本日のお姉様は、笑みを見せてくださるようになったそうです。
無事に転職出来た関係で、全然筆が進みません!
閉じていた瞼に光が差し込む。
まるで朝を告げる合図のように、まどろんでいた意識がゆっくりと覚醒していく。
目を開けると、すぐそばで侍女のミアンが支度を整えていた。
「おはようございます。フローラ様」
「……おはよう」
ミアンに櫛で髪を梳かしてもらいながら、フローラはふあと小さく欠伸を漏らす。
「まったく、ロゼリア様を見習っていただきたいものです」
「……お姉様は?」
「いつもの場所に、もういらっしゃいますよ」
そう言われて窓の外へ視線を向ける。大きな木の影の下、ベンチに座るロゼリアの後ろ姿が見えた。
ロゼリアはいつも決まって、そこで読書をしているのだ。
淡い紫色の髪が朝の光を受け、少し銀色に近い色合いに輝いていた。フローラは、その髪色を幼い頃から羨ましく思っていた。
ローゼンベルク家では、血が濃いほど髪は銀色に近づくと言われている。
母が赤みの強い髪色のため、ロゼリアは淡い紫色。そしてフローラは、少し桃色がかった紫の髪だった。
年齢の差もあるのだろう。
けれど昔から、ローゼンベルク家の跡取りはロゼリアだと皆が口にしていた。
「でも、最近のロゼリア様。どこか思い詰めていらっしゃるように見えるんです」
「お姉様が?」
「考え事が増えたというか……。それに、前より笑みを見せてくださるようになりました」
ミアンの言葉に、フローラは一瞬だけ動きを止めた。
「……いま、なんて言ったの?」
「え? 考え事をされていると――」
「その後よ」
「ああ!ロゼリア様が、以前より笑みを向けてくださることが増えたんです。何かいいことでもあったのでしょうね」
幼い頃から、ロゼリアとフローラのそばにいる侍女ミアンがそう言うのだから、間違いではないのだろう。
(ど、どういうこと……?)
「わ、私は……幼い頃に一度微笑まれただけなのに! ロゼリアお姉様の笑顔なんて、ほとんど見たことないのに!」
思わず声を荒げたフローラに、ミアンはきょとんと目を丸くする。木陰のベンチでは、ロゼリアがいつものように本を開いている。
遠くからでは表情までは見えない。けれどその横顔は、昔と同じく静かで、近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
(……私には、あんな顔しか見せてくれないのに)
「フローラ様は本当に、ロゼリア様がお好きですね」
混乱して考え事に没頭しているフローラには、その言葉は届かなかった。
この時のロゼリア▶︎ノートにこれからの計画を記入していた。




