ。んって。それで通じると思っているらしい会長様は何も付け足さず、仕事があるからと行ってしまった。

 

 会長はワンコだった。副会長は腹黒美人が相場なんだけど、あれは……肝っ玉母さんって感じだったな。

 二人共キャラはこれでもかってほど立ってた。王道には程遠いのが残念だけれども。

 

 ワンコな会長×美形な稔。もしくはお母さん副会長×ワンコ会長?

 ありかもしれない。

 


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