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 難しい顔をしたままの稔を玄関に押し込んで家の中に入る。

 

 何だい、何が気に食わないんだ。あれか姉の強い腐オーラでも感じ取って引いてるのか。

 それはないかな、あの人の擬態は完璧だし。

「荷物置かなきゃね部屋案内する。階段上がって左手の奥ねー、客間だからベッド以外何も無いけど」

「え、お前の部屋で寝んじゃねぇの?」

「……は? へ? いやいやいやそんな訳ないし! ノーノー僕ちんの狭っちぃ犬部屋じゃ二人も寝れやしない」

「怪しいな何だそのキョヒり方、そーいやお前ってそういう話しないよなぁ。かなりマニアックな趣味?」

「何の話!?」

 エロ本じゃないよ! いや、年齢制限設けてあるものも確かにあるけれども!

 稔が考えてるものよりももっとずっとヤバイ物でとても見せられないけれども!

「もしかして女に興味ない奴かと思ってたけどそうか、際どいのが好きなんだな」

「勝手に納得するなミノノン!」

「ミノノンて」

 あーーっ!!

 ガチャリと稔が1ミリも躊躇わずに私の部屋を無許可で開けやがりました。

 何さらしてんじゃワレェ!!

「駄目ガサ入れ禁止です国境越えは万死に値する!」

 さっさと入国しようとした稔を後ろからタックルした。ら、突き飛ばされた稔はあっさりと私の禁断のお部屋に入ってしまいましたよ当然ながら。

 そして私も稔と共に雪崩れ込んだ。

「ぐっ」

「ぎゃふんっ」

 ぎゃふんって言っちゃった、華の乙女がぎゃふんって言っちゃった!

 て、そんな場合じゃないーっ!

「みの――」

「あっれ何もねぇじゃん」

「あ、ほんとだ……」

 部屋の中は綺麗に片付けられて整然としていた。

 うん高校入る前に大掃除を決行して、その状態で寮に行ったからそりゃ綺麗なのは当たり前なんだけど。

 まさか男友達が家に来る事なんてあの頃は想定してなかったから、本棚の目立たない隅の方に普通に並べてたはずの、稔に見せられない類の本達が消えている。

 

 無くなってる。

 ほんとに、あっれー? なんだけど。

「つか退けって」

 えらく近く、というか下から聞こえてきた稔の声。そう言えばさっきからずっと変な位置から喋ってるよね稔。

 部屋に入ってから一歩も動いてない私達。というか倒れ込んだまま起き上がっていない。

 稔にタックルして前倒しになって? うん。

「のおぉごめんっ!」

 ずっと稔の上に乗っかってた! 勢い良く飛び起きて退くと、その衝撃で「ぐほっ」ともう一度稔が唸った。

「堂島ぁ……」

「すみません」

 マジで申し訳。

 土下座でもしようか。そのくらい反省している私に稔は言った。

「エロ本出すなら許す」

「だから無いって!!」

 この人は何言ってんの結局そこ戻るの? 男子高校生の頭の中なんて所詮そんなもんか、脳内分析したら主成分はエロですかイケメン台無し過ぎるでしょうが、でも腐女子の私も変わんないよね!

 

 い、息切れした。声に出してないのに心の中で叫びすぎて動悸する。

 このちょっと後、姉からメールが入ってきて「万が一のためにBL関連のものは全部私の部屋に移動しておいたよ」と教えてくれた。

 

 おおジーザス!!

 



「稔くんアイス食べる?」

「あ、いただきます」

「バニラ? 抹茶?」

「バニラで」

 昼食後、姉と稔のそんな会話をテレビを見ながら二重音声のように聞いていた。

 私にはアイスくれない気なんだろうか。にしても仲良くなったもんだ。

 堂島家に来て数日、すっかり馴染んだ稔は姉からスパーカップのバニラを受け取っている。


 あーうー。

 良い事だよね! うん、和やかに食卓囲めるくらい打ち解けたのは喜ばしいんだけど、なんだろうこのモヤモヤした感じ。

 疎外感すら感じてしまう。

 アイスか。私そんなアイス食べたい気分だったんだろうか。スーパーカップ取られたのが気に食わないのかな。食い意地張ってる自覚はあるしな。


 ヴー、と振動する音がして稔がテーブルの上に置いていた携帯電話を取って部屋を出た。

 立ち上がる瞬間に姉にペコリと頭を下げて行ったのにムッとする。

「何むくれてんの」

 目の前にストロベリーのパナップが置かれる。姉は私の前の席に座った。わーい大好きー! さすがお姉ちゃん、よく私の好物知ってるな。

 単純にも気分が浮上して、いそいそと蓋を開ける。

「なぁんか稔にお姉ちゃん取られたみたいで複雑」

「稔くんに? 逆じゃないの?」

 逆? 意味が分からなくて首を捻ると苦笑された。

「ねぇ香苗。学校楽しい?」

「楽しいよ。みんな良い奴等だし、面白い事もたまに起こって。学校自体かなり居心地いいし」

「ならいいんだけど。でもそれなら尚更、稔くんの事好きにならないようにね」

「……は?」

 好き? ラブ? 何を言ってるんだろう。さっきから姉の言葉が理解出来ない。

 日本語ではあるんだけどな。難解だ。おかしいなぁ、国語は得意な方だと思ってたのに。

 稔を好きになっちゃ駄目。

 それは裏を返せば好きになる可能性があるって事で。

「なな、何言ってんの!?」

「え、そんな驚かれるなんて私もビックリだわ。むしろ有りがちだと思うよ、なんせ相手があれじゃあね」

 あれね。そう、稔は適度に天然タラシだ。私もたまにドキッとさせられる。

 女なら致し方のない事だとは思っても、それが恋愛感情に発展するかもなんて考えたこと無かった。

 稔は萌えの供給源! 友達! ていうのが刷り込みのように脳にこびり付いてて。

「稔くんが同室者だから一番可能性が高いだろうって話で、別に彼に限らず誰であっても好きにならないように。

脳が乙女モードに入ったら、人間なんて単純だから一瞬で顔つきが女になるわよ。そしたらあの学校にいられなくなるからね」

 気に入っているなら尚の事、恋愛はご法度。

 青春を謳歌すべき高校三年間にその禁止令はきついものがあるかもしれない。他の子なら。

 

 多少は虚しい気もするけど、その分愛でる対象が多いから大した問題じゃぁないわ。腐女子をなめんな。

「その辺は大丈夫だよ。稔に抱く感情の大半は、早く誰かとCPになってほしいなっていう切実な願いだから

「うんまぁ、アイス一つで晴れる程度のもんなら心配ないわね」

 パナップが何か? 食べたかったのかしら、残念だけどもう空っぽだよ。

 稔が置いていったスーパーカップから水滴が滴っているのが目に入って、中ドロドロになってそうだなぁとか思ってたら稔が戻ってきた。

「おかえりー、アイス溶けちゃったよ、違うのに取り替える?」

「あーいや、いい。それよりその……明日から一週間くらいだけ、中学の友達んとこ行く事になった、んだけど」

 しどろもどろの稔に姉と私は顔を見合わせた。何をそんな気まずそうにしているんだろう。

 そりゃあ友達にだって会いたいに決まってる。それを駄目なんて言うほど心狭くない。

「行ってらっしゃい」

「うん、で、また……」

「こっち戻ってくる前日に一応連絡してね」

 何時くらいに帰ってくるのかとか、駅まで迎えに行った方がいいだろうし、知っておきたい。

 事務的な言葉だったんだけど、稔はぱっと表情を明るくして何度も頷いた。ん? 何か私気の利いた台詞言いました?

 

 うーん、これが男女の脳の違いだろうか。稔の思考回路がさっぱり分からん。

 そんな私達を見て姉がクスリと笑った。

 

 

 


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