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「お世話になったね~」
「なったのね~」
「はみゅ~ん、お達者で~なのです~」
わらちは天に昇っていくわたぬきくんと白井さんに精いっぱい手を振っていました。
彼らに合わせて、もっちゃんやベンちゃん、れんちゃんたちも一緒にお空へと昇っていきました。
笑歌ちゃんたちが帰ったあと、わらちは学校に漂っていた幽霊たちに挨拶回りをしましたです。
廃校となったこの東山小学校は、もうすぐ取り壊されてしまいます。
でも、それを目前にして、みんなは笑歌ちゃんたちのグループにその存在を示すことができました。
同じく幽霊だった海路くんを除けば、全部で七人だけとはいえ、笑歌ちゃんたちの心の中に残ることができたのです。
それだけで満足だったと思いますです。
校舎が取り壊されてしまったらどっちにしろ、ここに残るわけにはいかないのですから、素直に成仏することに決めたのは、正しい判断だと言えるはずです。
「うふふ、ほんとにありがとうございました」
ふわ。
長い黒髪を揺らしながら、ひとりの女性がわらちに向けて澄んだ綺麗な声を紡いでくれました。
女性といっても、性別なんてないはずですけど。
だって彼女は、この東山小学校、そのものなのですから。
「正確には、この学校に憑いた付喪神、ですわ」
ニコッ。
穏やかな笑みをこぼす彼女は、わらちの心の中を読んだみたいでした。
彼女、なんて呼ぶのも悪いでしょうか。
学校ですから、学子さんと呼ぶことにしましょう。
「きゃ~~~、そんな呼び方、嫌ですわ~! せめてマナビーヤとお呼びください~!」
「……いや、あの、そっちのほうが恥ずかしくないですか……?」
「いいんです!」
わらちはとりあえず、曖昧に愛想笑いを浮かべるのでした。
と、そんなことよりも、ひとつだけ訊いておきたかったことが残っていました。
「どうでもいいですけど、え~っと、マ……マナビーヤさん、あなた、今回のことにいろいろと手を出して楽しんでましたですよね?」
ちょっと名前を呼ぶのが恥ずかしかったですけど、質問を投げかけました。
わらちは気づいていたのです。
今回の件――家庭科室の火事だったり、廊下の天井が崩れたことだったり、理科室と音楽室での幽霊たちだったり、屋上での数々の不思議な現象だったり。
保黒さんの仕掛けも中にはありましたが、それらのうちの多くは、それぞれの場所に残された幽霊たちが存在を知ってほしくて起こした現象でした。
だけど、それぞれの幽霊たちの力だけでは、あそこまで大きなことはできません。
だから、わらちはあるひとつの可能性を考えていました。
一連のことを引き起こしていた一番の立役者、それはこの場所で最も大きな力を持つ存在――、
そう、この学校そのものである、マナビーヤさんだったのだと。
「ええ、そうですわ」
否定する気なんてさらさらない、といった様子で、マナビーヤさんはあっさりとわらちの言葉を認めました。
「でも、どうしてそんなことをしたんです?」
「うふふ、だってわたくしは、小学校に憑いた付喪神なんですから。いたずら好きなのは当たり前でしょう?」
続けざまの質問にも、マナビーヤさんは事もなげにそんな答えを返してきました。
はみゅ~ん、やっぱり幽霊とか物の怪の類って、精神構造が違うみたいです~。
「物の怪ではないですわ、付喪神です。神ですよ、神。うふふ」
満面の笑顔を浮かべながら、マナビーヤさんの姿が光に包まれていきます。
彼女もまた、他の幽霊たちと同じように、取り壊される前に成仏するつもりなのです。
「……お疲れ様です、マナビーヤさん」
「ええ。あなたはまだ、これからも大変そうですけれど。頑張ってくださいね」
ニコッ。
温かな笑顔を残して、マナビーヤさんは音もなく、空の彼方へと昇っていきました。