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ゴールデンウィークも終わり、次の楽しみなんて夏休みまで特に無いそんな時期。
更に言うと、先週に中間テストが終わったばっかりだ。高校に入学してまだ二ヶ月も経っていないというのに、家庭の事情とやらでこの学園に転入してくる男の子が一人。
私には分かる。いや、分らない人などいない(腐女子並びに腐男子ならば)。
そう、彼こそが王道転校生!
姉が私をこの学園に是が非でも入学させようとした理由でもある。
説明しておくと、王道転校生とは季節外れに転校してくる子の事なんだけど、それだけじゃないとは察してもらえるはず。
まず絶対条件は容姿端麗である事。但し二次元BL設定では、その容姿が大変男ウケするので学園で襲われるのではないかと危惧した親類友人によって鬘と眼鏡で変装させられる場合が殆んどだ。
なので誰にも美少女と見紛う可愛らしい顔であると知られる事なく入学を果たす。
にも関わらず、だ。そうであるというのに、転入生は外見に頼らずとも持ち前の誰からも愛される内面の力で学園の人々を魅了していく。
主に美形を。もっと言うなら生徒会とか風紀委員とか、裏勢力の不良のトップとか。多種多様、されど美形。
ばっさばっさとイケてるメンズ達をオトしていっては総受け、もしくは総愛されになるわけです。
は? 何だそれは。そんなもん現実で起こるはずがないだろうとお考えになられるだろう。
私もこの入学するまではそう思っていた。三次元にそんな上手い、いや美味い話があったら世の女性の大半が金積んで男子校入るわ、と。けれどもここに来て一週間も経たないうちに確信した。
王道は、くる。
だってねだってね、入学式の在校生の挨拶した生徒会長を見た瞬間、開いた口が塞がらなかった
あれ壇上にスポットライト? って思うくらい煌々しい光を纏っていらっしゃるお美形様でした
一年生の殆んどが惚けてしまうくらい。
その場に居るだけで他者を惹きつけて止まないカリスマ性。少し野生的でありそうな鋭い瞳が物語る、強引そうな性格。つまり俺様! 俺様生徒会長キター!
やっぱ会長は俺様だよね、真面目で誠実な好青年とかも有力な設定だと思うけど、やっぱ王道といえば俺様です! 万歳、大好き!
その他生徒会役員や風紀委員も偶然遠目から眺める機会があったけど、そりゃあもう眼福物でしたとも。
違うね、顔なんて豆粒よか小さいくらいしか見えない距離のはずなのに「あ、あの人美形」って分かるものなのよね。
更に、これは知りたく無かったけど知ってしまった事実として、お坊ちゃま私立高校だというのに不良が堂々と存在するという事。彼等についてはまたいつか語るとして。
だからまぁ、ここまで揃えば転校生来るしかないだろ。来なかったら詐欺だろ。
一応はもし転校生が来なかった場合は残念だけど、自分なりに工夫して高校ライフをエンジョイしようって気構えもあったんだよ。でも杞憂でした。
スキップしそうなくらい高揚した気分を必死に落ち着けながら早足で校舎を抜ける。
教室から職員室がある棟へ行くには一端外へ出なきゃいけない。こんな構造にした奴出て来い、造りなおせ。
急いでいる時に間に合いやしない。
一秒だって早く見たい萌えた、じゃなくて待たせちゃ悪いからね!
それにしたってどうして私が彼を迎えに行っているのか。
それは今日のお昼休みの事、担任に職員室まで呼び出されて「チッ、めんどい……」とか思いながらも行ってみれば、なんてサプライズ。
担任は頭を掻きながら申し訳なさそうな顔をして切り出したのは、寮で私に同室者が出来るというものだった。通常、寮は二人ないし三人部屋である。
だけど私は女で、学校側がそれを容認しているわけだから特別措置で二人部屋を一人で使わせてもらっていた。
同室者が居れば私が女だってバレる可能性は跳ね上がるし、もしバレたらこんな男だらけの環境にいる奴だから、女と見たらその場で襲われる確率は低くない。
そして金を受け取って女を入学させ、あまつ強姦事件なんて起こればこの学校は終わりだ。だからそんな面倒事になる前に私を隔離させた。
でも急遽、転校生が入ってくる事になり、元々が無理して私を一人にしていたので、これ以上他の部屋を詰めるわけにはいかず。学校としても苦渋の選択。
何度も何度も私に頭を下げる担任に、私も同じように謝り倒す。まるで首振り人形が向かい合って動いてるような奇妙な図だっただろう。
なんてったって私の不純極まりない理由でここ来たのが原因なんだから。謝ってもらう必要は本来ならない。こんな時女って優位だなぁとか関係の無い事を思った。
理由はそんなとこ。寮の案内とか色々任せたいから、放課後に職員室まで転入生を迎えに来てくれと。
なんとまぁ萌えのない展開だろうか。私が行ったって面白さの欠片もないではないか。ここはやっぱ生徒会副会長が行くべき所でしょうが!
副会長はカッコいいというか綺麗系で、普段から穏やかで笑顔を振りまいてる人なんだけど実は腹黒。これまで一部の親しい人しか知られてなかったその事実を、転校生は人目で看破してしまうわけですよ!
「そんないっつも作り笑顔で疲れない?」
とか聞いちゃうわけですよ! 出会って数分後にフラグ立てちゃうんです。その一件で副会長は転校生に興味を持って早い段階から恋愛感情を抱くという、無くてはならないイベント。
実際ここの副会長が穏やかで笑顔振りまいてるかと言われれば多分違うと思うけど。何も無いのに常にニコニコ笑ってたらそれは不審者だ。若しくは私と同じ妄想族に違いない。
現実は世知辛いという事か。思う通りなようで、なかなかどうして。
とか何とか。妄想に耽ってる間に職員室に着いた。本当、妄想って便利ですよねー。時間を忘れるって言うか私瞬間移動した気分です。たまに時間跳躍したって本気で感動する時あるよ。
嫌いな授業中とかあれこれ頭の中でお祭り騒ぎしてる間にチャイム鳴るもの。トリップっていか現実逃避なんだけどね。
「失礼します」
戸を引いて中に入る。担任の席に直行すれば、もう諸々手続きは終了したのか談笑している様子だった。
先生は椅子に座り、転校生らしき男の子は私に背を向けている。顔は分らない、けど……なんだか。
「おー堂島来たか」
片手を上げた先生に頭を下げる。すると男の子がゆっくりと私の方を振り向いた。
多分、染めたんじゃなくて生まれつき色素が薄いんだと思われる茶髪はトップは短いけど襟足は肩につくくらいとちょっと長め。アーモンド型のくっきりした二重の瞳、すっと通った鼻筋に、薄い唇。
小説はいっぱい読んでるけど、こういう描写が自分で出来るわけじゃないんだな……。特徴を並べてみたけど、これじゃ伝わらない。彼はとても綺麗な人、とだけ言わせて貰います。
けれどもなんだかガッカリ感が襲ってくるのは何故でせう。
美形だ、イケメンだ。そりゃもう腐ってても乙女な私が目が合ってドキがむねむねするくらいに。ごめんなさい動揺が隠し切れなかった。
でも違うんだ! 私が求めてたのは小柄でぇ、女の子も嫉妬しちゃうくらいの可愛いー!! って叫びたくなるような、ね!? もっとこう受け受けしいと言いますか!
中性的と言われれば確かにそう。真っ白い透き通った肌なんて惚れ惚れする。
だけどやっぱり彼は男前だ。ひょろっと細身だけど、骨格とかは意外としっかりしてそうだし。
背だって、私の身長から考えて目算するに170cm前半と言ったところだろうか。決して小柄じゃない。
あえて蛇足するなら、私は165cm。女の子にしちゃ高い方、男にしたら低い方。だけどこの位の身長の男って案外ざらにいるものだ。だから特に小さすぎて目立つなんて事はない。うん、本当いらない情報だった。
話を戻す意味でもう一度言います。ガッカリです。
「堂島ー? どした、方波見に見惚れたかぁ」
「カタバミ?」
「こいつが方波見 稔で、こっちが堂島 香苗。ルームメイト同士仲良くやってくれよ」
これは暗に女だってバレんなよって私に言ってるんだろうな。そこはなるようにしかならないと思うわぁ。曖昧にぼかす意味を込めて笑う。
ふと目の前にいる方波見くんに目をやると、何故だかガン見されていた。
コイツと相部屋かよー的な? 何か問題でも?
首を傾げれば慌てた様子で「ごめん」と謝られた。一体何に対して。失礼な事でも考えてたのかおい。
ああでもそうか。美形受けという道もまだ残されてたね。今までは女の子にカッコいいとかって持て囃されてて「俺は巨乳のお姉さんが大好きなんだ!」なんて言ってるノン気(ホモでない人の意)だったんだけど……展開。
さっきも言ったけど、綺麗で中性的だからなぁ。受けって言っても違和感ないなこれ。お、そう思うと俄然やる気出てきた。
「よろしく、方波見くん」
「え、あ、うん。よろしく」
へへへ、と邪念たっぷりの私の笑いに何かを感じたのかぼうっとしてたのか。ちょいと間抜けな返事だった。
いやいや、マジでこれから宜しくお願いしますよ。総受けとして!




