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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第3章 家庭科室にて、レッツ・ダンシングです~
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-2-

 小学生だった当時、普段から優しく声をかけてくれていた海路くんではあったけど、ときどきわたしに意地悪な言葉を投げかけてくることがあった。

 でもそれは、意地悪、というのとはちょっと違っていたのかもしれない。


「あっ、海路くん、リボンが曲がってるよ?」


 小学校の頃のわたしは、女子でも男子でもあまり気にせず接していた。

 今もそれほど変わってないけどね、と美子ちゃんには言われてしまうけど。

 とはいえ、まったく男子のことを意識していないというわけでもなかった。

 だからこそ、なぜか少し女の子っぽい服を着てくることが多かった海路くんには、男子だというのをほとんど意識せず、気楽に話しかけられたのだろう。


 それにしても海路くん、可愛らしいリボンのついた、薄いピンク色のブラウスを着ていたなんて。

 今になってよくよく考えてみると、男のくせに気持ち悪いとか思われて、距離を置かれてしまうような男子だったのかもしれない。

 だけど、当時のわたしは、全然そんなふうには思わなかった。


 今日の海路くんはワイシャツ姿で、さすがに女の子みたいな格好はしていないものの、なんとなく仕草が男性っぽくない気はする。

 もちろん、全然嫌じゃないし、むしろ、ちょっと美形で可愛い系の顔立ちだから、思わず目を惹かれるほどなのだけど。


 それはともかく、そんな小学生の当時、夏休み直前くらいだったはずなのに、海路くんはいつもどおり長袖の女の子っぽい服を着ていた。

 襟もとに添えつけられたリボンが斜めになっているのを発見して、わたしは直してあげようと手を伸ばした。

 そして、少し屈んで胸の辺りにあるリボンを両手で軽くつかみ、左右のバランスを整え始める。


 わたしの髪の毛が、海路くんのすぐ目の前で揺れる。

 美子ちゃんいわく「思わずはたきたくなるような頭」のわたしだから、少し敏感になっていたのかもしれない。

 はたかれちゃうかも、そう思ったのか、ばっと後ずさりして身を離してしまった。


 当然ながら、海路くんは美子ちゃんみたいに、わたしの頭をはたいたりなんてしなかったけど。

 心なしか頬を赤く染めた海路くんは、妙に色っぽく思えた。

 ぼーっとその顔を見つめていたわたしに、


「これくらい、自分で直せるから。……だいたいそんなに、べたべたくっついてこないでよ、暑いんだから!」


 海路くんは真っ赤な顔のまま、そんな言葉を返してきた。

 暑いなら長袖なんて着てこなきゃいいのに。

 なんて意地悪な反論を、今なら思い浮かべたりしそうなところだけど。

 このときのわたしは、せっかくリボンを直してたのに、どうしてそんな言い方をするの~? と沈んだ気持ちになってしまった。


 だから、


「でも~……」

「でもじゃなくて!」


 言葉を挟む隙もないほど、わたしを拒絶するような声を向けてくる海路くんに対して、


「海路くんの意地悪~……」


 と、うめき声をしぼり出すことしかできなかった。

 今となればそれは、海路くんだって男の子だから、女の子がべたべたくっついてきた恥ずかしさの裏返しで、ついつい強く言ってしまっただけなのだということもわかるのだけど。


 それにしても、海路くんはどうしていつも、あんな女の子みたいな服を着ていたのだろう?

 色白で肌が焼けるのを気にしているようだったというのも、女の子っぽい感覚と言えるかもしれないし。

 無神経なわたしは、当時、直接海路くんに訊いてみたこともあったのだけど、曖昧な答えしか返ってこなかった。


 美子ちゃんに意見を訊いてみても、う~ん、どうしてかしらね~? と、いつものいたずらっぽい笑みを浮かべるだけだった。

 べつに病弱で肌が弱いってわけじゃないみたいだったけど、どうしてもその理由にまではたどり着けなかった。


 ご両親が可愛いもの好きとかで、海路くんは男子だとわかっていても、可愛い服を着せたくなってしまうとか、そんな感じなのかな~、と勝手に考えていたのだけど。

 海路くんには、ふたつ上のお姉さんがいるということを、あとになってから知った。


 両親が可愛い服を着せたいだけなら、海路くんじゃなくて、お姉さんのほうに着せるのが自然だよね。

 そう考えると、全然わからなくなってくる。

 ともあれ、そんなふうにちょっとした謎を持っていたことも、海路くんのことが気になった理由のひとつだったのかもしれない。


 このとき以外にも、無神経にべたべたくっついたりすると、そのたびに当時の海路くんはわたしを軽く突き飛ばしたりして恥ずかしがっていた。

 そういった行動を受けた鈍感なわたしは、嫌われちゃったのかな、なんて思って悲しい気分になっていた。

 嫌われていると思ったら自ら離れていくのが普通の感覚なのかもしれないけど、わたしの思考回路的には、嫌われたくないからもっとお喋りしよう、という考えに向かっていくようで。

 それはほとんど無意識の行動ではあったのだけど、海路くんに対して、わたしはよりいっそう積極的に話しかけるようになっていった。


 無意識的にではあったけど、わたしはべたべたとくっついてしまったりもして、また海路くんから拒絶の言葉を受けて……。

 メビウスの輪のように、ちょっとねじれた感じの、エンドレスな世界が続いていくことになった。


 そんなわたしと海路くんの様子を、美子ちゃんはいつも黙って眺めているだけだったのだけど。

 あからさまに抗議の声を向けてくる人もいた。


「まったく、あなたたちはいつもいつも……。教室内でべたべたしないでよね」


 それは、学級委員の保黒さんだった。

 抗議の声とはいっても、それほど刺々しい言い方をされるわけでもなかったし、わたしもそう言われたら素直に従っていた。


 ただ、保黒さんの発言は、少し真面目すぎるようにも思う。

 そりゃあ、教室内で男子にべったりくっついていたわたしが全面的に悪かったのは確かなのだけど。

 たまにわたしは、思わず不満顔を浮かべてしまうこともあった。


「ほらほら、笑歌。もう休み時間終わるわよ。席に着きましょう。保黒さんも、海路くんも、ね」


 そんなときはいつも、微妙な空気が流れ始めているのを感じ取ってくれたのか、美子ちゃんが場をなだめて事なきを得ていた。

 やっぱり美子ちゃんは、頼りになるし美人だし、女性として見習いたい存在だわ。


 そういえば、小学校の当時からちょっと大人びた雰囲気だった美子ちゃんは、男子になかなかモテていた。

 何度かラブレターをもらっていたようにも思う。

 それなのに、おつき合いを始めた、という話を聞いたことは一度もなかった。


 もしそんなことがあったら、いくら鈍感ではあっても、毎日のように一緒にいる親友のわたしが、気づかないはずがない。

 おそらく、全部断っていたのだろう。

 そう考えてみて、なんとなくホッとしているわたしがいたりもして。


 どうしてそんなふうに思ったのか、それはよくわからないけど、とにかく美子ちゃんとはずっと親友でいたいと、今でもわたしは思っている。



 ☆☆☆☆☆



 バシバシバシ!

 わたしは突然頭に襲いかかってきた痛みに、いやおうなく現実へと引き戻された。


「懐かしい校舎だけど、これだけ薄暗いと別物みたいに思えるわよね~」


 そうつぶやきながら、美子ちゃんは意味もなくわたしの頭をはたき続ける。

 はたいている理由はきっと、なんとなくとか、目の前にあんたの頭があったからとかなのだろう。


 こんな不条理な子が親友で、わたしは本当にいいのだろうか?

 自然と疑問が浮かんでくるものの、浮かんだ途端に美子ちゃんの平手打ちを頭に受け、そんな疑問はどこか空の彼方へと飛ばされてしまうのだった。


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