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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第3章 家庭科室にて、レッツ・ダンシングです~
18/33

-6-

 水浸しの家庭科室の中で軽くタイムカプセルを探したあと、わたしたちは廊下へと出た。

 海路くんの様子を見れば、ここにはないだろうなと、だいたい予測はできたのだけど、念のため探してみたのだ。

 案の定、なかったわけだけど。


 なんとなくタイムカプセルがどこにあるのか、みんな、予想できていたのかもしれない。

 わたしでさえ、きっとあそこにあるだろうと、あたりはつけていたくらいだから。

 でも、誰もまっすぐそこへ向かおうとは言い出さなかった。


 少しでも長く宝探しを楽しみたい。

 そう考えて、後回しにしているふしがあるのだろう。


 だけど、ちょっとだけその思いも揺らいできていた。

 さっきの家庭科室での一件は、明らかにおかしい。

 ガスが通っていないはずの家庭科室で、どうして火がついたのか。

 それが不思議で、なんだか怖くなっていたのだ。


 いや、もちろん蚕ちゃんが一番おかしかったわけだけど、どういうわけかこのときのわたしたちは、そのことについてまったく触れようとしなかった。

 思えばその前の職員室のことだって少し不可解だし、夕立のせいか空気も妙に冷たくなったように感じられた。

 ここは夜の廃校なんだということを、いやが上にも意識してしまう。


 とはいえ、さっきも話していたとおり、タイムカプセルを見つけるまで、誰も帰る気なんてなかった。

 そんな覚悟を持って歩き始めたわたしたちは、夜の廃校というものを甘く見すぎていたのかもしれない。


 とりあえず、今いる第二特別棟の上の階に行こうかという話になり、階段の手前――職員室のある第一特別棟とつながる廊下の突き当たりまで戻ってきていた。

 第二特別棟の階段は、この位置にしかない。

 階段前の廊下でみんな一旦足を止め、暗い階段を見上げる。


 完全に夜となってしまった今、階段を上った先の踊り場の部分でさえ、真っ暗闇でなにも見えはしない。

 しかも古ぼけた木の階段となっているため、ちゃんと上っていけるのかすら不安になってくるほどだ。

 その不安を消し去るかのように、ごくりとツバを飲み込む。


「それじゃあ、行くか」


 意を決して足を踏み出す来武士くんに、わたしたちも黙って続いて歩き出した。

 ちょうど、そのときだった。

 凄まじい轟音が響き渡ったのは。


 木がものすごい勢いで裂けるような破砕音――。

 天井からなにかが大量に落ちてきたのだ!


 それは、ホコリにまみれた床板や梁などだったのだろう。

 真っ暗な中だから、このときのわたしたちには、なにがなんだか、まったくわからなかったのだけど。


「危ない!」


 不意に、海路くんの声が聞こえた。

 そう思った刹那、わたしの体は階段のほうへと突き飛ばされていた。

 飛ばされた勢いで階段の手すりの部分に思いっきりおなかの辺りをぶつけ、むせ返るわたし。


 周囲には轟音とともに、ホコリが激しくもうもうと舞い上がっているようだった。

 ホコリを吸い込み、そこかしこで、みんなの咳き込む声が響き渡っている。


 すぐに、激しく響いていた音は鳴りを潜めた。

 しばらくしてホコリも静まると、わたしはどうにか身を起こす。

 そして、周りを見渡して状況を確認してみた。


 わたしは今、階段のすぐ手前にいる。

 階段に背を向けて立ち上がったわたしの目の前は、完全に瓦礫の山と化していた。

 実際には木造校舎なのだから、瓦礫というのは正しい表現ではないのかもしれないけど。

 ともかく、大変な状況だというのはすぐにわかった。


 天井を見上げてみると、そのすべてが崩れ落ちたわけではないようだった。

 それでも、瓦礫は文字どおり山となり、行く手を遮るには充分な壁となってわたしたちの前に立ちはだかっていた。


 ……はっ! みんなは?

 わたしは不安になって声を上げる。


「みんな、大丈夫!?」

「……ええ、大丈夫よ」


 すぐ後ろから、美子ちゃんの声が聞こえた。


「わらちも大丈夫です~」

「おいらも、どうやら大丈夫みたいだ」


 蚕ちゃんと来武士くんからの返事も、すぐ横から聞こえてきた。

 三人は立ち上がり、わたしのそばへと身を寄せてくる。


「他のみんなは……!?」


 わたしは焦りを通り越して、泣き出しそうな勢いで辺りを見回しながら叫んでいた。


「わたくしも、大丈夫ですわ」

「オレも、大丈夫」

「あたいも大丈夫だぜ」

「ウチもね。ちょっとホコリで目が痛いけど」

「……ぼくも、もちろん平気だよ」


 頬さん、土布先くん、二之腕さん、保黒さん、そして海路くんも、どうやら平気だったようで、わたしの呼びかけに声を返してくれた。


 ただ、みんなの声は、目の前に立ちはだかる瓦礫の向こう側から聞こえてきた。

 ということは、わたしたちは今、二手に分断されてしまっているということになる。

 階段側のわたしたち四人と、瓦礫の向こうにいる残りのメンバーだ。


「どうやら、分断されてしまったみたいだな」


 わたしの思いを代弁してくれるかのように、来武士くんが瓦礫の向こう側のメンバーに言葉を放つ。


「うん、そうだね。でも、仕方がないでしょ。ウチらのほうは、別の道を探してみるよ」


 来武士くんの言葉に、保黒さんが状況を分析して、決断の声を返してきた。

 瓦礫の山を切り崩して合流するなんてことは、どう考えても不可能そうだったのだから、残された手段はそれしかないだろう。


「わかったわ。……しばらくお別れってことになるけど、気をつけてね」

「ええ、そちらも。ご武運をお祈り致します」


 美子ちゃんと頬さんが言葉を交わすと、向こうの部隊は瓦礫から遠ざかっていった。

 こうしてわたしたちは、二手に分かれた。

 わたしたちは天井や足もとが崩れる危険性を実感しながらも、どういうわけか、タイムカプセル探しをやめようとは微塵も思わなかった。




 ★★★★★



 大勢で行動していたと思ったら、分断されてしまいましたね。

 うふふ、期待どおりの展開と言えるでしょうか。


 一気に人数が半分に減ったそれぞれのグループ、どちらを眺めているのが面白いかしら。

 ……そうね、あの子がいるこちらのグループのほうが、楽しみがいのある構成と言えそうですわ。


 決めました。こちらについていくことにしましょう。

 どうやら、みなさん(丶丶丶丶)もお待ちかねのようですし。


 わたくしははやる気持ちを抑え、静かに彼女たちのあとを追いかけるのでした。


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