ある妖精の約束 後編
作中に本編のネタバレが含まれます。ご了承ください。
二人が真の任務である樹花族の護衛をする事に気付いた所で、特に態度が変わる事は無かった。しかし相手が樹花族である為に慎重になっているのは自分らでも分かった。
「ヘェ!ベルクって戦争時代から生きてるんだぁ!」
「そうよ、っと言うよりも今生きている樹花族は皆それくらい生きているのよ。」
「まぁ外的要因さえ無かったら、大抵の妖精種は永く生きるからな。」
ただベルクとの会話を続けていく内に二人からは緊張感が薄れ、クレソンに至っては敬語が抜けていた。その事をベルクは気にする素振りを見せず、二人との会話を他の死でいる様子だった。
「それにしても隊長もイジワルだよねぇ。詳しい仕事内容も言わないでアタシ達を送るんだから。」
「それは仕方ない事かもな。樹花族は機密の存在。どこにいるかなんて一般でも知らない…いや、知られてはいけないからな。下手に外で話して、知らない誰かに知られる事はあってはいけないからな。」
故にこの仕事が二人に任されたのだと二人は自覚した。憲兵もまち中で言わなかったのも、正しくは言えないだけだったのだ。
まちの者の何人かは恐らくこの木、もとい樹花族の事を知っている。しかしまちは血気盛んな観光地でもある。外から来たヒトが偶々通りすがり、話を聞いてしまう恐れがあった。
「とは言え、護衛かぁ。実際何から守るんだろう?」
「そこも教えられなかったからなぁ。何か知ってますか?」
結局の所大事な所が分からない二人は護衛対象であるベルクに聞いた。
「さぁ?なんでしょうね。」
しかし、当の本人さえも知らないと言う困った事態になっていた。二人はとりあえず木の生える丘の周辺を見て回った。
丘の周囲は木々に囲まれ、遠くに霞がかった山が見えるがそれ以外に高い建物も障害物も見えない。あまりにも特徴的なものが周囲に見られない為、限られたヒトしかここに来る事も出来ないという事がなんとなくではあったが察する事が出来た。
「こんな場所に一人で、サミしくないの?」
「…いきなりそんな事を聞いて来るなんて、あなたって結構残酷なのね。」
ベルクの表情自体は変わらなかった。しかし、声には先程から話し聞いている楽しげなものとは違うのが明らかだった。言われてカルミアは直ぐに謝罪した。
「だって、他にヒトが来てるカンジがしないし、アタシだったら一人でいるのはツラいかなって。」
正直に自分だったら、という気持ちを口にし、カルミアはベルクの表情を伺った。実はクレソンもカルミアと同じく思っていたらしく、一緒になってベルクの表情を見つめていた。
「そうね、サミしいわ。でも、だからと言ってずっと一人ではないのよ?こうしてどこかのエラいヒトがヒトを呼んで来させてくれるのよ。」
つまりは言い方は悪いかもしれないが、その『偉いヒト』らが機嫌取りにここにヒトを派遣しているという事らしい。そして二人の上司も『偉いヒト』に含まれ、今回の機嫌取りに選ばれたのがカルミアとクレソンという事なのだろう。
もしかしたら、護衛とはただの名目で本当の目的はそういう事なのかもしれない。それならある意味では楽な仕事なのかもしれない。護衛であれば樹花族だけでなく自身らの命も掛かっていたかもしれない。
「うん…それならガンバっておハナしする!でもおハナしだけじゃアきちゃうから、ナニか別の事しない?」
カルミアからの提案に、ベルクは少し考えてから口を開いた。
「それなら、木登りしないかしら?この木、大きいから登るのは大変だとおもうけれど。」
ベルクは二人に暗に木登り出来るかを聞いていた。ソレに気付いているのか知らずか、二人はそのベルクからの提案に乗る事にした。
「へっへーん!木ノボりなんてラクショー!むしろ出来なきゃダメだねコレは!」
「おーし、ちょっと気張るかぁ。木登りなって訓練でやって以来だなぁ。」
かなりの乗り気で二人ともう一人は木登りを始め、カルミアとベルクがほんの数秒差を争ったり、クレソンが途中で足をつり、危うい状態になったと言う話は割愛。
それから日が沈むまでベルクと遊んでいった。そんなどこのまちでも見られる光景がどこかの森の奥の丘の上で繰り広げられいったある日の事。
その日も他愛のない話をして、日が沈んで来たから帰ろうとした時だった。
「あのね、二人とも。帰るの、もう少し待ってもらえないかしら?」
「うん、良いよ。」
何の躊躇も無く二人は揃って了解の返答をした。その事にベルクは口を開いて少し驚いた。
「…てっきり悩むか断るかと思ったわ。」
「いやいや、ここで断る方がオカしいって。」
「そうそう。何かあってそう言ってきたんなら、聞かなきゃ駄目だろう?」
当たり前だと言わんばかりの二人の口調に、ベルクは少し俯き、そして小さく感謝の言葉を囁いた。
そして日が沈む、辺りが暗くなって月明かりが照らされた丘の上。二人はベルクに言われて木から少し離れた丘の下の方で待機していた。
「ナニするんだろう?」
「さてな。」
未だに二人に待つ様言ってから姿を見せないベルクを待つ二人だったが、そこには一応の護衛対象である人物の行方が分からない不安というものは無かった。
そうして二人が待っていると、丘の上からベルクの影らしきものが見えた。そして影が動き出したかと思うと、突如どこからか香りが漂ってきた。
「…花、嗅いだ事無い匂いだな。」
「あっホントだ。…あっ。」
カルミアが声を上げた先、ベルクの影にどこからか射しこんだ光が当たりその影がベルクであると確定した。そしてベルクは一歩踏み出すと、その場で回り、手を振り、舞を始めた。
風が吹いた。風と一緒に流れてきたのはどこかの木の葉だろうか。よく見ればそれは緑色ではなく薄く赤みがかった白い色だった。見てから葉では無く花弁だと気付いた。二人には見たことの無い色の花弁だった。
飛んできた花弁が舞うベルクの元へと飛んで行き、まるでその花弁がベルクから発生するかの様に、そしてベルクと一緒に舞い踊る様に巻き上がる。
ベルクの舞は緩やかで、でもどこか鋭い動きも見られる。そんな不思議だが共に舞い踊る花弁も相まって、カルミアもクレソンも見惚れて口を開けている事に気付かずにいた。
更に二人の目の前で不思議な光景が映る。
ベルクの背後に立つ木の枝、その枝に付く蕾が花開いた。まだ固く小さな蕾の筈だった。それが一瞬にして花開く光景は幻想的で、奇跡とも言えた。
何よりも花そのものも美しく、咲いたと思えば花弁が散っていく、雨粒が舞い散るかの様なその姿に二人は声も出せなくなっていた。花を咲かせた木自体も、仄かに内側から光って見えた。
そして暫く舞った後に足を止め、ベルクは二人に向かって礼をした。二人は正気付きベルクに向かって拍手を送った。
「すっ…ごい!もうスゴイとしか言えない!それにキレー!」
「いやぁ…どこか儚くて、何とも言えない気持ちになったなぁ。」
各々感想を言い、聞いたベルクは顔を上げて微笑んだ。その微笑みさえ儚げで、二人には何故か微笑みなのに暗い表情に見えた。
ベルクは少し口を強く閉じた後、意を決した様にして二人に向き直った。
「アリガトう、二人とも。これであなた達の護衛の仕事は終わりよ。お疲れ様。」
ベルクの言葉に二人は驚いた。確かに何時までというのは聞いていなかった。隊長に聞けども「聞けば分かる」という返事しか返さなかった為に、その聞く相手がなんとなくベルクだという事には気付いていた。しかし、そのベルクからの突然の言葉に二人は言った意味を一瞬理解する事が出来なかった。
「えぇ!?もうオわり!?もうちょっと一緒にいると思ったのに。」
「だな。」
二人には仕事を終えて喜びが感じられなかった。逆に仕事を惜しむ声が聞こえ、ベルクの表情がほんの一瞬だけ揺らいだ。
「…あなた達は今まで出会った中でとても楽しいヒトだったわ。そんなヒトに逢えたのは、ワタシにとってとても運が良い事だわ。
知ってるでしょうけど、ワタシ達樹花族、根付いた場所から動けないの。」
それはクレソンから聞いていてカルミアも承知だった。故に樹花族の中には山や川、海を一生に一度も見る事無く終える者を居る程だった。
そしてベルクにとっては、きっとまちのヒト以外で親しくなったのは、カルミアとクレソンが初めてだったのだろう。そんな思いが表情や声色からも漏れ出ていた。
「ワタシは運が良かった。…でも運の悪い子もいる。例えば、森の奥深くに根付いてヒトと会う事も無い子、例えば遠い海の真ん中にある島で独りで居る子。そんな子がきっといる。
だからね、二人にお願いがあるの。」
ベルクの少しだけ弱々しく、強く懇願するような声に二人は耳を傾けた。
「樹花族はね、遠く離れていても、例え一目姿を見る事が無くても、どこかで生きているというのを感じるの。ワタシも永く地に根を伸ばしているから、きっと根の先がどこか別の子のと繋がっているのかもしれない。
そして、その子がどんな思いをしているのか何となく感じ取れるの。だからお願い。詳しくどこにいるのかまでは分からない。でも、もしどこかでワタシの仲間に会う事があったら、その子の願いを叶えてほしいの。」
「おう!」
「ワかった!」
返事は早く返って来た。そのあまりの早さにベルクも驚く。
「随分気軽に了承するのね。ワタシからお願いしておいてだけど。」
ベルクの口調から、どこか不安を含んだ感情を読み取れた。それを感じ取ったのか、二人は笑顔を作った。
「そりゃあトモダチから言われちゃあ断れるワケないよ!それに、他に樹花族いるなら会ってみたいし!」
「そうだな。会った瞬間に皆トモダチ…とまでは言わないけど、こうして頼み頼まれる位になったら、もう他人ではないな。」
二人は各々ベルクの頼みを聞く理由を述べ、改めてベルクの頼みを聞くのだと言う意思を見せた。その二人の表情、目には一切の迷いも何も無く、ただ真っ直ぐにベルクへと向けられていた。
ベルクはそんな二人を見て、茫然と立ち尽くすと小さく笑い声を上げた。
「そうか…うん、そうか。
…やっぱり、二人に逢えて良かったわ。ヒトがどんなものか、思い出せたから。」
そしてベルクは、目を細めて大きく笑った。すると風が吹いてどこからか葉か花弁が沢山舞い上がり、二人は目を塞いだ。
そして次の瞬間、乾いたものがひび割れる、大きな轟音が響いた。
2
風が止み、目を開けた二人がめにしたのは、丘の上にあるハズだった木が割れ、倒れている姿だった。今聞いた音は木が倒れる音だと気付き、次に二人はベルクの姿を捜した。しかし、いくら見渡してもベルクの姿は無かった。
もしや樹の下敷きになってしまっているのかと思い見たがそうでもなかった。二人は安堵したが、しかしベルクの姿が忽然と見えなくなりまた直ぐに焦りが出始めた。
「ベルちゃーん!どこ行ったのぉ!?」
「確かにここに立っていた、なのに見えなくなるなんて、樹花族特有の特技か?」
二人が諦めずにベルクの姿を捜している最中、背後の森の方から気配を感じて二人は臨戦態勢となった。そして森から感じた気配を辿ると、そこには二人をここまで案内した憲兵が立っていた。
「あぁ、驚かせてすみません。」
「あっこちらこそ、ブッソーなの出しちゃってゴメンなさい。」
カルミアは伸ばした爪を仕舞い、憲兵に謝罪をした後に憲兵の方へと駆け寄った。クレソンも機械銃器を仕舞いカルミアの後に続いた。
「憲兵さん。もしかしてだが、あなたはベルクというヒトの事、そのベルクがどうなったかを知っているんですか?」
クレソンの突然の問いかけに憲兵では無くカルミアが声を荒げて驚愕の表情を見せた。逆に憲兵の方はとても落ち着いた様子だった。クレソンかカルミアから言われる事を予期していたのだろう。憲兵は観念したかの様な面持ちで話し始めた。
「お察しの通り、私はベルクという樹花族の事を知っています。むしろこの場所の事も含めてまちに古くから住んでいる者は皆知っています。」
「まぁ、知ってなきゃこういう場所は誰も来ないだろうしな。」
憲兵がこの場所を知っていて二人を案内したと言う時点で、憲兵がベルクの事を知っていたのは明白だった。
「で、ケッキョクのところベルちゃんどこ行ったの!?」
「…もういませんよ。どこにも。」
カルミアの直球の質問に対し憲兵は静かに答えた。その答えを聞いて、二人は愕然すると同時に表情に憂いを帯びた。
「君は樹花族の『宿』を知っているね?」
「あぁ、多少の事なら資料で読んで熟知はしているけど。」
知ってはいるが、まだ知らない事がある。憲兵が言いたいのはそのクレソンがまだ知らない事であるらしく、憲兵は話を続けた。
「樹花族は根を張る事で生きる糧を地中から得ますが、他の植物や生物に宿る事で、命を繋げる事が出来ます。しかし、その宿には短所と言いますか、ある危険性があるのです。
それが命を繋げると同時に、活動範囲が更に狭まる事と、寿命を共有してしまうという事なんだ。」
聞かされて二人は再び驚愕した。つまり、ベルクの寿命は先程割れて倒れた木と同じ永さとなっていたという事になる。つまりあの木が倒れた事で、ベルクもまた命が尽きた事となる。
改めて二人は倒れた木の方を見た。中は空洞となっており、寿命にとって倒れたことが分かる。
「花が命朽ちる時、身は土へと還り新たな命となり芽吹く。そう伝わっています。
正確には樹花族は寿命を迎えると、その体は塵となって朽ち果てるのです。きっとあなた達と会ってから一緒に過ごしている最中にも体には寿命により身体の変化が起きていた筈です。」
身が朽ちる程の変化となれば、きっとそれは痛みが伴っただろう。それを隠し、獣人であるカルミアさえ気付かなかったとなれば一体どれだけ耐えていたのだろう。
「しかし、それなら何故俺らは呼ばれたんだ?寂しい、という理由なら態々外からヒトを呼ばずとも、あなた達まちのヒト達はベルクを知っていた。なら」
「わたし達では、もうベルクの相手は出来ないのですよ。」
そう言い、憲兵は被っていた兜を両手で押さえて取った。兜に隠れて見えなかった顔はとても老いた顔をして、籠手でよく見えなかったが手にも皺があって弱々しく見えた。
「あの子は老いても元気な子でした。そんな子を私らの様な老人ではただ連れ添って歩く事さえ出来ません。」
憲兵である老人の言葉を聞いて二人は思い出す。まちは確かに活気に満ちていたが、若い者は皆外から来た観光客で、店番をしているヒト達は皆老いていた。恐らく若者の住民はほとんどがまちを出ているかして居ない状態なのだろう。
「何よりも樹花族を相手に出来るとなれば、『そういう事』を思いつくヒトもいたでしょう。だから、決してベルクに対して悪さをしないヒトでなければ、今回の仕事も任せられませんでした。」
そういう理由で俺らが呼ばれたにしても、それでもやはり二人は納得出来なかった。
憲兵はまちの皆、ベルクという樹花族の存在を認知していたし、もしかしたら皆ベルクが寿命を迎える事だって気付いていた筈だ。まちのヒトがどれだけベルクと親しかったかは分からないが、それでも寿命を迎えるであろう相手のサイゴを見届けたいと思っていた筈だ。
憲兵がそう思う二人の気持ちを察してか、更に話を続けた。
「…『見せたくない』、そうベルクは言っていました。」
聞いたカルミアも、クレソンも表情が強張った。
「わたし達は古くからここに住んでいます。そして、幼い頃からベルクと会い、共に遊んだりもしました。歳を重ね、家庭を持つようになると、ベルクは言いました。」
いつまでもこんな所に足を運ばないで、ちゃんと家でやる事をやってなさい!ワタシがいつまでもアナタ達の相手をするとは思わないでちょうだい!
「そう、厳しく叱られてからは月に一度か、ヒトによっては年に一・二度来るか来ないか位しかしか来なくなりました。
確かにわたし達にとって樹花族であるベルクは大事な存在です。でも、大事であっても、わたし達にも生活はあります。樹花族は王直属の組織からの援助で守られるでしょうが、わたし達だけでは何も出来ない。ただ有様を見守る事しか出来ないのです。
そうして更に年を重ね、いつしかこんな老いぼれになっていき、ここまで足を運べるものもほとんどいなくなりました。でもそれが、きっとベルクにとっては願ったりな事だったのでしょう。
わたし達も、そしてベルクもただ生きていくだけで精一杯になっていた。でも、それでも、ベルクはきっと思っていたのでしょう。
あの頃の自分を覚えていて欲しい。一人は寂しいのだと。」
話を聞いて二人は何も言えず、そして眉間に皺を寄せてただ話をする老いた憲兵を見つめる事しか出来なかった。
木は最初見た時は確かに蕾をつけていた。それを見て、先にはなるがいつか花を咲かせるのだろうと二人は少しだけ、見たことの無い花の開花に心を躍らせた。
だが、今倒れた木の枝を見ると、そこにはベルクが舞い踊る時には確かに咲かせていたであろう花の痕跡が無かった。まるで、最初から葉どころか蕾も何もつけていなかったかのように。
二人が見た、ベルクが舞い踊る中で開花した花は、きっとベルクの魔法による幻覚だったのだ。
本来の木は、きっと目元から枝先に掛けて枯れ果てる寸前の姿をしていたのだろう。それをベルクが魔法で隠し、いつか花を咲かせる木に見せ掛けていた。
まるで、弱り果てた自分の姿を隠し通す草食動物の様に、老いて醜くなった自分の姿を化粧で隠すかの様に。
まちのヒトと長い付き合いがあったからこそ、まちのヒトには綺麗な自分の姿だけを覚えていて欲しかったのだろう。でも、生き物として、知恵を持つヒトとして、孤独は耐えられなかった。
やっぱり、二人に逢えて良かったわ。ヒトがどんなものか、思い出せたから。
サイゴの瞬間、ベルクが言った言葉にどんな意味が込められていたのか、後になってやっと思い知った二人は、ただ何も言わずに花も妖精も何もかもなくなったこの空間を見ている事しか出来なかった。
3
というのが二人が東北で体験した事だと言う。
二人は話を終えると、何かを惜しむように口を閉ざし、目を伏せて何も無い所を眺めた。
「…大変だったが、うん。良かったな。」
「…そうだね。」
少しして二人は頷くと、暗くなっていた表情を明るくして振る舞い出した。スズランにはそれがどんな心境での表情化なのか知らずにいた。
結局、あの後木のあった丘がどうなったかは二人にも詳細は知らないのだと言う。護衛の対象だった人物から先に仕事の終了を告げられていた為、仕事自体は成功という扱いとなり、二人は上司である隊長に仕事の終了を報告した。
その後、二人が隊長相手に格闘したという話があるが、閑話休題。
二人にとって、最早仕事の話はどうでも良い状態でもあった。ただ、とても心に深い何かが刺さり残った経験をしたという事実が二人にとって大事な事だった。
「あっ!ねぇねぇ、今度はあの木の花が咲くコロにまたココに来ようよ!」
「そうだな!隊長に言えば、その辺りは何とかなるだろうし。」
何となく、スズランは二人が隊長に対してまた格闘を仕掛けるのだろうと言う事が予想出来た。結局の所どうなるかは知らない所だが。
「スズちゃんも!仕事とかゼンブおわったら一緒に来よう!」
「先がどうなるか分からないが、折角会ったんだし、また会う事くらいは出来る筈だ。」
二人の中では、三人もしくは四人でこの木のある場所に訪れる事は決まった事らしい。スズランの返事を聞く事無く二人はスズランの手を引いて先を急ぎ、旅を続行した。
今のスズランには、二人の会ったという樹花族の気持ちは分からない。でも、きっと『かつて』のスズランであったら、気持ちは分かった。
きっと、ヒト出会ってから別れるまでずっと胸のは重く苦しいものが占めていたのだろう。
手放せない、でも掴むもの痛く、見たくないのに見てしまう。そんな複雑のもの。
二人と対面していた時も、きっといつか訪れる別れの日を思い、とても息苦しくて、でも笑える程に気持ちが軽やかな体験だったのだろう。
木に花が咲く季節、その頃にはきっと異変など過去の出来事となっているのだろう。
話の樹花族がいない今、それさえも想像でしかないし、本当の気持ちもきっと会えても聞く事もなかっただろう。
でも、きっと、まちのヒトと交流した事も、二人に逢えた事にも後悔は無かった筈。
今の自分がそうである様に。
花の蕾はまだ固い。
「おねがい…ど…か、スカリー…たすけ。」
「うんワかった!ゼッタイにタスけるね!」
「あぁ、『約束』もしたしな。」
「ケッキョク隊長、仕事で来れなかったねぇ。」
「まぁ仕方ないな。俺ら三人で楽しむか。」
「そだね。あっはやくー!」