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では、お手伝いしましょう

作者: つむぎ

覗いて下さりありがとうございます。

作中に、戦争を連想させる発言がありますが、決して軽視しているわけではありませんのでご了承を。嫌な方はブラウザバックを……。


 「国王陛下、やりましたね!」

 「これで我が国も助かりますね!」


 わぁ、という歓声の中、私はポツンと床に佇み周囲を見渡す。え?え?と挙動不審になりながら、たった今、食べようと思っていた鯛焼きがない事に気づく。


 「わ、私の鯛焼きが……」


 他に言う事あるだろうと思うが、動揺しすぎて頭が働かずに、とりあえず一番の欲望を口にしてみた。


 「女よ、喜ぶがよい。其方は聖女として選ばれこの国に来た。其方の聖力でこの国のために尽力してくれた暁には、褒美も考えてよかろう」

 

 金髪の背の高いイケメンが言う。凄い、顔が整っていて、アイドルだったら絶対人気出ただろうな。というか、言っている事が分からないんだけど?


 その後ろの壇上には、とても偉そうな男女が座っていた。多分、王様とお妃様だろうね。とりあえず、これが異世界召喚というやつみたいな事は、なんとなく理解した。


 「聞いているのか?其方、名をなんと言う?」

 「あ、すみません。神田ひなた、22歳、社会人一年目、そつなく物事をこなしますが、質のほどは保証できません。細かいルールが嫌いで面倒臭がり、無駄なことも嫌いです。甘いものが好きで、特に和菓子が大好きです。ストレスが溜まると甘いものに走ります」

 

 とりあえず自己紹介をしてみる。金髪男がわざとらしく片眉をあげた。


 「カンダ……?変わった名だな」

 「あ、名前は、ひなた。神田は苗字です」

 「そうか、ひなた。其方には北の暗黒樹に行ってもらい瘴気の浄化を行ってもらう」

 「あ、ごめんなさい。意味が分かりません。どなたか私が理解できるように説明して下さい」


 金髪男がムッとする。


 「今、言っているだろう?なぜ理解できぬのか。其方は瘴気の浄化をすれば良いのだ」

 「アルバート、そんな簡単な説明では聖女様は何も分かっていないようですよ。分かりやすく、丁寧に説明して差し上げなさいな」

 「うむ、そうだぞ、アルバートよ。我々の都合で召喚したのだ」


 あら、そのお二方は見方かな?


 「早く浄化してもらわねば、我々の暮らしが脅かされるぞ」

 「そうよ、瘴気はもう王都近くまで来ているの。何が何でも浄化してもらわねば」


 うん、勝手に召喚するほどだから、やっぱり自分本位な人達だった。


 「ひなたよ、時間がないのだ。手短に説明するので、しかと理解せよ」


 



 この国の王族貴族は魔法が扱える。そして、暗黒樹という森には、人々を脅威にさらす魔物が住んでおり、魔術師と騎士団はその魔物が襲ってくる度に討伐しなければならない。だが、その魔物が発する瘴気までは、魔術師の魔力では完全に浄化することができず、徐々に徐々に、瘴気が広がり人里まで害を及ぼしている。

 瘴気は、作物を駄目にし土地は枯れ、水は汚染されるため人は住めなくなり、いずれは魔物の住処となる。そして、今では王都近くまで広がっており、瘴気で住めなくなった土地の人々が王都近辺まで避難するまでになっている。今は耐えているが、王都の備蓄が底を付くのは時間の問題だという。そうなる前に浄化したいのだそう。

 

 「あの、質問が何点か」

 「よいぞ」

 「これまで、恐らく長い歴史があると思うんですが、その中で瘴気はどうされていたのですか?」

 「瘴気が強くなるにつれ、この国の者から魔力の強い聖女が現れて浄化していた」

 「現れて?じゃあ、今回も実際に聖女様が浄化を試みたけど無理だったと?」

 「あぁ、その聖女が彼女だ」


 アルバートが肩を抱いている女に気付く。いや、気付いていたけど目に入れないようにしていただけ。


 「それじゃあ、私はその方が浄化できなかった尻拭いをすればいいのですね」

 「なっ、不敬だぞ。マリーは私の婚約者でもある。それに、マリーは聖女の力を王都を守るために使っているのだ。それだけで相当な聖力を必要としている……そんな中、瘴気全体を浄化すれば、間違いなく彼女は命を落とすだろう……そんな事はさせられぬ」


 周りの人が、「あぁ、なんと慈悲深い王子だ」と感銘の声をあげる。

 マリーと呼ばれた女はアルバートの胸に顔を寄せ切なげに彼を見上げた。アルバートはそんな彼女に「私がついているから、大丈夫だよ」などと言っている。下手な芝居を見ているみたいだ。


 「えっ、じゃあ私はマリーさんの代わりに命を落とせってことですか!?」

 「なっ、其方、考えが捻くれているぞ」

 「いや、純粋な疑問ですよ。王子様の婚約者様の命は惜しいが、異世界人の命は惜しくないってことですよね?」

 「王都を守る彼女が、更に浄化のために力を使えば、命を落とすだろうってことだ。だから、新たに聖女を必要としているのだ」

 「あぁ、確かに」

 「異世界人は頭が悪いみたいだな」


 アルバートのその発言に周りがくすくすと笑い出す。マリーまで同情の眼差しを向けてくる。言っとくけど、勝手に連れて来たのそっちだし、土下座してお願いしてもいいくらいだからね。


 「それはそれは、大変申し訳ありません。では、私は、その大事な婚約者様が本来なら出来たであっただろう瘴気の浄化を、聖女として力不足な部分を補えばよろしいのですね?」

 「皮肉満載だな」

 「いやいや、情報の確認、共有は大事ですから」

 「……まぁ、そうだな。こちらにも事情があってだな。其方に浄化をお願いしたいのだ」

 「では、ご事情がお有りで、そちらの問題を勝手にわざわざ召喚した異世界の頭の悪い女に、瘴気を浄化してほしいと……尻拭いですね」

 「そんな言い方……ひどいです」


 やっとマリーが言葉を発した。本来ならあなたが、私の力不足です、協力お願いしますって言うべきだよね。

 なっとらんなぁ、社会人失格だよ。


 「其方……本当に捻くれた性格しているな」

 「私の性格なんてどうでもいいです。こうやっている間にも、瘴気は迫って来てるのですよね?だったら、浄化が必要ならさっさとしましょう。ささっとして、私は帰らせてもらいます」


 とりあえず、私が浄化できるかどうか試さないことには進まない。

 周りがざわざわする。


 「其方は帰れぬ。帰る魔法陣はないのだ」

 「はい?そんな馬鹿な事あります?召喚するなら帰る方法も考えとかないと、私はどうするのですか?」


 もしかして、なんて気付いていたけれど、本当に帰れないふざけた展開だなんて。

 勝手に召喚されたのは非常識満載だけどまだいい。聖女の尻拭いで私が浄化するのもムカつくけどまだいい。けれど、帰れないってのはさ、許せないよね?

 絶対帰ってやる。こんな不便そうな世界で生きられる自信がないもの。まず、食べ物を口にしたら腹を下すか、最悪死ぬ。


 「では、私が浄化を終えるまでに帰る方法を整えていて下さい」

 「生意気なっ!!そんな事に魔術師を割けるわけなかろう!ただでさえ、魔獣相手に忙しいのだ」

 「でも、ここにいる方々が私を呼んだ魔術師様ですよね?」


 私はマントを着た人達を見ると、一斉におろおろし始める。本当に帰る術がないの?

 

 「其方、なぜ帰りたがるのだ?浄化を終えれば、褒美も与えるし其方の暮らしは優遇されるぞ」

 「ここより、元の世界の方が絶対便利で快適ですもん」

 「何を!?この豪華絢爛な城の暮らしより、其方の世界の方が良いのか!?」

 「きっと、私にとっては、ですから。そんなにカッカしないで下さい……魔術師様、本当に不可能なのでしょうか?」


 マントを着た一人がフードを脱ぎ話し出した。

 わぉ、この方も整った顔をされている。アルバートがキリッとイケメンなら、こっちはサラッとイケメンだ。


 「やった事がないため、なんとも言えません。ただ、こちらから魔法陣を作動させて、もし失敗したとして、どこに飛ぶかも分からないまま行うのは、大変危険です」

 「そりゃそうよね」

 「でも、こちらの都合であなたを呼んだのですから、あなたの希望をできるだけ叶えられるようにしてみます」

 「勝手な事を言うな、ブラッド。其方は指示内のことだけ行えば良いのだ」

 「ですが……」


 コホン、と咳払いが聞こえた。


 「異世界人のひなたよ。帰る術は置いといて、とりあえず、この国のために浄化をお願いできんだろうか?もう、そこまで瘴気がやってきとるんじゃ」

 「ええ、私からもお願いよ。今はマリーの聖力で耐えているけれど、それもいつまで続くか」

 「母上、そのような言い方は、頑張っているマリーへ失礼ですよ」

 「でも、その娘が浄化できないのも事実じゃない。あなた達が貞操を守り欲のまま行動していなければ、そもそもここまで状況が悪くなっていないわ」


 王妃様がマリーを冷たく睨む。マリーはお腹を守るように抱えている。

 あぁ、そう言うことか。


 つまり、アルバートとマリーは婚前交渉で妊娠し、マリーは胎児のために聖力をセーブしているのだ。そして、それを補うために私が召喚された。

 瘴気に曝されると、健康な人ならば数日は問題なく過ごせるが次第に体調不良となっていく。だが、子供、高齢者、傷病者など身体が弱い者はその被害が顕著に早い。妊婦、胎児は尚更ということらしい。

 なぜ、王都のみを守っているのかと不思議だった。それが、胎児を守るため力をセーブするうちに、あれやこれやと追い込まれたらしく、王族のいる城を安全地帯としてその身を守っていたのだ。

 王族を守るという意味もあるのかもしれないけど。


 アルバートとマリーは二人寄り添うように立ち、懇願するように私を見る。赤ちゃんを守りたいという気持ちか……それは、母になった事のない私でさえ痛いほど分かる気がする。


 だからって、関係のない異世界人を召喚はないでしょう。まぁ、召喚されてしまったので仕方ない。


 「こうして、マリーさんと赤ちゃんが無事でいる反面、王都の向こうでは瘴気に晒されている同じような妊婦さんもいるかもしれない。ですよね?」

 「しかし、この子は私の子でもある。王族の血筋を最優先に守ることは当然だ」

 「勿論です。そこは、ここの事情がお有りでしょうから。ただ、私はこの国民のために今から浄化をします」


 もう、とりあえず浄化して、終わってから帰る方法をあの魔術師さんと考えよう。


 「では、瘴気を見渡せる場所に案内します」


 そこからは、城下町をも見渡せるバルコニーへ案内された。その途中で先程の魔術師のブラッドさんに浄化の方法について確認した。

 

 「魔術師さんと聖女って何が違うのですか?」

 「違いはその魔力量です。聖女は桁違いに魔力が強く、浄化を行える。魔術師は浄化は行えませんが、瘴気が広がらないように留めたり、結界を張ることはできます。なので、今、王都とその周辺のまだ汚染されていない土地は、魔術師と聖女様で結界を張り、保っているのです」

 「なるほど。マリーさんはとても魔力が強い方なのですね」

 「そうですね。昔、同じように瘴気で国が滅ぶ寸前に、魔力の強かった女性がその命をかけて浄化し、国を守りました。それから、神の恩寵を受けた気高い女性という意味で、浄化できる者を聖女と呼んでいます」


 バルコニーから見た景色はとても奇妙だった。王都は明るく澄んだ空気をしているのが分かるが、その周辺は空が黒く見えて今にも飲み込まれそうであった。

 城下町の遠くに、国民だろうか。避難して来る人だかりが見えた。

 本当に切羽詰まっていたみたい。

 私はバルコニーに立つ。魔法なんて使ったことないのに、そもそも出来るのか不安になった。背後には国王陛下を始め、あの場にいなかった貴族まで部屋の中で見守っている。


 私は手を伸ばす。手先に魔力を集めるイメージをする事で淡く光出した。


 おぉ!すごいっ!本当に魔法が使える!


 そこからは、あっという間だった。私の手から光が溢れて、頭上へ光の柱が伸び広がった。そして、王都を超え、黒い空を包むように光る。

 キラキラ空全体が光る様子は、とても幻想的だった。

 

 私がイメージした通りに浄化できた。


 わぁぁぁ!という歓声が城内外からも聞こえるくらい人々が喜んでいるのが分かった。

 それと同時に「な、なんだ!?」と慌てふためく声もした。


 私は後ろを振り向き言った。


 「浄化のお手伝い、ありがとうございます」

 「な、何をしたのだ!?」

 「おぬし、王族であるわしらに危害を加えるなど正気でないぞっ!た、立てぬ」

 「ど、どうしたのかしら?足がふ、震える……!?」


 国王両陛下、アルバートが床にへにゃりと座り、王妃様は老婆のように横にいた騎士を柱に、かろうじて立っていた。その横で、マリーが「アルバート様!」と支えようとする。


 「私の魔力じゃ絶対足りないと思ったので、魔力が強い王族を始め、そこにいらっしゃる貴族の方、魔術師様方の魔力を、ちょっとばかりお借りしました。皆んなで協力すれば、あっという間でしたね!」

 「なっ、ちょっとどころではないだろう!?」

 「立つのもしんどいわ……身体も重い……」

 「母上っ!!」

 「おおお、お主、国を乗っ取ろうと言うのか!反逆罪だぞ!」


 騎士が剣の鞘に手をかける。

 おおっと、怖い怖い。


 「まさか、反逆罪だなんて。むしろ、国を救ったのになぜ、そんなに責められないといけないのですか。事前に言ってて、成功しなかったら恥ずかしいので、言わなかったのですが……よかったです。皆さんのおかげで浄化する事ができました!自分達の力で国を守ったのです、素晴らしいですね!」


 私はにっこりと言う。そんな私をアルバートが睨む。


 「こんな横暴な事、許されないぞ」

 「なぜですか!この国の問題ですよ、それをまっっったく関係のない私だけが、力を使い働くなんてそれこそ横暴ですよ。私は、あなた達の魔力を使って、自国の問題を解決できるようにお手伝いしただけです。私、何か間違ってますかね?」

 「ぬぅぅ」

 「しかし、聖女殿よ。なぜ我々だけ倒れるのだ」

 「あ……ごめんなさい。私、そつなく仕事はこなせるのですが、詰めが甘い事もあって。質の程は少々、落ちる事があります。魔力の拝借具合にばらつきが出ましたね。あ、でも帰りの魔法陣を作動させるブラッドさんと、妊婦のマリーさんは魔力が残っていて良かった。さすがに、妊婦さんの魔力を取ることは良心が痛むので」

 

 じゃあ、帰りましょうか、と私はブラッドを見る。


 「本当に帰るのですか?その発想と魔力の使い方、とても興味深いし魔術師としての才もあるのに」

 「王族危害とかで処罰される前に帰らないと、ほら早く早くっ!」

 「お、おい、待て、異世界人!!」


 なんて失礼な。私には名前がちゃんとある。


 「ひなたです、王子様。それに、これに懲りたなら、ちゃんと貞操は守りなさいな。一国の王子、あなた狙いの女達が、あなたの子です。なんて言って来るかもしれないですからね?」

 「ふんっ、まさか。そんな事あるわけない、僕たちの愛は永遠だ。だろう?マリー?」


 アルバートがマリーを振り返る。マリーは大きく目を見開き、慌てて頷いた。


 「え、えぇ。も、もちろんですわ。あなた以外、あり得ませんもの」

 「マリー?」


 アルバートが訝しむ。マリーは明らかに動揺していた。

 おっと、地雷踏んだ?

 私はブラッドを掴み、走り出そうとした。


 「ひなたよ、君の知識で托卵が分かる魔法とかないかっ!?」

 「あ、アルバート様っ!?何を」

 「えぇ、この人、速攻で愛を疑ってるよ」

 「アルバート様、私の愛は本物です!あなた以外あり得ませんわ!」

 「そういえば思い出したんだ。君と関係を持った時は暗黒樹への討伐遠征の時だった。僕以外の男ともって事もあり得るよね」

 「ひ、ひどい!」


 いや、緊迫した討伐中に何やってんねん、こいつら。むしろ、アドレナリン出まくって高揚してたのか?


 「私の世界には手段が勿論あります。しかし、魔法では分かりません」

 「君の世界でできているなら、魔法でもできる!!なんたって召喚までできる魔法大国なんだぞ」

 「そんな事いいます?言っときますけど、こちらは分子レベルで生命体を解明しているんですからね。托卵なんてDNA鑑定で一発ですよ、ふんっ」

 「でぃー、え、何!?」

 「科学技術が凄いんです。こんな国、私たちの近代文明にかかれば一発ですよ。魔法行使する前に、空飛ぶ乗り物で上空から、ずどーんですからね」


 周りがどよめく。

 やばいやばい、煽るつもりはなかったのよ。馬鹿にされたから、ちょっと言ってみたかっただけ。これ以上いたら、本当に拘束されそう。


 「私達を脅すのか!?」

 「いえいえ、ただ、また召喚など考えないようお願い申し上げたいだけです」


 では、と私はブラッドを引きずり駆け出す。魔法と近代文明、どちらが強いかなんて知らないけど、こんな国に負けるなんてやだね。

 後ろでは、ぎゃいぎゃい言い争う声が聞こえるが知らん。自分達で後は解決しな。

 私達は召喚された部屋に戻った。ブラッドが惜しみながらも魔法陣を作動させる。


 「以外と簡単にできるじゃないですか」

 「言っておきますけど、これは私が天才だからです。ただ、本当に……本当に保証はされませんからね。あなたが、騒ぎを大きくしなければ、ゆっくり魔法陣を考える事ができたのに」

 「いいんです。来た道があるなら、戻る道も一緒ですから」

 「考え直すなら今ですよ!」

 「ブラッドさんがしなければ、私が自ら作動させます」


 私は魔法陣の真ん中へ立つ。では、ありがとうございました、そうブラッドへ言うと、ブラッドはしぶしぶ魔法を作動させる。光に包まれた。


 すると、バンっと扉が開いた。

 

 「ブラッド!!止めろっ。勝手な事するとお前の命はないぞ!!」


 えええっ!!それは困る。召喚されたとは言え、親切にしてくれた人が死ぬのは後味悪い。


 「ひなたさん、かまわず行ってください!!召喚をした私にも責任があるのですから。国が助かっただけで十分です」

 「ええっ、でもっ!!あなた死んじゃうのは後味悪すぎる」

 「大丈夫です。多分、死にませんから」

 「多分って何!?そこは絶対と言ってよ、更に不安を残さないで!」


 ブラッドが目を見開き笑う。笑っている場合じゃないし!


 「うーん、では、こうしましょう」

 「?」


 ブラッドは何を思ったか私の横に立ち言った。


 「兄上っ!!」

 「ええっ!?」

 

 あにうえぇ!?兄弟!?


 「私はこの国に思い残す事はありませんので、魔法陣が失敗した時のために、ひなた様の付き添い人として、いきます。最悪、ここで殺されるより魔法の中で息絶える方が何百倍もましですから!」

 「そんな怖いこと言わないでっ!!」

 「異世界に行くというのか!」

 「ここより、とても興味深い物がたくさんありそうですから!」

 「お願い、絶対死なないと言って!!」


 魔法陣が作動する。私はブラッドにしがみつく。

 あんなに帰るって大見得切っておいて覚悟はないのかっ、なんて言わないでよね!ブラッドさんが変なこと言うのが悪いんだから!!


 

 「わーーー!!」



 そんな私の叫び声だけ残して、私たち二人は部屋から消えたのだった。





ーーーーー





 『それで、ここはどこ?』

 『……さぁ?』

 『失敗じゃんか』

 『……死ななかったから成功でしょう?』

 『……』

 『どちらにせよ、私が付いてきたのが英断でしたね』

 『それは、そうですけど』

 『大丈夫、何度でも試せる!』

 『不安』

 『じゃあ、ほら、どうぞ』

 『なんです、その手?』

 『さっき、抱きついてきたから』

 『あれは不可抗力ですから、遠慮しておきます』

 『なんだぁ、残念』

 『ふざけてないで、次は成功させて下さい』

 『このまま、当てもない魔法陣の旅をするってのはどう?』

 『いやです、帰りたいです』

 

 私の鯛焼きちゃん……本当に帰れるのかな!?


 ブラッドというロイヤルボーイをお土産に帰るのか、見知らぬ土地に置き去りにして帰るのか、それは今後の話し合い次第だけど。

 それから、このロイヤルボーイに振り回されたのは言うまでもなかった。



完。

最後まで見て下さってありがとうございます!


ひなたさんは、無事に帰れています。

一緒かどうかは皆様のお好みで想像して下さい^ ^

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