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「ふ~、やっと終わったです~」
家に着いたわらちは、ようやく安堵の息をつきました。
そして今回の役目に就いてからずっと思っていた言葉を吐き出します。
「はみゅ~ん、幽霊のお相手なんて、もう嫌です~!」
そう、わらちはずっと怖かったのです。
そりゃあ、海路くんはちょっとぼーっとしているけど爽やか系だし、学校に憑いていた他の霊たちも、話してみれば普通に意思の疎通ができていたし、怖い感じの幽霊じゃなかったのは確かですけど。
だいたいもともと怖がりなわらちが、こんな役目に就かなくちゃいけないなんて。
それもこれも、全部お姉ちゃんが悪いんです~。
「誰が悪いですって~?」
「はみゅ~~~ん!?」
いきなり背後からねっとりとした言葉を浴びせかけられたわらちは、思わず震え上がってしまいました。
慌てて振り返ったわらちの目の前に立っていたのは、三歳上のお姉ちゃんでした。
「お姉ちゃん、わらち、ちゃんと役目を終わらせたです!」
「はいはい、ご苦労様。でも、なんか不満たらたらって感じのオーラを放ってたような気がしたけど~?」
わらちの報告に、お姉ちゃんはニヤニヤ笑いを浮かべながら訊き返してきます。
なにもかもお見通しって様子でした。
それならばと、わらちは思っていることをすべて吐き出してぶつけてみることにしました。
「う~、だって、お姉ちゃんがいきなり引退するから、わらちが受け継がなきゃいけなくなったんじゃないですか~!」
うちの家系は代々、この役目を受け継いでいます。
なぜか女性しか産まれない、うちの家系。
ついこのあいだまでは、今目の前にいるお姉ちゃんの役目だったのです。
それなのに……。
「だってさ~、あたしは彼氏とラブラブしたかったんだもん♪ 仕方ないじゃないっ!」
「そんな理由で、代々受け継ぐ役目を放棄するなです~~~!」
「放棄じゃないってば。引退よ、引退! ま、でもあんたは末っ子だから、しばらく引退できないでしょうけどね! 一番上のお姉ちゃんの子供が大きくなるまでは、我慢しなさい!」
「はみゅ~ん、ひどいです~。なんだか納得がいかないです~」
「気にしなさんな。それに、あんたはこの役目に一番向いてるわ。なんたって、あたしたちお姉ちゃんの愛情を一身に受けて育ってきたんだから」
「はみゅ~ん……」
「懐かしの魔法『なつまほ』を受け継いだんだから、しっかりと役目を果たしなさい。あんたを必要としている人が、まだまだたくさん待ってるはずよ」
「お姉ちゃん……」
「……あっ、彼からメールだ。んじゃ、あたしは行くね! 蚕! ばいび~!」
「はみゅ~ん、やっぱりひどいです~、納得がいかないです~!」
わらちの苦悩は、これからも続きそうです。
「あっ、そうそう、蚕。世の中にある怖いものって、幽霊だけじゃなくて、他にもいろいろとあるんだからね。きっとこれからも、たっぷり怖い目に遭うことになるわよ! いっひっひ、ま、せいぜい頑張りな~!」
「はみゅ~ん、お姉ちゃんが追い討ちをかけます~! というか、早く彼氏のとこでもどこでも、行ってしまえです~!」
わらちは思いました。
世の中で一番怖いのはお姉ちゃんに間違いないと。
ゴツン!
……殴られました。
「あたしはあんたの心を読めるっての、忘れるな!」
「はみゅ~ん、納得がいかないです~……」
どなたか、わらちがお姉ちゃんたちから優しくされていた昔に戻れるような、そんな『なつまほ』を使ってはもらえませんでしょうか?
以上で終了です。お疲れ様でした。
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