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なつまほ  作者: 沙φ亜竜
第2章 思い出ゲームの、始まり始まりです~
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-4-

「さて、それじゃ、掘り返すか!」


 来武士くんが本題に入ろうと声を上げる。

 そうだった、みんなが集まってそれだけで嬉しくなっていたけど、今日の一番の目的はタイムカプセルを掘り返すことだったんだ。


「……掘り返すって、手で?」


 保黒さんの冷静なツッコミに、一同は辺りを見回す。

 タイムカプセルを埋めてあるはずの、「みんなの木」の周囲の地面が踏み固められているのは、さっきも言ったとおり。

 だけどわたしたちは、穴を掘るための道具なんて用意していなかった。


「はははは。なんというか、行き当たりばったりなおいらたちらしいな!」


 なんておどけた声で笑う来武士くん。

 ……いやいや、笑ってる場合じゃないでしょ。


「あそこ、体育倉庫」


 土布先くんが校庭のほうを指差して控えめにつぶやいた。


「そっか、あそこになら、シャベルくらいありそうだよね」

「んじゃ、取りに行ってくるか。カギ、開いてるかな……?」


 男子三人はそう言うと、体育倉庫に向けて駆け出す。

 いくらシャベルを取りに行く程度とはいえ、力仕事は男子の役目、と言わんばかりの自然な行動力に、ちょっと頼りがいを感じた。


「あたしたちは、ここで待ってるわね」


 男子たちの気遣いを素直に受け、任せることにしたのだろう、美子ちゃんは笑顔で送り出す。

 わたしを含む他の女子も一緒に、男子の背中に向けて「行ってらっしゃい」と声をかけた。

 わざわざ振り向いて笑顔で手を振り返してくれた海路くんの背中を、わたしはその姿が体育倉庫の中に消えるまで、ずっと見つめ続けていた。

 どうやらカギは開いていたみたいね。よかった。


「それにしても……。笑歌ってば、ずう~~~~~っと海路くんのほうばっかり見てたわね~」


 男子たちが体育倉庫の中に入り、女子五人が残された状況になると、美子ちゃんがニヤニヤニヤと笑いながらそんなことを言い出した。


「ひゃう!? べ……べつに、そんなこと……」


 ないもん、と反論したいところではあったけど、自分で思い返してみても、ほとんどずっと海路くんのことを見ていたのは紛れもない事実。

 わたしは嘘をつくのは極力避けるようにしている。どうせバレてしまうから。

 というわけで、思わず口ごもってしまった。


「相変わらず江窪さんは、わかりやすいな~」

「ほんとですわよね~。当時から好きだったんでしょ~?」


 二之腕さんと頬さんまで一緒になって、いやらしい笑みを浮かべながらわたしを攻め立てる。


「あはっ、そうなんだ~!」


 蚕ちゃんもわたしを囃し立てる側に回っていた。

 そんな中、ただひとり保黒さんだけは笑顔を浮かべてはいなかったのだけど、それでもわたしのほうにじっと目を向けているようだった。


「笑歌は、わかりやすすぎだからね~。そんなだからわたしも、ついついからかっちゃうのよね~!」


 バシバシバシ。


「な……なんで、はたくの~?」


 美子ちゃんは笑顔を浮かべながら、いつものようにわたしの頭をはたき始める。

 そうやって頭をはたくのは、わたしのことを親友だと思って好いてくれているからだって、わかってはいるけど。

 でも、ちょっと強く叩きすぎ……。


「今日は笑歌のために、頑張っちゃおうかな~」


 ニヤニヤニヤ。

 いたずらを思いついたときの顔をしながら、美子ちゃんは楽しそうにはしゃいだ声を響かせる。


「なによ、それ~? なにを頑張るっていうの~? だいたい、美子ちゃんの場合、変なことしそうで怖い~」

「ふっふっふ、よくわかってるじゃないの」


 バシバシバシ。


「はうあう~。美子ちゃん、意地悪だよ~」


 美子ちゃんはやっぱり、わたしの頭をはたき続けていた。


「う~ん、江窪さんと吹浦萩さんは、相変わらずだな~。今でも頭をはたいてるんだ」

「継続は力なりと申しますものね、よいことですわ~」


 二之腕さんと頬さんも、そう言って納得している様子。


「こ……こんなこと、継続されても困るよ~。それに、全然よいことじゃない~。……痛たたた……」


 抗議の声を上げるも、バシバシとわたしの頭をはたき続ける美子ちゃんの手は止まらない。

 そんな様子をじっと黙って眺め続けていた保黒さんも、やっと笑顔になっていた。

 ただなんとなく、微妙に愁いを帯びているように感じたのは、わたしの気のせいだろうか。


「お待たせ~! ……ん? お前ら、どうかしたのか?」


 すぐに、シャベルやスコップを抱えて、パタパタと駆け足で男子たちが戻ってきた。


「ん、来武士くんはカッコいいな~って、話してたのよ!」


 真っ先に質問を投げかけてきた来武士くんに、すかさず真っ赤な嘘を返す美子ちゃん。


「ほうほう、そうか~! お前ら、素直だな~! そうかそうか、おいらってそんなに、カッコいいか~、参ったな~!」


 来武士くんは美子ちゃんの言葉に、嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。


「いやいや、冗談よ?」

「ガーン!」


 上げておいて思いっきり突き落とす美子ちゃんの言葉に、ショックを受けたことを大げさな動作で示して応える来武士くん。

 ……今どきなかなか、こんな驚き方しないよね。

 とはいえ、そんなやり取りで、場の雰囲気はさっきまでにも増して明るくなっていた。

 なんだか美子ちゃんと来武士くんって、すごくいいコンビなのかも。


 さっきの美子ちゃんじゃないけど、ふたりの仲を取り持つために、今日はわたし、頑張っちゃおうかな。なんて気になってしまう。

 もちろん、いたずらっぽい意味を込めて。

 ふっふっふ、日頃の恨みを思う存分返させてもらうわよ、美子ちゃん!


 わたしの頭の中は、そんな意地悪な考えで満たされていたりしたのだけど、美子ちゃんにいたずらなんてした日には、十倍以上になって返ってくるというのを、このときのわたしはすっかり失念していた。

 もっともそれ以前に、浅はかなわたしなんかのいたずらに、美子ちゃんが引っかかるはずもないのだけど。


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