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ある剣士の思い出

 昔々ある所に、大人ばかりで子どもがほとんどいない小さなむらがありました。

 むらの大人達は皆、外では戦争が起きているなど、むらを捨てて余所へ行こうなどと話をするばかりでした。そんなむらのの一画で楽しげに遊ぶ子どもの姿がありました。

 一人は少女で、もう二人は見た目がそっくりな双子の少年達でした。


「よしっ!今日はたたかいのれんしゅうをするぞ!」

「なんで?」

「外はきけんがいっぱいあるっておばさんが言ってた!だから身をまもるためにたたかうれんしゅうをするんだ!」


 少女には両親がおらず、親戚に引き取られてからはいつも叔母から厳しく言いつけられていましたが、自由奔放な少女はただ元気良く返事をするだけで、大人の言う事をなかなか聞きません。

 ですが、大人達が真剣に話をしているのを見ていたからか、むらの外には出てはいけないという言いつけは守っていました。

 しかし、遊ぶ事が大好きな少女は外に出たくて仕方ありませんでした。外に出るにはどうすれば良いか。そこで考えた少女の答えは『強くなる事』でした。


「強くなればいっぱいあそべるし、色んなところにも行ける!だから強くなって外に出られるようになるんだ!」


 高らかに言い、少女はそこらで拾った棒を持って振り回しました。普段であれば危ないと双子が少女に注意をするのですが、少女が言った事に二人は感化し、自分らも少女の戦いの練習をしたくなっていました。


「どうせなら、『けんし』がいいよな。」

「『けんし』?」


 双子の片割れが言った言葉を少女は復唱しました。


「だって『けんし』ってカッコいいだろ?大きなまちの『きし』だってみんな『けん』をもってるし。」

「うん!おれ、大きくなったら『けんし』か『きし』になりたいな!」


 双子が揃ってそれが良い!と言いました。少女はそんな様子の二人を見て、自分も『けんし』になりたいと思う様になりました。


「うん…いいな。よしっだったら今から『けん』のれんしゅうにへんこうだ!てりゃあ!」


 意気揚々と少女は手に持った棒を剣に見立て、縦に振ったり横に薙いだりしました。しかし『剣』がどんなものか分かっていない少女は無茶苦茶に棒を振り回し、さすがに危ないと思ったのか、双子が近寄り止めようとしました。その直後に少女が勢い良く棒を縦に振ると、手から棒が受けてしまい、そのまま高く棒が飛んで行きました。どこへ行ったのかと棒を捜しましたが、次の瞬間、棒は双子の片割れの頭に落ちて直撃しました。


「わー!?だいじょうぶかぁ!?」

「うぅ…いたい。」


 棒が直撃した事で少年はうずくまり、もう一人の少年が蹲った片割れを気遣いつつも少女を怒鳴りました。


「お前、あぶないだろ!しっかりぼうをもてよ!」


 怒る少年を他所に、少女は棒を握っていた自分の手を見つめて口を開きました。


「…これが、ひっさつわざ!」

「ちげぇよ!ただのドジだよ!」


 そんな様子の三人は、このむらではいつもの光景でした。少女が無茶をすると双子が少女を追いかけて止める。少女の行動に呆れつつも、双子は少女と遊ぶのが楽しかったのでした。

 そんな三人での日常は、ある日突然終わりを迎えました。


「…えっむらを出るの?」

「でも、むらの外には出られないんじゃないの?」


 ある日少女の口から「明日むらを出る」という言葉を聞いて、双子は唖然としました。それは突然の事で、二人は少女が最初冗談を言ったのだと思いました。しかし、今まで見た事の無い少女の真剣な面持ちを見て、冗談では無いのだと察してしまいました。


「…うん、なんだかたまたま『ごえい』をつけたしょうにんの知り合いが来た、とかでな。それでいっしょにまちにうつりすむって事になったんだって。」


 少女はいつもの毅然とした態度で二人に言っていましたが、その声にはどこか弱々しい声色が含んでいると二人には感じました。

 いつも遊んでいた少女がむらを出る。それだけで二人は暗い表情になり、声を出せず俯いてしまいました。そんな二人を見てか、少女が言葉を続けました。


「たしかにわたしはむらを出る。しかし、これは長いさよならじゃない。いつかきっとわたしは『けんし』になる!強くなって、いつか一人でこのむらまで来れるようになったら二人に会いに行くぞ!」


 それは二人に向けられた少女からの約束でした。その少女からの言葉を聞いて二人は顔を上げて、手を差し伸べてきた少女を同じく手を伸ばし、それて三人は手を繋ぎ合いました。


「うん…次はちゃんとけんをにぎれるようになれよ。」

「それと、ちゃんとまわりにも気をつけてね!」


 二人なりの皮肉を交えた応援を聞いた少女は、次の日大勢と共にむらを去って行きました。

 それからむらには双子の少年、二人だけとなり、長い間二人は次に誰かがむらを訪れるのを待ちました。


     ◇


 あるむらで、二人ぼっちの少年がおりました。二人は双子で見た目も声も、色んなところがそっくりで、大人達は偶に二人の見分けがつかなくなりました。

 二人には両親はおらず、幼い頃に亡くしてからはずっと二人が頑張って生きて来ました。

 そんな二人にとって唯一の友だちだった少女がむらを離れてからは、また二人だけの生活となりました。

 ある日の事、二人が森の中で食糧を探していると、草むらから蛇がとび出して来て、双子の片割れに腕に噛みつきました。それは本来であればむらの近くには居ない筈の毒蛇で、一緒にいた大人達が蛇を退治し、応急手当をしましたが、蛇にかまれた少年は寝込んでしまい酷くうなされました。

 蛇にかまれた腕に腫れ上がり、このままでは毒が全身に回り危険だと判断した大人達は、少年の腕を切る事を決めました。

 もう一人の少年が自分の家族の腕が切られると知り、大人達を止めました。


「やめて!そんな事をしたらシんじゃうよ!」


 そんな少年を大人達は宥めました。違うよ、腕を切らなければシんでしまうんだ。大丈夫、きっとこの子は助かるよ。そう言い、少年を落ち着かせました。

 少年が大人達の言う事を聞き、それから時間が経ちました。

 腕を切られた少年の姿はとても痛々しかったですが、意識を取り戻し少年はもう一人の少年を呼びました。


「どこ…いったの?…あつい、あつい。」


 双子の片割れが意識を取り戻したのを見止めると、少年は水を汲みにその場を離れました。そして部屋に戻ると、そこに居たのは意識を失い、そしてそのまま息を引き取った家族の冷たくなった姿でした。

 医療技術が未発達で、医者もおらず薬も無いこのむらでは、毒の回った腕を切る以外に手段を知りませんでした。しかし、それは体の小さい子どもには酷な事で、体力が保てず血も流し過ぎた為の悲劇でした。


「うそつき!うでを切ればたすかるって言ったのに!お前たちがおれのかぞくをコロしたんだ!」


 それは運の悪い事でした。しかし幼い少年には、大人達は自分の家族の命を奪った『嘘つき』に見えたのです。

 それから少年は大人達を家から追い出し、それ以降むらの誰の言う事も聞かなくなりました。年の近いものもおらず、家に引きこもる様に成った少年は徐々に精神が壊れていきました。

 大人達は何度も少年の家へ訪れ、必死に少年に話し掛けましたが、少年は一切答えませんでした。

 それから月日が経ちました。

 少年は心をすり減らし、蝕まれながら成長し、そしてある日むらでは『事件』が起こる様になりました。

 それはむらの周囲で『片腕の無い遺体』が見つかるというものでした。どの遺体にも片腕が無く、生きたまま腕をとられて息を引き取っていました。

 一体誰がそんな事をしたのか。薄々とむらの大人達には犯人が分かっていました。しかし、誰も認めたくありませんでした。しかし、犠牲者が増えていく為に認めざるおえませんでした。

 そんな中、一人の『剣士』がむらを訪れました。『剣士』はむらでの出来事を聞き、高らかに言いました。


「私が犯人を捕らえよう。」


 『剣士』の真剣な眼差しを見て、むらの住民はその『剣士』に託すことにしました。


 そして夜、『剣士』はむらを散策していると誰かが後を着いて来るのに気付きました。咄嗟に『剣士』は気配のする方へと剣技を飛ばし、先手を取りました。

 攻撃を受けた何者かが暗闇で呻くのが聞こえ、『剣士』は呻き声のする方へと近寄ります。そこにいたのは、成長した少年でした。その片手には鋭利な刃物が握られており、成長した少年が事件の犯人なのは明白でした。

 『剣士』はその少年に向かってほほ笑み、手を差し伸べました。しかし少年はその差しのべられた腕を切りつけて、そのまま『剣士』の胸に目掛けて刃物を突き立てました。その時の少年の目には、『剣士』の姿も、何も映していませんでした。

 しかし刃物を宙を切り、次の瞬間少年は『剣士』の持つ剣で胴体を斬りつけられていました。

 『剣士』には一目見て分かっていたのでした。少年を説得しても無駄であると。もう誰の言葉も届かない状態であると、気付いていたのでした。

 こうして少年は致命傷を負い、そのまま息を引き取ったのでした。

 むらの住民達は遺体となった少年達を引き取り、手厚く埋葬すると言いました。

 そしてむらの住民達はその『剣士』に礼をしようとしましたが、『剣士』は断りました。


「最初からこの為に来た。だから礼を受け取り事は出来ない。」


 そう言い、その頭に一対の角を生やした『剣士』はむらを立ち去ったのでした。


「今度はちゃんと技を出せたぞ。」


 『剣士』の呟きは誰の耳にも入りませんでした。そして少年だったものを見る『剣士』がどんな表情をしていたかも誰も知りません。


     ◇


「よーしっ!今日はここまでだ!」


 土地守である頭角人の女性がそう言うと、女性の目の前に立っていた耳の長い妖精種の少年は項垂れて、地面に腰を下ろしました。


「ほんっと…剣士って名乗っておきながら、全然剣使わないのって偽称じゃねぇか?」


 妖精種の少年は女性に剣の稽古をつけてもらっていましたが、当の女性が剣どころか刃物も使わず、食器フォークを使って戦っていました。その事に少年は文句を言いましたが、しかし女性は笑いました。


「何を言っている!食器でそんなざまでは剣を使うのは危険だ!今のお前には食器だって十分凶器になる!まずは食器に打ち勝ってから立ち向かって来い!」


 言われて少年がぐうの音も出ませんでした。


「しかし、セティーが剣を使う所を見たことないんだが、本当に使えんのか?」

「何を言う!私は『剣士』だ!剣を扱うのは手合いを動かすのと同義だ!…それに。」


 何かを思い出すかの様に女性はほんの少しの間だけ口を閉ざし、そして再び口を開きました。


「私にとって『剣』は大事なものでな、大事な場面の時にしか使わないのだ!」


 そう高らかに言い、そんな調子の女性を見て少年は溜息を吐きました。

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