表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/94


「エントランス抜けてあっちが食堂、こっちが部屋に続く通路」

「うん」

「あ、そこのフリースペースにあるマッサージ機は壊れてるからね、がっこんがっこん頑張ってる音なるけど、全然ツボ刺激する気ないからね、あいつ」

「へー、いや使わないけど」

「そしてこれが自販機ね、ジュースが買えるけど、エロ本は買えないよ」

「見たら分かるし。 つかエロ本の自販機なんかそりゃ置いてるわけないだろ!」

「なんか昔、お婆ちゃん家の近くに置いてあったなー。あの頃から既にこれ何時の? ってくらい年季入ってたけど、まだあるかなぁ」

「あー俺も見たことあるわ、壊されて中身取り出されてるっぽかったけど」

「うわーやだやだ」

 職員室を出てから色々と目についた物を説明しては、何故だか「そんなもん説明いらねぇ」とツッコミを入れられまくっている。

 こうやってちょこちょこ話してたら、思ってたよりも親しみ易いっていうか、普通の子っていう印象を受けた。

 そりゃそうなんだろうけど。でも美形ってちょっと近寄り難い雰囲気があるって勝手に思ってたし、腐女子フィルターで物語の主人公風の性格してるイメージが勝手についてたので、若干驚き。

「はい到着」

 部屋番号が書かれたカードキーを差し込んで部屋のドアを開ける。

「トイレで、洗面所とお風呂、奥がリビングでその横が寝室。あれ、そういや荷物は?」

「明日届くって。今日の分はこれ」

 方波見くんはずっと持っていた鞄をテーブルの上に置く。一人暮らし用くらいの小さなキッチンに置いてあるこれまたコンパクトなミニ冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して二人分注ぎながらそれを見る。

 ――ダンッ!!

 ペットボトルをシンクの縁に思い切り叩き付けたら、方波見くんが肩を揺らして何事かとこちらを向いた。

「……荷物、てか寝室!」

「へ?」

「はいこれ!」

 並々と水の入ったコップを方波見くんに押し付けて寝室に駆け込んだ。ドアを閉める直前に「こっち入ってくるの禁止!」と釘を差して。

 

 うおおおぉぉあぁ! あっぶねえぇぇぇ!!洗濯物を寝室に部屋干ししてたんだったぁ……!

 リビングは何時誰が遊びにくるか分らないから、いつも寝室に干している。もちろん下着だって。ていうか下着を見られちゃいけないんだ。

 ビビッた、嫌な汗掻いたよもう! 王道主人公の変装がバレるときの心境ってこんな?

 ていうか主人公差し置いて私のがバレるって、しかもこんな即行でとか有り得ないでしょ。と、そこでふと思った。

 方波見くん、変装してなくね? え、知ってた? 今驚愕したの私だけ?

 なに、え、「男子校なんて餓えた獣共の巣窟に行ったら、こんな綺麗な顔じゃ食われるに決まってるだろ、地味に見えるよう変装しろよ」って誰も指摘しなかったの?

 てか、私が用意すべきなの? これ。この学校がどういう所か懇々と諭して、そっと鬘と眼鏡を差し出すべき?

 持ってねぇよ。そこまで用意良くないよ! むしろ初対面の私がそんなん渡したりしたら方波見くん絶対変に思うでしょ。引いちゃう。何コイツ、軽くヤバイ。なんて。

 ……ちょっと落ち着こう。冷静に考えてみれば、どんなにイケメンだろうと可愛かろうと何だろうと学校通うのに変装なんてあるわけないよね。私みたいに性別偽ってるわけでなし。

 あ、私も別に男物の制服着てるってだけなんだけど。

 

 駄目だなぁ、この学校来てテンション上がりすぎて、あまつナイスタイミングで転入生なんて来ちゃうから、うっかり二次元と三次元の区別が曖昧になってきてたわ。

 でもそうか、きっと私が初見でかなりガッカリしたのは変装してない事も無意識に含んでたからだろうな。

 ふぅ。洗濯物を全て仕舞い終わって方波見くんを呼んだ。彼は私が葛藤している間リビングのソファに座ってテレビを見ていたようです。

「ごめんなー、かなり散らかってたから片してた。えーと、オレが窓側のベッドをずっと使ってたから方波見くんこっちね。一応仕切れるようになってるから」

 今は壁に纏められている折れ戸をざーっとスライドさせれば部屋を二つに区切れる。完全に二部屋に見せるのは無理だけど、これで寝てる間の無防備な姿は遮断出来るわけだ。


 こんな綺麗な男の子がいる横でぐーすか眠るの恥ずかぴーとか思う、まだまだ尻の青い香苗15歳の春。

「で、荷物が着いたらそっちの引き出し使って」

「分かった、ありがと」

「あとは……何か聞いときたい事とかある?」

 すると方波見くんはぐるりと部屋を見渡して、暫らく思案していたけど、あ! と声をあげた。

 私を見てニヤッと笑う。うわぁい、性格悪そうって感じなのにカッコいいよ。

「堂島って男だよな?」

 ドキィッ!! そんな効果音つきで、心臓が口から出てくるかと思った! ばっくばっく言ってるんですが。

 バレた? バレた!? まさかリビングにブラジャーでも落ちてましたか!?

 しかしニヤニヤとしている方波見くんは、核心をついたというよりからかってる?

 直感ですが。何となくだけど、そうかなー、それっぽいなー、そうであってほしいなー。そう願って「どういう意味」と不機嫌に見えるように聞き返してみた。

「よく間違えられねぇ? 職員室で見たとき女がいる! ってマジ驚いたし」

 そんな事思われてたのかぁー! そうとは知らず、のほほんと妄想しまくりながら挨拶してたよ私。

「オレなんかに騙されるなんてまだまだ甘いな方波見くん! この学校にはくりくりっとしてて、きゅるっな子がいっぱいいる!」

「意味分かんねぇんだけど。つーかお前騙すつもりだったんかよ」

「要するにオレなんかより美少女な美少年がうようよしてるよって話」

「無視? そこスルー? ……まあいいけど、なんか女にしか見えない男って残念な気がしなくもないな」

 なんで!? そこは喜ぼうよ! 私なんてこの一ヵ月半でどれだけの人に何回すれ違いざま抱き付きそうになったと思ってんの!?

 腐女子フィルター抜きにしても、やっぱり可愛らしいものや綺麗なものを愛でてると癒されるものです。撫で繰り回したくなるのは人間の性です。可愛いは正義。

「なにそれ、オレも残念っ子に含まれてんの」

「さあどうだろうな」

 いやしかし。今の何気ない会話で私は方波見くんがノン気である事を目敏く察しました。

 ノン気の受けが攻めによって同性愛に堕ちていくのはこれ定石ですよね。相手が同性であるが故に最初は相手や自分の気持ちが認められないんだけど、いつしかそれを愛が上回るというなんと素晴らしい。

 男子校なんだけど、あまりにも容姿が女の子のそれだから、一瞬テンション上がったところでやっぱり男だという現実を突きつけられた時にショックだと、複雑そうに顔を歪めた方波見くんの肩をぽんと叩いた。

「方波見くんも十分美人さんだよ!」

 激しくデコピンされました。人の事女にしか見えないとか言っておいて(いや実際女なんだけど)ヒドくね? ヒドくなくない?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ