表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話

   

 暗闇でもわかるほど艶やかな黒髪を、肩にかかる程度の長さにして、前髪はおかっぱ風に切り揃えている。年齢は四つか五つくらい。何かの花をあしらった模様の赤い着物に身を包み、まるで日本人形みたいな雰囲気を漂わせていた。

 動揺が大きすぎると、かえって逆に、頭の一部が落ち着くのかもしれない。冷静に観察する余裕なんて全くなかったくせに、最初の一瞬で、俺はそれだけのことを見て取れたのだ。

 しかも俺の方から、彼女に声をかけていた。

「お嬢さん、部屋を間違えたのかな? ここは君の部屋じゃないからね」

 現代の洋風なホテルとは異なり、昔の和風の旅館ならば、客室に鍵はかからない。隣室の客がうっかり入ってくることも、十分に考えられた。

 ……などと思ってしまうのは、まだ俺が半分寝ぼけていたからだろう。昼間ならばまだしも、こんな夜中に、宿泊客の子供が部屋を出入りするはずもないだろうに。

 その点に俺が思い至るより先に、少女が口を開く。ただし、俺の問いかけに対する答えではなかった。

「見つけた……。ありがとうね!」


 何を「見つけた」のか、何に対しての「ありがとう」なのか、俺には全くわからない。

 戸惑う俺とは対照的に、言いたいことを言っただけで満足したらしく、少女は枕元から立ち去っていく。

 不思議なことに、足音どころか、部屋の戸を開ける音すら聞こえなかった。

 まともな状態の俺ならば「スーッと消えるなんて、あの子は幽霊か?」と驚き慌てるところだが……。

「ああ、座敷童子だったのかな?」

 好意的な解釈の独り言が口から出たのも、きっと寝ぼけていたからだろう。

 そのまま俺は、再び眠りにつくのだった。


 翌朝。

 目を覚ますと、そこは旅館の一室ではなく、薄汚い蔵みたいな建物の中。

 今度こそ驚いて飛び起きて、急いでその蔵からも飛び出して、自分の居場所を確認すると……。

 前日の夕方に訪れた神社跡だった。俺が一泊した蔵は、一つ残されていたあの石造り。あの時「せっかくだから」と二拍一礼した建物だったのだ。


 慌てて参道を駆け降りる。

 三つある鳥居の二番目を(くぐ)った際、ふと頭に浮かんだのが「鳥居は霊道の目印だ」という話。悪霊の出没に悩まされた場合、近所の壁などに鳥居のマークを書くことで、そちらへ霊を誘導することが出来るという。

 ただし「神社は神様の場所だから、霊たちは神社の鳥居を(くぐ)れない」という考え方もあるらしい。神様の通り道という意味での「霊道」だ。

 同じ「霊道」と呼ばれるものであっても、幽霊の通行という観点からは、全く真逆(まぎゃく)の概念になってしまうが……。

 どちらとも矛盾しない解釈として「神様のいる神社の鳥居ならば、幽霊は通れない。逆に神様のいない鳥居ならば、幽霊は積極的にそこを通る」という考え方はどうだろう?

 この仮説が正しいとしたら、例えばこの神社みたいに既に(すた)れて神様不在のところにある鳥居は、それこそ幽霊たちを惹きつける絶好のスポットとなるはずで……。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ