夢の実現の日
この話はBLではありませんが、主人公が腐女子です。
つまりは男の子同士がイチャイチャしたらいいじゃない!な考え方の主人公です。実際、そういう発言がバンバン飛び出す予定です。
BLが嫌い。及び主人公がBL好き設定が嫌だという方はご覧にならない方がいいと思います。
更にはBLが嫌い以前に知らない、王道設定って何?という方も、読んでて意味分からないかもです。一応説明は入れて行こうとは思ってますが、何分抜けてる椙下なので…
それを踏まえた上でどうぞ!内容自体は全くもってテンション高めなアホアホです!
放課後のがらんと静まり返った教室。沈み行く太陽が最後に放つ輝きが反射して、室内が茜色に染まる。
窓際の席に座り、頬杖をついて外を眺めていた私はふぅと息を吐き出した。それは心を落ち着けるためであり、これまでの苦労を反芻してのものであった。
――やっと……、やっとだわ。
この日のためだけに頑張ってきたと言っても過言ではない。そのための努力も怠りはしなかったし、使える者は親でも友人でも容赦なくこき使った。
ここで私、堂島 香苗がどれほどこの日を待ち侘びていたのか、表面をさらっと撫でる様な感じで説明したい。させてください。
私には随分と歳の離れた姉がいる。その姉というのがこれがもう堂に入った腐女子で。
自室の本棚に所狭しと並べられた、自主規制でモザイクかけた方がいいんじゃないかっていうらいの、所謂薔薇、もっと言うならボーイズラブの本、本、本。
私が漫画というものを読むような歳になった頃、当時中学生で既に脳内が腐りまくっていた姉は
「これなんか読みやすいわよ」
と、何の躊躇いもなく美少年達がラブってる漫画(もちろん小学生低学年だとは一応考慮されて、エロは一切ないものだったけれど)を手渡してくる始末。
私も私で、これまた何の抵抗もなくそれらを読破していったわけで。だから妹である私がその道が一方通行とも知らず歩み出し、後戻りできなくなったのは必然の事だった。
今のところ特に戻りたいとも思った事もないけど。
そんな経緯で腐女子と化した私が中学三年になったある日、姉は神妙な面持ちでお願いをしてきたのだ。
「わたしは後悔だけはしないようにって心掛けてこれまでの人生送ってきたわ。でもね、一つ。たった一つだけ悔やんでも悔やみきれない事があるの。もうわたしの歳じゃそれはどうやっても叶えられない。だから! 香苗に代わりにやり遂げて欲しいのよ! お願い」
両肩に置かれた手は骨が折れるんじゃないかってくらい力が入っていて、目は血走ってるし、これお願いじゃなくて脅迫だと思うんだ。
「断ったらテメェ分かってんだろうな、あぁ?」って脅されてる心境だった。いや、心の中では言ってたね、あの人確実に。
普段は割りと優しい人なんだけど、怒らせた時の怖さを多分、この世で一番知っている私だから断れるはずもなく。コクリと頷いた。
用件言う前に了承させるとか、どこの悪徳商法だよね、全く。すると姉はパッと笑顔を作った。
「あんた、志望校を男子高校にしてよ」
あれ、この人もしかして私の事弟だと思ってるんだろうか。いやいやいや。歳とかそんな問題じゃないよね。
性別が。私、♀だから。男子校でまさか女が通えるなんて勘違いしてないと思うけど。思いたいけど。私の心の中などお構い為しに姉は続ける。
「男子校よ? つまりは男しかいないのよ、寝ても覚めても男しかいないっていうのはつまり、例え擬似だろうが倒錯だろうが男と男が惹かれ合うしかない空間なのよ! あんた見たくないの? 生で間近で見てみたいって、まさか思わないわけじゃないでしょ!?」
「や……そりゃまぁ、楽しそうではあるけどね。目の前でされたらもう涎ものだけども!」
「ほら見なさい。何が不満? わたしだって出来るなら今からでも通いたいくらいよ。目に焼き付けるどころかバッチリ盗撮してやるのに……!」
「現実を見ようよ! 私女だしさ、男子校だからって学校から一歩出たら外にはいっぱい女の子いるんだから、現実にそんな上手い事落ちてないよ、BL。因みに私女だし!」
「二回言わなくたってあんたの性別くらい知っとるわ。香苗は何も心配する必要なんてないのよ、ただ高校生ライフをうはうは楽しんでわたしに逐一報告してくれればそれでいいの。母さん達の説得も書類上の問題もわたしが何とかするわ。中学ん時と違って今の私にはそれだけの知恵があるしね。
学校の方も抜かりないわよ、もう選んであるから」
私の人生において重大な選択である高校選びを何だと思ってんだこの人! 自分の萌えのためなら妹の一生をフイにしてもいいのかコノヤロウ!
声には出さず、ビビりながらも必死で睨めば、ニヤリとニヒルに笑われた。
ああ、いいのね。そうよね、そういう人だった。
脱力と諦めがどっと押し寄せてきて、どうせ逆らえないんだしよく考えてみりゃ、確かに美味しくね?
だって世界中探して、心も身体も乙女(まあ心は多少汚れてるけど)が男子校って、いるかも知んないけど、そうそう体験出来ることじゃないじゃない。面白そうだわとか思っちゃった私はやっぱりこの姉の妹なんだろう。
「……その学校ってどこ?」
「依澄んとこよ」
ハッ! 私は漫画みたいに息を呑んだ。忘れてた……!
平良 依澄。家がご近所さんで小学校の時の同級生。つまりは幼馴染。
小学校4年生の時に引越ししてきて、中学に上がるまでクラスが同じでよく一緒に遊んでた。仲はかなり良い方だと思う。
依澄は中学は私と同じ公立ではなくここから随分と遠いところにある私立に通っている。
確か、結構な田舎に広大な敷地面積を有した場所にある、初等部から高等部までエスカレーター式のお金持ちが大半を占めているっていう全寮制の男子校。
「ぜ、全寮制ってーっ!!」
「ビバ王道! やっぱ学園BLといえば全寮制の男子校設定よねぇ」
そんな語尾に、てかビバの後に星マークつけそうな口調で……! 言ってる意味は分かりますよ、ええ王道。思い起こせば、依澄がそこに通うって知ったときは私と姉二人して大ハッスルした。
毎日何かしら写メ送って来い! って言った。
そしたら、ここって学校だよね? っていうゴージャスな建物とか、どこのレストランだよって感じの豪勢な学食の料理とか送ってくれた律儀な天然っ子なんだ依澄。
ぽやぽやした幼馴染を思い出して一瞬ほっこりしちゃったけど、全寮制て!
「ね? あの学校なら外界と切り離された閉鎖空間だから余計に男に走りそうでしょう?」
へっへっへ。そんな下品な笑い方でもし出しそうな姉。
「さすがに朝から晩まで男ばっかに囲まれて暮らすのは無理だよぉ、バレたらどうすんのさ」
「大丈夫よ、香苗はわたしの妹なんだからその辺はのらりくらりとかわせるでしょ」
「めちゃくちゃ適当じゃん……」
姉は口が達者だ。白だって黒だと言い張って相手を丸め込んでしまえる人だ。だけど私にはそんな芸当とてもじゃないけど出来そうにない。
俄然弱気になった私。
「……じゃあ、先にお母さん達を説得して。そこでストップ食らったらどうせご破算しちゃう話なんだし」
「お母さん達がOK出したら行ってくれるのね?」
「分かった」
こんなとんでもない話、常識人……とはまた別だけど、まぁ腐ってるわけじゃない両親が納得するわけがない。そうたかを括っていた。
次の日の朝。休日にも関わらず早くに起こされた私は、普段使わない和室に正座させられた。
テーブルを挟んで向かい側に座る母親がそれはそれは真剣な表情でGOサインを出したのだった
「出身校っていうのは後々まで経歴として必要になるものだから、そこの所はお母さんが何とでもしてあげるわ。だから香苗は高校生活の中で、一人でも多く優良企業のご子息と懇意になりなさい。そしてあわよくば玉の輿に乗りなさい」
失念していた。姉をこの世に産み落としたのはこの人だった。いや私もか。何かちょっと嫌だな、なんて。
その後、母と姉の二人掛かりで父を説得し、私は晴れて男子校に入学する運びとなってしまったのだ。
表面を撫でるどころか、スプーンで抉るくらいに語ってしまいました。ついつい興奮してしまって。
まあそれで、入寮も入学式も済ませた私に、頭の毛がやたら散らかっている教頭が近づいてきて
「君の事はお母様からくれぐれも宜しくと言われているからね。困った事があったら直ぐに言いに来なさい」
と気持ち悪く笑った。お母さんが私をここに入学出来るよう頼みに来たときに何を包んで持って行ったのかが浮き彫りとなった瞬間。
その事も今ではちょっと懐かしい。もう早私がこの学校に来てから1ヶ月半が経とうとしている。
誰もいないクラスに一人残っていた私だけど、そっと席を立った。そろそろ時間だ。
彼を迎えに行こう。
今日この学園にやってくる、総受け間違いなしの季節外れの転校生を!!




