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当て馬ポジション

 予定は未定。先人は上手く言ったものだ。

 未来に起こりうる事象について個人的見解を述べたとしても、責められはしない。だって世の中絶対なんてないじゃない、みたいな。

 言った通りにならない事なんて良くあるじゃない、みたいな。じゃあアンタは当てられんのか、とか。

 

 だからって嘘ついてごめんなさいの一言もないなんて、ちょいと虫が良すぎやしませんか。嘘ついたつもりはなかったとしても、結果として信じた人の気持ちを弄んだ事になるよね!

 何が言いたいかって言ったら、つまりはお天気お姉さんのバカァ! 可愛いからって許さないんだから!

 

 週間天気から、昨日の夜見た天気予報までずっとずっと今日は雨って言ってたくせに、朝起きてみたら梅雨前線なんてなんのその。からっからの晴れなんですが。

 どうしてくれんの!? 昨日の夜に稔に失笑されながらも逆さてるてる坊主窓に吊るした私の努力どうしてくれんの!?

 

 部屋に備え付けられた14型の小型液晶テレビの画面越しに

「久しぶりのすっきり晴れのお天気、溜まった洗濯物を干すなら今日のうちに」

 とにっこり笑顔でウェザーニュースを伝える女子アナに

「昨日雨って言ってごめんなさい、予報外してごめんなさいって謝れー!」

 などとブーイングしていると、稔に置いて行かれそうになった。なんだか稔の態度が日に日に冷たくなっていくような気がするんですが。

 

 何故こんなにも私が雨に拘ったのかと言うと、今日は待ちに待った球技大会の日なのです。雨が降ったら外でする種目は無くなり、体育館やら屋内での種目の補欠に回れるはずだったのだ。

 残念無念。

 運動は嫌いじゃない、嫌いじゃないんだけど怖いんだよ。図体でかい男達が一直線に突進してきたりしたら、3D映画並みの大迫力なんだよ!

 バスケやった時、あまりの恐怖にボールを投げつけた事あります。相手には突指させてしまって申し訳なかった。

 

 そんな失態を繰り返さない為にも今日のサッカーはずっと端っこでぼーっとしておこうか、なんて考えている。この前の合同体育で身に沁みたのでドッジボールは却下した。

「うっ」

「どうしたトッキー!?」

「僕はもう……これ以上は……、足手まといになるくらいなら死んだ方がましネ、僕置いてくヨロシ

「馬鹿野郎! トッキーを置いてなんて行けるわけないだろ!?」

「僕の事は気にする事無いアル、オリリンは僕の分、まで……勝って……」

「トッキーィィ!!」

 グラウンドに向かう途中、急に少年漫画ゴッコを始めた時芽と基。ねぇ何で時芽は似非中国人口調なの? 何設定なの馬鹿なの死ぬの?

 もっと馬鹿なのはツッコミ入れない基だけどね。普通に会話続けるなよ、私がウズウズするじゃんか!

「じゃ、負傷したトッキーを保健室に連れてくっていう使命が出来たから俺ら抜けるわ」

「おいぃぃ! いきなり何し出すかと思えばサボりかい!」

「やだなぁカナくんったら、名誉の戦死だよぉ」

「死体が喋るな! つか球技大会で死んでたまるか、どんなコロシアムだよ!」

 朝からハードなツッコミさせないでよ、無駄に疲れる。稔は数歩先で、ふぅとか溜め息ついて傍観中。ちょ、この二人相手は荷が重いんですが。

 面倒になった私は後でみんなに怒られても知らないからね、と二人のサボリを容認した。

 ああポッキー食べたくなってきたな。

 

 時芽と基がキャイキャイと嬉しそうに歩くその後姿を呆れながら(心の中では二人で保健室でよろしくやってろとか思いながら)見、踵を返して稔の方へ行こうとしたとき目の前を何かが通り過ぎた。

 

 ――パァンッ!

 

 頭上から目の前を通り過ぎ、足元へ落下したそれは、床にぶつかった衝撃で粉々に散った。派手な音に驚いた私は、ただただパチクリと瞬きを繰り返すだけの反応しか出来なかった。

 周りの人達も、サボろうとしていた時芽と基も立ち止まってこっちを見ている。足にジワリと濡れた気持ち悪い感覚が広がっていく。

「堂島!」

 肩に手を置かれて、思わず身体が跳ねた。稔が眉を寄せている。

「何だ今の」

「なんか……上からおっきい風船が、落ちてきて……」

 二人同時に下を向いた。コンクリートの上には割れて散らばった赤いゴムの残骸と、広がった紅。

 じわじわと外郭を押し、その面積を大きくしていく紅を堰き止めるように私の両足は置かれている。

 真っ白だったはずのシューズもまだらに染色されてしまった。濡れた感触があるという事は、靴の内側にまで侵食しっているのだろう。

 つんと匂ったのは

「絵の具……?」

 水と混ぜられて、それでも鮮やかに色が着くほどの。

「カナちゃん!」

「あちゃぁーこりゃひどいねぇ」

 幼馴染コンビが戻ってきた。何が起きたのかは理解した、けれど何故起こったのか分からず呆然とする私の頭を時芽があやすように撫でた。

 基もいつもより強い力でぎゅうぎゅうと抱きついてくる。稔は校舎の上階を睨んでいた。風船が落ちたとしたらそこからだろう場所を。

 私も見たけど、当然ながら誰もいなかった。

「カナちゃん……いつどこでリンチして、誰からの報復か言ってみ?」

「基のとばっちり食らっただけです! オレは非力なの!」

「あっはっはー、確かにカナくんは無力だよねぇ」

「微妙に言い方変えただけで物凄い威力だ!」


 などと、馬鹿ノリにいつまでも付き合っていられない。さっさと落とさないと絵の具取れなくなりそうだし。もう完全には白くならないだろうけど。いっそ靴も洗濯機に入れてやろうか。昨今の漂白剤は優秀だと聞く。

「ちっ」

 稔は舌打ちして私の腕を掴んだ。は、私に舌打ちしやがりました、こやつ!? 文句を言う前に稔は腕を引っ張って歩き出した。

「か、かたミン?」

「ストップ。止まれ」

 稔の足を止めたのは抑揚の無い声だった。

 英単語の後わざわざ日本語で言い直したのは何故だろう。ストップなんてもう和英語の代表とも言えるのに、意味が通じないかもとか思ったんだろうか。

 だから、無感情の中にも丁寧な、例えるなら横断歩道の手前で保育士さんが園児に「止まって」と促すような言い方だったのか。

 馬鹿にするのも大概にせぇよ。声の主を見やった。

 そして本日二度目、固まった。

「み、み、稔……!」

「あ?」

「せ、せ」

 生徒会長キターーーーーーー!!

 稔に負けず劣らず眉間に皺を寄せてこちらをジッと睨みつけてくる美形は生徒会長、柚谷ゆずや 臣苗おみなえ様。

 多分地毛であろう焦げ茶の髪。威嚇してくる瞳は鋭い。顔の彫りは深すぎず浅すぎず。適度に日焼けした肌は、けれど白さを損なわず綺麗だ。日本人的で端整な人だと思った。

「教育的、指導」

「!?」

 心地良いバリトンの声、そして手刀。私の腕を掴んでいた稔の手に振り下ろされた。

 離れた手に、ふんと少し満足気だ。なるほど。なるほどね! そういう事ですか。

 五月から今か今かと稔に生徒会が接触してくる日を待ち続けていた私ですが! 実は知らない所でもう対面済みなのですね!?

 そして何やかんやで涎もののイベント終了後に惹かれたと、そういうわけですね!

 だから稔が私の腕を掴んでたのが気に食わなくてムカついて無理やり離させた。じっちゃんの名にかけてこの推理って正しいに違いない。

 つまり私は噛ませ犬的立ち位置か! いやいやいや、そんな心配全くないのに! むしろ喜んで稔差し出す所存ですよ。

 しかし美味しい、かなり美味しい場所で会長×転入生が見られる。つーか稔マジでいつの間に!? そういうのは逐一報告しなさいよね全く。

 大抵が私達と一緒に行動してたのに。何、私が寝た後で夜の散歩に出かけ、一般生徒は知らない庭園チックな種々の花達に囲まれた温室でこっそりばったり出くわしたのか!?

「……何すか」

 不機嫌を顕にした稔に、柚谷先輩はむっとしたけれど、すぐに口元を押し上げた。にやっと意地悪く笑う。

 俺様笑いだぁー! 生だ、生で見ちゃった! 何で私の目にはシャッター機能がついてないんだ、ワンモワプリーズ!

「早くコイツの靴どうにかしたいんすよ」

 先輩に向かって言うにはあまりにも悪い態度だ。ともすればケンカ売ってるようにも聞こえかねない。いい調子、いい調子。そうやって突っかかって行くのは正しい選択だよ!

 そんでもんって会長に「俺様に口答えするなんていい度胸だ気に入った」って、あれこの人貶されたのに何で喜んでんのマゾなの? なフラグが立つウハウハのシーンになる!

 だからもっと突っかかるべきだよ。立て、いや立たせるんだバミー!

 


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