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第3話

   

 十分(じゅっぷん)くらい上がったところで、その参道はお(しま)いになった。

 (たい)らに開けたスペースで、普通の民家ならば二、三軒分だろうか。敷地の一部には、寺や神社にありがちな石畳も敷かれており、それっぽい場所なのだが……。

 石造りの建物が、ポツンと一つ鎮座しているだけ。拝殿やら本殿やらの神社らしき建物は全く見当たらなかった。

 他に目に入るのは、右手の奥にある池だ。風呂の浴槽程度の大きさだが、よく見れば半ば干上がって、雨水だけが溜まっている状態だった。

 どうやら現在機能している神社ではなく、とっくの昔に潰れてしまった跡地のようだ。


 それでも「せっかく来たのだから」と考えて、パンパンと手を叩いてから、小屋なのか蔵なのか不明の石造りに対して一礼。

 ちょうどその時、ヒューッと風が吹くのを感じて、一瞬ギョッとする。タイミング的には、何か神様的なものが俺のお辞儀に反応した……とも思えるが、おそらくは偶然だろう。ここは丘を上がった分だけ高台だから、その分だけ風が吹きやすいのだ。

 登りでかいた汗も引いて、肌寒くなってきたので、急いで参道を(くだ)っていく。ふと気づけば、既に夕方も遅い時間。これ以上の散策は()めて、駅の方へと戻った。


 駅前広場に着いたのは、午後六時過ぎ。わざわざ時間を確かめたわけではないけれど、木造駅舎の正面に設置された時計が、たまたま視界に入ったのだ。

 観光案内所に駆け込むと、受付窓口にいたのは痩身の男。青白い顔も(あい)まって病弱そうな印象であり、余計なお節介ながら「こんなところで働くよりも、家でゆっくり休んでいた方がいいだろうに」と思ってしまった。

 ただし当然それは心の中に(とど)めて、実際に口にしたのは用件の方だ。

「すいません。どこか適当な宿を紹介してくれませんか? なるべく手頃な値段の温泉宿がよいのですが」

「ああ、それでしたら……。ここなんていかがです?」

 痩身の男は笑みを浮かべながら、いくつかの旅館が書かれたリストを示す。宿泊料金も付記された一覧であり、彼が指さしたのは、最も安価なところだった。

 もしも高い宿を勧められたら野宿の方針に切り替えるつもりだったが、これならば大丈夫。俺が満足そうに頷くと、男はニヤリと笑った。

「お客さん、運がいいですね。駅前から送迎バスが出ていますし、ちょうど今なら間に合いますよ」

 彼は受付カウンターから身を乗り出して、駅前ロータリーの左側に指を向ける。

 先ほどは注意していなかったために、視界に入らなかったのだろうか。灰色のワゴン車が一台、いつのまにか駅前に停車していた。

   

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