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わたしは江窪笑歌。近所の高校に通う二年生だ。
母校の小学校があるこの町を出ることなく、こうして高校生になった今も、この界隈を中心に生活している。
それは、肩を並べて歩いている親友の吹浦萩美子ちゃんも同じだった。
実際には背丈の差があるから、肩の高さは並んでいないのだけど。
……ふん、どうせわたしはチビですよ。
一応ぎりぎり進学校と呼ばれるレベルの高校に、美子ちゃんとともに通っているのだけど、わたしはどういうわけかバカにされることが多かったりする。
そりゃあ、成績は下から数えたほうが早いくらいではあるけど、落ちこぼれってほどでもないのに……。
そういった勉強に関することってわけじゃなくて、なんていうか、わたしはちょっと抜けているというか、ドジっ子な傾向にあるらしく、マヌケな失敗をやらかしてしまう頻度が高い。
……自分で言ってて恥ずかしいけど。
でも、そんなふうにわたしがバカにされるときは決まって、
「笑歌はバカなんじゃないわっ! 天然なのよっ!」
と、美子ちゃんがフォローしてくれるのだ。
……これってフォローになってるのかな……?
美子ちゃんは、あたかもそれが日課であるかのように、わたしの頭をバシバシとはたいたりするし、本当に親友という認識でいいのか怪しいと思わなくもないけど。
でも美子ちゃんと一緒に、毎日楽しく高校生活を満喫しているのは紛れもない事実。
そう考えれば、感謝感激雨あられ。わたしは思わず美子ちゃんを拝んでしまうくらいの気持ちでいるのだ。
「……笑歌、なにやってんの? 相変わらずおかしいわね、あんた」
フライドポテトを口にくわえながら、ぼそっとつぶやく美子ちゃん。
わたしは思わず、本当に拝んでしまっていたらしい。
それにしたって、相変わらずおかしいなんて、それも真顔で言ってのけるなんて……。
本当に親友なのか、疑問符がちらつくところ。
それはともかく。
わたしたちは今、ファーストフード店に入ってアイスティーを飲みつつ、ハンバーガーとフライドポテトを食べていた。
飲み物は、わたしがミルクティーで、美子ちゃんがレモンティー。これがいつものパターンだった。
わたしはレモンティーも飲みたいから、美子ちゃんからちょっともらうのだ。
代わりに美子ちゃんにも、わたしのミルクティーをちょっとあげる。
こうしてお互いに二種類の味を楽しむのが常となっていた。
ハンバーガーのほうも同じように、美子ちゃんからひと口もらったり、代わりにひと口あげたりして、二種類の味を楽しむ。
こんなふうにわたしと美子ちゃんは、なんでも、とまでは言わないけど、いろいろなことを共有して一緒に感じながら生きてきた。
だからやっぱり、親友なのだ、美子ちゃんは。
「はい、ひと口どうぞ」
「……あんたの食べかけは、相変わらずベチャベチャで汚ったないわね、ほんと」
ぱくっ。
なんだかひどい文句を言いながらも、美子ちゃんはわたしが差し出したテリヤキバーガーにかぶりつく。
わたしと違って、美子ちゃんの食べ方は確かに綺麗だった。
「む~、美子ちゃん、汚いなんてひどいよ~……むぐっ」
尖らせたわたしの口に、美子ちゃんが紙ナプキンを押し当てる。
「口の周りをケチャップだらけにしながら、なにを言うか。まったくも~、あんたってほんと、しょうがないんだから」
ぐちぐちと文句を浴びせながらも、美子ちゃんは丁寧にわたしの口を拭いてくれた。
「む~……。でも、ありがと」
「はいはい」
美子ちゃんは、いつものことよ、とでも言わんばかりの仕草で紙ナプキンをたたんでトレイに置くと、再びポテトを一本つかんで口に運ぶ。
わたしたちが今、こうやってファーストフードに舌鼓を打っているのは、まだ時間があるからだった。
ふたりとも、夏休み中だというのに、高校の制服を身にまとっている。
それは、そういう約束だからだ。
「それにしても、なんかちょっと、ドキドキするよねっ!」
これから数時間後のことを考えて、思わず笑顔が溢れていたわたしに、
「うん、そうね」
美子ちゃんも素直にそう答えてくれた。
☆☆☆☆☆
今からちょうど七年前。
小学校四年生だったわたしは、仲のよかった数人の友達と一緒に、夕陽によって赤く染められた小学校に集まっていた。
みんな、思い思いの宝物を手に持っている。
そしてそれらの宝物をブリキ缶に入れて、土の中に埋めた。
そう、タイムカプセル。
未来の自分たちへと贈る、時空を超えたプレゼントだ。
学校のとある場所に埋められたそのタイムカプセルを、今日、掘り返す約束になっていた。
わたしと美子ちゃんは今、そのために小学校へと向かっている途中なのだ。
ちょっと時間が早すぎたから、こうして涼みがてら、ファーストフード店でまったりしているってわけ。
一緒にタイムカプセルを埋めたときに誰がいたのか、といったことは、ぼーっとしたわたしでもさすがに覚えているのだけど。
自分がいったいなにを埋めたのかについては、全然まったくこれっぽっちも覚えていなかった。
「あんたは忘れっぽいからね。でも、忘れてるほうが、このイベントをよりいっそう楽しめると思うわ。だからラッキーと思いなさいな」
美子ちゃんには、そう言われた。
小学校四年生の頃に仲のよかった友達、ということで、幼稚園から一緒だった美子ちゃんも、もちろんタイムカプセルを埋めたメンバーのひとりだった。
だけど、それ以外の人たちとは、今は全然会っていない。
地元に残っている人もいるかもしれないけど、なかなか会う機会なんてないものだ。
だからこそ、わくわくドキドキ、楽しみは募る。
「うふふふ」
自然と笑みがこぼれてしまうわたしを、美子ちゃんはいつもながらの優しげな瞳で見つめてくれていた。