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第2話

   

 その日の俺が乗っていたのは、山奥を走るローカル線だった。

 電車ではなく気動車というやつだ。見た目は電車そっくりなのに、ディーゼルで動くからそう呼ばれるらしい。……というのは小さい頃に鉄道模型を遊ぶ中で得た知識であり、ちょうど模型で走らせたのと同じく、窓枠あたりが朱色で全体はクリーム色という車両だった。

 なんだか子供の頃のおもちゃに乗るみたいな気分で、乗り込む際にはちょっとした興奮もあったけれど、車内のシートに座れば消えてしまう程度。

 窓下の小さなテーブルに片肘ついて、ボーッと外の景色を眺めながら、列車に揺られる。時々は民家も視界に入るけれど、ほとんどは畑や雑木林ばかり。

 のどかな時間を過ごすうちに、何度目かの停車駅のホームで目についたのが、看板に書かれている「温泉」という文字だった。


 行き先も決まっていない一人旅とはいえ、自分が今どこにいるのか程度は、なんとなく意識していた。

 俺の乗る車両がその時走っていたのは兵庫県で、兵庫県といえば関西では屈指の温泉地だろう。温泉の数が関西で最も多いのは兵庫県であり、日本全国の都道府県別ランキングでも上位に入るはず。

 例えば「有馬温泉」や「城崎温泉」も兵庫県だし、そこまで有名な温泉ではないにしろ、そのローカル線の沿線にも温泉地があったらしい。

 そんなことを考えると、急に温泉に()かりたい気分となり、俺はその駅で列車から降りるのだった。


 木造の駅舎を出れば、街路樹の植え込みの周りがロータリーになっている。駅前広場……と呼ぶには大袈裟で、数軒の個人商店と安食堂らしき建物が一つ。最も目立つのは駅舎の隣にある観光案内所という有様(ありさま)だった。

 温泉地というよりも、何もない片田舎みたいな雰囲気だ。でもとりあえず案内所があるならば、そこで尋ねればいいから、今晩の宿については心配ない。最悪の場合、野宿できそうなスペースを教えてもらおう。

 そんな予定を立てただけで、既に今晩の宿を確保できた気分。実際に案内所に立ち寄るのは後回しにして、まずは周辺を少し歩き回ることに決めた。


 駅前から続く一番の大通りは、十数分くらい歩いただけで、商店どころか民家すら見えなくなる。道の両側に広がるのは青々とした田畑ばかりで、その「青々とした」という感じの匂いが、鼻をくすぐるほどだった。

 さらに進むと、左側は相変わらずだが、右手には小高い丘が並ぶようになった。後で温泉に入るのであれば、その前に軽く山登りで一汗(ひとあせ)かくのも気持ちよさそうだ。

 そう思って登山道を探せば、それらしきものが視界に入る。ただし、丘を登る道ではあるものの、その麓には赤い鳥居が立っており、登山道というより神社の参道なのかもしれない。

 俺にしてみれば、どちらでも構わなかった。むしろただ丘を登るよりも上でお参りできる方が、行動目的が一つ増える分、好都合なくらいだ。

 そう考えて、そこから山道(やまみち)に入ってみる。道なりに進むと、途中でさらに二つ、鳥居を(くぐ)る格好になって……。

   

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