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祠の話

「祠を壊したぁ?」


 ある日の事。アサガオが申し訳なさそうな表情で俯いてオレに告発してきた。

 オレとアサガオは一緒にいることがほとんどだ。と言っても常に隣同士に居るワケではない。時にはオレがアサガオを危険から守る為に物陰に潜ませたり、アサガオが好奇心でオレから離れたりする。そうなった場合、オレが発見してサッサと連れ出すのだが。

 そして今日。オレが木陰で休んでいる間、アサガオはオレから離れた場所で走り回ったりして遊んでいた。更に今回、アサガオはオレの上司であるカナイから『玉』をもらっていたハズだ。

 玉とは植物の皮をなめし、丸く編み込んだものだ。それを蹴ったり投げたりして遊ぶのが主な使い方でアサガオも例にもれず何も無い所に向かって投げたり蹴ったりして一人で遊んでいた。

 その弾みでだろうか、木々の物陰になった場所に玉が飛んで行き、件の祠にぶつけてしまった、という事らしい。

 オレが改めて祠を壊したという事を口にすると、アサガオの表情の暗みが増し、更に頭を俯かせる。こういう時の子どもの励まし方というものをオレは慣れない。どう声を掛けてあげるのが正解かどうしても思いつかない。

 とにかくどんな祠か確認するためにアサガオに壊した祠まで案内してもらった。

 少し歩き、草むらを進んだ先をアサガオは指を指す。いつもの元気な声は表情と伴って小さくなり、今にも泣きだしそうな声色だった。

 オレはアサガオの指さした方を見た。確かに茂みの中に壊れた祠らしき残骸があった。

 屋根であっただろう箇所は辛うじて形こそ残っているが、地面に落ちてその役目を果たせていない。壁も四枚共に横倒しになっている。

 その祠であったであろうものを見て、オレは改めて思う。これは一体何のための祠だったのだろうか?

 実を言うとこの場所に祠がある事をオレは知らなかった。だからこそアサガオに祠のある場所を案内させたし、現物を見るまで実感がわかなかった。

 ともかく祠の残骸を目にしたので、アサガオの頭を撫でつつカナイへ事情を説明しに行った。


 話を聞いたカナイは、渋そうな表情でうんうんと唸り始めた。


「なんだよ。そんなに壊しちゃマズいヤツだったか?」


 オレの言葉にアサガオが目を見開いて更に顔を歪ませた。いらない事を言ったとカナイに睨まれたが、すぐにまた唸り声を上げ始める。

 結局あの祠は何なんだ?というオレの疑問に返って来たカナイの返事は意外なものだった。


「うん…実は、私にも分からん。」


 意外とか以前の問題だった。

 カナイは土地守であり、西の土地のほとんどを占める森の中での事は大体把握してはいるが、時が経つにつれてそれらを忘れてしまう事がある。要するに年を取ったのだと以前口にしたら鳩尾をカナイに頭突きを喰らわせられた。

 話を戻し、今回の祠も何故あるのかカナイは覚えておらず、どうにも思い出せない様子だった。


「…うん、これだけ思い出せないのならば、その祠はそれ程大したものではないのだろう。だからアサガオも気にするな!」


 土地守としてそれはどうかと思ったが、カナイがここまで思い出せないと言う事はカナイの言う通り、特に建てられた理由の無い祠もどきだったのだろう。そう思う事にした。

 しかしいくら大したものではないとは言え、壊れた状態で放置するのもあれだから、祠の片づけでもしようかと思っていると、オレが動くよりも先にカナイが口を開いた。


「折角だしシュロ、お前その祠とやらを直してやれ。」

「いや結局直すんかい。」


 大したものでは無いはずだと言った張本人からの突然の要求にオレは反発したが、理由は謎にしろ、もしかしたらオレらの知らない誰かが建てたものではないか?という予想が後から頭を過った。カナイも同じらしく、それならば壊したものを片づけるのも忍びないという事で、カナイの提案の乗る事にした。

 アサガオも直す事に賛同した。やはりまだ壊したことに後ろめたさを感じているのだろう。とりあえずまずは壊れて出た破片を片す事にした。

 乾いた木の音を立てながら作業するオレらの背後から、何かが近付いて来る事に気付かずにいた。

 それは小さく、草を踏む乾いた音を立てる事も無くゆっくりと歩き、気配にすら気付かずに作業を続けるオレらへと確実に近付いて行き、手を伸ばした。

 そして落ちていた破片にけつまずき、盛大に顔面からそれは転倒する。

 漸く気付いたオレは何があったのか、転倒したであろう何かがある方を見た。そこにはアサガオ位の背丈をした少女が俯せで地面に倒れていた。

 見た事の無い顔で、髪は黒く肩まで伸びており着ている衣服はどこか古めかしい雰囲気のものだった。一体どこの子かと考えたが、それよりも子供が転んだことを気に掛けねばならないと声を掛けた。

 声を掛けられた子どもは目に涙を浮かべ、転倒した時にぶつけたであろう赤くなったでこを押さえてどこかへと走り去ってしまった。

 子どもの挙動に呆気にとられていたが、アサガオの心配そうな声を聞いて我に返る。結局あの子どもはどこから来て、一体何をしていたのだろう?

 気にはなるが、今は祠の修繕が優先だ。オレは気を取り直して壊れた祠へと向き直った。


 少しして小腹がすいたからアサガオと一緒に食料の調達をしにむらへと向かった。むらの住民とも長い付き合いになり、特にアサガオと言う栄養を一番必要とする存在がいるためか、住民はこぞってオレらに野菜などの食料を分け与えて来る。

 オレとしては非常に助かるが、偶に必要以上に渡してくるのはちょっと困る。

 そんなワケで、過剰な援助を気にしつつもこうしてむらに訪れて余りものでも分けてもらおうとむらに入ったワケだが、オレとアサガオの姿を見るや否や早速老いた者の多いむらの住民が声を掛けて来た。


「あらあらシュロちゃん、アサガオちゃんも。今日はどうしたんだい?」


 最初は抵抗のあった『ちゃん』付けにも慣れたもので、食糧を求めてむらに来た事を伝えると毎度見る反応が返って来た。


「あらっそれならこれ、持って行きな!遠慮しないで。」


 思っていた通りの台詞と共に住民である年配の女性が野菜の入った袋を押しつけるようにして渡してきた。そしてその年配女性の言動に呼応するように周囲から他の年配の住民が集まりだし、先程の女性と同じようにしてオレに野菜やら小麦の束なんかをオレに渡してくる。

 もらえるなら有り難くもらうが、流石に容量が多い。それでも相手はまるで足りないかとでも言いたそうにオレに渡してくる。その間アサガオは頭を撫でられつつ甘い木の実をもらったりしていた。


「いやいやっシュロちゃんにアサガオちゃん!来てたの?」


 更に別の年配女性が来たかと思うと、その女性にぶつかって何かが地面に倒れた。女性もオレとアサガオに気を取られていた為にぶつかった何かに気付かなかったらしい。


「あっごめんねぇ!大丈夫?怪我してない?」


 女性も謝罪をしながらしゃがみ込み、ぶつかったであろう相手を見た。よく見ればその相手はオレの見たことのある少女だった。

 少女は転んだ拍子にまた顔面を地面に擦りつけてしまい、顔だけでなく服も砂まみれになっていた。そして少女はまた目に涙を浮かべつつも女性の差しのべられた手を取る事無く起き上がり、どこかへと走り去って行った。


「あらーっあの子大丈夫かしら?ところで今の子、どこの子かしら?」

「そういや見たことない子ねぇ。最近むらに越してきたって話は聞かないし。」

「どこかの家のお孫さんかしら?川向こうのまちからの観光とか?」


 むらのヤツらが走り去る少女を見送り、追いかけようにも既に姿が見えなくなりどうしようも出来なくなると少女が何者かと話を始めた。

 このむらには若い家族がいない。いたとしてもそれらは川向こうにある設備の整った大きなまちの方に住んでおり、ここに来る若い衆はほとんどがむらに住む年配者の関係者であり、家族に会いに来た者となる。なので特に祭りのないこの時期に観光に来るものはほとんどいない。

 だとすれば、ますます今の少女がどこの誰か分からない。むらの連中も見たことが無いと言うし、後何かしらドジを踏んでいる姿を見かけるのは偶然か?


 そんな気掛かりな事が起りつつも、むらは至って平穏だ。もらった食料は有り難く頂いたし、アサガオも満足気だ。

 ついでにむらの住民にも祠の事を聞いたが、皆首を傾げるばかりで祠に関して知る者は居なかった。

 結局祠に関する情報は得られず、オレはそのまま祠の元へと戻り修理を再開した。ノコギリで木を切ったり金槌を使ったりするのは、むらでの柵や家の修理を手伝ってきたおかげで慣れた手つきだとカナイにも褒められた。半分強制的にやらされたことだから複雑ではあったが。

 そうして祠を直していくと、見ていたカナイが何やらうんうんと唸って考え事をしていた。


「…なんだよ?横で唸られると気が散るんだが?」

「あぁ悪い。…いやな。どうもこの祠、どこかで見たことのある様な気が?」


 先程は覚えが無いと言っておきながら、急に見覚えがあると言い出したカナイにオレは問い詰めた。しかし覚えがあると言うだけで完全に思い出したという訳ではないらしい。

 まぁ最初の内に思い出せなくても、後々になって思い出す事はよくある事だが、今はどうしても祠の事に関しては気に掛かる事がある。

 そんなオレらが問答をしている間、アサガオはオレから離れた場所でまた玉遊びに興じていた。まるで祠を壊した罪悪感など忘れたかのように玉を木にぶつけたりしているその背後から、また何かが近付いていた。

 アサガオの背後から近づくそれは、ゆっくりと音を立てず、アサガオに向かって手を伸ばす。

 次の瞬間、それの顔面に何かがぶつかった。それはアサガオが遊ぶのに使っていた玉だった。

 アサガオが投げた玉は木にぶつかると跳ね返り、勢いが良かったせいかアサガオは跳ね返った玉を受け止め損ねてしまい、飛んで行った玉がそのままそれの顔面へと直撃した。

 再びやらかしたアサガオはヒドく動揺し、少女を気に掛けて声を掛けるが少女は玉が直撃した痛みから直ぐに涙を浮かべ、そして大声を上げて泣き出してしまった。

 アサガオが大慌てで少女を慰めようとし、オレは少女が三度現れた事や奇妙に続く少女のドジっぷりにどう反応すれば良いか悩んでいると、別の所用で離れていたカナイが少女の鳴き声を聞き付けて駆けつけた。


「どうした!?一体何が…あっ。」


 駆け付けたカナイが見たのは、声を上げて泣く少女に少女の隣で少女を慰め頭を撫でるアサガオ。そしてそんな二人の姿を見て茫然とするオレ、という明らかにオレの方がやらかした様に見える光景だった。

 またカナイからあれこれ言われるかと思いカナイに話し掛けたが、そんなオレの声掛けを無視するかのように今度はカナイが声を上げた。


「あぁ!?そっかこの子だぁ!」

「うるせぇ!」


 少女の鳴き声とカナイの叫び声を間近で聞いて、オレは自分の耳を押さえて叫んだ。

 そんな混沌とした場面から少し時間が経ち、漸く互いに落ち着き何があったのかという話し合いが始まった。


「んで?さっきカナイ、コイツの事知ってる様な事を口にしたが誰なんだ?」


 うろ覚えが多いカナイにオレは謎の少女に関して直球で質問をした。


「あぁ…まずこの子は人間ではない。この子は妖精の不死族だ。」


 妖精と聞いてオレは首を傾げた。不死族の体は生きていない、故に気配も希薄でオレが少女の接近に気付かなかったのも納得出来る。しかし妖精と言えば先の尖った耳に鮮やかな髪色が特徴だが、少女の耳は若干尖っている様に見える程度のもので、髪色は鮮やかとは言えない灰色をしている。


「この子は生前、間違いなく妖精だよ。何故ならこの子の耳は人間の血を引いているためで、髪の色は後天的に染まったものだ。」


 聞けば少女は人間と妖精の混血クオーターで、それが理由で妖精の里の外で育ったという。里に住む妖精共は純血主義が多く、人間の血が混ざった少女を里のものは受け入れないのは目に見える。

 しかしそれでめげる少女ではなかった。病で両親が先に亡くなっても自分を認めさせようと魔法の鍛錬を重ね、しかしその努力は実る事は無かった。


「少女はな、天性のドジっこだったんだよ。」

「…うん?」


 話の雰囲気が変わったな。そう思うオレだが構わず話は続いた。


「何をするにも失敗が続き、揚句に魔法の実験の結果で少女の髪色は変わってしまった。」

「いや、髪の色染めたの自分かよ。」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「そして物を動かす魔法の失敗で鍋の蓋を頭にぶつけてしまい、打ち所が悪くそのまま亡くなってしまった。」

「シ因が一番惨めだった。」


 少女の境遇に同情していたが、話が続くにつれて違う感想を抱きつつあった。


「そんな少女の境遇によるものか、少女は不死族に転生してもそのドジっぷりは変わらず、気の毒に思った私は少女を祠の中に眠らせてやったのだ。」


 つまり壊れた祠と言うのは、正確には少女の墓だったという事らしい。そしてそれはただの墓では無く、カナイの土地守としての強い力を宿しており、それにより少女は決して墓から出る事の出来ない状態になっていたのだという。

 墓から出られなくなるというのは、少女自身が望んでいた事だとか。


「しかしその力も時間が経つ毎に弱まっていったらしく、本来なら外側からの衝撃にも耐えられるはずだったんだが、完全に力を失ってしまったらしくてな。」

「んで、しまいにはアンタまでも少女の事を忘れてしまっていたと。」


 オレの言葉にカナイは喉を詰まらせる。少女自身のドジもあるが、少女の境遇によって少女は孤独になってしまい、それならばいっそ目覚める事の無い眠りについていた方が幸せだという結論だったワケだ。


「だが、本当にソレが少女の正解だったか?」


 オレの問いかけにカナイは俯く。

 カナイは悪くない。あくまで少女の願いを聞いただけだ。しかし土地守と言う立場であるならば、別の答えを提示出来たかもしれない。

 今となっては無意味な意見だが、しかし今の少女ならば違う答えが用意出来る。

 オレとカナイが少女の方を見ると、今少女はアサガオと話をしている最中だった。オレはソレを珍しげに見つめる。

 大人に囲まれて育ったためか、アサガオは自分と年が近い子ども相手だと人見知りになる。しかし今はそんな人見知りは身を潜ませ、少女と打ち解けたかのように朗らかな表情を見せていた。

 そして少女も先ほどまで泣き腫らしていた表情から一変し、明るく笑ってアサガオと向き合っていた。


「ドジとかそういう性質ってのはどうしようもないかもしれないが、だが他人が傍にいるからこそ救われることだってあるんじゃないか?」


 オレがそうだった様に。

 カナイはアサガオと少女が楽しげに打ち解ける光景を目にして、静かに瞼を閉じた。


「…あぁ、そうだったな。」


 オレとカナイは暫くの間、二人の姿を黙って眺めていた。

 そしてその後、一緒に玉遊びをする事になった二人だったが、飛んで行った玉が少女の頭に直撃に、そのまま跳ね返って直したばかりの祠に当たり再び壊れて崩れる光景を見て、オレとカナイは頭を抱えた。


「ってか、不死族なのに触れたり痛み感じたりするんだな。」

「何を言う!実際に痛みを感じずとも自分に痛そうなものが中ったりしたら痛いと思うだろ!それと接触出来るのは少女の魔法によるものでな」

「それであんなドジに繋がるんなら止めさせてやれよ。」


 アサガオと少女を置いて口論するオレとカナイを背景に、少女の鳴き声がまた響き渡る。


 その後、祠もとい墓はオレが直し、少女もまた眠りについたのだが、時折起きて墓から出てはアサガオを遊びに誘う様になった。

 よく『祠を壊した』という話をよく聞いたので、遅刻になりますが思いついた話を書きました。

 祠をテーマにしておきながらタイトル詐欺になってしまいました。

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