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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第3章 家庭科室にて、レッツ・ダンシングです~
17/33

-5-

 東山小学校の校舎は、教室棟、第一特別棟、第二特別棟が平行して並び、その中央を垂直に貫くような配置の廊下でつながっていた。

 真ん中にある第一特別棟は、職員室や保健室といった一部の特別教室があるだけなので、建物の長さも少し短めだった。

 そのため、上空から見ると、漢字の「王」のような形になっている。


 校舎は基本的に木造二階建てになっていて、教室棟には、一階に一年から三年の三クラス、二階に四年から六年の三クラスがあった。

 第二特別棟だけは、教室に必要な広さと数の関係上、三階建てになっていたのだけど。


「ふえっ!?」


 ふと微妙に変な声を発してしまったわたし。

 みんなの視線が降り注ぐ。


「あ……あれ、なんだろう?」


 自分の発した声がちょっと恥ずかしかったものの、わたしは気を取り直して右手を上げると、指を伸ばす。

 わたしが指差す先には、第二特別棟へと続く廊下が続いていた。

 その突き当たりは上り階段になっていて、左右に廊下が続いているのだけど、そこを右に曲がったほうに、なにやらぼんやりとした明かりのようなものが見えていたのだ。


「……明かり、だよね」

「そうみたいですわね」


 つぶやいた保黒さんに頬さんが肯定の言葉を添える。


 明かりだろうということはわかっても、なんの明かりなのかまでは、誰にも判断がつかなかった。

 それ以前に、この学校に電気が来ていないことは、さっきの職員室の件でも確認済みだ。

 とすると、いったいなにが光を発しているというのだろうか?

 その明かりはなんとなく、強くなったり弱くなったりしているように見えた。


「……行ってみよう」


 素早く決断して歩き出したのは、さっきと同じように来武士くんだった。

 わたしたちも黙ってそのあとに続く。

 第二特別棟にたどり着き、明かりの方向を見てみると、家庭科室から漏れてきているようだった。


 周りが暗いから余計に明るく感じるけど、それほどはっきりとした光ではない。

 ただ、さっきまでと比べると格段に明るくなったようにも思える。

 黙って頷き合うと、わたしたちは静かに家庭科室へと向かった。


 ぼわっ。

 家庭科室に入ると、火が、燃えていた。


「…………っっ!?」


 突然目に飛び込んできた光景に言葉を失うわたしたち。


「な……っ!? 火事だっ!」

「わかってるよ! でも、どうして!?」

「ガスだって、来てないはずだよね!?」


 まだ燃え始めたばかりのようで、コンロのある調理台のひとつの上で、メラメラとくすぶっている程度といった状態ではあった。

 それでも、明らかに火事になりかけている現状に、わたしたちはパニックに陥る。


「もう、落ち着いて! 早く、消火器よ!」


 美子ちゃんが叱咤の声を飛ばす。

 とはいえ、美子ちゃん自身も軽くパニックになっているのが、その声の震えから伝わってきた。


 そもそも、近くに消火器なんてなかったのだ。

 消火器が置かれているのは、非常ベルの設置場所ということになるけど、それはこの家庭科室のすぐ目の前にもあった。

 だけど、火を見てすぐに行動に移していた土布先くんが、そこに目的の物がないのをすでに確認していた。


 もちろん、非常ベルが鳴るはずもないし、鳴ったところで消防署に連絡が行くわけでもないだろう。


 そこで、わたしは気づく。

 ……そうだ、消防署!


「土布先くん、ケータイ持ってたよね!? 119番に電話を!」

「あっ、そうか!」


 そんなことにも気づかなかったなんて、冷静に行動しているように見えて、やっぱり土布先くんもパニック状態だったのだろう。

 それを言ったら、美子ちゃんや他のみんなだってケータイくらい持っていそうなものだけど、どうやら誰も気づかなかったみたいだ。

 焦りは判断力を鈍らせるということなのかな。

 でも、とりあえずこれで安心できる、そう思ったのも束の間。


「あれ? ダメだ。圏外になってる」

「ええっ? さっき、電話できてたじゃない!」


 つい、そんな文句の言葉が飛び出してしまう。そんなことを言われても、土布先くんだって困るだけだというのに。

 土布先くんは、廊下に出たりもして試してはいたけど、結局、電波を受信できる場所は見つけられなかったようだ。

 田舎だからなのか、電波の入りが悪いことが多いって、以前に美子ちゃんも愚痴っていたことがあったっけ。


 調理台の上でくすぶっていた炎は、わたしたちが戸惑っているあいだにもどんどんとその勢力を広げ、今や天井まで届きそうなほどの火柱へと成長してしまっていた。


「ふえぇ~、どうすればいいの~!?」

「う~ん、どうにもならないかも。こうなったら、逃げるしか……」


 焦りまくるわたしの声に、海路くんが冷静に答えた、そのとき。


「……待ってください。わ……わらちに、お任せです!」


 微かに震える声ではあったけど、はっきりそう言うと、蚕ちゃんはスタッとわたしたちの目の前に飛び出す。

 舞い上がる火柱に悠然と立ち向かう小さな女の子。

 いや、もちろんクラスメイトだったのだから、同い年の女の子ということになるのだけど。

 でも蚕ちゃんの容姿からすると、どうしても幼い印象にしかならなかった。


 そんな蚕ちゃんが、わたしたちの見ている前で両手を目いっぱい広げ、

 そして――、

 踊り出した。


「ほへ?」


 思わず変な声を漏らしてしまったのも、当然の反応だよね?

 実際、他のみんなも唖然とした表情で、踊り続けている蚕ちゃんの姿をただただ見つめている。

 なんか、幼稚園児が一生懸命お遊戯しているような、そんなハラハラした感覚さえ湧き起こってくる光景だった。


 と、次の瞬間、

 火柱の放つ光が反射しているのか、きらきらと輝く白い糸のようなものが蚕ちゃんの体から放射状に飛び出し、家庭科室全体に広がっていくのが目に映った。


「わっ!? あれは、なに?」


 わたしの声は、炎の燃え盛る音と、飛び散る水の音によってかき消される。


 ――そう、水の音。


 いつしか家庭科室の天井辺りからだろうか、大量の水が噴出し始めていた。

 最初こそ、余計に勢いが増してしまったように思えたものの、徐々に火柱はその力を弱め、明らかに小さくなっていく。

 やがて、蚕ちゃんの踊りがよりいっそう激しくなったと思ったそのときには、ついさっきまで燃え盛っていたはずの炎は完全に消え去っていた。



 ☆☆☆☆☆



 踊り疲れたのか、その場に膝をついてしまった蚕ちゃんに、わたしたちは駆け寄った。


「ロリちゃん、大丈夫?」


 美子ちゃんの呼びかけに、笑顔を返す蚕ちゃん。


「今のは、いったいなに?」


 保黒さんは間髪を入れず質問を浴びせる。

 蚕ちゃんが踊り出し、それによって水が降り注いだ。わたしたちには、そんなふうに見えていたのだから、疑問を口にするのも当然だろう。

 だけど、蚕ちゃんの答えは、


「ん~と、スプリンクラーの機能が、ちゃんと残っていたみたいですね」


 というものだった。


「でも、電気も来てないのに、なんで動いたの?」

「確かスプリンクラーとかって、非常電源が用意されてるんじゃなかったっけ? よくは知らないけど……」


 わたしの疑問には、土布先くんが控えめに意見を添えてくれた。

 ……そっか、そういうものなのかな?


 ただそれ以外にもまだ、わたしたちにとっては不可解なことがあった。


「それじゃあ、ロリちゃんは、どうして踊ってたの?」

「え~っと……。いや、その……、火を見ると興奮してしまって……」


 美子ちゃんが怪訝な顔をして問いかけたけど、蚕ちゃんは視線を逸らしながらそんな曖昧な返しをするだけだった。

 さすがに納得はいかなかったけど、涙目になり始めている蚕ちゃんを見ていると、なんとなくそれ以上問い詰めるのは悪いような気になってしまう。

 それは実際に詰問していた美子ちゃんも同じだったらしく、


「ファイアーロリちゃんってことね! 見世物にしたら面白いかも! 今度はリンボーダンスでもやってみる?」


 と、いつものノリに戻って、蚕ちゃんをからかうような言葉を向けていた。


「はみゅ~ん、美子さん、ひどいです~」


 口を尖らせている蚕ちゃんは、やっぱり幼い印象で可愛かった。

 確かに美子ちゃんが言うように、見世物にしたら面白いかも。


「それに、パニックに陥ってた笑歌も、踊ってるみたいだったわよね!」

「ほへっ?」


 突然、美子ちゃんが話の矛先を向けてきたので、わたしは目を丸くしてしまう。


「背も小さめで合ってるし、ロリちゃんとコンビで見世物になってもらうのが最高ね!」

「は……はう~! そんなの、やだよ~!」


 わたしの不満の声は、水浸しになった真っ暗な家庭科室に、空しくこだまするだけだった。


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