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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第3章 家庭科室にて、レッツ・ダンシングです~
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-4-

 職員室から出たわたしたち。

 目の前の窓には、相変わらず雨粒がぱらぱらとぶつかっていた。


 といっても、雨足はさっきまでと比べればかなり弱まってきている。

 ときどき、稲光と雷鳴が、間を置いて確認できるくらいだ。

 光ってから音が響くまでの時間も長くなっているみたいだから、もう夕立のピークは過ぎたということだろう。


 窓から見える外の景色は、すっかり真っ暗になっていた。

 夕立の厚い雲が覆っているからだけではなく、すでに夜と呼んでいい時間帯となっているに違いない。

 わたしは腕時計もしていないし、今どき珍しくケータイも持っていない身なので、正確な時間まではわからないけど。

 おそらく、七時は越えているんじゃないだろうか。


「みんな、大丈夫なの?」


 頭の中では考えがつながっていたものの、わたしの質問は他のみんなにとっては唐突で、一瞬、なにが? といった雰囲気が流れた。


「まったく、この思考ワープ天然娘は……。ちゃんと筋道を立てて喋りなさいな」


 はう。美子ちゃんに怒られた。

 う~、でも、思考ワープ天然娘なんて、ちょっとひどい言われような気がする。

 そこまでひどく、どこか彼方に飛んだような質問というわけでもなかったと思うのだけど。


 ともあれ、わざわざ反論するのもおかしいだろうし、わたしはちょっとしどろもどろになりながらも、なんとか考えを伝えようと言葉を加える。


「いや、あのね、こんな時間だけど、みんな、大丈夫なのかなって。わたしと美子ちゃん以外は、わざわざ遠いところから来てるんだし……」


 質問の補足を終えると、笑顔を浮かべながら、


「はい、よくできました~」


 と言って、美子ちゃんがわたしの頭を――、

 バシバシバシ!

 と、はたいた。


「あうっ! せめてはたかないで撫でてよ! っていうか美子ちゃん、わたしをからかったのね~?」


 頭を両手で庇いながら抗議の声を上げるわたしに、美子ちゃんは涼しい顔で言い返してくる。


「もちろん。最初の言葉で笑歌がなにを訊きたいのか、みんなわかってたはずよ。ね?」


 美子ちゃんの言葉に、みんな黙って頷く。

 そんなみんなの表情は、誰ひとりとして曇ることのない温かな笑顔だった。


「はうう。それなのに、わたしに説明させるなんて、美子ちゃんの意地悪~」

「いつもどおりってだけでしょ。あんたはわたしのおもちゃなんだからさ。今回もばっちり、楽しませてもらったわっ!」

「あう~~~!」


 わたしと美子ちゃんのやり取りを、みんな笑顔のまま見つめていた。

 だけど、わたし自身にだってわかっている。

 べつに美子ちゃんが意地悪なだけでやっているわけじゃなくて、場の雰囲気を和ませるためにやっているんだってことが。


「あはははは、やっぱり笑歌いじりは最高ね! 楽しいったらないわ!」


 ……え~っと、ほんとにそうなのかな?

 なんか自信がなくなってきた……。


「ま、それはともかく、ちゃんと質問に答えるかな。おいらと雄志は大丈夫だよ。雄志の親戚の家に、一緒に泊めてもらうことになってるんだ」

「うん。さっき電話で、もう少し時間がかかりそうだけど、心配はいらないって言っておいた」


 来武士くんと土布先くんが、話の流れを変えて、わたしの質問に答えてくれた。

 ふたりとも、感謝です。

 意外と来武士くんって、そういうところはしっかりしてるんだよね。

 明るいのはいいとしても、いつもはちょっと軽めで無計画なところがあるというのに。


「わたくしも大丈夫ですわ。旅館を手配してありますので。親戚が経営しておりますのよ」

「そんで、その旅館にあたいと夕菜も一緒に泊めてもらうんだ」

「宿泊費もお友達だからいらないなんて言ってくれて、とっても助かったわ。ちょっぴり悪い気はしてるんだけど」

「あら、全然構わないんですのよ。わたくしとしても、ひとりでは寂しいと思っておりましたし、ありがたいくらいでしたわ!」


 頬さん、二之腕さん、保黒さんの三人も、まったく心配はいらなそうだ。


「……海路くんは?」


 残るメンバーはふたり。

 自分から話してくれなかったため、わたしはまず、海路くんに問いかけた。

 すると、


「ん? ああ、ぼくも大丈夫。え~っと、ほら、親戚……町長さんのところに泊めてもらうから。それにもともと宝探しゲームを計画してたからね、帰りは夜になるって伝えてあるんだ」


 そう答えを返してくれた。


「とすると、あとは、ロリちゃんだけね」


 美子ちゃんの声に、みんなが蚕ちゃんのほうへと視線を向ける。


「あはっ、覚えてないんですか? わらちはずっと、地元に残ってますから、全然問題なっしんぐですよ!」


 全員に見つめられたからか、少々照れ笑いを浮かべながら、蚕ちゃんは明るくそう言った。


 そうだ。蚕ちゃんは近くに住んでるんだった。

 ……あれ? そういえば、蚕ちゃんの家ってどの辺りだっけ?


 とっさには思い出せず、わたしはちょっと困惑する。

 う~ん、でもわたしの記憶なんて、もともとあてにならないほどぼやけているわけだから、思い出せなくても不思議じゃないか。


 さすがに小学校から友達なのに、家はどこだっけ? なんて改めて訊くのも失礼な気がするし、あとで美子ちゃんにでも教えてもらうことにしよう。

 きっと、「あんたはまたそんな大ボケを……。まったく、鳥頭なんだから」とかなんとか言われて、頭をバシバシとはたかれちゃうだろうけど。


 それはともかく、みんな、時間は大丈夫のようだ。

 もともと、タイムカプセルをすぐに掘り返したとしても、そのあとすぐに解散ってことはないと踏んでいた、というのもあるだろう。

 せっかく数年ぶりに何人もの友達に再会するのだから、懐かしい時間を少しでも長く楽しみたいと思うのは普通のことだよね。

 そういった意味では、海路くんの仕掛けた宝探しゲームは、とってもナイスなアイディアだったと言えるのかもしれない。


「だいたい、タイムカプセルを見つけるまで、帰れるわけないじゃん! せっかくここまで来たってのに!」


 拳を握りしめて力説する来武士くんに、他のみんなも同意の言葉を重ねていた。

 わたしとしても同じ思いだ。


 かといって、海路くんに答えを教えてもらって見つける、というのでは味気ない。

 どうしても見つからなかったら仕方がないけど、それまではみんなで協力して宝探しを楽しむ。

 それが今、わたしたちに課せられた使命なのだ。


 ……ちょっと仰々しいかもしれないけど、それくらいの勢いだった。

 みんな、陰ることのない素直な心からの笑顔を浮かべていた。


 そう、このときまでは――。


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