セヴァティアの竜退治
その昔、全ての種族の中でも最も気高く、そして強い種族がいた。それが『竜族』と呼ばれる鋭い爪に硬い鱗、一対の角に巨大な翼を持ったヒトでも獣でもない、とかく巨大な存在だ。
竜族にかかればどんな屈強なヒトであっても、その爪で、更には竜の口から吐き出される灼熱の吐息にかかれば命が幾つあっても足りない程。
故に竜の名を聞いただけで周囲は恐れ戦き、命乞いをしたり泣いて喚いて蹲ったりしたほどだった。
そしてその種族内最強の名は今も続いている。
「っと聞くが、実際の所。竜の名前はあまり聞かないし、そもそも竜による被害とやらも全く聞かないんだが?」
森を守る土地守であるキツネのカナイに、そしてその土地守に仕える守仕である妖精種のシュロが素朴な疑問を上司であるカナイに投げかけた。
シュロの言う事は間違ってはいない。実際にこの西の大陸は豊かな自然が広がり、動物達ものびのびと暮らしており、他の攻撃的な種族に襲われた、という話も全く無い。それだけカナイとシュロがいるこの土地は平和だと言えた。
ならば、竜族に関する話がウソデタラメかと言うとそうではない。その理由をカナイは知っていた。
「その話をする前には、まずセヴァティアの話をしなければ」
「やっぱセティーが関わってるのか。」
セティーことセヴァティアという名の、頭に角を生やした頭角人はカナイと同じ土地守であり、実質この世界で最も強い『剣士』だとされている。そしてカナイシュロも、セヴァティアが如何に強いかはよく知っているし、そして奇想天外な言動をする人物だとよく知ってしまっていた。
そんなセヴァティアは、その強さからか修行だと称して世界各地の強いと思われる人物、はては動物相手にも挑戦してきた。だから最も強い種族とされる竜族がいるのであれば、セヴァティアが黙って放っておく訳が無いとシュロは分かっていた。竜族の話題を始めてからずっと、セヴァティアと言う名がどこかで出てくると予感していた。そして本当に出た。正直嬉しくない予感的中だった。
話を戻すと、セヴァティアは初めて会った時から既に剣士を志しており、同時にセヴァティアは強いものと戦い事を求めていた。だからかセヴァティア自身の力も日々精進を重ねていき、徐々に力が増していった。
「竜族は確かに強い。しかしセヴァティアも強い。いや本当に強い。…いやもうなんでか、意味が分かんないくらい、なんであんな強いのか正直知りたい…いや、やっぱ知りたくない。」
「オイ、支離滅裂になってきてるぞ。」
シュロの言葉に思考を仕切り直し、カナイは話を始めた。
◇
それは遠い昔、長く続いた『戦争の時代』が終わりを迎えた頃の話になる。
戦争で様々な種族が息絶え、生き残った者さえも行き場を失い、皆が途方に暮れている頃、ある問題が浮上した。それが竜族に関しての事だ。
竜族は戦争時代以前から多くのヒト達の間で問題視されたいた。奴らは強い力を持つ故にその力を誇示する『癖』があった。
ある竜は自身の爪の強さを、ある竜は炎も凍りも防ぐ強靭な鱗を、またある竜は何をもってしても防ぐ事の出来ない強力な吐息を繰り出して、皆を恐怖させた。
戦争が起こった事で竜族共は戦争をつまらない諍いだと言って協力も妨害もせずただ傍観していたが、戦争が治まると再び竜族は活動を始めようとしていた。
「ヒトが喧嘩を止めたそうだ!」
「あんなつまらんじゃれ合いも、見ていて飽き飽きしていたところだ。」
「漸く力の発散出来そうだ!」
ヒト同士の争いが漸く治まり、これから再建に掛かろうとしたところを竜族に襲われでもしたら、今度こそほとんどの種族が全滅しかねない。これはどうにかしなくてはと一部の種族の代表が集まり話し合った。そんな時、『そいつ』は声高らかに名乗り出た。
「ならばこの私に任せろ!」
それは背中に後光が何かを背負って現れた様に見えたそうな。
「うわ出た。」
「言いたくなる気持ちは分かるが、話は黙って聞きなさい。」
そうして別に呼んでもいないその頭角人は、自分が竜族と戦うと言って、制止も聞かずに飛び出して行ってしまった。
「いや話も何も聞かずに勝手に行ったのかよ。ってかマジで何してんだよセティーは。」
「もうそこは『アイツだから』と済ますしかない。とにかく、こうして無謀にもセヴァティアによる『竜退治』は始まったんだ。」
もちろんただ討伐するのではない。その頃には多くの者が戦争の傷跡を恐れて、殺生の一切を禁じていたからな。簡単に戦って命を奪う、なんて事は出来なかった。
ならば、セヴァティアの言う『退治』とは何か。答えは簡単だった。
「角を折るんだ。」
「竜の頭に生えてる一対の角か?竜族にとって、角ってそこまで大事なものなのか?」
「そりゃあそうさ。竜族ってのは強さだけではない。自尊心の強さも他の種族と群を抜いて高く、その中でも角は竜族の誇り、象徴とも言えた。言い換えれば角は竜族にとっての命なんだ。」
もちろん角の硬さもあるが、竜族の角を折るなんてのは至難の業だ。しかもただ折るのではない。竜族の持つあらゆる攻撃や技をくくりぬけて、ソレを凌いで尚セヴァティア自身の力を誇示しなくてはいけない。つまりは運に頼った戦い方などをすても竜族は納得しないという事だ。
「つまり竜族よりもセヴァティアの方が強いと言う事を竜族に分からせた上で角を折らないといけないと。」
「そういう事だ。でないと竜族に『やり返される』可能性があったからな。」
そんな無理難題ではあったが、セヴァティアの働きの結果は最初にシュロが話した話にも関わる結果となった。
見事にセヴァティアは竜と対峙に、そしてセヴァティア自身の力を示し角を折っていった。一匹、二匹と角を折っていった為か、セヴァティアには自ら戦いに挑みに来る竜族も現れた。
「そこも自尊心の強い竜族故だな。強い相手がいるからと言って逃げ隠れしていては、それこそ竜族の誇りに関わるといって、セヴァテァイに挑戦する竜族は後を絶たなかった。
しかし、それはセヴァティアに餌を与える結果となった。」
セヴァティアは戦った。戦って戦って、休む間もなく戦った。そんな中で息も絶え絶えになったのは竜族の方だった。むしろセヴァティアは肌艶が良くなったようにも見えた。
「どうした!?もう終わりかぁ!?お前らの力はこんなものでは無いはずだ!どんどん来い!」
いや、こんなものですと逃げ腰になった竜族もいたとか、いなかったとか。とにかく領族との戦いを続けていき、遂にほとんどの好戦的な竜族との戦いを終えて、セヴァティアの役目は終えた。
それに角を折ると言ったが、何も角を二本とも折るのではなく片方の角だけを折るだけだったが、それが更に竜族の自尊心を傷つける結果にもなった。
竜族はセヴァティアとの戦いですっかり意気消沈し、自尊心も折れてしまい大人しくなった。結果的に竜族は戦う事を避けてヒトを襲わなくなった。というのが竜族の姿を見なくなった経緯だ。
セヴァティアも土地守としてしっかりと役目を果たし、土地に平和をもたらしたのだ。
「…うん、まぁ。セティーのおかげで竜族も大人しくなって平穏に過ごせるようになったってのは分かった。でもさ、セヴァティアがそもそも竜族退治に名乗り出たのって、結局は自己満足の為だろ?」
シュロは竜族の話でセヴァティアの名が出た時から思っていたであろうことを口にした。そしてそれは見事に当たりである。
「うん、単純に強い奴と戦いたいって言う理由でセヴァティアは竜退治に名乗り出たのが本心で、別に奴は土地守としての役目も多くのヒトの助けとか気にしていなんだよね。」
「だろうな。」
結局セヴァティアとはそういう人物だ。自分が良ければそれで良い。決して自己中心的ではないにしろ、結果的に竜退治の件はヒト助けになり、セヴァティアの名は各地に広く伝わった。
例え相手が竜族でなくても良い。例えば盗賊であったり、悪徳な領主であったり、とにかく強ければセヴァティアは誰でも、何でも良いのだ。
例えば相手がヒトを助ける、正に救世主と呼べる様な人物であっても、強いのであればセヴァティアは戦い、そして打ち破っていただろう。絶対にそうしている。
「…ソレ、ヘタしたら平和を壊しかねないんじゃねぇか?」
「うん、下手をしたら下手な悪人よりも厄介だな。」
しかし、あくまでセヴァティアは強い相手と戦いたいだけの馬鹿だ。後先を考えていないにしても、奴が決して悪の道に堕ちる事は無い。そう思いたい。
「希望かよ。」
◇
話を終えたと思った矢先にシュロが思い出した様に口を開いた。
「アレ。そういや、カダフスも竜族だよね。」
西の大陸北部の領主であり、土地守であるカナイとも古い付き合いであるカダフスは確かに見た目も立派な竜族である。そのカダフスとはシュロも面識があり、そのカダフスの頭部から生えている一対の角が二本揃っているのを確かに二人共覚えている。
「あぁ、そうだ。実は竜退治の話には続きがあってな。セヴァティアは全ての竜の角を折った訳では無いんだ。」
あくまでセヴァティアが角を折ったのは戦いを挑んで来た好戦的な竜族のみ。つまり戦いの望まない限りはセヴァティアも戦いを強制しないのだ。戦う意思が無いものと戦っても意味が無いと言うのがセヴァティアの意見だ。
色んなヒトがいる様に竜族にも色んな奴がいる。だから戦いを望まない竜族もいた。その一体がカダフスだ。奴はヒトと戦う事よりもヒトを助ける事に重きを置き、竜族の棲む山を下りてはむらまちを訪れた。
最初こそ住民は驚きはしたが、全く襲って来ない事と対話を続けた結果、カダフスとヒトは交流をする様になった。それが永く続き、ヒトから信頼を経たカダフスは王から領主に任命された。
「そういう訳でな、セヴァティアも戦いを好まない相手とは戦いたがらなくて、カダフスの角を折るには至らなかったんだ。」
「成る程。…つまりカダフスも戦う事を少しでも望んでいたら、セヴァティアの餌食になっていたかもしれないと。」
「餌食とか言うな!…その通りだが。」
少しでも違えていたらセヴァティアは考えを変えていたかもしれない。その可能性はもしかしたら当時の多くのヒトが考えていた事かも知れない。
セヴァティアに関われば、命が幾つあっても足りない。それは共通の認識になり、竜族だけでなく他の種族も二度と戦争を起こそうとは思わなくなったのかもしれない。
「そういえば、戦争時代でもセヴァティアの奴、至る所で姿が目撃されては一部地域での争いが鎮火したとか何とか。」
「…セティーってある意味爆弾だよな。」
シュロとカナイ以外に話を聞いている者は居なかったが、居たとしても誰もシュロの発言を否定する者は居なかっただろう。やはりセヴァティアは下手な悪人よりも厄介な人物である事には変わりなかった。
「そういや、カダフスは角を折られなかった『一体』だって言ってたが、他にはいるのか?」
「あぁいるぞ。内もう一体は南の群島のどこかに棲んでいて、もう一体は東の山の奥深い場所に棲んでいてな。そいつはカダフスとは逆にヒトの為にヒトとの交流を断ったと聞くな。
…そういやそいつ、つい最近ヒトの赤子を拾って育てていると聞いたな。」
「ふぅん…どこにでも変わったヤツはいるもんだな。」
「お前が言うか?」




