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小ネタ詰め合わせみたいな感じなので、コロコロ場面変わります。

これで文化祭準備編終了



 それっぽいっていうか、そのものでした。

 紺色の甚平に、同じ素材のパンツ。からし色した腰で結ぶ前掛け。

 ちょっと変わってる所と言えば、襟の部分が赤な上に中華風なボタンが二つ。

 嫌いじゃない。嫌いじゃないけれども! これはこれなりに可愛いとは思う、けれども!

 萌えにくい……。

 

「なぁこれって前で結ぶんでいいのか?」

 項垂れる私の隣に立った稔は、前掛けを腰に当てながら首を捻っている。

「………」

 ここに、嫉妬する私がいた。

 この何の変哲もない甚平を、お洒落番長のごとくスタイリッシュかつハイセンスな感じに着こなすこの男に。

 男前は何着ても男前だな!

 

 同じものを着ているとは思えないね。

 さすがだよ。最近稔をただのツッコミ役にランクダウンさせそうになってたけど、とんでもない。

「稔似合ってる! やっぱ腐ってもイケメンだね!」

「俺はまだ新鮮だ!!」

 ぴちぴちですか。魚介類のような返しをされてしまいました。

 

「ていうか前で結ぶんで良いと思うよ」

 稔から前掛けを奪い、もう一度彼の腰に着ける。

 紐を持って両手を背中に回し、クロスさせた紐をまた前に持ってくるわけなんですが。

「隙あり!!」

 ぎゅうっと私ごと稔のお腹に抱き着いてみる。

 細い!! 肉ついてないよこの子、なにこんなペタンコなお腹のどこに内蔵が収納されてんの?

 

 これぞ人体の不思議。残念な事に私の腕はメジャー替わりにはならず、ウエストが何センチかは分らない。

 折角のチャンスが……

「堂島!? お前、何やって」

「ムラムラしてやった。後悔はしていない」

 

 ガンッ!

 げんこつが頭頂部に落ちてきました。そんなには痛くない。

「馬鹿だろお前、意味ない事しやがって」

「意味なんて必要ない。抱き着くのは当然だ、そこに稔の腰があるのだから」

「なんとなくカッコいい言い回ししてんじゃねぇよ! よく聞いてたらただの変態じゃねぇかっ」


 ガンッ!

 二度目のげんこつは痛かった。

 これ以上やると、私の記憶が飛びそうな一発を貰いそうなのでやめておきます。

「男の子同士で抱き合うなんて不潔だわカナくん!」

「だったら基もこの手をどけようか」

 ガバッと後ろから抱き着いてきた基の腕を力ずくで引き剥がした。

 

「アタイが男だって言うの!? ヒドいわ!」

「酷いのはその基のネットリした喋り方と声だよ」

 ほら見てみな、稔なんてウジ虫でも見るかのような目つきになってるよ。

「お前ら試着だけに何分かける気だ……」

 耐えかねたらしい筧くんが、私達がじゃれるのを止めさせた。

 こうやって誰かが止めない限り永遠に続くんじゃないかな。

 

「そうだ堂島、今日の放課後残れよ」

「えーなんで」

「ちょっとくらい自覚しろ、クラス委員!」

 あ、そっかぁ。私ってばクラス委員だったわぁ。

 筧くんが頼りになってっていうか、仕切ってやってくれるからついつい忘れがちになってしまう。

「ヤバい、筧くんが出来る男過ぎて、オレもう君無しじゃ生きていけなくなりそうだよ」

 何から何まで世話してくれるんだもの。恋人にしたい男ナンバーワンじゃないのかね、筧くん。

 

 しかし筧くんはそう言った私に物凄く冷たい視線を浴びせかけた。

 眼鏡の反射が怖いとこの時初めて思いました。

「そのクソみたいなヒモ根性はさっさと捨てた方がお前のためだぞ」

 クソ扱いされたぁー!! 何ですって、面倒見のいい委員長様からの冷徹なお言葉。

 しかしそれさえも私のためとは!

「筧くんステキー!」

「このドMが」

 間髪入れずに攻撃してきたのは、抉るような攻撃のためだけの発言は、筧くんじゃなくて稔からのものだよ!

 

 



 さぁやってまいりました!

 初お目見えのここが生徒会室でございます!

 やけに重厚なドアを開けた先の部屋には大きなシャンデリアと高級な家具、煌びやかな内装はまるでホテルのスイートルーム。

 

 なぁんて部屋が学校にあるわけもなく。空き教室をそのまま使用しているから別に目新しくも何ともない。

 

 壁に並べられている本棚には雑にファイルやら本が入れられている。

 机の上も、多分全学年のクラスから提出されたであろう、体育祭と文化祭の書類が散乱していた。

 これは酷い。散らかっていて、はっきり言って汚い。

 筧くんなんて入った瞬間に「うわ……」って言ったからね。

 

「君ら何年何組? そこの紙に提出済みって書いといてな」

 筧くんは提出ボックスと書かれたお菓子が入っていただろう空箱に、持ってきた書類をポイと入れた。

 その横にあった、提出したかどうか確かめる表に「済」を記入。

 テキパキこなす筧くんの隣で私は呆然としていた。

 

 さっき私達に話し掛けたのは、この生徒会室で仕事をしていた役員の方。

 そう、生徒会役員様なんですよ! 関西弁キタコレ!

 

 にこにこ人好きする笑顔に、砕けた口調。明るい色にロン毛で、ピアスやらアクセをつけて、チャラっぽい外見。そして見た目に違わず中身も軽い男。

 誘われれば男女問わず否とは言わない。相手をする。根っからの遊び人の書記。

 

 これ定番ですよね。そうですよね、固定だよね!? だけどどうして……。

 

 何故前にいらっしゃる先輩は、制服もきっちり着てますし、髪は黒くて短いしね。

 人懐っこそうな口調ではあるけれど、色気垂れ流しっていうかむしろ好青年風。

 だから、どうしてこうさぁ。誰もかれも惜しい線まで行ってんのに、あと一歩のところで路線変更しちゃうかな!?

 現実が厳しくて生きるのがつらいわ!!

 

「あれ? どしたん、こっちの子泣いてんねんけど」

「放っておいて下さい。変に構うと調子こくので」

「ちょっ! 筧くん調子こくとか言わないでよ、せめて調子乗らせて!」

「え、そこなん?」

 ちょっとした違いでも心に負う傷深さに大差がありますのでね。

 その辺ちゃんと理解して使い分けてる筧くんには、さすがの一言です。

 その調子で不良の子に言葉ぜ……ゲフゴフ。

 筧くんが私の妄想を読み取ったように睨みつけてくるから、ちょっぴり怖くなって自重してみた。

 

「ところで他の生徒会の先輩達はお留守ですか?」

 わざとらしく会話を逸らしてみたり。

「今は忙しいからなぁ、みんなそこら中走り回っとるよ」

「そうですか……」

 それは残念無念。久しぶりに柚谷先輩に会えるかと思ったのに。

 どんな風に鷲尾先輩以外の役員の方々と絡むのか見たかったのに!!

 

 



 開いていたドアからひょこりと顔を覗かせて中を窺った。

 どうして他クラスって入り辛いんだろうね。透明なバリアでも張ってるんじゃないだろうか。

 今私は依澄のクラスに来ています。

 生徒会室からの帰り際、関西弁先輩(名前聞きそびれた)からこのクラスに書類持って行って欲しいって頼まれてしまいまして。

 イケメンからの頼みごとを断れるほど女を捨てきれなかった私。

 

 べ、別に、先輩のためなんかじゃないんだからね! ちょっと依澄に用事があったから、そのついでなんだからね!

 とか言えるほどのツンデレには成りきれなかった私。

 自分のスキルの低さにしょんぼりしながらここまで来ました。

 

「お前は……!」

 なんだかまるで、遊び人だと思って見下してた人が、実は南町奉行所の偉い人だったと気付いた時みたいな驚き方をする人がいた。

 高盛くんだった。

「わぁー久しぶりぃー! 元気だった? ちゃんとハンカチとティッシュ持ってる?」

 実はこの間廊下で見かけたからそんなに久しぶり感はないんだけど、よく考えてみたら話をするのって二学期入ってから初めてなんだよね。

 

 にこにこと親しげに近寄った私を、高盛くんはお得意の威嚇で迎えてくれた。

「持ってる! てか何でお前がここいんだよ!?」

 わぁ、一向に懐いてくれないこの猫。でもちゃんと質問に答えてくれる本当良い子。

 ティッシュを携帯してる几帳面な子。

「依澄……えぇと平良いる?」

「あぁ? いやいないみたいだけど」

「うん見れば分かるよ」

「ナメてんのか!?」

 やだなぁ。そんなわけないじゃん。おちょくってるだけだよー。

 

「何大きい声出してんの高盛?」

 まぁいつもの事と言えばいつもの事なんだけど。冷静な口調で声を掛けてきた男の子には見覚えがあった。

 平凡っ子だ。内海くんが不良×ビビリ平凡がいると私を騙ったあの子だ。

 全然ビビってないじゃないのさ。相手が高盛くんならビビりようもないかもだけど。

 

 外見は本当に普通の男子高校生の平均値って感じだ。

 オシャレに気を使ってる風でもないけど、全く手入れしてないわけでもない。

 背も私と同じくらいかな? いやぁそれにしても

 

「なんだ、高盛って板宿先輩以外にもちゃんと親しい奴っていたんだな」

 セリフ奪われたなう!! 心の中でツイートしようとした言葉そのまんま言われてしまった。

 やっぱ誰から見ても高盛くんって板宿先輩厨なんだね。

「それはオレのセリフだよ。高盛くんに友達がいたなんてねぇ。クラスで孤立してるんじゃないかって心配してたんだけど、良かった良かった」

「堂島お前マジで一回ぶっ飛ばすぞ」

「顔に傷が残ったら責任取って一生面倒見てね!」

「顔の傷は男の勲章だ!」


 ぶふっ!!

 なんという斜め上のツッコミ。お前は女か! って返ってくると思ってたのに。

 勲章って、それきっとヤのつく自由業の業界の方の話だよ!

 堪え切れず笑っていると、高盛くんの友達も同じように身体を震わせていた。

 

「きょ……今日はこのくらいにしといてあげるよ。はい、これ平良か内海くんに渡して」

 あぁダメだ。なんだかすごく高盛くんの存在が今はツボにはまる。

 ずっと会話続けてたら笑い過ぎて酸欠になりそう。

「じゃあね高盛くん。友情を……大切に!」

「うるせぇよ!!」

 友情パワーを馬鹿にするもんじゃない。

 少年漫画だったらたとえ敵として出てきたキャラでも、友達になろうって手を差し伸べた相手は大抵寝返ってくれるじゃない。

 ピンチに颯爽と現れて助けてくれたりするじゃない。

 

 まぁそういうキャラって高確率で死んじゃうけどね!

 

 


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