召喚された瞬間にスキルが暴走し聖女さまを『テイム』してしまったので国外目指し逃走中!!
オレの名前は直喜 雄志。
聖女さまが言うには『召喚勇者』で『魔王を討伐するための戦士』だ。
いや、その使命はそもそもまだ出現してない魔王対策だった、と言うので気にしなくて良いそうなんだけど。
それで『事故』っていれば世話はない。
うん、オレ、『召喚事故』を…… しでかしました。
いや、いやいや、言い訳させてほしい、オレの意思は含まれてない。
テイマー、使役者という能力を与えられ召喚されたオレは、目を開いた瞬間にその能力を解放してしまったんだ。
青い稲光のようなモノが身体から放たれたと思った瞬間、近くに居た人々にソレが突き刺さっていたんだ。
止めるヒマもなかったよ……。
で、結果、召喚の儀式に立ち会っていた聖女さま、さらには魔法使いさんたち十人にスキルを使用して、服従させてしまった。
その姿はあられもない、抵抗能力を持っていた装備は砕け散り、半裸状態で腹を上に向けてオレを見ていた。
いわゆる『ヘソ天』である。
実家が大型犬のブリーダーなんてやっていたので、犬の『服従のポーズ』だと知っていたけれど、今までのオレは本当に普通の学生だったんだ。
それが、異世界召喚でスキルが暴走し『聖女さま』たちを巻き込んでいただなんて。
「……最悪だ。コレ、どうすればいいんだ……!?」
無意識の呟きは、聖女さまが拾ってくれた。
この時は見た目で(ネックレスがハジケ飛んでローブが破けていたけれど)聖女さまかな、と思った程度だったが当たっていた。
お付きの神官さんらしきヒトは、なにかの残骸が顔面にヒットしたらしく気絶していた。
「あなたは現状打開を、お望みですか?」
「う、うん、はいっ、オレはどうしたらいいんですかね?」
「解りました、あなたの思うがままに…… 魔道師長さま、今回の召喚を『失敗』として報告なさいませ。他の目撃者全ての口封じ、お任せしても?」
「無論です。勇者さまのお望みのままに」
ザザッと素早く、さっきまで寝転がっていた老若男女が一斉に行動を開始した。
ヘソ天キメていた合計十一人が協力体制を構築し、記録だろうメモを燃やし、術式のためらしい機材を破壊し、数人が小さな扉から出て行った…… 揉み消しを始めたのだろう。
それは異様ではあったものの、さっきまでの『やっちまった』感を考えると希望の光景だ。
コレで、助かる?
そう思った次の瞬間、魔道師さん(?)が出て行ったのとは別の、この大広間のような石造りの部屋のメインであろう、大きな扉が開かれた。
《バァンッ》
「ソフィ、ソフィリア!」
王さまのような、王子さまのようなゴージャスな貴金属まみれの貴族らしい男性が踏み込んで来たのだ。
彼を対象にしそうになって、慌てスキルを抑え込む。
やっちまった感に流され、さらに大事にしてしまいそうだった。
……だが、むしろ彼も巻き込んでいたなら、あるいは。
オレが逃走し続けるコトにはならなかったのかも知れない。
「お父様」
「な、なんだその姿は!?」
そう、前述したが『スキルに抵抗する能力を持った装備』を破壊してしまい、聖女『ソフィリア・グィウリフト』さんの美しい肩や首もとがあらわになっていたんだ。
その『異常』に気づいた聖女さまのお父さんは叫ぶ。
「警鐘を鳴らせ!」
「グェイス王子、何がありましたか!」
「召喚事故だ、勇者ではない、犯罪者を招いてしまった!」
犯罪者呼ばわりにはうなずくしかない、のだけど、テイムされているヒトたちがいきり立つ。
まってまって、争い事はイヤだ、と思った瞬間に彼らはスンッとおとなしくなった。
え、言葉にしなくとも通じるの、この能力?
「こちらへ」
「わっ、聖女さま!?」
「ソフィとお呼びください、ここから脱出しましょう」
「逃がすな、アイツだ!」
彼の大声に警備の兵士が集まる。
しかし彼女はオレの手を引いて止まらない。
かなり、ちからが強い……!
「儀式の間からの通路をすべて封鎖しろぉ!」
魔道師さんの案内で通路を進むが、遠くお父さんの声は聞こえていた。
いいのかな?
聖女さまの立場とか、このままだと大変なコトにならない?
「ご安心を。初めてのご命令である『現状打開』……なんとしても果たして見せます。わたしの命を睹しても」
顔も見せず、彼女はそう言い切った。
すでに引かれる速度は駆け足だ、何度も角を曲がり扉を抜け、階段を下りた。
途中、先に抜けていた魔道師さんからマントと荷物カバンを押し付けられ「ご武運を」とサムズアップされてしまったけど、オレの言葉を、言わせて、もらえない、息が上がって、苦しい。
うう、帰宅部で運動オンチなオレに、急に走らせ、げほげほ、むせた。
流されるようにお城の外へ脱出し、庭園の垣根のスキマから飛び出すと、目の前に脚の速そうな馬車が待っていた。
「お乗りを。これからわたしと共に『大教会』を目指してくださいませ。そこならば、あなたさまの身の安全を保障できましょう」
「はひーっ、はひっ、はひーっ、げほげほげほげほ、っふ、えふ、うえっ、そこ、は、安全……?」
「はい。聖女の『駆け込み所』な側面も持っている場所なので、そちらに身を寄せるのが『現状打開』に一番近しいと我々は思います」
まだ呼吸が整わないが、思っているだけで会話できるみたい。
便利は便利?
かな。
「じゃあ、ソコ目指して、ふぅう、ふぅうぅ。落ち着いたらお父さんにも本当の話をちゃんとしよう」
「まぁお義父さん、だなんて、お気が早い……」
「いやそんなつもりは」
言って、聖女さまの姿をまじまじと見た。
純金製かと思うようなブロンドは豊かに、胸元までの編み込みは銀飾りでまとめられている。
南の海より澄んで深い青の瞳。
曇りなく白く、しかし温かみを感じる白い肌。
人形を引き合いに出すのもためらうくらい整った顔立ち。
小さな頭にほっそりとした手足、なのに仕草は柔らかい。
美女だ。
それも見たコトがないレベルの。
ゲームや映画じゃない、作り物めいた画面の中の存在じゃない、完璧に聖女さまな美人さんだった。
「そんなに見つめられると、困ってしまいます」
「っあ、ごめんなさい。名前も言わずに、ここまでしてくれてありがとう。オレの名前は雄志」
「ゆうし、さま。ゆうし、さま。ふふ、ゆうしさま……」
「言いにくいかな。友達にはユーシって軽く呼ばれてるので、それでお願いします」
「はい、ユーシさま」
☆
そんな逃走劇が始まったワケだが…… 最悪だ……。
オレは聖女さまをたぶらかした『誘拐犯』として、馭者をしてくれている魔道師のスケィカークさんと共に指名手配されていたんだ。
「こちらの心配は必要ありませんぜ、旦那さん」
「元よりこちらの都合であなたさまをこちらに誘拐したも同然、それをあなたのみ断罪されるのは道理に合いません」
「いや、でも、さ。君たちをこう使い倒しているようなモノだし。この馬も巻き込まれて休みも少なく走り通しだろ。申し訳なく思っちゃうよ」
「お優しい…… さすがはわたしのだんなさま」
「いや、ええと、演技だと解ってても美人にそう言われると困っちゃうよ」
どうなってしまうんだろう、この先。
追っ手は次から次へと現れた。
現状に至った理由は聖女さまから何通も手紙にして送っているのだけれど効果ナシ。
ソフィのお父さんは貴族ではなく『第四王子さま』という立場だと後から聞いた。
しかし手紙は読んでないらしい。
目の前で娘をさらって逃げてしまったから信用などされないのか…… ホント、どうしたらいいのかなぁ。
実際はさらってないですよ、なんて言われたってな……はあ、最悪だ。
ただ、困ったコトは他にもある。
身の回りの世話を任された、と認識してしまったらしい聖女さまは、なぜか関わる女性すべてをライバル視しており、ある宿のおかみさんなどに対しては……。
『あの方に近寄らないで……』
と、泣いてお願いする場面もあった。
……いや、未亡人ってちょっと特別に見えるよね、ってスケィカークさんと話していただけなのに。
どこで聞いてたんだろう。
え、お風呂での会話だったよね?
そんなこんなで、朝起こしに来てくれて、お昼が必要であればお弁当を用意してくれて、食事の好みをほぼ把握して、生活リズムに合わせた行動計画など作るようになっていたんだが、何度もクラクラさせられてしまう。
「おはようございますだんなさま。うふふ、新婚さんみたいで、くすぐったい……」
「そ、ソフィ、名前で呼んで欲しいんだけど……」
「追っ手に察知されてしまいますからね、仕方ないですわ」
声にした言葉を察知する道具がある、とかで名前で呼べなくなったから、仕方なしにオレは聖女さまを『ソフィ』、彼女からは『だんなさま』、スケィカークさんからは『旦那さん』と…… 旅の連れ合いのように振る舞っていた。
でもなんだろな、新婚でなくともさながら聖女なのにメイドさんみたいに彼女は甲斐甲斐しい…… 距離が近くてとっても困ってしまう。
馬車での野宿などはしっかりオレは外で一晩眠れず過ごしたりだけど、その後は聖女さまのヒザマクラなんてされてしまっていて。
距離が近くてとても良い香りとか柔らかい手のひらとか、ううん、ちょおっと離れようか、男女の仲でもなしに、密着はいけない。
「ふ、不敬ですよね、すみません」
「いえ。いいえ。わたしはすべてを使ってあなたの願いを叶えます。ですから、今だけでもおそばに置いてくださいませ…… それにこんなに可愛いくて愛しいお顔の男性なんて…… 初めてなのです……」
言葉尻が掠れていくので、聖女さまの祈るような言葉は聞き取れなかった。
☆
追っ手は毎日のように現れ、しかし聖女さまを信奉する貴族さまとか、開拓地の人々に助けられてオレらは国境まで至るコトができた。
そんなこんなで召喚されて十日。
ついに『関所』に辿り着いた。
だが当然のように見張られているし、王子さまなお父さんからの命令もあり、警戒体制強化されたソコは兵士でごちゃごちゃしていた。
だからこその付け入るスキマがある、らしい?
「だんなさまにもご協力いただかないといけません」
「そりゃモチロン何でも言ってよ。何をする?」
「ふふ…… じっとしていて、くださいませ」
この計画は聖女さまファンクラブという貴族女性たちにより立てられたモノで、詳しく聞く前に巻き込まれていた。
……だからって、コレは最悪だ。
なんでオレが『女装』させられてるんだ。
「木の葉を隠すなら森の中、美人を隠すなら美人たちの中、だ、そうです」
「旦那さん、よく、お似合いです…… 本気で化けましたね」
「基礎が素晴らしかったので」
一時間くらい、あーだこーだと聖女さまにいじくり回されて…… 自分の顔がどうなっているのか解らないけど、旅芸人の一団に紛れ込んだオレたちは何事もなく通過できた。
ちなみにスケィカークさんは自分だけなら魔法で『彫刻』のように硬質化できる。
見事な美術品として彼も通過していた。
あー、ムキムキなのって、いいよなぁ。
オレ、動いても筋肉にならねーんだもん、不公平だ。
☆
さて、旅の一座のお手伝いをしてから(仲間入りを熱心に願われたが)別れ、大教会まであとわずか。
だが追っ手はやはり絶えず、大教会の前で見張っていたんだ。
今までは、だいたい聖女さまのちからで骨抜きにしてスケィカークさんが眠らせる、というコンボで乗り切っていたものの、今回は眠りの魔法が効かなかった。
対策を立てられていた、それを隠しての不意打ち返し…… まずい、聖女さまのちからは連発できない。
「危ないー!」
「うぐ、お逃げください、旦那さ、ん……」
聖女さまは自身に手出しされないだろう、として弓矢からオレを守っていた。
しかしスケィカークさんはすでに射撃されてしまい、道路に倒れている。
もう大教会は見えているのに、街道の途中で囲まれたオレたちは絶体絶命。
《ビョゥッ》
《ドスッ》
そして死角から射掛けられ、オレの背中には一本の矢が突き立った。
「……ぐぅ……っ」
「い、イヤぁあああっ、だんなさまぁあぁああ!!」
《ビカァアアッ……》
瞬間、聖女さまのちからが今までになく広がり、その場を満たす。
青白く、そして緑に光り、世界の音を奪った無形の奔流。
オレは目を奪われ、背中の痛みを忘れていた。
いや?
背中に『矢』が、刺さってない?
痛みがなく、いやそれよりも、と地面から起き上がって聖女さまを確かめる。
彼女も倒れており、急いで抱き上げた。
その時、オレの背中に残っていたらしい矢が地面に落ちる。
「よ、かった…… ご無事なのですね?」
「ソフィのおかげだよ。なに今の、爆発っていうか、ちからがなん倍にもなった津波みたいなのは」
「だんなさまを癒さなきゃ、今すぐにって、恐ろしくて。お祈りの手順なんて考えられずにやったのです。自分でもビックリで息が止まってました……」
「おふたりとも、ご無事でしたら今のうちです」
スケィカークさんの言う通りだった。
さっきのちからの余波か、彼のケガも治っていて、追っ手の誰もが呆然としており…… 今なら脱出できそうだった。
そして、オレたちは戦闘行為禁止にして他国から不可侵の領域である『大教会』への駆け込みに成功した…… したのだけれど、いかに宗教施設とはいえ目の前でバトルしたのはマズかったのかな?
係員さんたちに詰め寄られ、スケィカークさんの説明に納得していないような。
「聖女『ソフィリア・グィウリフト』……あなたは星の聖女と成りました」
「……星の聖女?」
そうじゃなかった。
さっきソフィが振るったちからは、聖女という枠から飛び出した『特別な神子』というちからの在り方だったらしい。
そのため、その存在をどうするのか教会内部での話がまとまるまで彼女の身柄はここから『誰の命令であろうと動かせない』コトが決まった。
当然、建前でお付きのヒトであるオレもだ。
助かっただけじゃなく、長い期間の安全が保障されるコトになった。
「だんなさま…… いえ、ユーシさま。ご命令を完遂する事が叶いました。さあ、次なるご命令をくださいませ。皆がちからを合わせ、何をもってもお応えいたしますわ」
聖女さまと魔道師さんが並んでかしこまるのも慣れてきた、慣れちゃったけどさ。
「なら、このテイムを解除する方法を探したいんだ。みんなを自由にしたい」
うん、そう、お城に残っていた魔道師さんたち、色々試されたそうなんだけど解除されてないんだよね。
うわべだけ『あー治ったー(棒読み)』としていて、遠くから協力し続けていた。
オレのテイムスキルで服従させてしまったヒトは、魔法で解除できないんだって。
「解除して、自由になってもらってから、ちゃんとお礼を言いたいんだ。でないとオレの良いように働きっぱなしだろ。こんなのダメだ。こんなに一方的なのはフェアじゃないし、お礼がちゃんと伝わらないの、悲しいし悔しいじゃないか」
そう言うと、ふたりは笑った。
なんだよ、変なコトは言ってない、よな?
「可愛らしいだんなさまは本当にだんなさまですね」
「ここまでふたりきりを何度も何度も作ってるのに手出しできないヘタレな旦那さんですからねえ。そこがこそ、の旦那さんでもありますが」
なんだか、釈然としないけど。
何度も追いかけられたオレたちだが、どうにか大教会の片隅に落ち着くコトが叶った。
このテイム……『極大』って表記が加えられたスキルのおかげで異世界生活は波乱万丈。
元の世界に戻れる日は来るのだろうか。
「だんなさまの世界では、恋人はどのような振る舞いをするべきなのでしょう?」
向こうの日常をひっきりなしに聞いてくる聖女さまの存在もあって、この先も寂しさとは無縁でいられそうだけれどね。
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作者がハリキリます☆(*´▽`*)