2、想われるキミ(4)
俺が先生になるきっかけをくれたのは、香 だった。
昔、小学生の香に勉強を教えたことがあった。
「すごーい。先生より先生だね、いちにぃ」
ただそれだけのことって人はいうかもしれない
けど
俺にとってその言葉は『最強』だったんだ
その言葉があって、俺は先生になろうって思った。
先生になったのは香の言葉があったから
だから『先生』を捨てるわけにはいかない
でも
香もあきらめたくない
あいつにも、ほかのだれにも渡せない
でも俺はいま
先生なんだ
『ばーーーーーーか』
電話の相手は俺の悩み事を一言で一蹴した
「拓さん・・・あの・・・・いま俺、けっこう長いこといろいろ話してたんだけど・・・・」
『めんどくせぇわ、なんだその女々しさ』
「うっせぇ!悪かったな女々しくて!!」
『そのおまえのいろいろ考えてる間に香がほかのとこに行ったらどうすんだ』
「・・・それは」
『お前の10年ってその程度かよ』
ずきっ
拓の言葉が突き刺さる
『・・・・それっぽっちの価値ならやめっちまえ。』
「そんな!俺は今教師だから立場とか」
『・・・・めんどくさいんだよ』
「・・・・・・」
返事をするまもなく電話は切れた
通話の切れたケータイを力なく俺は握りしめた