夜空に還る蛍火
夜が来た
星明かりも
月明かりもない
真っ暗な夜が来た
普段なら
真っ暗な夜は
ほとんどの人々は
歓迎しない
けど
今日は違う
今日は蛍火が還る日だから
蛍火が還る夜は
星明かりも
月明かりもない
真っ暗な夜がいい
その方が
みんな夜空に還りやすい
そう
昔から言われている
真っ暗な夜が来ると
村の人々は
蛍火の入った虫籠を持って
村の真ん中に集まる
ほわりほわり
虫籠の中で明滅する蛍火
真っ暗な夜を
優しく仄かに照す
21時になると
村の人々は
手に持つ虫籠を一斉に開ける
すると
開けた虫籠から
一斉に蛍火が出てくる
蛍火が
夜空に昇っていく
ほわりほわりと
明滅しながら
ほわりほわりと
真っ暗な夜を
優しく仄かに照しながら
蛍火が
夜空を昇っていく
せまい虫籠に閉じ込められていた
蛍火
やっと自由になれた
蛍火
ほわりほわり
ほわりほわり
蛍火が
夜空へと還っていく
村人たちは
夜空を見上げ
蛍火を見守る
またいつか
生まれ変わったら
会えますように
と
泣きながら
祈りながら
願いながら
村人たちは
夜空に還る蛍火を
見守る──