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海風の花

 日常である筈の海の冷たさが、今は肌に染みる。

 理由は単純に、今オレは怪我している。それもカスリ傷ではなく、体の至る所から出血し、多分骨が一本折れてる。

 オレ自身ここまでの怪我を負うつもりはなかった。不本意ながらも喧嘩を売られ、仕方なしに買った結果がこれだ。まさか物陰に身を潜めているのが居るとは思わず、こうしていらぬ怪我を負ったワケだ。

 オレはこれ程の怪我を負う程にヒトに恨まれる事をした覚えはない。しかしオレは目つきが悪く、おまけに少し力が強い。そのせいで無自覚にヒトを恨ませたかもしれない。何とも世知辛い肉体だ。


「せめて…海の中…で、息絶え…つっ!」


 海の上を漂っていたハズだったが、いつも間にかオレの体のどこかの砂浜に打ち上げられていたらしく、口の中に砂が入って気持ち悪い。陸の上で干からびてシぬよりも、海の藻屑になって消えたい。そう思い、必死に潮の匂いがする方へと体を捩じらせるが、上手く動かない。

 結局陸の上からは移動出来ず、オレは息も絶え絶えとなり、仰向けになって空を仰いだ。

 今、ヒドく喉が渇く。今までそんな感覚味わう事何てあまりなかったし、これからも味わう気も無かった。

 自分自身に悪態をつきながら、徐々に沈んでいく意識を持つ事を諦めて、目を閉じた。


 次の瞬間、オレの顔に何かが当たった。当たったと言うよりは、何かが顔を覆い隠す様にして掛かってきた。水とは違う、顔にまとわりつくその液体に鼻と口を塞がれて、オレは勢いよく体を起こした。


「ぶわっほっ!…げほっげふっ!うえっっぺ。…ってか酸っぱ!目痛ぇっ!」


 顔に当たる酸っぱい液体にむせ返り、目にも酸っぱい液体が入って悶えた後にオレは液体が顔に当たって来た原因を探るために周囲を見渡した。そして最初に目についたのは、オレの直ぐ横に座り込んでいた少女の姿と、少女の頭にある大きな花のつぼみだった。


「あっおきた!もうダイジョーブ?」


 オレが起き上がった事にその少女は驚きつつも喜び、オレに安否を確認する。その少女の手には木の実らしきものが見られた。オレの顔に掛けられたであろう液体の正体は、少女の持つ木の実の汁なのだろう。正直それならもう少し丁寧に口元に掛けて欲しかった。善意からきた行動だろうし、見知らぬヤツ相手だからどこまで言って良いか分からない。


「…あぁ、大丈夫だ。…お前は?」

「あたし?あたしはイビスだよ。おにいさんは何っておなまえカナ?」


 そう言えば自分は名乗っていなかったなと思い返し、改めて少女の方へと向き直り名を名乗った。


「あー…スカリーだ。」

「そっか、スカリーかぁ。ヨロシクね、スカリーちゃん!」


 会ったばかりのヤツに対していきなりちゃん付けで呼ぶとは、コイツの距離のつめ方が急過ぎて少し引く。そんな引き気味のオレの事などお構いなく、イビスは更にオレに詰め寄って来た。


「ところで、スカリーちゃんって『外』から来たんだよね?どんなトコロから来たの?おしえてほしいなぁ!」


 何を聞いて来るのかと思えば、何やらオレが余所者である事からくる好奇心の様な質問だった。それよりもオレはイビスの発言で気になる事がある。


「『外』ぉ?…ここは一体どこなんだ?」

「うん?ここはね…えーっと。あたしも詳しくはわからないんだぁ。でもいっぱいある島の中の一つだってことは知ってる!」


 島、と聞いてスカリーは呆気にとられた。確か自分は東大陸の半島近辺の海にいた事を覚えている。そこから南地方の群島まで流されたとなれば、かなりの時間と距離を海の中にいたことになる。今思うと、よく生きていたなと自分を労ってやりたい。

 しかし島かぁ。見たところ家や施設らしい建物が見えないが、もしかして相当何も無い島にでも流れ着いてしまったのだろうか?


「何もないことはないよ!ホラっこっち来て!」


 そう言うとイビスはどこかへと案内しようとオレの手を引っ張る。こっちは今起きたばかりの怪我の治療も行っていないハズなんだが、そんな事はお構いなしにイビスはずんずんと奥へと歩いて行った。

 しかし不思議と怪我の痛みも感じられず、不思議に思いながらもオレはイビスにされるがままについて行った。


 速足でイビスに手を引かれ、連れて来られた場所は島であろう場所の奥地、周りは熱帯林らしい湿気が多いと同時に気温も高いから汗が止まらない。正直オレには厳しい環境だ。

 森の奥へと進んで行くと、微かに匂っていた匂いが更に強くなる。そしてイビスが目的地であろう場所へと着いたと同時にオレに手を離した。


「ホラっ!見てっスゴいでしょ!」


 そう言いイビスが指した方には、鮮やかな光景が見える。それは匂いの元である果物の実る木々や花に色だった。これらは港まちの市場でも見たことものばかりで、少なくともこれ程の量が実っているのは初めて見た。

 どこも木の実や果物で密集していて、どこを見ても、振り返っても鮮やかな色が目につく。見ているだけで胸焼けしてしまいそうだ。


「…確かにスゴイな。マジでどれも食えるヤツなのか?」

「うん!なんだったら今食べてみる?」


 そう言うとイビスはオレの返答を待たずに遠慮なく果物を一つもぎ取り、それをオレの目の前へと差し出した。イビスは言った通りその差し出した果物をオレに食えと言いたいらしい。目が期待に満ちていた。

 仕方なくオレは果物を受け取り、口に入れた。本当はあまり甘いものは好まないが、今は仕方ない。遠慮がちに口にした果物の味は思っていたよりも甘味が強く、それでいてサッパリとしていて食べやすかった。


「…甘いな。」

「でしょ?」


 オレの簡素な感想を聞いてイビスは満足気な笑みを見える。確かに食べやすいが、続けて食うのはやはりキツイ。それでも熟れており、味が濃かった。齧った箇所から果汁が溢れ出て来て、手がベトつく。

 一つがこれだけ熟れているのが分かると、他も当然同じだけ熟れている事になる。こんなに沢山熟れているとなると、ダメになるのも早く、食べる奴がいなくてもったいない気がする。


「ダイジョーブ!今からシューカクして魔法で保存するから!」


 魔法で保存、というのは聞いた事がある。しかしこれだけの果物を今から収穫するのは、さすがに骨が折れやしないだろうか?


「まさか、オレに収穫を手伝わせたくてここに?」


 そこからオレは、イビスがここにオレを連れてきた理由がこれではないかと予想した。明らかにイビスの細腕でここらの果物を収穫するのは無理ではないかと思う。だとすればやはり労働としてオレを助けたのだろう。


「えっ?ちがうよ?」


 そんなオレの予想をイビスはあっさりと否定した。どうやら本当にオレに果物が実り花が咲くこの光景を見せたかっただけらしい。変なヤツだ。

 しかも収穫とやらは魔法で全てやってしまうのだと言う。見ただけでもかなりの広さと規模の果樹園だ。それら熟したもの全てを収穫するとなると、それだけの魔法の力を消費する事になるが、本当に大丈夫なのだろうか。


「ふふんっ!これでも魔法はトクイだよ!見ててね!」


 言った直後、イビスが手を翳し、人差し指を果樹園の方へと向けた瞬間、イビスの纏う空気が変わった。魔法なんてものがどんなものか分からないオレでも肌で感じる、見えずとも強い力がイビスの方へと集まるのが分かった。

 しかしそれは張り詰めるものでも、威圧するものでもない、まるでこことは違う暖かな土地の風が吹きこんだかのような穏やかなものを感じる。


「みんな踊って!回って!いっくヨぉー!」


 魔法の詠唱にしては軽いイビスの言葉に連動して木に成った果実が一斉に動か出した。次にイビスが翳した手を動かし、指先を既に置かれていた大きな籠を指すと弾ける音と共に果実が木の枝から離れ、風に乗る様にして果実が籠の中へと入っていった。

 どこかで聞いた音楽というものは、きっと目に見えたらこんな光景なのだろう。

 気付けば籠いっぱいに果実が詰まっており、更に果実の詰まった籠をイビスは魔法で浮かばせて運んでいた。ちなみに籠に詰められた果実は、数日の内に一度来る船に乗せられて、島の外で売られるとの事。


「…本当に魔法でなんでもしちまうんだな。」

「ウン!あたし体が弱いからネ。なんでも魔法でやってたらなんでも出来るヨウになった!」


 自信満々に言うが、理由を聞くとなんとも言えなくなる。

 体が弱いと自認しているが、ならば何故そんな少女がこんな島で一人で居るのだろうか。オレが見ていないだけで他にも島には住民が居るのかと思ったが、イビス自身がそれを否定した。


「この島にすんでいるの、あたしだけだよ。この島ちいさくて、土地もあまりないからヒトが移り住むヨユーないんだって。」


 イビスが言うのだから余程なのだろう。しかしそれならば何故イビスは他所の土地に移り住もうとしないのだろうか?船だって頻繁にではなくとも来ているのだからそれに乗せてもらえば良いだろうし。


「うーん…あたしも島の外に出てみたいなぁとは思ってるヨ?でも出られないんだァ。」


 一瞬だけ表情に影が差したが直ぐに消え、明るいがどこか困った様な表情を浮かべてイビスは笑って答えた。何故かそんなイビスが気になり始め、オレは暫くの間を島で過ごす事にした。

 怪我の方もイビスの力によるものか大分良くなってきた。しかしそれでもオレはイビスとの島での生活に慣れて来るほど共に過ごして日が過ぎていった。

 そんなある日、島の浜辺とは反対の岩場に見慣れる船がついているのを発見した。何かその船にイヤな予感がして、オレは警戒しつつ船に乗って来たであろう者を探した。

 案の定それらしいヒト影を3人見つけた。何やら物々しい雰囲気を纏い、明らかに物陰に隠れて移動して一目見ただけで怪しいヤツらだと分かる。


「おい、そこで何をしている。」


 オレに声を掛けられてそいつらは肩を跳ね上げてオレの方へと振り返った。想っていた通りその目は驚愕というか焦りに満ちていた。

 本当なら怪しいヤツらなどには声を掛けず、死角から打ちのめしてしまい海にでも投げ捨ててやるところだが、あいつの居る島であまり暴力を振るう気にはなれず、こうして慈悲として声を掛けてやる。

 こいつらは見つからずに島に上陸したのだろうが、一度姿を見られたからにはただで済まないと当人らも分かっているだろう。それでもまだ抵抗して来るなら、あくまで自衛として反撃はするつもりだ。


「おい!ここにはひ弱なガキ一人いるだけじゃなかったのか!?」

「知らねぇよ!それよりどうする!?」

「うるせぇ!今考えてるだろ!」


 一声かけただけで3人が言い争いを始めた。そんな光景を見ると真剣に相手をする気が失せる。サッサと伸して次来る船にでも付き出そうと考えている時に誰かが来た。


「あれ?また来てたんだ。」


 呑気な素振りでイビスが姿を見せる。オレはイビスの無防備な姿に舌打ちをしそうになったが、しかしその前にイビスが来た事で早速イビスを人質にしようと動き出した3人を抑えなくてはいけなかった。

 だがそんな焦りと、男共の余裕そうな様子とは裏腹にイビスは呑気な表情は変わらず、まるでいつも通りと言わんばかりに手を翳した。

 次の瞬間には、3人の男共は大きな草蔓に捕らえられ動けなくなっていた。あまりにも早い展開にオレも、男共も目を点にして呆けてしまった。

 イビスは魔法で何でもこなすとは聞いて、知ってはいたがまさか不審者の捕縛まで魔法で簡単に行うとは思わなかった。しかし先程「また来た」と言っていたから、きっとイビスにとって男共の様な不審者は日常茶飯事なのだろう。改めてイビスが恐ろしく見えた。

 だが更に次の瞬間にはイビスの別の姿を見る事となる。捕らえた男共をどう運ぼうか考えているとイビスの方から何かが地面に落ちる音が聞こえた。何があったのかと見てみると、イビスが倒れているのが目に入った。


「イビスっ!?」


 オレは男共の事など頭から吹き飛び、イビスの元へと駆け寄った。


「オイ、イビス!どうした!?」


 声を掛けるがイビスはすぐには答えなかった。顔色は悪く真っ青になっており、息を切らして汗の量も尋常じゃなかった。

 オレはイビスの弱った姿を見たことが無く、どうしようと本気で焦った。するとイビスが微かに意識を取り戻してオレに話しかけた。


「…スっカリぃー、ハァっ…ハァ。こっここから西の、ほう…歩いて…つれ…てって。」


 言葉を切らしつつイビスはオレに何かを伝えようと一生懸命に声を出した。オレは一言も漏らす事無くイビスの声を聞き、すぐに行動に移した。

 誰る限り抱き上げたイビスを揺らさない様、伸びた草や木の枝に触れない様に運び、進んだ先に見えてきたのは、開けた広場とその広場に咲き誇る花畑だ。

 オレは自分の種族性故に海でしか過ごした事が無い。だからこれ程までに色鮮やかな花畑を見るのは初めてだ。正直オレが足を踏み入れて良いのか迷った。だが今はイビスが優先だ。

 オレはイビスに誘導されて花畑の中央へと足を進め、ゆっくりと抱き上げたイビスを地面に下ろした。意思を満たず動かないハズの花だが、それらが皆イビスを避けている様に感じた。

 そして地面に横たえたイビスは先程の憔悴した様子から一変し、穏やかで落ち着いた状態になった。あまりの変化にオレは意表を突かれたが、イビスの容態が落ち着いた様で安心した。

 するとイビスがゆっくりと目を開き、オレの方を見た。


「あっ…スカリーちゃん。…ごめんね、ビックリしたでショ?」

「…あぁ。ビックリしたな。」


 横たえながら話し掛けて来るイビスはいつもの朗らかな笑顔を浮かべるだが、その笑みにはまだ疲れが見えた。

 聞けばイビスは極度の病弱体質らしく、魔法を立て続けに使うとこうして倒れてしまうらしい。あの不審者3人に遭遇するまで、イビスは今日納品する分の木の実を収穫したばかりで、既に魔法の力を消費していたために今倒れてしまったらしい。

 思ってもみなかったイビスの弱点を聞かされたオレは、イビスの容態はどうなったかとイビスの額に手を当てて熱を測った。その時、イビスの頭にある大きな赤い花の蕾に目が行った。装飾かと思っていたその花はよく見ればイビスの頭から直接芽吹いて咲いていた。


「お前、頭から植物植えてんのかよ?」


 自分でも突拍子もない事を言ったと思ったが、その時はそう表現する他無かった。するとイビスはオレの台詞にフッと息を拭き出して笑った。


「アハハっ!…そっか、スカリーちゃんは『樹花族』を知らないんだネ。」


 何を理由に笑われたのかよく理解出来ていなかったが、詳しく聞くとイビスは妖精種という魔法に特化した種族の中でも特に強い魔法の力を持っており、その種族の特徴として頭から花の芽を咲かしているのだと言う。


「あたしたちはネ、地面に見えない根っこをハヤして、そこからエイヨーを集めているの。そして根っこが伸びたブンだけあたしたち樹花族は動く事が出来るノ。」


 イビスが言うに、今根が伸びた範囲がちょうどこの島の広さ程らしい。だから花畑を中心に島の至る所に行けるが、島の外には出る事が出来ないと言う。

 そこまで聞いて、オレは以前島を出ないのかとイビスに聞いた事を思い出した。そしてその質問はイビスにとっては酷な事である事に気付き後悔した。


「…悪かったな。何も知らないで。」


 オレは気持ちを抑える事が出来ず、謝罪を口にした。そんなオレの謝罪を聞いてイビスは静かに笑った。


「イいんだよ。樹花族はね、もう数が少ない種族なんダよ。だから知らないヒトが多いし、あたしたちの事知ってるヒトでも知らない事だってあるし、不思議じゃなんダヨ。

 …うんっでもね、そうだネ。外のこと、見たい気持ちあるヨ。しかたがないしワカってるよ。だから、スカリーちゃんが来た時、あたしうれしかったんだ。」


 オレが来て嬉しいと語るイビス。島には木の実を運ぶために船が往来してはいるが、交流はほとんどないのだと言う。そもそも島と樹花族自体が貴重な存在であり、傷を付けたり害する事の無いように接触は控えられているんだとか。

 そんな中島に偶然流れ着いたオレは何も知らなかった故にイビスと必要以上に交流をしてしまった。それは本当はいけない事だった。しかし、イビスはオレを島から追い出そうともしなかった。それはイビスにとって無意識に出た我が儘だった。

 イビスはオレに謝罪をした。それはオレに島に長居してはいけない事を黙っていた事に対するものではあったが、それ以外にもイビスは謝りたかったと言う。


「あたし…ワカってたの。ワカってたのに、島にのこるキミに何も言わなかった。島にいれば怒られるのはキミのほうなのに。…ゴメンね。」


 天真爛漫な態度ばかり見て来たオレにとって、今の弱々しく謝罪をするイビスの姿は初めてで、何も言えなくなる。

 確かにオレは無知で、イビスも黙認していた。いけない事だとはオレでも分かる。だが、それに対してオレはイビスを悪いヤツとは思えなかった。

 知ってもなお、オレはイビスに悪い感情を抱けなかった。


「…分かった。とりあえずお前は寝てろ。魔法を使い過ぎて倒れたんだろ?」


 そうだったね、とイビスは薄く笑ってから目を閉じた。本当に疲れていたんだろう、あっという間にイビスは眠りについた。

 イビスが完全に眠ったのを確認してから、オレはゆっくりと立ち上がった花畑を離れた。そして向かったのは先程イビスの魔法で拘束された3人。そいつらを用意した縄がきつく縛ってから次に3人が乗り込んで来た岩場へと向かった。


 岩場の先は砂浜よりも波が高く立ち、海流の関係でここからは船をつける事が出来ないとイビスから聞いた。しかしあくまで船が大きく揺れるから運搬用の船がつけられないだけで、揺れさえ気にしなければ船が岩場につけないわけでもない。あの不審者共の船が岩場についていたのはそういう事だ。

 遠くを見れば見た事の無い船が岩場の方の海面に漂っているのが見える。それがあの3人の仲間の船だろう。船の上に何人かのヒトの影が見える。

 イビスは樹花族は数少ない種族だと聞いた。聞いた瞬間オレはイヤな予感がした。そもそもの不審者共が言っていたセリフを思い出す。


 おい!ここにはひ弱なガキ一人いるだけじゃなかったのか!?


 あいつらが言っていたのは恐らくイビスの事で、ヤツらはイビスが島にいる事を知ってこの島に来た。それならば当然島が立ち入り禁止となっている事だって知っているハズだ。でなければコッソリ忍び込むなんて真似はしない。

 つまり3人はイビスの様な希少な種族を狙った密猟者であり、今海の上で待機している船もまた、密猟者の仲間の船だという事だ。

 あくまでオレの憶測だが当たっているだろう。密猟者がこの島を狙っていると予想した時から、オレは胸の中で煮えたぎる思いでいた。

 3人が捕らえられてかなり時間が経った。恐らく向こうも異変を感じ取って逃げる算段でも立てているのだろう。今にも船はどこかへと移動する気配を感じた。

 逃がすかよ。


「あいつら、やっぱもう捕まってんじゃないか?」

「しょうがねぇ。約束の時間になっても連絡こねぇし、一旦引き上げて」


 男共が話し合っている最中、船に向かって波が立って。男共は海流によりものだと思っていたが、しかしそれが意図的に起こっている波だと気付いた時には、それは物凄い速度で船に向かって来ていた。


「おっおい!なんだあれ、こっちに来るぞ!?」


 最初は何が来るのか分からずにいたが、海から突き出る『それ』を目にして、密猟者共は慌てふためき出した。


「あれは…さっさめだ!?」

「おい鮫がいるなんて聞いてねぇぞ!?」


 海から三角の背ヒレを突き出して泳ぐ鮫の姿に怯え、密猟者共は急ぎ船を出そうとするが間に合う訳が無い。船の目前に迫った鮫は勢いよく飛び上がり、大きな口を開けて船に乗る密猟者目掛けて突っ込んだ。

 全員一斉に悲鳴を上げ、突っ込んできた鮫から逃げようと全員が海へと跳び込んだ。船は鮫の牙と重みにより粉々に砕け沈んだ。

 今度は密猟者共は岩場についている仲間の船に向かって泳ぎ出す。鮫は一人も逃がすまいと泳いで追いかけ、一人ずつ海へと引きずり込み、そして最後の一人も海の中から足を噛みつかれ、そのまま海の中へと消えた。


 当然だが皆生きている。オレはただヤツらの足に血が出ない、けど逃がさない程度に噛みついて海の中に引っ張り込んだだけだ。皆恐怖によって直ぐに気絶し、気絶したそいつらをオレは岩場へと放り投げた。

 そして鮫からヒト型へと姿を変えて、岩場でのびている密猟者共を3人と同様に縄で縛り上げた。


「ったく。鮫にビビるくらいなら海に出るんじゃねぇよ。」


 オレの様な鮫の姿に変化する獣人や人魚は海には沢山いる。だからこそ犯罪を犯すのであればそういったヤツらと遭遇する覚悟を持たなければならない。来たところで容赦はしないが。


「一先ず、次来た船に伝えねぇと。」


 オレは密猟者共を引っ張って、運搬用の船が来る砂浜へと向かった。


 密猟者共は無事に御用となり、護送用の船に乗せられて行った。


「ハァーあいかわらずコりないヒトたちだなぁ。」

「…慣れてんだな。ああいうヤツら。」


 大分回復したらしく、イビスは船を見送りつつ呟き、オレはまたイビスが倒れないか見守っている。


「まぁネ。ここ気候もイいし果物はオイシーし、ナニよりもこんな美少女がいるんだもんね!」


 胸を張り言うイビスにオレは呆れつつ、オレは海の方を眺めてから決心した。


「んじゃ、オレもそろそろ島からお暇するか。」


 言うとイビスはオレの方へと驚き振り返った。その表情は驚きと言うよりも悲観している様にも見える。


「元々ケガが治ったら島を出るつもりだったし、オレが島に居るのがバレる前にとっととずらからねぇとな。」


 偶然流れ着いた先が樹花族という希少種族が居る島だった。そんな島はきっと偶然出会っても足を踏み入れてはいけない場所だろう。実際に密猟者が忍び込まれていたから、イビスは何も言って来ないものの関係の無いオレが何時までも居るワケにはいかない。

 だが、分かっていてもオレも島に居たいと思い、今日まで島に居ついてしまった。ここを出たら確実に捕まるだろうし、オレも処分は覚悟しなければならない。

 イビスだって、オレが島を出たらどうなるか察しているハズ。さすがの樹花族でも余所者を島に居つかせる事は無理だと分かっているだろう。

 島への勝手な上陸でどんな処罰を受けるかは世間知らずなオレには見当がつかない。


「…もしもまたオレがこの島に」

「えっ?」


 自分がこの先どうなるかを考えた瞬間、もしも無事で済んだらと考えてしまった。そんな都合の良い事何てあるわけないのにと、自分の頭の緩さに嫌気がさす。

 オレは結局簡単な挨拶をイビスと交わして島を出た。そうでないと引き摺ってしまう。イビスの顔は見なかった。見たら去る決心がゆるんでしまうから。

 そして案の定、オレの事を待っていたであろう、同じ鎧に服を来た集団が待ち構えていた。大人しく着いて行くのが正解だろう。オレは後ろに振り返りそうになるのを抑えて海を進む。


 数日後


「島の護衛に雇われた。」

「そうなんだ!」


 オレは注意を受けつつも密猟者を退治した実力を買われて、改めてお偉いヒトから仕事をもらい、再び島へと訪れていた。多分断っていたら牢屋行きになっていただろうから、返事は実質一つだけだっただろうけど。

 そして島に来たオレは再会したイビスに事のあらましを説明し、こうして砂浜でイビスと日向ぼっこをしている。


「エヘヘーっ。スカリーちゃんならきっと島にまた来れると思ったんだ!」

「そうかい。…まぁ信じてくれていたなら良いが。」


 オレとしては拍子抜けではあったが、こうしてイビスに再会出来た事に安堵している。


「…なぁ。まだイビスは島から出られないのか?」


 本来であれば聞き辛いであろう質問を改めてイビスにした。イビスは少し表情を固くし、そしていつもの笑みを浮かべて頷いた。


「うん。根っこが島の外までひろがってはいるけど、まだどこの陸地にもとどいていなくて。」


 やはり根が伸びていない事で島の外に出られないと言うイビス。そんなイビスにオレは以前島から去る際に言い掛けていた言葉を紡いだ。


「もしさ、お前の根が島の外のずっと先まで伸びたらさ。オレがお前を外に連れ出してやるよ。」


 オレが言った言葉にイビスは聞きはしたが反応が来ない。見るとイビスは目を見開いてオレの事を凝視していた。

 島の外に出るなら船に乗るのが手っ取り早いが、オレはどうしてもオレ自身でイビスを島の外に連れ出してやりたかった。とは言え鮫の姿がオレの本来の姿で、ヒトを乗せて移動するには不向きかもしれない。それでもオレはイビスと共に行きたい。


「イヤなら良いが」

「行きたい。」


 先程から黙っているイビスにオレは無理に連れ出さないと言おうとしたが、最中にイビスがやっと口を開いた。


「約束!ゼッタイにあたしをつれて行ってネ!」


 今までにない満面の笑みを浮かべてイビスはオレに言った。

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