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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第4章 踊って歌って絡まれてです~
21/33

-3-

「な……なんだこりゃ!?」


 困惑しきったような来武士くんの声が響く。

 来武士くんじゃなかったとしても、声を出すことができたなら、誰でも同じような言葉を発しただろう。

 言葉にできる精神力を持っている分だけ、来武士くんはまだ強かったと言えるのかもしれない。

 わたしは声も出せずに、ただ震えるだけの小鳥でしかなかったのだから。


「どうすればいいのかしら……」


 美子ちゃんですら、判断できずにいるようだ。

 こんな状況だというのに落ち着いた声色を保っているのは、さすがだと思ったけど。

 そのとき、突然、力強い声が響く。


「踊りましょう!」


 声の主は、蚕ちゃんだった。

 それにしても……、

 どうして踊るの~!?

 疑問が浮かんだけど、どういうわけか口に出せない。


「わたぬきくんと白井さんも一緒に!」


 蚕ちゃんは続けてそう言った。


 っていうか、わたぬきくんと白井さんって、誰~!?


 心の中で叫ぶわたしではあったけど、意思に反して場の流れに従う。

 わたしたちは手をつなぎ、輪になって踊り始めた。


 わたしの右手は美子ちゃんの左手を握っているけど。

 左手のほうは、その……、人体模型の右手を、握っていた。

 そう、輪の中には、人体模型と骨格標本もまざっていたのだ。


 ……ということは、わたぬきくんと白井さんって、このふたり!?


 そういえば小学校のとき、七不思議とかの怪談が流行っていたけど、そんな話の中に、人体模型のわたぬきくんと骨格標本の白井さん、というのもあったっけ。


 ……それにしても、どうしてわたぬきくん? どうして白井さん?


 人体模型の中に詰め込まれている内臓、つまりハラワタが取り外しも可能だから、ワタ抜きくん?

 骨格標本は、そのままって感じもするけど、骨で白いから白井さん? さんづけってことは、女性なのだろうか……?


 それはともかく、ほのかに汗ばんでいるようにも感じられる、リアルな人体模型の右手を、わたしは今ぎゅっと握っているわけで。


 うきゃ~~~、気持ち悪い~~~!


 それが、率直な感想だった。

 でも、どういうわけか。

 みんなと輪になって踊っていると、とっても楽しい気分になってくる。


 相変わらず周りではフラスコなどが音を鳴らしてリズムを刻んでいた。

 そのリズムに合わせて、暗い理科室の中で楽しく踊り跳ねるわたしたち四人と、人体模型と、骨格標本……。

 はたから見たら、ものすごい絵面な気がする。

 だけど、一種のトランス状態になっていたのか、わたしたちは一心不乱に踊り続けた。


 どれくらいの時間、踊り続けていたのだろう。

 疲れなんてまったく感じなかったけど、途中からはすでに記憶が途切れてしまったような、そんな感覚。

 ふと気づいたときには、辺りは静寂に包まれていた。


 フラスコとかビーカーとかも、もとあった位置にただ置かれているだけ。

 あれだけ激しく音を立てて動いていた痕跡なんて、まるで見当たらない。

 人体模型と骨格標本も、わたしと手をつないだりなんてこともなく、ただわたしたちの目の前に二体並んでたたずむのみだった。


「な……なんだったの……?」

「さあ……? 踊ってた、ような記憶があるけど……。わたぬきくんと白井さんも一緒に……」


 わたしの声を受けて、美子ちゃんも言葉を漏らす。

 さすがの美子ちゃんでも、状況を理解できていないようだった。


「夢……ってわけでもないよな? みんな揃って同じ夢を見たなんて、ありえないだろうし……」


 来武士くんも、そうつぶやいている。

 どうやらみんな、同じように踊っていた記憶はあるようだ。

 とはいえ、わたしたちにはそれ以上、どんな答えも導き出すことはできなかった。


「あ……あれ!」


 不意に蚕ちゃんがドアのほうを指差す。

 そこには、さっき階段で見た、人影のようなものが立っていた。

 影はさっきと同様、すぐにすーっと滑るように移動し始め、ドアをすり抜けていった。


 今度は完全にすり抜けていくのを目撃してしまったわけだけど。

 それよりもずっと不可思議なことを体験した直後だったからなのか、わたしたちはまったく気にも留めなかった。


「追いかけましょうです!」


 さっきの踊りのことに関して釈然としない気持ちは残っていたけど、呆然としたままここに突っ立っていたってどうにもならない。

 蚕ちゃんの声に頷くと、わたしたちは影を追いかけて歩き出した。


 窓から薄明かりが差し込んできているとはいっても、足もとも覚束ないのは今も変わらない。

 わたしたち四人は手をつなぎ直し、身を寄せ合いながら理科室をあとにした。


 影はまたしてもわたしたちをいざなうように階段へと向かい、そして三階へと上りきったところでさらに曲がる。

 わたしたちが追いかけていくと、それに合わせて一定の距離を保ちながら逃げていく影。

 そして廊下を少し進んでいった先にあるドアの前で止まる。


 そこは、音楽室だった。

 すると案の定、今度は音楽室のドアをすり抜け、影は中へと入っていった。


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