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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第3章 家庭科室にて、レッツ・ダンシングです~
15/33

-3-

 雨は激しさを増し、窓ガラスを容赦なく叩きつけている。

 たまに響く雷鳴をBGMに、わたしたちは口数も少なくなって、慎重に歩みを進めていた。


 そんな中、わたしはふと気づく。

 ザーザーという雨音に紛れて、なにやら不規則なノイズのような音が聞こえてくるということに。

 怖さを振り払って、わたしは沈黙を破る。


「みんな……。なんか、変な音が聞こえない?」


 わたしの声に、全員が耳を澄ます。

 足音までも止まったことで、雨音がより大きく響く。

 その中に溶け込むように、はっきりと別の音が、誰の耳にも確認できたようだ。


 思わず息を呑む。


 誰もいるはずのない、廃校となった小学校の校舎。

 どうしてその校舎の奥から、不規則だけど継続的な音が流れてくるのか。

 答えは、誰にも出すことはできなかった。


 沈黙がわたしたちの心に恐怖の念を湧き起こらせる。

 だけどその沈黙は、来武士くんによってすぐに破られた。


「……行ってみよう……」


 力強い口調でそう言うと、来武士くんは率先して音のしているほうに向かって歩き出した。

 わたしたちも、それに続いてそれぞれの足を繰り出し始める。

 といっても、音の発生源は今まで歩いていた廊下をまっすぐ行った先。

 みんなが一旦止めていた足を、再び動かし始めただけのことなのだけど。


 でも、これから行く先に、なにかある。その恐怖心を持って進む歩みは、自然と重い足取りとなっていた。

 それまで以上の慎重さで、一歩、また一歩と、音のほうへと近づいていくわたしたち。

 謎の音は、どうやら職員室の中からこぼれ出してきているようだ。


 もしかしたら、この学校にいた先生や生徒たちの誰かが懐かしんで入り込んでいるだけなのかも。

 そんな思いも浮かんだけど、それならば電気くらいは点けるだろう。

 ……いや、電気はもう通っていないか。

 とはいえ、それでも懐中電灯を使うとか、いろいろと明かりを得る手段はあるはずだ。


 ごくり。誰かがツバを飲み込む。

 そんな微かな音すら聞こえるほど、わたしたちの神経は、謎の音のほうに向けて研ぎ澄まされていた。

 もちろん雨音は響いていたはずだけど、そんな雑音なんてまったく耳に入ってこない状態だったのだ。

 冷や汗が背筋を伝う感触までもが、はっきりと感じられた。


 やがて、職員室のドアの前までたどり着く。

 中からは確かに、なにかノイズのような音が響いてきていた。


「……開けるよ」


 ドアに手をかけながらわたしたちのほうに顔を向け、来武士くんは確認の声をささやく。

 一同は息を殺し、黙って頷きを返す。


 ガラッ!

 大きな音を立てて、職員室のスライド式のドアが開け放たれた。


 おそるおそる中へと入っていくも、先生方の机が整然と並んでいるだけだった。

 机の上には、基本的になにもない。

 ところどころ、持ち帰るのを忘れたのか、それともいらないから残していったのか、わら半紙の束などが置きっぱなしになっている机も見受けられたものの、それ以外にはなにも見当たらなかった。


 電気のスイッチのほうへと歩いていった美子ちゃんが、パチパチとスイッチを操作してはいたけど、明かりは点かなかった。やっぱり、電気はすでに止められていたのだ。

 廊下でも聞こえていた謎の音は、職員室の中で反響するように、より鮮明になって響き続けていた。

 みんな黙ったまま、それぞれ職員室の中へと散らばっていく。


「あ……これだ」


 土布先くんが、いつもと変わらない様子の落ち着いた声を上げる。

 そちらへ集まってみると、職員室の片隅に置かれたなにかから、その音は響いてきていた。

 そして、それは――。


「ラジカセ、だね」


 保黒さんがつぶやく。

 見れば誰もがすぐにわかるとおり、それはホコリにまみれた一台のラジカセだった。

 どうやら電源が入ったままになっていて、ラジオの音が流れていただけのようだ。

 ただ、チューニングダイヤルの周波数が少しずれていて、しっかりと受信できていない状態だった。ノイズまじりの音が聞こえていたのは、そのためだ。


「で……でも、電気、来てないはずだよね!?」


 わたしはそのことに思い至り、怯えた声を発する。

 屈んでラジカセを調べ始める土布先くん。

 真っ先に確認したコンセントの先は、どこにもつながっていなかった。


 それを見たわたしは、よりいっそう恐怖心を高めていたのだけど。

 土布先くんはすぐにラジカセの裏側を確認する。

 カチャリとプラスチックの部品を取り外すと、土布先くんは納得したように頷いていた。


「電池が、入ったままだ」


 その声に、わたしはほっと胸を撫で下ろした。


「……だけど、それならとっくに電池、切れちゃってるんじゃない?」


 美子ちゃんが冷静に反論する。


「う~ん……。リモコンで操作できるラジカセみたいだから、ずっとついてたわけじゃなくて、雷で勝手に電源が入ってしまったとか」


 そう分析する土布先くんだったけど、答えを返しながらも、ちょっと納得のいっていないような表情を浮かべていた。


「ああ、なるほどね」


 反論の言葉を発した当の本人である美子ちゃんは、その説明に、すっかり納得していたようだったけど。


 もともと美子ちゃんは、機械オンチというほどではないものの、そんなに詳しいわけじゃない。

 わたしもそうではあるのだけど、うちの場合、お父さんが電力会社に勤めているという環境にある。

 うろ覚えではあったけど、小さい頃からお父さんにいろいろと聞かされていたことを思い出しつつ考えてみると、なんとなくさっきの土布先くんの説明では納得できない気がしていた。


 電化製品の電源が勝手に入るのって、トラックとかの違法な無線のせいだとか、そういうのがよく言われている。

 雷が原因で、というのもないわけじゃないとは思うけど、それにしたってその場合、もともと待機状態だったということになるはずだ。

 ずっと入れっぱなしだった電池で動作している状態のラジカセ。

 待機電力だけとはいえ、廃校となってから三年近く経ったはずの今まで電池が残っているものだろうか?


 謎は残るものの、わたし自身も大した知識があるわけじゃない。

 実際に今こうして目の前でラジカセは動いているのだから、そういうことだってあるのだろう。


「ま、音の正体がわかってよかったな!」


 来武士くんが明るい声を響かせ、パチリとラジカセの電源を切った。

 あまり深くは考えていないようだ。


 うん、でも、それでいいんだと思う。

 そんなことより、今はタイムカプセルを探すゲームに専念しよう。

 せっかく海路くんが用意してくれた、楽しいイベントなんだから。


 わたしたちは安堵の息をついて、職員室をあとにした。


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