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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第4章 踊って歌って絡まれてです~
23/33

-5-

 人影のようなものは、またもや階段のほうへと向かう。

 それを慎重に追っていくわたしたち。


 廊下を進み、階段のそばで一旦止まった影は、進行方向を九十度曲げると、そのまま階段を上っていった。

 今わたしたちのいる場所は、第二特別棟の三階。

 三階建ての建物だから、その上に階はない。つまり、階段の先は屋上ということになる。


 慎重に階段を上って踊り場で体を反転させると、わたしたちより先に移動していった人影らしきものが、すーっと屋上へと出るドアをすり抜けていくのが見えた。

 わたしたちは黙って頷き合うと、微かにペースを速めて残り半階分の階段を上り、ドアの前で足を止めた。


「……完全に、すり抜けてたよね……」

「ええ。さっきまでと同じね。でも、ここまで来て、引き下がるわけにはいかないわ」


 わたしのおどおどした声に、引き返そうよ、という含みを感じたのだろう。美子ちゃんが言葉で退路を塞ぐ。


「カギ、かかってないかな?」


 来武士くんがそう言いながら、ドアノブに手を伸ばす。

 それを見たわたしは、開かないでと、思わず祈っていた。


 カチャ。


 軽い音を立て、ドアノブは回る。

 回ったということは、イコール、カギがかかっていないということ。

 このドアの先は、屋上だ。


 ドアには曇りガラスがはめ込まれていて、そこから薄明かりが漏れている。

 廊下の窓からも薄明かりは漏れていたけど、それよりも明るくなっているように感じる。

 雨は上がったようだし、晴れ間も出ているのかもしれない。

 星明りや月明かりが照らすくらいの明るさはありそうだった。


 そして、おそらく、ここが……。


 わたしはずっと考えていた。

 海路くんが用意した宝探しゲームの終着点は、ここ、すなわち屋上なのではないか、ということを。


 その考えが正しいのであれば、わたしたちが見た人影のようなもの、あれは海路くんだというのが、一番納得できる解答となる。

 ただし、理由だけを考えるのならば、ということだけど。

 実際には、薄暗がりではっきりと目にしたわけではないものの、何度もドアをすり抜けているのだから、あれが海路くんだというのも無理があるだろう。


 とはいえ、考えていたって仕方がない。

 ここは行動あるのみだ。

 わたし意思を後押しするかのように、蚕ちゃんが号令のごとく声を発する。


「行きましょうです!」


 その声に力強く頷くと、来武士くんは一気にドアを押し開けた。



 ☆☆☆☆☆



 屋上に出たわたしたちを出迎えてくれたもの、それは一面に広がる菜園や花壇の跡だった。

 小学校の頃、みんなで植物や作物を育てていた。

 この学校の方針で、すべてのクラスに屋上の区画を割り当て、そこに菜園や花壇を作ることになっていたからだ。


 持ち回りで植物の世話をした、懐かしいこの場所。

 今では朽ち果て、枯れた植物が横たわるのみだった。


「懐かしいね」


 わたしはそうつぶやく。でも、誰からも返事はない。

 それを疑問に思ったわたしは、ふと違和感を覚え、辺りを見渡した。


 朽ちた菜園や花壇。

 その光景が広がるだけの屋上。

 だけど……なにかがおかしい。


 そこで、わたしはようやく気づいた。

 わたしたちの頭上を覆い尽くす空に、おかしいと感じた原因があったのだ。


 屋上からであれば、いくら宵闇に包まれている状態であっても、学校の周りの夜景を一望できるはずだ。

 それなのに、今この屋上からは、周りの景色がまったく見えなかった。

 屋上のへりから見える景色は、一面の暗黒世界だったのだ!

 黒い中にも、なにやらうごめいているように感じるのは、暗さからくる恐怖感による錯覚なのだろうか?


 屋上の様子――菜園や花壇の跡がしっかりと見えているというのも、月明かりや星明かりがあるからではなかった。

 ただただ、見えるのだ。

 明かりによって照らし出されるというよりも、この屋上そのものが微かな光を放っているかのように。


 漆黒の闇の中にありながら、屋上の風景はしっかりと目に映り込む。

 不思議な感覚に包み込まれたわたしたちは、呆然と立ち尽くしていた。

 ドアをすり抜けて屋上へと出たはずの人影も、今はどこにも見当たらない。


 そのとき。

 呆然としているわたしたちに向かって、空気を切り裂くかのように、目にも留まらぬスピードで迫りくる物体があった。

 それも、無数に――!


 わたしたちは、身構える間すら与えられず、突如として現れた脅威にさらされることとなった。


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