とある婚約破棄の後始末 ~どうやって償うつもりだ~
「ディード! 貴様がハンナに嫌がらせしていたことは明らか! よって貴様との婚約を破棄し、未来の王妃に対する不敬により拘束する!
牢にぶちこんでおけ! こんな奴は一般牢でいい!」
年に一度の王家主催の大夜会。
ここでは、その年デビュタントの子女も参加するため、国中の貴族が集まる。
その開始間際の会場で、王太子候補であるイサミア王子が高らかに宣言した。
突然王子に婚約破棄を突きつけられたオードリー・ディオード伯爵令嬢は、突然のことに混乱していた。
「殿下、発言をお許しくだ…」
「聞く耳持たん! 衛兵! さっさと連れていけ!」
両脇を衛兵に抱えられたオードリーは、無理矢理引きずられていった。
少し離れたところで挨拶をしていたディオード伯爵夫妻が気付いた時には、既にオードリーの姿はなかった。
会場に集まっていた貴族達は何事かと見守っていたが、特に発言することもなく、間もなく王が入場したこともあって、何事もなかったように夜会は始まった。
ディオード伯爵夫妻以外は。
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翌朝、王子は王に呼び出された。
「ディオード伯爵は知っておるか?」
「名前だけは」
「昨夜ディオード伯爵家から問い合わせがあった。
夜会に参加したはずの娘の姿がない、馬車にも戻っておらんと。
調べたところ、令嬢は牢におった。
お前が命じたそうだな」
「私は知りません!
私が牢に入れたのは、ディード・トバッチーリです!」
「調べたところ、トバッチーリ公爵令嬢は夜会には参加しておらなんだ。
お前が迎えに来るのを待っていて参加しそびれたとのことだ」
「なんですって!?」
「つまり、お前は、人違いで何の咎もない貴族令嬢を牢に入れたと、そういうわけだな」
「しかし、その娘は何も…」
「お前が発言を封じて捕らえさせたと確認できておる。
ディオード伯爵令嬢は、昨夜がデビュタントだったのを、お前のせいで参加できなくなった上、衛兵に取り押さえられ、あろうことか一般牢に放り込まれたのだ!
この汚名は生涯ついて回ることになる。
まともな縁談も望めまい。
件の令嬢に対する賠償案を貴族院に提出せよ。
貴族院の承認が下りるまで、自室を出ることまかりならん」
王子は自室に軟禁され、扉の前には騎士が2人立つことになった。
賠償案を書き上げた王子は、提出のため部屋を出ようとして、騎士に止められた。
「何のマネだ!?」
「決して部屋をお出ししないよう、陛下に厳命されております」
「王子である俺の言葉が聞けないのか!」
「陛下の命です。部屋から一歩も出すなと」
「これを貴族院に持っていくのだ!」
「では、侍従にお渡しください」
「後で覚えておけよ!」
2日後、賠償案は貴族院の承認を得られず突っ返された。
承認されない理由は明確には示されず、「これでは足りない」というものだった。
その後、王子は新たに案を二度提出したが、いずれも承認されなかった。
そして、8日後。
王子は、王に呼び出され、ようやく自室を出ることができた。
「王子という身分を笠に着て、部屋を出ようとしたそうだな。
それに賠償案も何度も突っ返されたとか。
いったい何をやっておる」
あの騎士ども、余計な告げ口を、後で覚えてろよ、と思った王子だったが、口には出さなかった。
「ともかく、ディオード伯爵令嬢に対する賠償措置が決まった」
「私の案が承認されたということでしょうか」
「いや、貴族院からの上奏だ。お前の案は話にならんそうだ。
その前に、まず、お前の王位継承権の剥奪が決まった」
「ええっ!? それでは私は…」
「形式的には、臣籍降下となる。
それも含めて賠償の方法が決まった。
よかったな、トバッチーリ公爵令嬢との婚約は当然解消される。お前の有責でだが」
「しかし、ディードはハンナに嫌がらせを…」
「自分の婚約者とよその令嬢の区別も付かぬ者が何を言っても無意味だ。
そのハンナとやらも、ディオード伯爵令嬢が連れ去られるのを止めもしなかったのだから、トバッチーリ公爵令嬢の顔を知らんということだ。
そんな娘の言うことは訊くだけ無駄だ。
貴族院からは、相手が何者かさえも確認することなく一方的に処断するような者が王になれば国が滅ぶと言ってきておる。
そして、ディオード伯爵令嬢に対する賠償だが、バショー侯爵に任じて、お前の臣籍降下に伴う年金を支払うことにした」
バショー、それは王子が現在持っている領地の名だ。
それはつまり
「私の領地を与える、と仰るのですか?」
「そうだ、お前は臣籍降下してバショー侯爵となるが、直ちに隠居する。実質は幽閉だな。
そして、ディオード伯爵令嬢を余の養女として迎え、バショー侯爵を継がせる。
心静かに暮らせるよう、領地経営などは代官にやらせる予定だ」
「それでは、私は…」
「お前のせいで人生を狂わされた罪なき令嬢に詫びながら過ごすがいい。
王家が彼女にしてやれることは、社交も領地経営もせず何不自由のない生涯を送らせてやることだけだ。
彼女の世話をする者には、不興を買ったら一族郎党処刑すると伝えて監視も置いてある。
これでもまだ辛い思いをさせるであろうよ。
せめてお前は死にたくなるくらいの苦しみを味わいながら生きていけ」
「ハンナは! ハンナはどうなるのです!」
「貴族の娘を陥れたのだ。極刑は免れんな」
「そんな! ハンナは何も…」
「冤罪を突きつけられているところでお前を止めなかったことが罪だ。許すことはできん」
王子は、しばらく部屋に監禁された後、バショー侯爵に叙せられ、直ちに幽閉された。
ハンナがどうなったかは、知らされることはなかった。




