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 あぁそうだ、晩ご飯の下準備でもしようかな。

 

 台所に行って暖房にスイッチを入れる。

 と、父がついて来ていた。

 音もなくぼうっと後ろに立ってるもんだから危うく悲鳴あげそうになったわ。

 

 我が父ながら存在感がうす、いや気配を断つのが上手い。

 

「香苗、さっきの話の続きなんだけどね」


 さっきって何時!?

 いっぱい話したからどれの事か分かんないよ!

 

「やっぱり普通の高校に通いたいですよね」

「え?」


 そんな話してましたっけ?

 浪形さんが、『普通の高校生活を奪ってしまって』とか言ってたあのくだり?

 

 首を傾げると父は苦笑した。

 

「稔くんの様子見てたら紗衣とも問題なく接してる。他の子はどうか知らないけれど、香苗が出来る事はもうないと思うんだ。香苗ももう逃げなくていいんだよね?」


 他の女の子に対する稔の態度は今も結構酷いけど、確かに私がこれ以上一緒にいたってそれが改善されるわけじゃないだろう。


 世の中には稔がどんなにイケメンだろうが萌えキャラだろうが、態度変えずに仲良くなれる女の子もいるよって、少しは分かってくれたと思う。

 

 私ももう唯先輩やウタとのぎくしゃくした関係は解消されたし、東さん達とも夏の一件で微妙な距離感はなくなっている。

 

 そうか、バレるとかそれ以前に私があの学校にいる理由はもうないのか。

 

「今すぐには無理でも、2年に上がる時にこっちの女子校に編入手続きでも取ろうか」

「あ、うん。そうだね……」


 展開が急すぎて頭が全然ついて行かない。

 空返事になってしまった。

 

「お姉ちゃんもお母さんも、最初から1年の間だけって考えてたみたいだよ」

「そうなの?」

「もともと突拍子もない話ですし、あまり長くはいられないでしょう」


 そりゃそうだ。

 この数か月だけでも結構なボロが出てるのに、とてもじゃないけど3年間も秘密を保持し続けられないに違いない。

 

 1年が潮時って事か。

 

 あの2人もそれなりにちゃんと考えてくれてたんだなぁ。

 

 でもその辺もちゃんと私に説明が欲しかったよ!

 

 だって心の準備が全然出来ない。いきなりそんな事言われたって、どうすればいいか分らない。

 

 さっきあれだけ稔と友達になれて良かったって話した後に、どういう展開よこれ。

 

 一言文句でも言ってやろうかと口を開きかけた時、稔が入ってきた。

 入れ違いに父が出て行ってしまう。

 

 ちっ、勘付かれたか……。

 

「悪い話し中だったか?」

「うんにゃ、終わったよ。稔ももう良かったの?」


 居間の方へとてくてく歩いて行った父を気にしているようだったので、首を振って否定した。


「ああ、他の家族も一緒に帰国してきてて三が日の間はホテルいるから顔見せに来いってだけだった」

「ほらぁやっぱお正月くらいちゃんと会いに行かないとじゃん!」

「堂島もぜひって」


 どうじまもぜひ。ぜひ? ぜひ何でしょう?

 まさか、ぜひ一緒に来てとか?

 

「いやいやいやいやいやいやいやい!」

「いやって何回言った?」

「分りません!」

「てか、いで終わったな」

「終わりましたね、間違えました!」


 わけわかめ!

 頭を電動の泡だて器でぐわわわわってされたくらいの勢いで大混乱です。

 

 なにゆえ私めが方波見家での団欒にお邪魔せねばならん。

 畏れ多すぎてとてもじゃないけど耐えられそうにないわ。

 

「か、家族水入らずに私なんかが入って行けるわけないよ!」

「そういうの気にする人達じゃない。むしろ来てほしそうだったけど。母さんも一度会いたいって言ってるらしい」


 ひぎゃあああああ!

 おおお、お母様が私を!?

 別に稔と付き合ってて彼女として会うってわけじゃないけど、それでもやっぱりご両親に会うっていうのは何か緊張を強いられるものだね。

 

 お土産は何がいいかしら? とか考えちゃうよね!

 

「あー……なんかこの会話、前にもやったよね」

「あの時の俺の気持ち分かったか」

「分かった。けどウチの親と稔の親を同列に考えないでいただきたいと言いますかですね」

「日本語変になってる。まぁ急な話だしな、気遣わせたいわけじゃないから」


 私の焦り方が尋常じゃなかったので稔が不憫に思ったのか、今回は私は辞退させてもらう事になった。

 

 せっかくの招待は本当に嬉しいんだけど、一般人の私にはちょっとハードルが高いです。

 

 そして稔は明日の朝から明後日まで家族のいるホテルで過ごすようだ。

 

 空港へは見送りに行かないんだとか。どんだけ薄情なんだ。また浪形さんが嘆くよ。

 

「そういやさっき聞きそびったんだけどさ、何で稔ってば5月に転入してきたの? あの話じゃ最初からウチの学校受けたんじゃなかったの?」

「色々あって一旦は地元の高校入ったんだ。でも遅くても6月までには転入するって決めてたからな」


 色々か。深くは突っ込むまい。

 何にせよウチの学校に入るってのは決定事項だったから私は当初の予定通り4月から入学したってわけだね。

 

 ふむふむ。あと何か疑問とか忘れてる事って無かったかな。

 

「ぎゃあああああっ! 浪形さんのサイン貰い忘れたああああっ!!」


 この叫びは私じゃなくて姉のものです。

 あ、ほんとだ! すっかり忘れてた。

 

 実は堂島姉妹は2人揃って浪形さんファンなのです(ミーハー寄り)

 そうか。姉がやたら大人しかったのは、少なからず憧れの人が近くにいて緊張していたのか。

 


 これは稔にサイン貰ってきてって頼むしかないな。

 


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